310 / 504
忘れられてた二人
しおりを挟む
「集合!」
校庭で待機している生徒たちを私のでかい声で一か所に集める。
「いない人いるかな?」
「全員います!」
「よろしい……あれ?人数合わなくない?」
理事長室から急いでここまで向かってきたが、どんなに焦っていようと資料の内容が変わるはずない。というか、自分のクラスの生徒の人数を忘れるわけない。
「え?殿下?」
「やあ」
一人だけ異世界人とはかけ離れた派手な髪色の人がいるな……と思ってたら殿下がポツンと立っている。
「俺もいるんだけど……」
「え、アレン?どこにいるのよ」
声がするが、どこにいるかわからない……そう思っていたら、銀色の髪の後ろからアレンの赤い髪が見えた。
あー……シルくんや、お兄ちゃんから離れなさい。
「何で二人がここに?二人とも違う教室でしょう?」
「わからないけど、なんか理事長に言われたんだよ」
理事長……!なんていい人!
誰と誰が仲いいとか完璧に把握してる系の理事長でよかった。まあ、まだみんな私の授業が最後なんて思っていないからね。
誰もかれも遠征合宿が楽しみで仕方ないという顔をしている。
私も今の放置されてる公爵領がどうなってるのか気になるので、早く行きたい。
「二十四人、全員いるわね。教師一人と副教師二人で引率するので、皆さん遅れないように……行く途中でけが人が出たら、教師のうちの誰かが運ぶからね」
遅れると授業時間が減ってしまうので、遅れるわけにはいかない。時間厳守である。
「それじゃあ皆さんそろそろ行きましょうか」
出発の時間になり、私たちは歩き出した。
♦♢♦♢♦
生徒たちは別に子供ではない。なので、二列になって歩きましょうね~ということはしないのである。
というか、通る道は誰もいないようないばらの道なので、もはや列を作る必要すらない。
というわけで、ぎゃーぎゃー騒いでいる男子たちは「ちょっと男子ー!」と女子に注意され、女子は女子トークで盛り上がっている。
「そろそろお昼休憩だけど、みんなどこで食べたい?」
「先生!あそこの原っぱはどうですか!」
左側に森が広がり、右側にはとてつもなく広い平原が広がっている。
「じゃああそこで休憩しましょうか」
「「「はーい」」」
歩き始めて二、三時間たったが疲れた様子が見られない生徒たち。流石普段から鍛えてるだけはある。
「みんなお弁当なんか持ってきてないわよね?」
「持ってないです……」
「え、じゃあご飯どうするんですか?」
「まさか飯抜きとか……」
無論私も弁当なんか持ってきていない。
「よって、向かいの森に入り、狩りをしてきます!」
食べるものにありつきたければ自分でとってこい!
「たくさん取ってくるのよー」
各自、元々パーティとして活動していたメンバーと合流し、狩りに行くために武器を取り出している。
「あ、言い忘れてたけど、その森にはSランクの魔物も出るそうよー」
「「「え?」」」
♦️↓アネット視点↓
アネットは一人で黄昏ていた。朝起きてもすることがなく、教室に顔を出すも誰もいない。
ある意味では平和な一日の始まりだった。
「前まではこんな風にはいかなかった」
組織に所属していた頃は、戦場に駆り出されるたんびにいつ死ぬのかと怯えて、いざそこから逃げ出せば仲間だった者たちが私を連れ戻しに追ってくる。
平和だ。
朝日が教室に差し込んで、音もない空間に小鳥の囀りがこれでもかとこだましている。
「暇だ」
ただし、やっぱりこれといった楽しみはない。
そういえば、ベアトリス。遠征に行くとか言っていたような気がする。
「遠征先は……」
黒板の方を見れば、昨日書かれた板書がそのまま残っていた。
「旧王国公爵領まで、ねえ」
そこまで遠くはない。せいぜい数十キロだ。
このクラスの生徒たちなら、数時間以上はかかるだろうが、私ことアネット……個人でSランクを超えたあたりの人になって来れば、一時間もかからないだろう。
「早く行こう」
そう思って教室の窓を開けて飛び出そうとした時だった。
「あれ!?」
教室の前側のドアから声がする。
「嘘!誰もいないじゃん!」
その声はこの短い学校生活で何度か聞いたことのある声、だが名前は知らない。
「あ、そこの赤髪の人!」
私のことを言っているのだろうか?
「ベアトリスさんみませんでしたか?」
「……黒板を見て」
「え?……あっ!」
黒板を見たその表情はとても暗かった。なんでかはわからない。
だが、頭を振るとその表情は嘘のように消えた。
「えーっと、もしかして置いてかれた?」
「わからない」
そもそも私はここの生徒じゃない。たまたま生徒用の服があてがわれただけである。
「ちょっとむかついてきた……私に遠征について何も教えなかったなんて!あのくそ教師……って言ったらまずいか。うん、ベアトリスめ!」
自問自答している目の前の少女は、そうだ!と何かを思いついたようだ。
「あなたも一緒に行きましょう!」
「え、授業は……」
「そんなのどうでもいいじゃない!それに、私は通常授業免除されてるし!」
そういえば、こいつは頭も良く実践科目でもトップだった気がする。
「じゃあ行こうか」
「名前なんだっけ?」
「って脈絡なさすぎ!」
「ごめん」
「まあ、いいわ!私はレイナ、レイって呼んでね!」
……………なお、ベアトリスの最後の授業ということで、親しい人を遠征に参加させていたことを二人が知ることはない。そして、理事長に忘れられていたとはこれから一生二人が知ることはないのであった。
校庭で待機している生徒たちを私のでかい声で一か所に集める。
「いない人いるかな?」
「全員います!」
「よろしい……あれ?人数合わなくない?」
理事長室から急いでここまで向かってきたが、どんなに焦っていようと資料の内容が変わるはずない。というか、自分のクラスの生徒の人数を忘れるわけない。
「え?殿下?」
「やあ」
一人だけ異世界人とはかけ離れた派手な髪色の人がいるな……と思ってたら殿下がポツンと立っている。
「俺もいるんだけど……」
「え、アレン?どこにいるのよ」
声がするが、どこにいるかわからない……そう思っていたら、銀色の髪の後ろからアレンの赤い髪が見えた。
あー……シルくんや、お兄ちゃんから離れなさい。
「何で二人がここに?二人とも違う教室でしょう?」
「わからないけど、なんか理事長に言われたんだよ」
理事長……!なんていい人!
誰と誰が仲いいとか完璧に把握してる系の理事長でよかった。まあ、まだみんな私の授業が最後なんて思っていないからね。
誰もかれも遠征合宿が楽しみで仕方ないという顔をしている。
私も今の放置されてる公爵領がどうなってるのか気になるので、早く行きたい。
「二十四人、全員いるわね。教師一人と副教師二人で引率するので、皆さん遅れないように……行く途中でけが人が出たら、教師のうちの誰かが運ぶからね」
遅れると授業時間が減ってしまうので、遅れるわけにはいかない。時間厳守である。
「それじゃあ皆さんそろそろ行きましょうか」
出発の時間になり、私たちは歩き出した。
♦♢♦♢♦
生徒たちは別に子供ではない。なので、二列になって歩きましょうね~ということはしないのである。
というか、通る道は誰もいないようないばらの道なので、もはや列を作る必要すらない。
というわけで、ぎゃーぎゃー騒いでいる男子たちは「ちょっと男子ー!」と女子に注意され、女子は女子トークで盛り上がっている。
「そろそろお昼休憩だけど、みんなどこで食べたい?」
「先生!あそこの原っぱはどうですか!」
左側に森が広がり、右側にはとてつもなく広い平原が広がっている。
「じゃああそこで休憩しましょうか」
「「「はーい」」」
歩き始めて二、三時間たったが疲れた様子が見られない生徒たち。流石普段から鍛えてるだけはある。
「みんなお弁当なんか持ってきてないわよね?」
「持ってないです……」
「え、じゃあご飯どうするんですか?」
「まさか飯抜きとか……」
無論私も弁当なんか持ってきていない。
「よって、向かいの森に入り、狩りをしてきます!」
食べるものにありつきたければ自分でとってこい!
「たくさん取ってくるのよー」
各自、元々パーティとして活動していたメンバーと合流し、狩りに行くために武器を取り出している。
「あ、言い忘れてたけど、その森にはSランクの魔物も出るそうよー」
「「「え?」」」
♦️↓アネット視点↓
アネットは一人で黄昏ていた。朝起きてもすることがなく、教室に顔を出すも誰もいない。
ある意味では平和な一日の始まりだった。
「前まではこんな風にはいかなかった」
組織に所属していた頃は、戦場に駆り出されるたんびにいつ死ぬのかと怯えて、いざそこから逃げ出せば仲間だった者たちが私を連れ戻しに追ってくる。
平和だ。
朝日が教室に差し込んで、音もない空間に小鳥の囀りがこれでもかとこだましている。
「暇だ」
ただし、やっぱりこれといった楽しみはない。
そういえば、ベアトリス。遠征に行くとか言っていたような気がする。
「遠征先は……」
黒板の方を見れば、昨日書かれた板書がそのまま残っていた。
「旧王国公爵領まで、ねえ」
そこまで遠くはない。せいぜい数十キロだ。
このクラスの生徒たちなら、数時間以上はかかるだろうが、私ことアネット……個人でSランクを超えたあたりの人になって来れば、一時間もかからないだろう。
「早く行こう」
そう思って教室の窓を開けて飛び出そうとした時だった。
「あれ!?」
教室の前側のドアから声がする。
「嘘!誰もいないじゃん!」
その声はこの短い学校生活で何度か聞いたことのある声、だが名前は知らない。
「あ、そこの赤髪の人!」
私のことを言っているのだろうか?
「ベアトリスさんみませんでしたか?」
「……黒板を見て」
「え?……あっ!」
黒板を見たその表情はとても暗かった。なんでかはわからない。
だが、頭を振るとその表情は嘘のように消えた。
「えーっと、もしかして置いてかれた?」
「わからない」
そもそも私はここの生徒じゃない。たまたま生徒用の服があてがわれただけである。
「ちょっとむかついてきた……私に遠征について何も教えなかったなんて!あのくそ教師……って言ったらまずいか。うん、ベアトリスめ!」
自問自答している目の前の少女は、そうだ!と何かを思いついたようだ。
「あなたも一緒に行きましょう!」
「え、授業は……」
「そんなのどうでもいいじゃない!それに、私は通常授業免除されてるし!」
そういえば、こいつは頭も良く実践科目でもトップだった気がする。
「じゃあ行こうか」
「名前なんだっけ?」
「って脈絡なさすぎ!」
「ごめん」
「まあ、いいわ!私はレイナ、レイって呼んでね!」
……………なお、ベアトリスの最後の授業ということで、親しい人を遠征に参加させていたことを二人が知ることはない。そして、理事長に忘れられていたとはこれから一生二人が知ることはないのであった。
0
お気に入りに追加
1,596
あなたにおすすめの小説
突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる