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欲望の罪(???視点)

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 七つの大罪は生きとし生けるものの悪き感情を全て抱えている。
 彼ら彼女らは、約百年間代替わりが起きていない。

 これすなわち、罪人たちはその苦しみから百年以上も耐えているのだ。

 その中には、進むべき道を見失う者、全てを諦める者、感情が消えた者、全てを忘れた者など、様々。

 元々、罪人たちは罪など犯していなかった。
 ただただ平凡に生きて、平凡に愛を育み、死ぬはずだった。

 だが、罪人としての名を与えられる際、必ず悲惨な目に遭う。
 それは人によって様々、与えられる二つ名によって様々なのだ。

 その中の一人である『強欲』も悲しみを背負っていた。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


 その少女はお金持ちだった。
 吸血鬼の中でも上位に位置する貴族で、そのおかげもあってか、なんでもすることができた。

 家を買うこと、新たな店を建てたり、食料を買い占めたりすることぐらい、少女の権力を持ってすれば可能だった。

 少女は暇を持て余していた。

「どこかに、私を満足させられるようなものはないのかしら」

 だが、時期に見つかるだろう。
 なぜなら貴族だから。

 生まれながらにして、勝ち組。
 戦争がない、平和なこの時代には、最高の立場である。

 しかして、少女はまだ満足しない。
 暇というものは長くを生きるものほど苦痛なのだ。

 家の中でゴロゴロするだけじゃ、その苦痛は潰せない。
 少女は考えた。

「街に出てみよう」

 と。

 今まで行ったことがない。
 初めての外出。

 少女は心を躍らせた。
 一体どのような景色が私を待っているのかと……。

 ただ、少女に自由はなかった。
 貴族として、勝手な行動は許されない。

 家族から何度も言い聞かせられていた。

 絶対に家から出てはいけないと……。

 出たら、最後、家に入れないと……。
 だが、少女の好奇心はそれに勝った。

 夜

 少女は家を抜け出した。
 吸血鬼の運動能力は軽く囲まれた柵を飛び越えるに十分だった。

 柵を飛び越えた少女は夜を駆け抜く。
 夜は吸血鬼が最も活発に活動する時間帯。

 当たり前のごとく吸血鬼が蔓延っていた。
 貴族としての少女は昼に起きて夜に寝る生活を送っていたため、実質的な昼夜逆転である。

 それ故のスリルなどもあったのだろう。
 少女は興奮で、あたりを駆け回った。

 初めて見る街並み、初めて見る家族と従者以外の顔。
 それらすべてに新鮮味を感じていた。

 そして、少女は話しかける。
 街の住人は驚いた。

 その顔で少女のことを注視し、その間にも人は集まり始めた。
 少女はその時は知らなかった。

 自らに敵意が向けられていたことを……。

「捕まえろ!」

 最初に話しかけた男がそう叫ぶ。
 それと同時に、住人たちは少女の小さいからだを掴んだ。

 吸血鬼の貴族とはいえ、大人に勝てるはずもなく、あっけなく捕まってしまったのだ。

 少女は理解が出来なかった。
 なぜ、自分は捕まっている?

 知らないのも当然で、当時の吸血鬼の国というのはかなり荒れていた。
 貴族たちは、無理やり住人達から税を徴収し、それらを懐にため込み、私腹を肥やしていた。

 なぜ、いきなりそのようなバカな政策をとったかといえば、罪人の死である。

 吸血鬼の国を率いる八人の長。
 それらは無類の強さを振るい、過去数百年に渡り、吸血鬼の国を守ってきた。

 彼らは一度敗北した。
 第二次聖戦は苛烈だった。

 魔族側についた彼らは勇者ととある聖騎士の強さに圧倒されていた。
 八人の長はその二人とも戦いを交わした。

 八対二

 絶対に勝てる。
 そのはずだったが、結果は罪人の死亡で終わったのだ。

 何名かが死に、何名かは生き残った。
 その結果、貴族が増長し、政策を行ったのだった。

 戦争ののちに税を上げるというのは非常に無謀な行為であり、それを数年間もの間、続けば民衆の不満は溜まりに溜まる。

 そんな中一人の少女が町中に降りてきた。
 その服装は豪華で、おおよそ増税された住人が買えるようなものではなかった。

 こいつは貴族だ。
 殺さなくてはならない。

 住人たちは怒りをすべてその少女にぶつけた。

 夜の間に捕まった少女は建物の壁に縛り付けられた。
 その下は木材が敷かれ、じきに燃やされた。

 その熱気は少女の顔にも訪れる。
 この時にはもう理解していた。

 殺される。

 と。

「私が何をしたっていうの!」

 だが、返ってきた答えは、

「「「死んで償え!」」」

 だった。
 少女は理解が出来なかった。

 燃やされた木材が少女めがけて何本も飛んでくる。
 ぶつかるたびに、激しい痛みと苦しみがやってきた。

 肌はただれて、少女が本来持っていたはずの美貌はどこかに消えていく……。

 しかし、吸血鬼は回復能力を有していた。
 死ぬことはなく、再生し続けた。

 それは明け方まで続いた。
 少女の絶叫は街中に響き渡る。

 時間にして十時間。
 少女は燃やされ続けた。

 朝になり、陽射しが当たる。
 吸血鬼にとって、陽射しは最も苦手とするものだった。

 子供ともなれば、炎と同じように燃え、やがて灰になる。

「いや……や、だぁ……」

 少女の目から流れる涙はとうに枯れていた。
 そして……願った。

(もう……何もいらない。何も求めない。望むとすべてがなくなる。だから……いらない……)

 すべての願望を少女は捨てた。

 暇をつぶすことも、ここから生き残る方法も、住人に復讐することもあきらめた。

 だが、悲しいかな。
 少女が死ぬことはなかった。

 天は勝手に罪人を選定する。
 すべてを知る天だからこそ、それを実行した。

 少女は燃えたはずだった。
 しかし、死ぬことはなかった。

 なぜならから……。

『強欲』

 八人の大罪人の穴埋めとして、新たな罪人が選ばれたのだった。


 ♦♢♦♢♦


(つまらないなぁ)

 言葉に形容しがたい事態に襲われる。
 本心では思ってもいないことをつぶやいてしまうのだ。

 もうすでに、何も感じない。
 あの時、すべてを捨てたから何も感じないのだ。

 今でも覚えている燃えながら、家に帰るみじめな自分を。
 だが、住人を恨むことはなかった。

 無欲の域に到達したからだ。

 もう何も欲さない。
 求める分だけ不幸になる。

 そんな私は、宿で優雅にくつろいでいた。
 することがないので、たまにこうして宿に泊まるのだ。

 気持ちを切り替えることはできないが……。

 だが、今回はできるかもしれない。

(あ、あの子……)

 さっき隣の部屋に来た子たちだ。
 他人としゃべることがないから、笑顔もぎこちなかったことだろう。

 ここはエントランス。
 外に出たのはただの気分だった。

 特にこれと言って、その少女たちに興味を持つことはなかった。
 が、私はとある情報を持っている。

 同じ仲間の『色欲』というやつから、とある人物の捜索をお願いされていた。

 することがない私は、快く引き受けた。

(確かあんなぐらいの背丈だったはず)

 あれ?
 なんだっけ?

 まあいいや。
 話しかけてみよう。

 情報とあっていれば、連れ帰ればいいだけだし。
 どうせ、私に勝てないし。

 しゃべるときは笑顔でいなくちゃ。
 ちゃんと感情を出さなくちゃいけない。

 今の私にそのようなものはないが、印象をよくするためには笑うしかないだろう。

(これでいいかな)

 顔をいじくり、指で口角を無理やり引き上げる。
 そして、その子たちのもとに向かうのだった。
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