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吸血鬼の餌

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「まあ、殺されそうになったなーって思って、捕まえた」

「「「どういうこと!?」」」

「そのままの意味よ」

 朝起きてから、外に出て、このローブの人物を捕まえるまでを適当に語った。

 朝はボケているので、頭の回転も回らない。
 できるだけ、わかりやすく説明したつもりだけど、みんなあんまりわかってなさそうだった。

「それで、この子どうするの?」

「ひっ!」

 指をさせば悲鳴を上げるローブ。
 何だか、私たちが悪者みたいに見えて、何だか嫌だな……。

「詳しい説明をしてもらいたいけど、怯えてたら話せないよね……」

「ご主人様が怖がらせるからだよー」

 おきたユーリはやれやれと言わんばかりに頭を振っている。
 レオ君は寝起きで目が半開き、話もあんま聞けてなさそうだった。

 ネルネはローブの相手をしている。
 ローブの人物が、なぜかネルネだけ怖がらなかったからだ。

「害がないなら、このまま帰ってもらってもいいんだけどさー」

 みたところ、このローブの人物は子供であるため、怒ろうにも怒れない。
 私たちよりも小さくて、ガタガタ震えているんだから、尚更だ。

「ネルネ、ちょっと口割らせてよ」

「お客さんもひどいですねー、だけど、私はお客さん第一なので!」

 胸を叩き、任せなさい!と豪語する。

 そして、ローブの人物の方に向き直る。

「ねえ、僕?何でこのお姉ちゃん殺そうとしたのー?」

 私の方を指差す。
 私はそれをじっと見つめていた。

「あ、え……あの……」

「大丈夫だよー。この人はいい人だからー」

「いい人?」

 目の色が少し変わった。
 いや、顔は見えないけど……何となくそう思った。

「そそー、この人はねー……えっとー……とにかくいい人だからねー!」

 そこで言葉に詰まるなよ!

「いい人?」

 私とネルネを交互に見るローブの人物。

「私は別に悪いこともしたことないし、ただ普通に生きてるだけよ。だから、多分いい人ってことになるんでしょうね」

 私がネルネのあやふやな回答に付け加えて補足する。
 すると、数秒の間もないうちに……

「ご、ごめんなさい!」

 ローブが素早く動き、私に向かって土下座してきた。

「あ、あの……いい人って思わなくて……」

「あー、別にいいわよ。死んでないんだし」

 若干言葉遣いがおかしいのは若いからだろう。
 それに、素直に相手の話を聞くところ、純粋すぎると思う。

 それが子供のいいところだけどねー。

「あ、顔……ローブ……」

 思い出したかのようにローブを取った。
 それは……思った以上に美形だった。

 髪は真っ白で、雪景色を彷彿とさせた。
 そして、目の色は赤く、燃えているようだった。

 顔の形も整っていて、左右対称。
 絶対将来は、美人になるんだろうなと思わせるほどだった。

 性別は男っぽく、私目線でもかなりかっこいいと感じていた。
 呆気に取られていたのは私だけじゃなくて、全員がそうだった。

「あ……なん、ですか?」

「ああ!いや、何でもないよ!」

 見惚れていたなんて、こんな子供に言っても意味がわからないだろうと思い、グッと堪えた。

「それで、どうして私に向かって刃物を投げたの?」

「あぅ……お金が欲しかったんです……」

 再び呆気に取られた。
 それだけの理由でか?

 というか、何の因果関係があって、私にダガーを投げつけることと、お金を手に入れることがつながるんだ?

「お金って……どうやって稼ぐつもりだったのさ?」

「あの……俺、『ふろうじ』?で、まともにご飯とか、食べられなくて……」

 また泣き出してしまった。
 宥めようと思ったが、その前に泣き止み言葉を紡いだ。

「それで、思い出したんです。ご飯になるものを狩って、売れたら、お金が手に入るって……」

 ご飯……。

 ん?

 ご飯??

「ご飯って、その……私のこと?」

「はい……朝の日差しの中で歩いてたから……吸血鬼じゃないのは一目でわかり、ました」

「あ……」

 後ろからの視線が痛い……。
 そして、

「ええー!お客さん吸血鬼じゃないんですかー!?」

 一人は驚愕していた。

 後ろ三人を無視して、私は少年の話に耳を傾けた。

「吸血鬼じゃないなら、人間だって思って……。人間の血ってとっても美味しい、らしいです……から、売ったら高くなるかなって」

「私の血が美味しい?」

「大人たち、言ってました。ドロッとして、喉越しもいいし、味が濃いからかなり効く、らしい、です」

 聞かなきゃよかった……。
 というか、もしそうなら……。

 思わず、レオ君の方を見た。
 本人はキョトンとした顔をしていた。

 いや、昨日の時点で、レオ君が吸血鬼と獣人の混血だったことはほぼ確定しているわけであって……だったら、美味しそうとか思ったのかなって……。

 ミサリーもレオ君が血を飲む獣人だと知って、血を差し出そうとしていたから、やっぱりそう思ってるのかなって……。

「でも、それだけの理由なら、意味もなくない?だったら、野生の動物をたくさん狩った方が効率いいし、人間というのが、どれくらい強いのかも知らないのに、攻撃をするのは無謀だよ?」

 私の正論に少年は、

「あ、そっか」

「……………」

 所詮は子供、頭が回るわけではなかった。
 ただ、目の前に人間という高価な食材があったから、狩ろうとしただけのようだった。

 私のように、精神年齢おばさん(三十くらい?)ではないため、そこまでは考えが回らないのはある意味当然である。

「他になんか目的はあったの?例えば、お金以外で、飲んでみたいとか……まともにご飯食べてなかったんでしょう?」

 その他にも、目上の人にあげて、雇ってもらったり、人間がどれほど高値でやり取りされているのかは知らないけど、それくらいはできるのではないだろうか?

 そして、少年は話し出した。
 私の考えは、ある意味正しかったようだ。

「売るだけじゃなくて、とかで稼げ——」

「賞金?」

 私の中で少し嫌な予感がした。

「はい、賞金……王様が人間に賞金をかけてるんです。お金……いくらかはわからないけど、たくさんくれるって」

「それはいつから?」

「へ?二ヶ月前くらいからです」

 二ヶ月前?

「もしかして、二ヶ月前はたくさん人間がいたりした?」

「はい、なんかみんなボロボロの服……僕の服みたいなのを着てて、王様、邪魔だから殺せって……」

 二ヶ月前くらいか……。

「それなら、ちょうどだね、公爵領が襲われたのと」

 レオ君の言葉に私とユーリが頷いた。

 ネルネと少年は何を言っているのかわからないようだったが、私たちはかなり戦慄していて、説明する暇もなかった。

「それで、人間はどうなったの?」

 私は一番気になることを聞いた。
 二ヶ月前。

 悪魔の襲撃があった。
 そのせいで、公爵領は崩壊していた。

 崩壊した街の住人は散り散りになって逃げた。
 公爵領は丘や、森に囲まれていて、方向感覚が狂いやすい。

 どこからきたのかわからなくなるのだ。
 街の住人がそれに詳しいはずもない。

 ということは……。

 少年は口を開いた。

「全員死にました」
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