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今度こそ街へ

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 私はその洞窟を出る。
 精霊はこちらに手を振りながら、そのうち見えなくなる。

「とりあえず、これからどうする?」

「お昼過ぎ……もうすぐ夕方だから、寝床を見つけないと……」

 私は自分の手を見る。
 発光はしておらず、嘘のように輝きを失った。

 しかし、体には見えなくても心で感じる。

「トレイル」

「何よ、人間」

「一旦街に戻ったら?」

「な、なんで!まだ成果が……」

「十分じゃないの?話聞いてた?」

「……まあ、聞いてた」

 トレイルがエルフの街を出て二日が経とうとしている。
 トレイルはエルフの国の王族。

 そろそろ、無事な姿を見せないと、国中で騒ぎになるだろう。
 それに、話を聞いていたなら、魔物増加の原因もわかったし、なんなら精霊が本当にいることも明らかになったことだろう。

 悪魔が原因という話を信じるかどうかはさておいて、ひとまずはかなりの収穫が得られたわけだ。

「結局、最初にやってた方法は時間の無駄だったけど、思わぬ収穫もあったし、一度帰ったら?」

「……わかったわ。ただし!あなたたちは簡単にエルフの森に入れると思わないで!」

 エルフの中では街のことを森と言っているのか?
 それはいいとして、そんなことはわかっていた。

 最初に姿を出した時、ものすごく嫌悪感丸出しで威嚇されたもの。
 だからと言って、トレイルを一人で帰らせるわけにもいかないし、逆に一人で森から出てきても、「どうやって生き残ったのか?」と聞かれたらおしまいだ。

「つまり!私たちも出向くしかないのである!」

「何自慢げに言ってんの?私は所詮、王族の末端に過ぎないわ。お兄様やお姉様たちが反論すれば、あんたたちは森に入れないのよ?」

「それは……まあ、ゴリ押すわ!」

「こいつ……馬鹿なの?」

「う、うるさいわね!そこまで考えが回らないの!」

「まあ、いいけど。その時は覚悟くらいはしておきなさい」

 私たちはエルフの街に向かっていくのだった。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「帰ったわ」

「え?」

 眠そうにしていた衛兵が素っ頓狂な声をあげる。

「え、あ!ハイエルフ様!?」

「いいから、早く中に入れて頂戴」

「す、すみません!どうぞ中に……って、そちらの方々は?」

 私たちを指差してくる衛兵。
 ハイエルフ、トレイルとは扱いがまるで違った。

 うやうやしげにお辞儀をしていた態度はいざ知らず、私に向かって指を指す始末。

(まあ、しょうがないか)

 郷に入ったら郷に従えという話を聞いたことがある。
 馴染むためには、それに慣れて真似るのが手っ取り早い。

「こちら、私のことを助けてくれた……エルフです」

「おお!我らが同士が!さぞ腕が立つエルフなんですね!さあ中へ!」

 こう言うことである。

(顔を隠せば魔法を使わずともエルフ!ハイエルフがエルフといえば、私たちはエルフなのよ!)

 心の底からこの名案に高笑いしたくなるところだが、私たちはハイエルフ様の付き添い的な立ち位置を守る。

 森の中……街の中はとても幻想的だった。

 今まで見たどんな街よりも自然豊かで、それに順応している。
 幻想的な光っている虫、蝶が飛び交って、魔道具らしき明かりがそこら中に灯っている。

 そして、視線が私たちの方に向き、ひそひそ声が聞こえた。
 おそらく、「ハイエルフ様?」「後ろの人たちは誰だろう?」とかだろうな、きっと。

 ただし、トレイルに気を遣っているからか知らないが、全員風魔法を駆使して、超絶小声で話しているので、よく聞こえない。

 聞く必要性もないため、私はそれを気にしないように進んでいく。
 家々が立ち並ぶそのメインストリートを、数分間かけて進んでいく。

 そのうち、デカい木が見えてきた。
 事前にトレイルから教えてもらった情報によると、『世界樹』と呼ばれる大樹らしい。

 エルフの森において、唯一、誕生してから枯れたり折れたりしていないその大樹は、エルフの民にとって、自らの種の歴史を表している。

 私には関係ないことだが、トレイルがものすごく力説してきた。
 トレイルもなんだかんだエルフなんだなって思った。

 そんなことを考えていると、

「危ない!」

 そんな声が聞こえた。
 トレイルの声、私はその声を聞き、何が起きたのかなんとなく察し、彼女の前に回り込む。

 そして、飛んできたその何かの攻撃を防ぐ。
 それは拳だった。

「ほう?ちょっと予想外だ」

「どちら様?」

「あはは!私を知らないなんてなー。本当にエルフか?」

 現れたのは一人の長身の女性。
 エルフにしては肌が暗く、髪もどこか茶色っぽい。

 それに、動きやすいようにかはわからないが、かなり際どい服を着ていて、周りのエルフより、一段増しで目立っていた。

「そんな腕で、ハイエルフ様守れっかよ。舐めるな」

 私の細く、白い腕を見てくる。
 笑っていたかと思えば、急に真顔になり、再び攻撃を仕掛けてくる。

(こいつなんなの?)

 いきなり殴りかかってくる方がエルフとしておかしいでしょ。
 一応、ユーリとレオ君にはトレイルを警護してもらう……風に近くにいてもらい、この女性の相手は私がする。

「邪魔、早く先にいかせて」

「そう焦るなよ、もう少しだけ付き合え」

 再び飛んでくる拳。
 私はそれを片手で防ぐ。

 すかさず、女性はお腹めがけて蹴りを飛ばしてくるが、私がそんな攻撃受けるはずもなく、軽々避けた。

 飛び上がった勢いで、女性を引っ張り、地面に叩きつけようとしたが、女性は地面に着地し、私の顔めがけて拳を飛ばす。

 それを避けて……

「もらった!」

「!」

 私の腕を振り払い、フードをめくろうとしてくる。
 少し驚き、戸惑ったのが……功を奏したの……だろうか?

 私と、女性の目が合い、女性の動きが止まった。

「あ……お前……一体なんだ?」

「あなたが知る必要はない」

 そこで、

「ストップです!お姉様!」

 睨み合いが続く最中、私たちの間にトレイルが入ってくるのだった。
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