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動き出す災害(×××視点)
しおりを挟む「そろそろ頃合いね」
ああ、楽しみ!
ようやくこの時がきたのだ!
「ベアトリスを絶望に落とす時が!」
彼女は一体どんな表情をするのだろうか?
それについて思いを巡らせて顔を歪ませる。
邪悪な彼女の覇気は徐々に増え続ける。
彼女はこの時のために数年間も待ったのだ。
それは、彼女にとって尋常じゃない苦痛だった。
「傀儡も死んだことだし、もう誰も私と止める奴はいないわ」
唯一、私に口出ししてくるあの男はぽっくりと死んでしまったし、死んでいる間にベアトリスと戦おう。
それなりに面白い余興にはなるだろう?
子供は子供。
「精神まで強靭になれるわけじゃない」
いくら強くても心は弱い。
それにつけ込むのも悪くなかったが、それだとつまらない。
人間の中ではそれなりに強い部類に入るベアトリス。
一体、どうしてそうなったのかはわからない。
強いていうなら、才能だろうな。
私を追い詰めたメアリという女の娘なだけあって、才能豊かだ。
それをうまく駆使して強くなっていくベアトリスを水晶越しに眺めている日々。
およそ、貴族の令嬢とは思えないが、そんなの関係ない。
「久しぶりに楽しめそうだわ……!」
これはただの暇つぶし。
目・的・を遂行する前に、少しくらい遊んだってバチは当たらない。
それに、ベアトリスという芽を摘んでおけば、後でお姉様たちから褒めてもらえるかも……。
私は任務を全うする。
そのために、この組織に協力した。
加入するのは癪に触るので、あくまで協力者である。
それなりに、強いやつもたくさんいて、見てて楽しい。
強者が絶望に落ちる瞬間の表情なんか特にね。
「今は、ベアトリスは……外か。ならちょうどいい」
転移を発動する。
向かう先は、公爵家。
屋敷の中に侵入するのは容易い。
座標さえわかれば、どこへでも侵入可能だ。
それは例え、勇者の私室であろうと、魔王の居城であろうとも、だ。
所詮は貴族の屋敷。
警備もゆるい。
かろうじて、ベアトリスの『結界』が張ってあるおかげで、なんとか及第点と言ったところだ。
私が侵入した屋敷の中は、それなりに広かった。
転移した先は玄関ホール。
堂々と、中に入る。
使用人はちょうどここにはいないのか、誰にも見られていない。
一人を除いて……。
「ようこそ、我が家へ」
「ヘレナね?そろそろ、ベアトリスを狩らせてもらいに来たわ」
「ま、それはおめでとうございます」
相変わらずの作り笑い。
何を考えているのかわからない女。
組織にちょくちょく顔を出していることから、おそらく黒薔薇の人間だとは思う。
正直、今はベアトリスにしか興味はないため、そんなに詳しくは知らない。
「何をしに来たの?」
「いえ、大きい負の気配を感じたもので。そんなに闘気だだ漏れですと、ばれちゃいますよ?」
「問題ないわ。どうせ雑魚でしょ?」
「うふふ、うちの子供たちもそれなりでしてよ?」
「いつまで家族ごっこをしている気?」
「……………」
私は家族ごっこ、おままごとには興味ない。
勝手にやってろと思う。
十・年・間・ほど、公爵家の家族として潜入しているスパイ。
それがヘレナ、それが私の認識。
それ以前は、公爵家のメイドとして、顔を替えて潜んでいた。
その執着心には若干引いてしまうほどである。
「念願のおままごとができたのはいいけど、そろそろ私も我慢ならないわ」
「……そうですね、いじめるのが大好きなのに、待たせてすみませんでした」
邪悪な笑いは誰にも聞こえない。
広いからかはわからないが、奥の部屋にまで声が聞こえることはなく、その存在に気づいたのはこの屋敷で二人だけだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎↓ヘレナ視点↓
まずいまずいまずい。
どうしてこうなった。
私はヘレナ。
ここの家の主人、アグナム様の妻役をやらせてもらっています。
(よりにもよってこの方が来るなんて……)
予想外にも、直接乗り込んできたこの方は、ベアトリスを狙っているそうだ。
世界の真の強者。
それが目の前にいるお方。
本物の化け物だ。
今の勇者様なんか足元にも及ばないだろう。
近くで見てはっきりとそう思った。
これはメアリと同じ類の存在だ。
触れてはいけない禁忌の存在
パンドラの箱というのか?
まさにそれだ。
逆鱗に触れようものなら、世界はいつ滅んでもおかしくないだろう。
私の見解はそうだった、少なくともね。
でもそれよりも重要なのは……。
(私は役とはいえ、母親。家族を守るの)
私はそのことしか頭になかった。
「そうですわ。いたぶるのが趣味な貴方様に素晴らしい提案をしてあげます」
「なによ?」
「ベアトリスを絶望の底に落としたいんですよね?」
「そうね、それが?」
「ただ、私たちを目の前で殺す程度ではきっと心は折れないでしょう」
「確かにそうかもね」
その問いで、その気になれば、私までもこの方に殺されてしまうのか……と知る。
だが、それはわかりきったことだ。
「なので、この街の住人を殺してはいかがです?」
「へー、それも面白いわね」
「時々、正体を隠しつつ遊びに出かけていた街の住人。さぞ親しくなったことでしょう?そいつらを殺せば……」
「しょうがないわね。ベアトリスは今いないみたいだし、そっちを先にしてみるわ」
「ぜひ……」
時間稼ぎはした。
その間に私がどうにかしなくては……。
♦︎♢♦︎♢♦︎↓フォーマ視点↓
いつも通り部屋の隅で縮こまる。
ユーリは私をいないものと考えているのか、ベアトリスからもらったおもちゃらしきもので遊んでいる。
幸せなやつだ。
この屋敷に訪れてから、もう二年近く経つ。
その間にも、ベアトリスは着々と強くなっていった。
(期待大。将来が楽しみ)
私には関係のない話だ。
だが、それでも私は強者に従う義務がある。
それが神の教え。
そんなことを考えている時だった。
「……ヤバイ」
気配が濃くなった。
近くに私のよく知る人物の気配が急に現れた。
それに近づくヘレナという女性の気配も。
あいつ、ヘレナは組織に時々顔を出している女だ。
ベアトリス自体は、メアリとヘレナ……母親が二人いると知りながら気にしていないように見える。
だからこそ、私も黙っていたが……。
「まずい」
あの協力者に近づいて何をしているのかは知らない。
だが、良からぬことだというのはわかった。
だからと言って、私が何かできるのかと聞かれれば、そんなわけない。
情報収集官としてはそれなりに役に立つ私だが、戦闘はからっきしである。
と言っても、私は異端審問官。
傀儡が私から取り出した記憶が戻ってきた今、その意味がはっきりとわかる。
異端を取り除くのが私の仕事だった。
そのためには、情報が必要。
いち早く、異端者を見つけるために……。
だから、私は改造された。
それは今は関係のない話かもしれないが、異端審問官としての実力はその能力におるところが大きい。
つまり、能力なしだと、Sランク程度である。
Sとだけ聞けば、強いのかと思われるかもしれないが、そうでもない。
災害認定という一つ上の階級……。
それには、格差があるのだ。
災害認定の中にも規定が分かれている。
ちなみに私は戦災級・ウォーディザスターという階級だ。
わかりやすくいうと、災害認定の中でも下っ端である。
それではダメだ。
協力者の少女には足元にも届かないのだ。
未来予測は、体に負荷が大きくかかる。
当たり前のことながら、常時使用はできない。
だから目を閉じている。
そのせいで、協力者の侵入も許してしまった。
(ごめん、ベアトリス。私、死ぬ)
私のことを気に入ってくれていたであろう、ベアトリスに心の中で謝罪する。
私は立ち上がる。
(少しは役に立って見せるから)
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