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明星宿

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 この霧の中を進むと考えて、いざとなったときのために、帰り道……森までの道を確認しようとした。

 そのために、魔法を展開し、地図を確認しようとするが、そこにはエルフの森の場所はなかった。

 正確に言うと、私たちがやってきたのは、森であって森じゃなかった。
 つまり……つまり……なんて言ったらいいのかわからない!

 だってしょうがないじゃん!
 消えてるんだよ?

 地図上にエルフの森の文字、場所はなくて、私たちがどっからやってきたかもわからなくなっている。
 
 幻想だったように、私たちがやってきた場所は、平原ということに地図上で変更されていた。

 エルフの森という場所が地図のどこを見ても見つからない。
 もしかして、実際は別の場所にあるけど、あの精霊が出口まで繋いでくれたとかか?

 まあ、戻る気もなかったのでそれ自体は問題ない。
 ただ前に進むのみだ。

 足元がおぼつかず、平衡感覚さえ狂ってくる。
 その度に二人に支えてもらっている。

 そんな自分を情けなく思いつつも、時期に前に見た城が見えてきた。
 前見た時と変わらず、不気味な雰囲気を漂わせていて、牢獄が剥き出しで見えた。

 その中に人はいなく、生活の後だけが残っていた。
 進んでいくにつれ、霧が晴れていく。

 足元がはっきりと見えるようになり、すぐに下半身もはっきりと見えるようになり、吸血鬼が住む地に近づいていると肌で感じた。

 でかいお城は私の住んでいた屋敷よりも、王国の王城よりも大きい気がした。

 近くで見た城はさらなる不気味さを放っている。

「あそこ」

 城は奥にあり、その手前には検問所が設置されいる……わけはなく、ボロボロの家が何軒か建っている。

「入れそう?」

「警備がずさんすぎるけど……ユーリ?ここって吸血鬼の住んでる場所だよね?」

「多分、でも、僕が魔王だった時はもっと賑やかだったような気が……」

 ユーリは疑問に首を傾げている。

 とりあえず、全員フードを被った。
 その上で、慎重に歩き出す。

 土を踏むガサガサという音だけが響くが、誰かが出てくる気配はなかった。
 そのまま真っ直ぐ進んでいき、一番手前にあった一軒を超えて中に入った途端、またしても景色が変わった。

 視界を閉ざしていた霧は一気に晴れた。
 全てが晴れた空は美しく輝く太陽に照らされていた。

 照りつける太陽は眩しく、さっきまでの霧が嘘のようだった。

「行こう」

 ボロボロの家がポツンポツンと並んでいて、それを通り過ぎる。
 どうやら、この地域は閑散としていて、奥に進むにつれ、賑やかになっていくようだった。

 賑やかになると言っても、大して変わらない。
 家の密度が上がり、やがて人通り……いや、吸血鬼通りも増えた。

 初めて吸血鬼を見た。

 その感想としては、

(人間と変わらない?)

 しかし、それを決めつけるのはまだ早かった。
 全員が、ローブを着込み、私たちと同じようにフードをかぶっていたからだ。

 段々と道が整備されていき、その都度数人とすれ違った。
 その全員が顔まで見えないように隠している。

 不思議でならない。

「吸血鬼は太陽が苦手なんだ。体に光が当たると、弱いやつは消滅しちゃうんだよ」

 そうユーリが教えてくれた。

 あれ?

 ならそこまで驚異じゃない?

 日中に家族捜索を行えば、安全度がだいぶ増す。

 なら、ありがたい。

 その根拠はまだある。
 私たちを襲ってこようとしないことだ。

 吸血鬼のことだから、臭いを嗅ぎ分けて、襲ってきたりするのかと思いきや、案外そういうのはわからないようで、目も合わせやしなかった。

「だったら、安全に泊まることもできるのかな?」

「できると思うよ!これで、ひとまず安心だね!」

 合計約十時間走って辿り着いた先は、どうやら野宿しなくて済みそうだ。
 走った時間が十時間だっただけで、実際にかかった日にちはもっと長い。

 野宿も何回かしているので、全員……かなり臭うことだろう。
 どっか適当に、宿を見つけて、泊まらせてもらわねば!

 もし、この国?に、お金という概念が通じるのであれば、役に立つものを持っている。

 シンプルにお金である。
 エルフの優しい国王様は世界共通で使える貨幣を渡してくれた。

 元々獣人国に所属していた吸血鬼の国なら、通じるだろうな。

 歩くこと、数分。

 その場所を見つけた。

「『明星宿』?」

 字が霞んでいて見えずらいが、多分そう書いてあった。

「宿って書いてあるから、きっと宿なんだろうね」

「ご主人様!僕はもう限界!何か食べようよ!」

 中からは良い匂いが漂っている。
 食欲をそそる肉の匂いだ。

 私も迷わず、その扉を開いた。
 中は思った以上に明るかった。

 てっきり、明かりもつけずに、どんよりした空気が流れているかと思いきや、そんなことはなかった。

 なお、人はいない模様。

「あのー!誰かいますかー!泊まらせてほし——」

 そう言って大声で呼びかけてみれば、

「やっときた!お客さん!」

 そう言って目の前のカウンターから何かが飛び出した。
 それは、私の前に着地し、一礼する。

「ようこそ!明けの星!『明星宿』へ!」

「あ、はい」

「それで!泊まりですか!?ご飯にしますか!?それとも両方ですかぁ!?」

 飛び出してきたのは女性で、平均的な身長をしていた。
 緑色の髪色をしていて、毛先はくるりとパーマがかかっている。

 そして、とても元気で、うるさい。

「耳元で叫ばないでください!」

「ああ!すみませんすみません!謝るので、他の場所に行かないで、お客さああん!」

 私のローブにしがみ付いてくる女性。

「どこにも行かないので、離れてください!」

「わかりましたー!」

 そう一言私がいうだけで、何事もなかったかのように、素早い動きで離れた。

(なんなの?)

 年齢は多分成人しているくらいだろう。
 なのに、なんでこんなに子供っぽいんだ?

 そう思いつつも、私はこの宿に泊まる旨を伝えた。

「やったー!お客さんキター!」

 ヤッホーイ!と、言いながら飛び上がる女性。

「あ!えと、お客さん!一番いい部屋用意するから!何人部屋!?」

「え、あ……」

「三人部屋ですね!?わかりましたー!」

 待って!
 私に何も言ってない!

 階段を駆け上がって、どこかへと消えていった女性。
 うおー!という声が聞こえるので、元気が有り余っているようだ。

「「「……………」」」

 三人で顔を見合わせる。

「ま、まあ!せっかく入ったんだし、一泊でも泊まろうよ!」

「そ、そうね!レオ君のいう通りだわ!」

「僕、お腹すいたからご飯も頼むー!」

 こうして、私たちは『明星宿』へ泊まることにした。
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