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呼び出し②

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 飛んできた質問は私たちの想像していたものの外側のものだった。

(どこの貴族かって?)

 意味がわからないでいると、メアルが解説を挟む。

「入り口でのやりとりを見ていた。その美しい所作……到底庶民のものとは思えん。それに、庶民がこの宿を利用することは稀であるからな」

 その理由はもっともなものだった……。
 でも、どうしてそんなことを聞く必要が?

「貴族だからといってどうこうするつもりはない。ただ、君たちが来るのは私の記憶上、今日が初めてであること……そして、片方は庶民的な服装を……もう片方は常にローブを羽織っている」

 あれ?
 これ、かなりピンチ?

「所作と服装……矛盾している。どうしてそんな格好をする必要がある?もしや、どこからか逃げてきた没落貴族の娘か?」

 没落貴族……。
 ある意味ではあっているけど……。

 私が苦悶の表情をしていると、若干フード越しに表情が見えたらしく、

「ふっ、どうやらあっていたようだな」

「まあ、一応……」

 間違ってはいない。
 多分メアルさんが想像している何百万倍も壮大だとは思うけど……。

「安心するがいい。問題を起こさなければ、泊まってくれて構わない。だが、しっかりとお金は払ってもらうぞ」

「わかっていますよ、しっかりと持っているので」

「最近は急激に仕事が増えてね……お客のチェックも私自ら行うことが多いのだよ」

 下級貴族なら強気にでても問題ないしね、とメアルが言う。

(仕事が増えた……ねぇ?)

「それって『明星宿』からきたお客さんが増えたこととかが要因ですか?」

 ずばりと切り込む。
 ここで、話を向けないと一生この人とは会話をすることがないだろうと思っての判断だった。

「明星宿?……ああ、庶民向けの宿か」

 庶民向けと言われたところで、私は再びネルネの足を踏んだ。
 なぜなら、怒りで震えていたからだ。

「明星宿は庶民らしい質素な作りをしている」

 メアルが追い打ちをかける。
 ネルネはさらに震えだす。

「だが……古き良き宿の良さも備えていた」

 ネルネの震えが止まった。

「そもそも貴族向けの宿なんて必要ないのだ。私が目指していた宿はこんなものじゃない」

「じゃあ、なんで明星宿を潰そうとしてるんですか?」

「潰そうとしている?」

「そっちの宿の方から嫌がらせを受けているって、聞きましたけど……」

 メアルは鋭い瞳を大きく見開いて驚いている。

(あ、あれ?入る宿間違えた?)

 そう思うくらい私もその反応には意外だった。

「そんなことはしていないと思うが……もししていたなら、従業員が勝手に行動したのだろう。今度宿主にあったら謝罪をしておいてほしい」

「は、はあ……」

「それと、言い訳するようで悪いが、おそらく貴族どものせいだろう」

「貴族?」

「吸血鬼たちは誇りやプライドを強く持つ。だが、強者には従わざるおえない」

 私は言っている意味があまり理解できなかった。
 だが、それはすぐにわかった。

「この国には『七人の罪人』がいる。罪人たちは国を取り仕切り、栄光へと導く。皮肉な話だ。罪人という名を背負わされているにもかかわらず、国を背負って立つとはな」

「罪人……」

「罪人たちは貴族どもを指揮下に置いている。いや、貴族どもが勝手に入ったというべきか。強者にはプライドを捨ててでも、寵愛を得ようとするのだ」

「それと、明星宿となんの関係が……」

「貴族たちは私の宿を愛用しているが、その理由は罪人たちのお気に入りでもあるからだ」

 要するに、この宿は七人の罪人さんのお気に入りで、だから貴族たちもこぞって泊まっているということか?

「罪人が満足できる宿こそが最も優れている。逆に他の宿は邪魔だから、なくしても構わない」

 貴族たちは、罪人たちが泊まる宿だけを残し、他の宿をなくそうとしているらしい。

「その方が都合がいいのだ。今の段階で、道筋にしても大体の貴族の住まいからちょうどいい距離、私の宿は便利というだけなんだ」

 罪人たちの寵愛を得るために、通いやすいこの宿をこぞって利用する。
 そして、罪人たちが他の場所に行ってしまわないように明星宿にも嫌がらせをしたというわけか……。

(理にはかなっているのかな?)

「そんなところだ。これ以上聞いても意味がないだろう。説明は以上だ。部屋に戻っていいぞ」

「あ、はい」

 すぐさま話が切られて、またメアルは書類のもとまで進んでいく。
 話を聞けたし、ひとまず部屋に戻ろうとした時、

「最後に一つ」

「え、あ、なんですか?」

 急にメアルが話しかけてきた。
 その内容は、

「君たちの隣の部屋の方にはあまり触れない方がいい。接触するな、これは君たちのために言っている」

 だった。

(どういう意味?)

 私には、その意味がよくわからなかった。
 同じお客なのに、近づくなとは……。

 確かに、あの隣の部屋の人は、どことなく不思議な雰囲気を持っていた。
 近づかない方がいいのは、注意されずともわかっていたこと。

(結局、嫌がらせの件はどうなるんだ?)

 そのことについては、うまくうやむやにされた気がする……。
 だが、ここで気にしてもしょうがないこと。

 私は、部屋まで戻るのだった。
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