上 下
250 / 504

謁見という名の雑談

しおりを挟む
 そんなこんなでやって参りました王城!

 いやぁ、見たのは一体何年ぶりなのだろう。見た目的には、前回謁見の間に行った時と大して変わっていない。

 むしろ、外装工事でもやったのかきれいになってる気さえする。それは、ともかく、さっさと王様に会った方がいいだろう。

 私の転移の魔法はかなり便利。一度行った場所なら、頭の中で想像するだけで、飛んでいけるのだから。

 そして、私はその場に現れる。

「な!?」

 いきなり現れた私に驚くステイラル・ロイド・フォン・ネイルこと国王。

 あ、今更だけどロイドって初代国王の名前だったらしい。元々騎士だったとかなんとか……。

「久しぶりです、国王陛下」

 そう言って、跪こうとする……

「バカ、後ろ!」

「へ?」

 見れば背後から魔法が飛んできていた。炎の矢の形をしているそれは、見るからにヤバそうな威力をしている。

「うお!?」

 思わず、同系統の魔法を発動させる。私が多めに込めた魔力は、その火魔法を相殺させる。

「あ、危なかった……」

「すまんな、許可なく魔法を使用すると発動する迎撃魔法だ」

「えっと……お久しぶりです」

「やはり生きてたか」

 玉座に腰掛ける国王はさも当然の出来事かのように驚かない。

「まあ、仮にも二つ名持ちがそう簡単に死ぬわけがないな」

「過大評価、痛み入ります」

「よいよい、楽にしてくれ」

「はい」

 玉座の間には私たち以外誰もおらず、静かな静寂に包まれている。

「二年間、どこに行っていた……そう聞きたいところだが、それはまた今度としよう。それで、二年も失踪していたのに、急にここに来たということは何か理由があるのであろう?」

「はい」

 話が分かる国王でよかった。

「私の死亡扱いの発表を訂正してほしいのです」

「まあ、そうだろうな」

 早い話、私が生きていたとわかれば領民たちも元気を取り戻してくれるだろう。自分で言うのもなんだがな。

 しかし、そんな簡単に言えるはずもないのが、現実。

「まだ何かあるのか?」

「はい……私は死んでいない……ですが、発見もされていないということにしてほしいのです」

「それはどうしてだ?」

「私のことを狙っている魔族が大勢いるので、生きていると国王の手で発表すれば、国内にいるのがバレてしまいますし、メリットとデメリットが釣り合いません」

 生きていることが、少なからず知れ渡れば、知人や領民たちは喜んでくれるはず。

 だが、それは魔族に王国が狙われるということ他ならない。私が、この場にいようと国外にいようと関係ないのである。

 最悪の手段をとれば、国全部滅ぼしてから探してもいいわけだしね。

 相手がそれに踏み出さないのには、それ相応の理由があるのだろう。

「ということは、どうすればいいのだ私は?」

「ええっと……こうしましょう、私の持ち物が見つかった……いや、日付を書いたメモでも見つかったことにいたしましょう」

「ほう?つまり、日付はベアトリスがまだ生きていることを示してくれるのか」

 日付がついているということは、少なくともその日付までベアトリスは生きていることの表明になるし、その手紙が発見された場所次第では、この国の狙われる確率も減るってもんだ。

「だが、それで納得しない者もいると思うぞ?何にしろ、それがベアトリスの筆跡だと理解できるものが、いるわけでもあるまいて」

「まあ、そうなんですが……」

 ここはひとつ賭けてみたほうがいいのだろうか?

 現在公爵領には、多くの魔族が蔓延っている。その理由は明らかで私を探し出すため。

 しかし、情報はそれだけではないのだ。

「私の筆跡を知っているミサリーなら、居場所を知っています」

「本当か?」

「公爵領で、私の代わりに生まれ故郷を守ってくれてると……」

「では、そのミサリー殿を見つけて筆跡がベアトリスのものだと示してさえもらえれば」

 完璧!

「いやー、流石は二・つ・名・持・ち・だな」

 そう言われて、ふと思い出す。

「話したいことが済んだので、雑談として言わせてもらうのですが……」

「なんだ?」

「私に着いた余栄のあれ、なんなんですか?」

「へ?」

 変な声を出す国王。だが、私の表情を見れば誰もその声をバカにはしないだろう。

「塵殺ってなんですか!?物騒にもほどがあります!」

「い、いいじゃないか……魔族は人間にとって脅威そのもの。それをすりつぶすかの如く蹂躙したと話に聞いておる……」

「だからって、そんな二つ名いりません!」

「そ、そんなぁ……」

 全く、か弱い乙女になんて物騒な二つ名つけてくれるのだ。

 まあ、どうせ生きてることが発表されたら『塵殺』という物騒な二つ名も撤回されるはずだ。

「おっと、それはそうと息子とはまだ会ってないか?」

「殿下ですか?」

 そういえば、殿下とは二年以上会っていない。殿下を添い寝した時以来か?

 ……………

 今考えると自分でも恥ずかしくなってくる。

 殿下に嫌われてないってわかったし、前世ではおっかなかったけど今世では優しい。

 一体何があったのだろう?

 前世と今世で、殿下の中で何が違ったのだろうか?

 うーん、全くわからん。

 だけど、時期にわかるっしょ!

「会ってないですね」

「そうか……ベアトリス、息子との婚約の話だが……お互い色々と立て込んでいるからな。結婚の話はもう少し延期しても構わないか?」

「私は全然平気ですけど、たまには殿下と会いたいですね。今はどこにいるんですか?」

 そう聞くと、私でも少し恥ずかしくなりそうな回答が返ってくる。

「お前さんを探しに、旅に出てしもうたよ」

「へ?」

「いやな?俺も引き留めたんだが、あいつ、『ベアトリスは、僕が守ってあげる』とか言って飛び出しってたよ」

「それっていつの話ですか?」

「ちょうど一年前だな」

 やばい!

 なんか殿下のやさしさに泣きそう!

「なんか、殿下って変わりましたね」

「そうか?昔からあいつはベアトリスにゾッコンだったと思うが……なんせ、寝言に出てくるくらいだしな!」

 なぜだろう、今、殿下の尊厳がものすごい侵害された気がした。

「殿下には内緒にしておきましょうか……」

「はは!そうしておいたやろう!」

 そうして、国王と私の雑談はまだまだ続くのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...