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信条

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「は、はは!わしの負けか」

「なに笑ってんのよ」

 負けたというのにそのおじいさんは笑っていた。

「わしが負けたか、久しい光景だ。この里で長老になってから初めてだ」

「そうなのね、だったら早く武器を下ろして」

「うむ」

 手に持っていたクナイが地面に落ちるのを確認し、それを蹴って飛ばす。

「自己紹介がまだだったな。わしはこの里で長老をやっとる服部兵蔵だ」

「あなたも服部家?」

 この里に入ってからまだ服部という苗字しか耳にしていないのだが……。

「服部家を知っているのか?」

「ええ、私たちはそこで厄介になっているの」

「そうか、娘は元気か?」

「あなたの娘ってことは、平助くんたちのお母さんのこと?」

「そうだ」

「まあ、かなり元気ね」

 って、そうじゃない!世間話をするためにわざわざ捕まったわけじゃない。

「あの、捕まった理由だけど……」

「ああ、里の破壊行為についてか?」

「人聞悪いわね……」

「その件については私の名において許そう」

「許してくれるの?」

 いきなりのことで困惑していると、服部長老は笑い始める。

「別に最初から取って食おうとしていたわけじゃないわ」

「はい?」

「ちょいとばかり興味があっただけだ。破壊されたこと自体ではなく、あの森の抉れ具合を見てな」

 あー、その先まで見ちゃった系?

 私が投げた大剣で地面と森が一部抉り削られていたけど……まあ、あれ見てとって食おうと考えるほど殊勝ではないわな……。

「それで、私たちはどう?」

「悪くない。特にお主は」

「ベアトリスよ」

「ベアトリス、お主は一体何者だ?常人ではあり得ない……いや、強者たちの中でも異常だ」

 異常とは失礼な。

「私はちょっと鍛えただけのただの淑女だよ」

「そんなわけがあるか!現にこのわしを倒したではないか!」

 そうはいうもののねえ?

「あなたがどれだけすごい人なのか私知らないし……」

「ふむ、よかろう。私の『二つ名』を教えてやる」

「え?」

 二つ名だって?ってことは、服部長老も日ノ本の国王……将軍に認められた英雄の一人というわけで?

「わしこそが、忍者最強の漢。『忍耐』の兵蔵なり!」

「本当に二つ名持ちなの?」

「無論そうだ。そこのおなごもなかなかの強さだったが、まさか子供に負ける日が来るとは思わなかったわ!」

 忍耐の兵蔵か……私は二つ名持ちのことは詳しくないけど、明らかに人間の枠の外に片足突っ込んでる感じはあったな。

 そもそも人類の平均ステータスなんて四桁いったらもうすごいよ?三桁でもまあ強い方だとは思う。

 そんな中、Sランクというステータス五桁の枠に踏み入っている時点で、レベルの差は明らかなわけで……。

「道理でミサリーが苦戦するわけね」

「ミサリーと、ベアトリスか。貴殿らは外国の方のようだな。その強さ……先ほども聞いたが何者だ?」

「私たちも一応二つ名持ちだよ」

 そういうと、驚いたような顔をする。だが、すぐに納得したようにため息をついた。

「女子供の二つ名持ち。俗世から若干逸脱したわしでさえ知っているぞ。王国の『神童』と『俊足』だな?」

「物知りなのね」

「お主らの英雄譚はどこまでも轟いているぞ。ま、わしも一昔前は轟かせていたのだがな」

 くっそ、あの国王め……普通に広まってやがる!なんであんな恥ずかしい呼び名を作ったんだクソが!

 ふう、落ち着いて私。別に褒められるのは嫌じゃないから。

「他のメンバーも有名人か何かか?」

「うーん、まあこれから有名になるでしょうね……」

 ステータスが一番低いレオ君でさえ、ミサリーのステータスを軽く超えているし……。ミハエルはわからんが、まあ色々と才能豊かそうだし、教会との伝もあるっぽいし、その界隈の中ではもう既に有名人なのでは?

「さて、お主たちはなぜこのような辺鄙の里に入ってきたのだ?」

 いきなり真剣な表情に変わる長老。

「普通に寝泊まりできるところを探したらここに行き着いただけ。明日にはすぐに南に向かうから、今日だけでも泊まらせて?」

「泊まるのは構わないが……南か」

 南では今戦争が起こっている。幕府軍と反乱軍の戦いだ。私たちもその中に飛び込んでいくつもりだが……一体どうやって戦争をやめさせる?

 むしろ不可能に近いのではないか?他国の余所者が侵入してきて、戦争やめろだの言い出したところで誰の耳にも届かなければ、私たちも攻撃の対象になりかねない……ある意味では難易度は今までやってきたどんなことよりも高いかもしれないな。

「南に向かうのであれば、この里から通じるトンネルを通るか?」

 トンネル!?

「この里には四方に伸びるトンネルが掘られている。それの南行きを使えば、安全にかつトロッコで素早く移動できるぞ」

「そんな便利なもの使っていいの?」

「問題ない、強者には最大限の配慮をするのが、わしの信条だからな」

 めちゃくちゃいい人やん!

「っと、そろそろお主たちも娘の家へ戻りなさい。明日出発なら、わしが手筈を組んでおく。あとはこちらで任せてもらおう」

「感謝するわ」

「どうってことない、その代わり……戦争に参加するつもりなら、ちゃんと生きて戻れ」

「わかってるわ、じゃあそろそろ戻ります。失礼しました」

 私たちは倒れて寝込んでいる忍者たちの避けながら、部屋を出て服部家に向かうのだった。
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