362 / 504
もう一人の仙人
しおりを挟む
剣術訓練が終わると、レオ君は残って刀術を学んでいた。ユーリもそれを眺めながらお昼寝するそうで、私は先に冒険者組合に帰る。
何度も組合に帰るのはかなり面倒くさい……今日はもうゆっくりしたいな。そんなことを考えながら中に入ると、突然目の前に受付さんの顔が現れた。
「うわっ!?」
「ベアトリス様!伝言です!」
「何ですか?っていうか、近い……」
「あ、すみません!」
伝言?伝言を言い渡すような関係の人組合にはいないと思うけど……。
「それで、誰からの伝言なんですか?」
「はい、それがなんとコウメイ様なんです!」
「え?」
お兄様?
「おに……コウメイ様が何で私に伝言を?」
「それはわらかなかったですけど、『夕方頃、屋敷の庭で待っている』と……」
果たし状ではないよね?大丈夫だよね?手袋投げられて決闘だとかないよね?
「不安だぁ……」
一体私どうなってしまうのだろうか?
♦️
「そろそろ夕方ごろだけど、何で時間指定してくれないのお兄様は……」
組合を出てまた歩き出す。もう今日は歩きすぎて死にそう……。
ライ様にその話をしたらとても喜んでくれたけど、私からしたら一体何があったんだ状態なのよ。
何もしていないのに、いきなり呼び出される恐怖が理解できる人結構いるんじゃね?って私は誰に話している……。
「ついたけど……」
屋敷の目の前まで到着する。警備の人の姿はなく、入っても誰にも気づかれないだろう。
「警備の人も復興作業で忙しいのか」
屋敷の門の前で一度深呼吸をしてから、門をくぐった。庭は屋敷と大差ない程の広さとなっており、小さな川のようなものまである。
「夕方頃……だよね、今。お兄様いつ来るのかなー?」
そう思って、屋敷の方を見ていると、
「来ないよ、君のお兄さんは」
「え?」
いきなり声が聞こえた。最近はドッキリ要素が多すぎる出会いしかしていないので、もう驚きも薄れてきた気がする。
「誰ですか?というかどこにいるんですか?」
「木の影だよ」
そう言われて、庭に一本だけ植えてある木を見ると、その影から一人の男性が出てきた。その人は黒が基調の袖広で所々にある装飾と緑色の線が入っている和服を着ている。
「どちら様で?」
「私が誰かなどは今はどうでもいいでしょう?」
良くないわ。
「お兄様は何で来ないの?」
「君のお兄さんは君なんかにかまっているほど暇じゃないんだよ」
「はあ?」
忙しいのはわかっていた。だからと言って、自分から呼び出しておいて忙しいから来ないというのか?
いや、そうじゃないな。
「あの伝言はあなたが書いたの?」
私の予想を口にするとその男は、
「ピンポーン、大正解」
と言って笑顔を作る。だが、目は確実に笑っていない。
「何だかどっかで見たことある気がする……誰だ?」
いや、気のせいだろうか?
「で?お兄様のふりをしてまで私を呼んだのは何で?」
名乗りすらしない奴は大体怪しいと相場が決まっている。
「いやぁ。ちょっと気になったんだよね」
「何が?」
笑顔のまんまその男は続けた。
「新しい選抜者がどんな人なのか、ね?」
「は?」
待て待てこいつは今何のことを言っている?選抜者?選ばれたってこと?
最近選ばれたことといえば、あれしか思い当たらないけど?
「どういうこと?」
小声で、スキルの方に質問する。すると、脳内の中で返答が返ってきた。
《世界に選ばれた者は自分達を『選抜者』と呼称しているようです。そして、死んだり狂ったりしてしまったものを除いて、今生き残っているのは個体名マレスティーナとあなたの二人です》
「じゃあ、あいつは誰?」
《スキル保持者です》
死んだり狂ったりした人以外生き残っているのは二人だけなんじゃないの?
「もしかして、狂ってもスキルは残るの?」
《肯定します。スキル保持者の人格が歪んでしまっても、スキルがその身から離れることはありません》
ってことは、あいつは……。
「なんだ、私の顔に何かついているのかい?」
狂ってるのか。
「で?もう一度聞くけど、あなたは誰?」
「私の正体はどうでも……」
「私にとっては良くない。答えてよ、『選抜者』君?」
そういうと、その男は面白そうに笑った。
「ははは、ただの仙人だよ」
「仙人?」
仙人って八呪の仙人みたいに、無表情な人ばかりだと思っていたが、こういう類の人もいるのか……でも、狂ってるんだよなぁ……。
「新しい選抜者が観察できて満足?なら、早く帰ってほしいんだけど?」
「そうさせてもらうよ。今日は喧嘩を売りにきたわけじゃないからね」
「そ、じゃあさっさと帰って」
そう言って、私は立ち去ろうとする。
「ふふふ、楽しみだな」
と不気味に笑う声が聞こえて思わず振り返ってしまった。
「何?」
「大切なものを無くしたとき、どんな顔をするのかな?」
「……どういう意味?」
その質問に答える前に、男は姿を消した。
「大切なものをなくす?一体何の話をしているの?」
だが、これ以上大切なものを失うのは真っ平御免だ。もうこれ以上何も失いたくない。
「そのために強くなったんだ」
できるものならやってみろ!
そう心の中で叫ぶのだった。
何度も組合に帰るのはかなり面倒くさい……今日はもうゆっくりしたいな。そんなことを考えながら中に入ると、突然目の前に受付さんの顔が現れた。
「うわっ!?」
「ベアトリス様!伝言です!」
「何ですか?っていうか、近い……」
「あ、すみません!」
伝言?伝言を言い渡すような関係の人組合にはいないと思うけど……。
「それで、誰からの伝言なんですか?」
「はい、それがなんとコウメイ様なんです!」
「え?」
お兄様?
「おに……コウメイ様が何で私に伝言を?」
「それはわらかなかったですけど、『夕方頃、屋敷の庭で待っている』と……」
果たし状ではないよね?大丈夫だよね?手袋投げられて決闘だとかないよね?
「不安だぁ……」
一体私どうなってしまうのだろうか?
♦️
「そろそろ夕方ごろだけど、何で時間指定してくれないのお兄様は……」
組合を出てまた歩き出す。もう今日は歩きすぎて死にそう……。
ライ様にその話をしたらとても喜んでくれたけど、私からしたら一体何があったんだ状態なのよ。
何もしていないのに、いきなり呼び出される恐怖が理解できる人結構いるんじゃね?って私は誰に話している……。
「ついたけど……」
屋敷の目の前まで到着する。警備の人の姿はなく、入っても誰にも気づかれないだろう。
「警備の人も復興作業で忙しいのか」
屋敷の門の前で一度深呼吸をしてから、門をくぐった。庭は屋敷と大差ない程の広さとなっており、小さな川のようなものまである。
「夕方頃……だよね、今。お兄様いつ来るのかなー?」
そう思って、屋敷の方を見ていると、
「来ないよ、君のお兄さんは」
「え?」
いきなり声が聞こえた。最近はドッキリ要素が多すぎる出会いしかしていないので、もう驚きも薄れてきた気がする。
「誰ですか?というかどこにいるんですか?」
「木の影だよ」
そう言われて、庭に一本だけ植えてある木を見ると、その影から一人の男性が出てきた。その人は黒が基調の袖広で所々にある装飾と緑色の線が入っている和服を着ている。
「どちら様で?」
「私が誰かなどは今はどうでもいいでしょう?」
良くないわ。
「お兄様は何で来ないの?」
「君のお兄さんは君なんかにかまっているほど暇じゃないんだよ」
「はあ?」
忙しいのはわかっていた。だからと言って、自分から呼び出しておいて忙しいから来ないというのか?
いや、そうじゃないな。
「あの伝言はあなたが書いたの?」
私の予想を口にするとその男は、
「ピンポーン、大正解」
と言って笑顔を作る。だが、目は確実に笑っていない。
「何だかどっかで見たことある気がする……誰だ?」
いや、気のせいだろうか?
「で?お兄様のふりをしてまで私を呼んだのは何で?」
名乗りすらしない奴は大体怪しいと相場が決まっている。
「いやぁ。ちょっと気になったんだよね」
「何が?」
笑顔のまんまその男は続けた。
「新しい選抜者がどんな人なのか、ね?」
「は?」
待て待てこいつは今何のことを言っている?選抜者?選ばれたってこと?
最近選ばれたことといえば、あれしか思い当たらないけど?
「どういうこと?」
小声で、スキルの方に質問する。すると、脳内の中で返答が返ってきた。
《世界に選ばれた者は自分達を『選抜者』と呼称しているようです。そして、死んだり狂ったりしてしまったものを除いて、今生き残っているのは個体名マレスティーナとあなたの二人です》
「じゃあ、あいつは誰?」
《スキル保持者です》
死んだり狂ったりした人以外生き残っているのは二人だけなんじゃないの?
「もしかして、狂ってもスキルは残るの?」
《肯定します。スキル保持者の人格が歪んでしまっても、スキルがその身から離れることはありません》
ってことは、あいつは……。
「なんだ、私の顔に何かついているのかい?」
狂ってるのか。
「で?もう一度聞くけど、あなたは誰?」
「私の正体はどうでも……」
「私にとっては良くない。答えてよ、『選抜者』君?」
そういうと、その男は面白そうに笑った。
「ははは、ただの仙人だよ」
「仙人?」
仙人って八呪の仙人みたいに、無表情な人ばかりだと思っていたが、こういう類の人もいるのか……でも、狂ってるんだよなぁ……。
「新しい選抜者が観察できて満足?なら、早く帰ってほしいんだけど?」
「そうさせてもらうよ。今日は喧嘩を売りにきたわけじゃないからね」
「そ、じゃあさっさと帰って」
そう言って、私は立ち去ろうとする。
「ふふふ、楽しみだな」
と不気味に笑う声が聞こえて思わず振り返ってしまった。
「何?」
「大切なものを無くしたとき、どんな顔をするのかな?」
「……どういう意味?」
その質問に答える前に、男は姿を消した。
「大切なものをなくす?一体何の話をしているの?」
だが、これ以上大切なものを失うのは真っ平御免だ。もうこれ以上何も失いたくない。
「そのために強くなったんだ」
できるものならやってみろ!
そう心の中で叫ぶのだった。
0
お気に入りに追加
1,596
あなたにおすすめの小説
突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
虐められて引きこもりになって自殺して悪役令嬢に転生した私は、とことん破滅への道を突き進みますわ!
奏音 美都
恋愛
小さい頃から、虐められ体質だった。幼い頃は顔がブスだから、無愛想だから、無口だからと虐められ、小学生になると更に母親がいないから、バカだから、貧乏だから、臭いからと虐められ、中学生になると私の存在自体が目障りだと虐められ……引きこもりになった。
さようなら、つまらない私の人生……
今度生まれ変わったら、生きてる実感を持てるような人生を歩んでみたい。
そんな私を待っていたのが、乙ゲーの悪役令嬢として迎えた転生だった。
こうなったら、悪役令嬢としてとことん破滅への道を突き進みますわ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる