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日常の切り抜き(獣人君視点)
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「ふぁー」
視界に映るのは、フォーマさんとユーリ……ちゃん。
僕はベアトリスさんの部屋の中で、くつろいでいる。
ただし、それは裏返してしまえば、何もすることがなくて暇であるということだ。
(最近、全然僕たちにかまってくれないし、いったい何処に行っているのかなー?)
やっぱり、みんなで一緒にいたほうが楽しいだろう?
一人で何やら怪しげなことをやっているらしいけど、それはいったいなんなのか……。
ぜひとも僕も加わりたい!
でも、そんなにはしゃいでいるわけにもいかないんだよね。
そろそろ、母さんが心配になってくる。
一年以上会っていないのだから当然といえば当然なのだが……。
まあ、どうせひょっこり生きて戻ってくるとは思う。
だってあの母さんだもん。
一時期、僕の代わりに食料を調達してくれていたことがあった。
その時の光景を今でも覚えている。
圧倒的な巨体のドラゴンを相手に余裕で倒して見せたのだ。
その光景があまりにもかっこよく見えた。
……実をいうと、過去の家族……過去戻りする前の家族の中に『母様』という存在はいなかった。
つまり、母親がいなかったのだ。
父の手一つで僕を育てた。
ちなみに裕福な家庭で、それなりに権力もあった。
だが、僕はその家から逃げた。
なぜか?
父親のやり方が気に食わなかったからだ。
権力に物を言わせて、争いを生み、富を得る。
そのやり口に納得がいかなかった。
だから、僕は騎士になって強くなり、争いをなくすと決めたのだ。
それが僕が騎士になろうと思ったきっかけだ。
今思えばいい思い出だ。
そして、現在。
初めて母親という温かさに触れた。
過去の父とは違い、温かみあふれる母さんの役に立とうと今回も努力をした。
その結果得られたのは、母さんの劣化版のような力だけだった。
もともと、気力という獣人特有の力が使えず、あまつさえ魔法だって当然使えない。
唯一できるのは、戦闘経験を積むことと、体を鍛えるのみ。
それだけだ。
僕の場合はそれらすべてが日常……十何時間も行うのが当たり前となっていたからこそ、それなりに戦えるようになった。
それでも母さんの役には立てない。
(僕だって、母さんみたいに強くなって、大事な人を守るんだ)
その中には母さんや、仲良くしてくれるベアトリスさんたちも含まれている。
そんなことを考えているときだった。
「あ、しくった」
唐突に聞こえる聞き覚えのない声。
その声が聞こえた時には手遅れだ。
頭の上が陰り、上から何か落ちてくる。
「いった!」
「え!?うそ、誰か踏んじゃった?」
そんな声が聞こえる。
「ちょ、ちょっと、どいてください……」
「ああ!ごめんなさい!」
すぐさま体に感じる重量感が消えて、視界が晴れた。
いつもの天井、その視界内にひょっこりと、女の子の顔が見えた。
「あ、よかった。どうも、失礼しました!」
「あ、うん。大丈夫です」
「わ!何でこんなに人がいるの!?」
話が急に切り替わり困惑しつつも彼女の様子を確認する。
肌が白くてまるで病気なのかと疑うが、元気そうな様子なのでそれはないと思った。
そして、彼女の視線が、フォーマさんに向いていることに気づいた。
「どうも」
「うわ!しゃべった!」
「ん、しゃべる」
あまりの温度差に一瞬呆けてしまいそうになるが、そうなる前に口を開く。
「あの……どちら様で?」
「あ、ごめんなさい!えと、私レイナって言います!気軽にレイって呼んでください!」
そう言って、魔術師の格好をした少女、レイは名乗る。
「あ、どうも……それでどこから来たんですか?」
「はい!辺境伯領からです!」
「はい?」
フォーマさんにそれがどこにあるか、目で聞く。
「辺境伯領、公爵領の北にある。距離はまあまあ」
「どうしてそんなところから……」
突然の来訪すぎやしないか?
「えっと、普通に転移できました!」
「はい?」
「はい!」
「あ、そういうことじゃなくて……」
転移って確か高度な魔法技術なんじゃなかったっけ?
僕だってただ何もしないで、一年過ごしていたわけではない。
それまでの間にちゃんと知識を学んでいるのだ。
そもそも転移は宮廷魔術師クラスで十人ほど必要なほどの難易度らしい。
あれ?
僕の知識違いかな?
「あの、転移ってそんなに何度も使えるんですか?」
「まあ、一応……お恥ずかしながら、一人で使うだけでもかなり集中力を使ってしまうんですよー」
落ち込む彼女。
とまどう僕。
そして、感心するフォーマさん。
「さすが、ベアトリスの仲間」
「ベアトリスさんの?」
転移で勝手に部屋に入ってくるくらい仲いい人なの?
フォーマさんが知っているのだからそうなのだろうな。
僕はもう気にしない。
「あ!そうそう、ベアちゃん!どこにいるの?」
「ベアちゃん?」
「ベアトリスのことだよ!ねえ、知らない?」
「わかんないや……」
「そう、なんだ。せっかく初めてオリジナルの魔法作れたのに……」
なんか今、さらっとヤバいこと言わなかった?
「しょうがない!ここは君が私の話に付き合ってもらおうか!」
「え?なんで僕が!?」
「だって、ベアちゃんの婚約者なんでしょ?」
……………?
「こ、婚約者!?」
「あれ?違うの?」
「あ、婚約者とかそういうのではなくて、単に一緒に住んでいる友達というだけで、決してそういうわけじゃないから!(早口)」
「ふーん、じゃあ恋人なんだー」
「そうじゃない!」
どうしてそうなるんだ!
ターニャさんにも似たようなこと言われたのですけど!?
そこで、再びフォーマさんに助けを求める。
目線での合図が伝わったのか、こちらに視線が向く。
ああ、これで救われ……
「ん、レイ。二人はまだ初夜すませてないから、まだ」
「そっか、頑張ってね!」
「ちがーう!」
気苦労が絶えない僕。
(ああ、なんだかまだまだ続く予感……)
その嫌な予感は的中することになったのだった。
視界に映るのは、フォーマさんとユーリ……ちゃん。
僕はベアトリスさんの部屋の中で、くつろいでいる。
ただし、それは裏返してしまえば、何もすることがなくて暇であるということだ。
(最近、全然僕たちにかまってくれないし、いったい何処に行っているのかなー?)
やっぱり、みんなで一緒にいたほうが楽しいだろう?
一人で何やら怪しげなことをやっているらしいけど、それはいったいなんなのか……。
ぜひとも僕も加わりたい!
でも、そんなにはしゃいでいるわけにもいかないんだよね。
そろそろ、母さんが心配になってくる。
一年以上会っていないのだから当然といえば当然なのだが……。
まあ、どうせひょっこり生きて戻ってくるとは思う。
だってあの母さんだもん。
一時期、僕の代わりに食料を調達してくれていたことがあった。
その時の光景を今でも覚えている。
圧倒的な巨体のドラゴンを相手に余裕で倒して見せたのだ。
その光景があまりにもかっこよく見えた。
……実をいうと、過去の家族……過去戻りする前の家族の中に『母様』という存在はいなかった。
つまり、母親がいなかったのだ。
父の手一つで僕を育てた。
ちなみに裕福な家庭で、それなりに権力もあった。
だが、僕はその家から逃げた。
なぜか?
父親のやり方が気に食わなかったからだ。
権力に物を言わせて、争いを生み、富を得る。
そのやり口に納得がいかなかった。
だから、僕は騎士になって強くなり、争いをなくすと決めたのだ。
それが僕が騎士になろうと思ったきっかけだ。
今思えばいい思い出だ。
そして、現在。
初めて母親という温かさに触れた。
過去の父とは違い、温かみあふれる母さんの役に立とうと今回も努力をした。
その結果得られたのは、母さんの劣化版のような力だけだった。
もともと、気力という獣人特有の力が使えず、あまつさえ魔法だって当然使えない。
唯一できるのは、戦闘経験を積むことと、体を鍛えるのみ。
それだけだ。
僕の場合はそれらすべてが日常……十何時間も行うのが当たり前となっていたからこそ、それなりに戦えるようになった。
それでも母さんの役には立てない。
(僕だって、母さんみたいに強くなって、大事な人を守るんだ)
その中には母さんや、仲良くしてくれるベアトリスさんたちも含まれている。
そんなことを考えているときだった。
「あ、しくった」
唐突に聞こえる聞き覚えのない声。
その声が聞こえた時には手遅れだ。
頭の上が陰り、上から何か落ちてくる。
「いった!」
「え!?うそ、誰か踏んじゃった?」
そんな声が聞こえる。
「ちょ、ちょっと、どいてください……」
「ああ!ごめんなさい!」
すぐさま体に感じる重量感が消えて、視界が晴れた。
いつもの天井、その視界内にひょっこりと、女の子の顔が見えた。
「あ、よかった。どうも、失礼しました!」
「あ、うん。大丈夫です」
「わ!何でこんなに人がいるの!?」
話が急に切り替わり困惑しつつも彼女の様子を確認する。
肌が白くてまるで病気なのかと疑うが、元気そうな様子なのでそれはないと思った。
そして、彼女の視線が、フォーマさんに向いていることに気づいた。
「どうも」
「うわ!しゃべった!」
「ん、しゃべる」
あまりの温度差に一瞬呆けてしまいそうになるが、そうなる前に口を開く。
「あの……どちら様で?」
「あ、ごめんなさい!えと、私レイナって言います!気軽にレイって呼んでください!」
そう言って、魔術師の格好をした少女、レイは名乗る。
「あ、どうも……それでどこから来たんですか?」
「はい!辺境伯領からです!」
「はい?」
フォーマさんにそれがどこにあるか、目で聞く。
「辺境伯領、公爵領の北にある。距離はまあまあ」
「どうしてそんなところから……」
突然の来訪すぎやしないか?
「えっと、普通に転移できました!」
「はい?」
「はい!」
「あ、そういうことじゃなくて……」
転移って確か高度な魔法技術なんじゃなかったっけ?
僕だってただ何もしないで、一年過ごしていたわけではない。
それまでの間にちゃんと知識を学んでいるのだ。
そもそも転移は宮廷魔術師クラスで十人ほど必要なほどの難易度らしい。
あれ?
僕の知識違いかな?
「あの、転移ってそんなに何度も使えるんですか?」
「まあ、一応……お恥ずかしながら、一人で使うだけでもかなり集中力を使ってしまうんですよー」
落ち込む彼女。
とまどう僕。
そして、感心するフォーマさん。
「さすが、ベアトリスの仲間」
「ベアトリスさんの?」
転移で勝手に部屋に入ってくるくらい仲いい人なの?
フォーマさんが知っているのだからそうなのだろうな。
僕はもう気にしない。
「あ!そうそう、ベアちゃん!どこにいるの?」
「ベアちゃん?」
「ベアトリスのことだよ!ねえ、知らない?」
「わかんないや……」
「そう、なんだ。せっかく初めてオリジナルの魔法作れたのに……」
なんか今、さらっとヤバいこと言わなかった?
「しょうがない!ここは君が私の話に付き合ってもらおうか!」
「え?なんで僕が!?」
「だって、ベアちゃんの婚約者なんでしょ?」
……………?
「こ、婚約者!?」
「あれ?違うの?」
「あ、婚約者とかそういうのではなくて、単に一緒に住んでいる友達というだけで、決してそういうわけじゃないから!(早口)」
「ふーん、じゃあ恋人なんだー」
「そうじゃない!」
どうしてそうなるんだ!
ターニャさんにも似たようなこと言われたのですけど!?
そこで、再びフォーマさんに助けを求める。
目線での合図が伝わったのか、こちらに視線が向く。
ああ、これで救われ……
「ん、レイ。二人はまだ初夜すませてないから、まだ」
「そっか、頑張ってね!」
「ちがーう!」
気苦労が絶えない僕。
(ああ、なんだかまだまだ続く予感……)
その嫌な予感は的中することになったのだった。
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