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ミサリーの奮闘(ミサリー視点)

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 そこは、とにかく赤かった。
 いろんなところが燃え上がって、どこもかしこも地獄絵図だった。

 買い物をしていた時、私はそれを見た。
 ふと、目線を向けると、何もないところから急に火がついたのだ。

 火事か?
 そう思って、火の元になっている場所を鎮火しようと近づいた。

 が、その火は急に燃え広がった。
 一瞬にして、その家の一軒が消え去った。

「え?」

 認識できない間に、気づけば全てが燃えていたのだ。
 そんな中、私はとにかく駆け回った。

 変な見た目をした黒々しい生き物がウヨウヨと湧いていたのだ。
 そいつが街の人たちを襲っている。

「助けなきゃ……」

 ベアトリスお嬢様に仕えるメイドとして、ミサリーという一人の人間としても、それは許せなかったのだ。

 その生き物のもとに突っ込んで、蹴りをたたき込んだ。
 それは意外にも簡単に吹き飛んでしまった。

「大丈夫ですか?」

 すぐに住人の方に避難勧告を促した。
 そして、すぐにまた駆け出す。

 なぜなら、お嬢様ならきっと同じことをしたと思うからだ。
 誰にも真似できないことを平気な顔しいてやるのだから憎らしい。

 けど、私はお嬢様が生まれてからずっと付き添ってきた。
 お嬢様のして欲しいことを先に察知して行動に移す……それがメイドとしての礼儀だ。

「ミサリーさん!?」

「早く逃げてください!どこへどもいいです!とにかく離れて!」

 街の人々は私の駆け回る姿に驚いていた。
 当然、メイド服を着ている女性が、ここまで動けるとは誰にも予想できなかったのだろう。

 だが、冒険者は驚かない。
 それは私が元冒険者だから。

 引退こそしていないものの、あまり顔は出さない。
 しかして、私の名前は勝手に有名になっていった。

「『神童』のメイド……全く困ったものですね」

 お嬢様の名声は勝手に公爵家の評価を上げる。
 もちろん、私もだ。

 専属メイドだから、同じくらい強いんじゃね?

 という、何も知らない人たちの考えによってね。
 当然、そんなことはなく、私の力は微々たるものだった。

 強いていうなら、一度森の中で死にかけて以来、体を鍛えることにしたおかげで、そこそこマシにはなったが……。

 何度も何度もかけ回り、そのあちこちに湧いた魔物を倒していく。
 名前はよくわからない。

 見たこともない。

 だけど、戦った。

 そして、

「っ!?」

 後ろから鋭いものが、私の体を切り裂いた。かろうじて致命傷には至らないものの、痛みが体の動きを鈍らせる。

「外したか」

「誰!」

 すぐに一歩後ろに引いて、その人物を確認する。
 そこにいたのは、先ほどまで宙に浮かんでいた魔物とは違って地上に立っていた。

 黒い外骨格……それは明らかに人間ではなかった。

「とりあえず死んでもらおう」

「私を馬鹿にするな!」

 背中の傷はまだ痛むがここで引くわけにもいかなかった。
 住人は逃げて、魔物はそれを追っていく。

 ここでこのわけのわからない“敵“を倒さなければ、いけないのだ。

 私は同様に蹴りを入れる。
 だが、それは簡単に手で掴まれた。

 卑劣にも、足を掴まれ、さらに足に追い討ちをかけられる。
 近距離での魔法……人間に耐えられるわけがない。

「ガッ!?」

「脆い……これだから劣等種は」

 離され、解放された右足を何ほか後ろに下がった後確認する。
 当たり前の如く折れていた。

 それどころか、魔法により、足の感覚も薄れていた。
 なんの魔法が放たれたのかすらわからないが、

「人間を、馬鹿にするな!」

 いきなりの事情に混乱していた私の頭は、もはやそいつを倒すことしか頭にない。

 お嬢様だったらそうする。
 軽くね。

 だから、私ができても、いいでしょう?

 先ほどと同じように蹴りを入れる。

「またか……」

 呆れたように言うその魔物。
 だが、私も馬鹿ではないのだ。

 靴の裏に仕込んだ魔法がこもった短剣……こう言う時のために作ってもらったのだ。

 射出したそれは魔物の顔を傷つける。

「なに!?」

「人間を舐めないで!」

「ちっ」

 油断したせいで、顔面を思いっきり殴られてしまった。
 吹き飛ばされた体は宙を舞い、建物にぶつかって落ち着いた。

「ふん……こんなもの。まあいい、お前に構っている時間はないんだ。召集はかかっている……早く行かねば」

 そんなことを言って、黒いそいつは消え去った。

「ごめんなさい、お嬢様……」

 取り逃してしまった……。
 それは私のプライドを傷つける。

 お嬢様はとにかく強い。
 専属メイドとして、私はお嬢様を守ることが使命だった。

 なのに、それすらできない。
 こんなにボロボロになっても倒せない。

(これが格差なのね……)

 でも、私はまだすることがある。
 立ち上がって、視界に入ったのは大きな屋敷。

 その屋敷も燃え始めていた。

「旦那様、奥様……」

 早く行かねば。
 私は歩き出した。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


 そこには、誰もいなかった。
 文字通りなにもない。

「みんな、逃げた?」

 それが当然だ。
 だけど、ここまでもぬけの殻だとなんだか不思議である。

 なにもないのだ。

 全て消え去ったかのように……。
 家具はもちろん全て燃え、そこにはなにも……。

「……………」

 一つのものを見つけた。
 それはいつも奥様が愛用されていたペンダントが落ちていた。


 金色と白色が使われているそれは豪華ながらも、どこか暖かさを感じさせる。
 私はそれを急いで拾った。

 そして、中を開いた。
 ペンダントの中にしまわれている写真にはお嬢様と旦那様、奥様が写っている。

 奥様はいつもこれを持っていた。
 誰よりも家族を大切にして、常に気を利かせていたあの奥様が、こんな大事なものを置いていくはずがない!

「奥様?」

 私は当たりを見渡した。
 だが、それらしき人は見えない。

 そしてお嬢様の姿も。

 そうしているうちに時間はすぎ、音がしたのだ。

「!」

「私だ!ミサリー!」

 私の名前を読んだその人の声には聞き覚えがある。
 旦那様こと、アグナム様だった。

「やはり……遅かったか」

「なにがです?」

 見ればわかる。
 すでにここには誰もいない。

 何かを探しに戻ってきたのだろう。

「それはなんだ?」

 私の手に握られていたものを指さした。
 私は見せるのを躊躇ったが、それを見せた。

 そして、旦那様は察してしまったようだ。
 私にはわからなかった。

 だって、旦那様と奥様は一緒に逃げたと思っていたのだから……。

「ヘレナ……」

 一人、名前を呟く旦那様。
 だが、私は泣かない。

 大丈夫。
 どこかにいるはずだもの。

 だから、大丈夫なの。
 お嬢様はそう言う。

 いつも無理していて、バレバレ。
 だが、それがいい。

 それをできるだけ支えようと思えてくるから。
 私は嬉しかった。

 だから、私も……。

「すまないミサリー。私にはやるべきことがある」

「はい」

 旦那様は顔をあげた。
 そして、私も返事を返す。

「私にも……やるべきことができました」

 私たちは顔を見つめ、お互いの意思を感じた。
 そこからはなにも言う必要はない。

「ではな……生きて会おう」

「すぐに、お戻りします」

 私は旦那様の後ろにある扉に走った。
 そして、また、街へとかけていくのだ。

 私には街を守る義務ができたようだ。
 お嬢様は全力で守る。

 今、彼女がどこにいるかは知らないけど、私はそう信じる。
 きっとすぐに私のことを見つけてくれる。

 そして助けてくれる。
 だったら、それまで頑張るのは私だ。

「大丈夫、私はやりきります、お嬢様……」
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