179 / 504
今度こそ街へ
しおりを挟む
私はその洞窟を出る。
精霊はこちらに手を振りながら、そのうち見えなくなる。
「とりあえず、これからどうする?」
「お昼過ぎ……もうすぐ夕方だから、寝床を見つけないと……」
私は自分の手を見る。
発光はしておらず、嘘のように輝きを失った。
しかし、体には見えなくても心で感じる。
「トレイル」
「何よ、人間」
「一旦街に戻ったら?」
「な、なんで!まだ成果が……」
「十分じゃないの?話聞いてた?」
「……まあ、聞いてた」
トレイルがエルフの街を出て二日が経とうとしている。
トレイルはエルフの国の王族。
そろそろ、無事な姿を見せないと、国中で騒ぎになるだろう。
それに、話を聞いていたなら、魔物増加の原因もわかったし、なんなら精霊が本当にいることも明らかになったことだろう。
悪魔が原因という話を信じるかどうかはさておいて、ひとまずはかなりの収穫が得られたわけだ。
「結局、最初にやってた方法は時間の無駄だったけど、思わぬ収穫もあったし、一度帰ったら?」
「……わかったわ。ただし!あなたたちは簡単にエルフの森に入れると思わないで!」
エルフの中では街のことを森と言っているのか?
それはいいとして、そんなことはわかっていた。
最初に姿を出した時、ものすごく嫌悪感丸出しで威嚇されたもの。
だからと言って、トレイルを一人で帰らせるわけにもいかないし、逆に一人で森から出てきても、「どうやって生き残ったのか?」と聞かれたらおしまいだ。
「つまり!私たちも出向くしかないのである!」
「何自慢げに言ってんの?私は所詮、王族の末端に過ぎないわ。お兄様やお姉様たちが反論すれば、あんたたちは森に入れないのよ?」
「それは……まあ、ゴリ押すわ!」
「こいつ……馬鹿なの?」
「う、うるさいわね!そこまで考えが回らないの!」
「まあ、いいけど。その時は覚悟くらいはしておきなさい」
私たちはエルフの街に向かっていくのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「帰ったわ」
「え?」
眠そうにしていた衛兵が素っ頓狂な声をあげる。
「え、あ!ハイエルフ様!?」
「いいから、早く中に入れて頂戴」
「す、すみません!どうぞ中に……って、そちらの方々は?」
私たちを指差してくる衛兵。
ハイエルフ、トレイルとは扱いがまるで違った。
うやうやしげにお辞儀をしていた態度はいざ知らず、私に向かって指を指す始末。
(まあ、しょうがないか)
郷に入ったら郷に従えという話を聞いたことがある。
馴染むためには、それに慣れて真似るのが手っ取り早い。
「こちら、私のことを助けてくれた……エルフです」
「おお!我らが同士が!さぞ腕が立つエルフなんですね!さあ中へ!」
こう言うことである。
(顔を隠せば魔法を使わずともエルフ!ハイエルフがエルフといえば、私たちはエルフなのよ!)
心の底からこの名案に高笑いしたくなるところだが、私たちはハイエルフ様の付き添い的な立ち位置を守る。
森の中……街の中はとても幻想的だった。
今まで見たどんな街よりも自然豊かで、それに順応している。
幻想的な光っている虫、蝶が飛び交って、魔道具らしき明かりがそこら中に灯っている。
そして、視線が私たちの方に向き、ひそひそ声が聞こえた。
おそらく、「ハイエルフ様?」「後ろの人たちは誰だろう?」とかだろうな、きっと。
ただし、トレイルに気を遣っているからか知らないが、全員風魔法を駆使して、超絶小声で話しているので、よく聞こえない。
聞く必要性もないため、私はそれを気にしないように進んでいく。
家々が立ち並ぶそのメインストリートを、数分間かけて進んでいく。
そのうち、デカい木が見えてきた。
事前にトレイルから教えてもらった情報によると、『世界樹』と呼ばれる大樹らしい。
エルフの森において、唯一、誕生してから枯れたり折れたりしていないその大樹は、エルフの民にとって、自らの種の歴史を表している。
私には関係ないことだが、トレイルがものすごく力説してきた。
トレイルもなんだかんだエルフなんだなって思った。
そんなことを考えていると、
「危ない!」
そんな声が聞こえた。
トレイルの声、私はその声を聞き、何が起きたのかなんとなく察し、彼女の前に回り込む。
そして、飛んできたその何かの攻撃を防ぐ。
それは拳だった。
「ほう?ちょっと予想外だ」
「どちら様?」
「あはは!私を知らないなんてなー。本当にエルフか?」
現れたのは一人の長身の女性。
エルフにしては肌が暗く、髪もどこか茶色っぽい。
それに、動きやすいようにかはわからないが、かなり際どい服を着ていて、周りのエルフより、一段増しで目立っていた。
「そんな腕で、ハイエルフ様守れっかよ。舐めるな」
私の細く、白い腕を見てくる。
笑っていたかと思えば、急に真顔になり、再び攻撃を仕掛けてくる。
(こいつなんなの?)
いきなり殴りかかってくる方がエルフとしておかしいでしょ。
一応、ユーリとレオ君にはトレイルを警護してもらう……風に近くにいてもらい、この女性の相手は私がする。
「邪魔、早く先にいかせて」
「そう焦るなよ、もう少しだけ付き合え」
再び飛んでくる拳。
私はそれを片手で防ぐ。
すかさず、女性はお腹めがけて蹴りを飛ばしてくるが、私がそんな攻撃受けるはずもなく、軽々避けた。
飛び上がった勢いで、女性を引っ張り、地面に叩きつけようとしたが、女性は地面に着地し、私の顔めがけて拳を飛ばす。
それを避けて……
「もらった!」
「!」
私の腕を振り払い、フードをめくろうとしてくる。
少し驚き、戸惑ったのが……功を奏したの……だろうか?
私と、女性の目が合い、女性の動きが止まった。
「あ……お前……一体なんだ?」
「あなたが知る必要はない」
そこで、
「ストップです!お姉様!」
睨み合いが続く最中、私たちの間にトレイルが入ってくるのだった。
精霊はこちらに手を振りながら、そのうち見えなくなる。
「とりあえず、これからどうする?」
「お昼過ぎ……もうすぐ夕方だから、寝床を見つけないと……」
私は自分の手を見る。
発光はしておらず、嘘のように輝きを失った。
しかし、体には見えなくても心で感じる。
「トレイル」
「何よ、人間」
「一旦街に戻ったら?」
「な、なんで!まだ成果が……」
「十分じゃないの?話聞いてた?」
「……まあ、聞いてた」
トレイルがエルフの街を出て二日が経とうとしている。
トレイルはエルフの国の王族。
そろそろ、無事な姿を見せないと、国中で騒ぎになるだろう。
それに、話を聞いていたなら、魔物増加の原因もわかったし、なんなら精霊が本当にいることも明らかになったことだろう。
悪魔が原因という話を信じるかどうかはさておいて、ひとまずはかなりの収穫が得られたわけだ。
「結局、最初にやってた方法は時間の無駄だったけど、思わぬ収穫もあったし、一度帰ったら?」
「……わかったわ。ただし!あなたたちは簡単にエルフの森に入れると思わないで!」
エルフの中では街のことを森と言っているのか?
それはいいとして、そんなことはわかっていた。
最初に姿を出した時、ものすごく嫌悪感丸出しで威嚇されたもの。
だからと言って、トレイルを一人で帰らせるわけにもいかないし、逆に一人で森から出てきても、「どうやって生き残ったのか?」と聞かれたらおしまいだ。
「つまり!私たちも出向くしかないのである!」
「何自慢げに言ってんの?私は所詮、王族の末端に過ぎないわ。お兄様やお姉様たちが反論すれば、あんたたちは森に入れないのよ?」
「それは……まあ、ゴリ押すわ!」
「こいつ……馬鹿なの?」
「う、うるさいわね!そこまで考えが回らないの!」
「まあ、いいけど。その時は覚悟くらいはしておきなさい」
私たちはエルフの街に向かっていくのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「帰ったわ」
「え?」
眠そうにしていた衛兵が素っ頓狂な声をあげる。
「え、あ!ハイエルフ様!?」
「いいから、早く中に入れて頂戴」
「す、すみません!どうぞ中に……って、そちらの方々は?」
私たちを指差してくる衛兵。
ハイエルフ、トレイルとは扱いがまるで違った。
うやうやしげにお辞儀をしていた態度はいざ知らず、私に向かって指を指す始末。
(まあ、しょうがないか)
郷に入ったら郷に従えという話を聞いたことがある。
馴染むためには、それに慣れて真似るのが手っ取り早い。
「こちら、私のことを助けてくれた……エルフです」
「おお!我らが同士が!さぞ腕が立つエルフなんですね!さあ中へ!」
こう言うことである。
(顔を隠せば魔法を使わずともエルフ!ハイエルフがエルフといえば、私たちはエルフなのよ!)
心の底からこの名案に高笑いしたくなるところだが、私たちはハイエルフ様の付き添い的な立ち位置を守る。
森の中……街の中はとても幻想的だった。
今まで見たどんな街よりも自然豊かで、それに順応している。
幻想的な光っている虫、蝶が飛び交って、魔道具らしき明かりがそこら中に灯っている。
そして、視線が私たちの方に向き、ひそひそ声が聞こえた。
おそらく、「ハイエルフ様?」「後ろの人たちは誰だろう?」とかだろうな、きっと。
ただし、トレイルに気を遣っているからか知らないが、全員風魔法を駆使して、超絶小声で話しているので、よく聞こえない。
聞く必要性もないため、私はそれを気にしないように進んでいく。
家々が立ち並ぶそのメインストリートを、数分間かけて進んでいく。
そのうち、デカい木が見えてきた。
事前にトレイルから教えてもらった情報によると、『世界樹』と呼ばれる大樹らしい。
エルフの森において、唯一、誕生してから枯れたり折れたりしていないその大樹は、エルフの民にとって、自らの種の歴史を表している。
私には関係ないことだが、トレイルがものすごく力説してきた。
トレイルもなんだかんだエルフなんだなって思った。
そんなことを考えていると、
「危ない!」
そんな声が聞こえた。
トレイルの声、私はその声を聞き、何が起きたのかなんとなく察し、彼女の前に回り込む。
そして、飛んできたその何かの攻撃を防ぐ。
それは拳だった。
「ほう?ちょっと予想外だ」
「どちら様?」
「あはは!私を知らないなんてなー。本当にエルフか?」
現れたのは一人の長身の女性。
エルフにしては肌が暗く、髪もどこか茶色っぽい。
それに、動きやすいようにかはわからないが、かなり際どい服を着ていて、周りのエルフより、一段増しで目立っていた。
「そんな腕で、ハイエルフ様守れっかよ。舐めるな」
私の細く、白い腕を見てくる。
笑っていたかと思えば、急に真顔になり、再び攻撃を仕掛けてくる。
(こいつなんなの?)
いきなり殴りかかってくる方がエルフとしておかしいでしょ。
一応、ユーリとレオ君にはトレイルを警護してもらう……風に近くにいてもらい、この女性の相手は私がする。
「邪魔、早く先にいかせて」
「そう焦るなよ、もう少しだけ付き合え」
再び飛んでくる拳。
私はそれを片手で防ぐ。
すかさず、女性はお腹めがけて蹴りを飛ばしてくるが、私がそんな攻撃受けるはずもなく、軽々避けた。
飛び上がった勢いで、女性を引っ張り、地面に叩きつけようとしたが、女性は地面に着地し、私の顔めがけて拳を飛ばす。
それを避けて……
「もらった!」
「!」
私の腕を振り払い、フードをめくろうとしてくる。
少し驚き、戸惑ったのが……功を奏したの……だろうか?
私と、女性の目が合い、女性の動きが止まった。
「あ……お前……一体なんだ?」
「あなたが知る必要はない」
そこで、
「ストップです!お姉様!」
睨み合いが続く最中、私たちの間にトレイルが入ってくるのだった。
0
お気に入りに追加
1,596
あなたにおすすめの小説
突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
虐められて引きこもりになって自殺して悪役令嬢に転生した私は、とことん破滅への道を突き進みますわ!
奏音 美都
恋愛
小さい頃から、虐められ体質だった。幼い頃は顔がブスだから、無愛想だから、無口だからと虐められ、小学生になると更に母親がいないから、バカだから、貧乏だから、臭いからと虐められ、中学生になると私の存在自体が目障りだと虐められ……引きこもりになった。
さようなら、つまらない私の人生……
今度生まれ変わったら、生きてる実感を持てるような人生を歩んでみたい。
そんな私を待っていたのが、乙ゲーの悪役令嬢として迎えた転生だった。
こうなったら、悪役令嬢としてとことん破滅への道を突き進みますわ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる