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帰還者

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「肩を持つのはいいけど……背低いね」

「うっ……いいから急ぐよ」

「うふふ、わかってる」

 街の中に入るとかなり静かで、一般人の姿はひとつもない。まあ、みんな逃げたからそれは当然と言える。

「着いた!」

 目の前にある組合の扉を開けて中に入ると、そこにはすでにユーリの姿があった。

「ご主人様……」

 と、一人うなだれていた。尻尾と耳は元気を無くしたように垂れ下がり、いつも以上に背中が小さく感じた。

「ユーリちゃん……」

 そんな姿を見てどうしても居た堪れなくなる私とレオ君がどうすることもなく、その場に立ち尽くしていると、後ろから人の気配がした。

「あっ、ミハエル……っうぇ!?」

 後ろを振り返り、ミハエルの無事を安堵しようとした時、それよりも先に背中に生えている謎の物体に目がいってしまった。

「あはは……翼生えちゃった」

「生えちゃったじゃないでしょ!?何があったの!?」

「まあ、それは一旦おいといて……見て、これ」

 と嬉しそうに手に持っている花を私に見せてきた。

「もしかしてそれって!」

「幻花、ちゃんと無事だよ」

「やった……やったぁ……」

 お嬢様を蘇らせることができると、一抹の安堵を覚える。

「あれ、レオさんもいるんですか?ってことは、洗脳が解けたんですね」

「その節はお騒がせしました」

「大丈夫ですよ。さあ、行きましょ」

 ユーリの方を見ながらミハエルはいう。その言葉の通り、歩き出したミハエルの後ろ姿はユーリと比べるとかなり大きいように感じて、まるで全てを包み込むかのようなものを感じた。

「ユーリさん、そこ失礼しますね」

「っ?誰?」

 ミハエルは横になっているお嬢様のすぐそばに座ると、幻花をお嬢様の胸元に置いた。

「幻花よ……どうかこの者の魂を呼び戻し給え」


 ♦️


 そこはとても寒い場所だった。誰もいないその空間は真っ白で、私以外には何もない。

「あ、そっか。死んだのか、私」

 内臓を貫かれて死んだのだ。

「私にも、ついにこの時が来たのかな……」

 前世と今世。二回の人生を経験したのだ、今更死ぬのは怖くないしなんなら二回も人生周回させてくれた『世界』には感謝している。

「私には感謝しないのかしら?」

「……あなたが女神様ね」

 突如として空間が歪んだような感じがした。その歪みから現れたのは黒髪黒目の白い服を着た女性だった。

「大正解、ついでに言うとあなたに同じ人生を与えたのも私」

「は?」

 おい、しれっと重要なこと話すな。

「あなたが私を?」

「ええ、何か問題でも?」

「問題とかじゃないけど、どうして私に二度目の人生を与えたの?」

 前世の私は話術の力を使って暴れてどうしようもない女だった。だけど、今世ではちゃんと生きようと決めた。

 だが、それも一度死ななくては理解できなかったこと……つまり、私を転生させる意味なんてないのだ。

「意味ならあった、ただそれだけよ。それをただの人間如きが知る必要はないの」

 うっざ!?何このおばさん!

「はっ?おばさんですって?もういっぺんいてみなさい?お前の『お友達』ごとこの世から消してやろうか?」

「すみません」

 おっと、心の中聞こえる系のおば……女神様だったか。

「まあいいでしょう。で……あなたは死にましたー。あなたに二つの選択肢をあげましょー」

 やる気なさげにそう告げる。

「ひとーつ、争いなんて一つもない平和な世界に転生する」

「転生?」

「そこは科学技術がとても発展した世界。いくつもの大陸があり、その大陸間で人々は平和に暮らしている。そうねぇ、日ノ本と『日本』という国はかなり似てるわね」

 戦争もない幸せな世界への転生。それが一つ目か。

「二つ目は?」

 口角を上げていやらしい笑顔を作る女神様。

「ふたーつ、また一からやり直す。0歳からリセット全てがやり直し」

 三度目の人生ってことか……。

「それ以外の選択肢はないの?」

「ない、それ以外はこの私が認めない」

「へぇ?」

 女神は……理由はわからないが、この二つのどちらかを選んでほしいとのこと。そして、それを提言してきたと言うことはこの二つは女神にとってメリットのあることだと言うことは明らかだ。

「ちなみに聞いておくけど、この世界を支配している女神様で合ってる?」

 一応念のため聞いておく。ツムちゃんの話によると、この世界を支配した女神はかなり最低なやつだった。

「ツム?一体誰のこと?」

「……聞き間違いでしょう?それより、どうなんですか?」

「そうね、あなたの言う最低な女神とは私のことね」

 と、誇らしげに女神は誇張する。どうしてそこで威張れるのか。

「さっさと決めてくれない?私これでも忙しいのよねぇーあなたにかまっている暇はないの早くして」

 あーむかつく。なんでこんなのが女神なんだろ。

「聞こえてるっつってんだろガキ、魂燃やすぞ?」

「できるもんならやってみなさいよ」

「……なんですって?」

 私のいた地面がかすかに揺れた。

 一瞬なんで揺れたかよくわからなかったが、

「なんで私があなたの言うことを聞かないといけないの?」

「なっ!」

「女神だかなんだか知らないけどねぇ……私のことを縛っていい人間なんていないのよ!」

 私は自由に人生を謳歌して!寿命で死ぬ!それまで、私があなたの言うことを聞くわけがない!

「生意気な……いいでしょう、そこまで言うならこの場で人生を終わらせてやる。そこに突っ立ってろ!燃やし尽くしてやる!」

 女神は激怒し、空間に亀裂が入る。うわー、おこですね。こわいこわい。

 え?

 どうして、女神に喧嘩売っといてそんなに余裕そうなんだって?

 そんなの決まってるじゃん。

「私を呼んでいる人たちが下で待ってるんでね」

「っ!あんたまさか!」

「じゃあねぇ~後数百年後に会いましょう!」

 私のいた地面にパカッと穴が開き、そこから私は『地上』へと戻っていく。魂の帰還、そして魂体になっている私の耳に、その声たちははっきりと聞こえた。

 天界から地上に降り、雲を通り、大陸を見渡して日ノ本の国に落ちていく。その国のとある街のとある冒険者組合のとある一部屋の中の私の身体へ。

 パッと目が覚め、みんなの顔を見る。

「みんな……ただいま」
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