265 / 504
試験再開
しおりを挟む今までの人生、教師なんてやったことがなかった。教官とかはあるが、それはノーカンである。
そして、入試に乱入してくる学院生も今ままで見たことがない。受験生たちは皆騒然としていて、少し悲鳴が響いた。
(アネット!?何やってんのよ!)
匿ってやるとは言ったが、暴れろなんて言った覚えはない。そして、ついでとばかりにアネットの相手をしているヤンキー。
ふざけるのも大概にしろと声を大にして言いたいが、まずは騒然としているこの場を収めるのが先だ。
「みなさん落ち着いてください!」
と言ったものの、私の声は所詮子供。大きな声はなかなか出せない。
あわあわしている私と、他の先生方のことなんて関係ないとでも言うように、ヤンキーの後に続いて他の生徒も入ってくる。
「ナナちゃん!?」
あんな真面目で優しい生徒までこんな乱闘に入ってくるなんて……。とか思っていたらこっちの方を向いてにが笑いで軽いお辞儀をしてくる。
(そうじゃないじゃん!あの二人を回収してってよ!)
その後に続いて、委員長とクラさんが入ってくる。
あの二人も大事に入学試験に乱入してくるようなタイプの人間じゃないと思っていたのだけど……。
「なんだかよくわからないけど……」
私は自分に身体強化を付与する。
音を置き去りにできるほどの速さで加速し、そして……。
「こんのバカどもがー!」
アネットの頭を思いっきり殴りつけ、そして回転をかけながらヤンキーに蹴りを加える。
大丈夫だ、生徒の扱い方は私に一任されているし、何よりこんな簡単に死んでしまったら英雄になんてなれやしないのだから。
凄まじい衝撃音が響いて、アネットは地面に叩きつけられヤンキーは吹き飛んでいった。
吹き飛んだ先にいるナナちゃんたちはクッションがわりに一緒に潰される。
「あんたたち何やってんの!」
一喝するが、ヤンキーには反省の色は見られない。むしろ……
「何邪魔してくれてんじゃコラ!」
という始末。全くどうして私の生徒は言うことを聞いてくれないのだろうか?
「それに、アネット?あなたまで何やってんの?」
「い、いや思わずつい……」
何があったのかわからないが、口ぶりからしてこいつが元凶に違いない。それに乗っかった他の生徒たちもそうだが、ここまで突っ込んでくるなよ!
私が理事長に怒られるのだぞ!
「反省が見えないわね」
ちょっと……いや、かなりむかついたので、私は魔法を行使する。
指をパチンと鳴らせば、私を中心として半径五メートルの範囲で、強烈な重力が五人を押し付ける。
かろうじて、アネットは片膝をついて耐えているが、残りの四人はすでに重力に屈し、地面にへばりついている。
「あなたたちは、そこでおとなしくしていなさい」
「……いつまで?」
「そうね、入学試験が終わるまでは」
軽く絶望する五人だったが、自業自得なのでなんとも言えない。
「さあ、試験を再開しましょう……か?」
後ろを振り返り、愛想笑いを浮かべながら受験生たちを見渡すと、全員が私から目を逸らし、私の列に並ぶ人は他の列に移っていってしまった。
「えー……」
重力魔法は流石にやりすぎだったのだろうか?でも、このぐらいしないとヤンキーは反省しないだろうし、全員平等に罰しないと贔屓だとか言われそうだし……。
教師とは意外と大変である。
「ベアトリス先生!これじゃ、長引いてしまいます!」
他の先生方が口々にそういう。確かに、受け持つ受験生の数が増えれば、それだけ試験が長引いてしまう。
となると、合格発表の午後まで間に合わなくなってしまう可能性があるではないか!
それじゃ困る……。
私の仕事が余計に増えるし、何より終わらなければクラブが開設できないじゃないか!
「うぅ……弱ったな~」
と思い、チラリとアネットの方を向く。そういえば、アネットはそんじょそこらの学生なんかよりもよっぽど強いのではないか。
いや、単純に考えて学生では相手にならないはずの人物である。
アネットはああ見えてS級なので、一般人が戦おうものなら即死レベルで危険な相手だ。
となれば……
「アネット、あなたは減刑します。私の代わりに試験官になりなさい!」
重力を操作し、アネットの部分だけ、重力を弱める。
「動く……」
体が思うように動くようになり感動している様子を見せるアネット。
「分かった、迷惑をかけた代わりに私が試験官をやるよ」
「ありがとね」
別に感謝する必要はなかったが……。
となれば、再びアネットの列に受験生たちが舞い戻ってくる。
さっきの子供は強かったが、こっちはそれに瞬殺されてたから弱いはず……。
といった、学生諸君の甘い考えはすぐに打ち砕かれることとなった。
一人の受験生が前に出てきて、名乗りを上げたのち、剣で斬りかかる。
アネットはなかなか動こうとしないところを見て、「勝った」と思ったような表情をしていたが、アネットが彼の持つ木剣を人差し指を弾いて折ったことで、それも幻想となった。
受験生たちは再び絶望するのだった。
そして、仕事がなくなり楽になったと思ってどこかで高みの見物でもしとこうかなと思っていた時、
「なあ、ベアトリス」
「うわ!?あ、アレン?」
いきなり後ろから話しかけられて少し驚いたが、その声はどう考えてもアレンのものだった。少し、低くなったものの、まだまだ若い声をしている。
「俺は……その、ベアトリスに相手をして欲しいんだが……」
鼻をさすりながらチラッとこちらをみてくるアレン。
久しぶりの再会……それで気分が高揚していた私はそくOKを出した。
「いいわよ!手加減はしないけどね!」
「へっ!望むところだ!絶対勝つぜ!」
私よりも年上で、且つ、身長も高いアレンだったが、そう言い放った瞬間だけ、子供の時のように私の目には映ったのだった。
0
お気に入りに追加
1,596
あなたにおすすめの小説
突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる