上 下
130 / 504

久しぶりの再会

しおりを挟む
 とある春の日。
 私、ベアトリスは九歳になった。

 そして、もう数ヶ月で十歳の誕生日となる。
 ここんところ一年間は至って平和に過ごしている。

 獣人君の件に関して言えば、なぜかすんなりオッケーをもらえた。
 それよりも重要なことがあるのだろうか?

 思い詰めて表情を一瞬のぞかせたのを覚えている。
 そんなの私の気にするところではない!

 というわけで、私は獣人君と一緒に暮らすようにした。
 流石に、フォーマも追加でばらしちゃうわけにはいかない。

 彼女だけはこの一年間ばれずに過ごしてきたのだから。
 だからいまだに人がきたら隠れている。

 さすが化け物。
 誰にも悟られることないのだ、この少し狭い部屋でも。

 え?

 貴族の家なんだから、広いだろって?

 ちっちっち……。
 なんと、私の部屋……。

 獣人君と共同で使っているのだよ!
 何が言いたいかと言えば、空いている部屋がないんだよね。

 ってことで、私の部屋に泊まるしかないんだよね。

「なんでですか!?」

 と、本人は嫌そうにしていた。
 泣きそうになったのはいうまでもない。

 そんなに嫌なのか!?と思ったが、そこは違ったらしい。
 うん、まあ思春期入りかけてんのね……。

 私ってば、精神年齢大人もいいところだから見られて恥ずかしいとかそういう感情一切ないのよねー。

 所詮は子供。
 意識することなんてない。

 だから、私は堂々と着替えもできるし、なんならお風呂に一緒に入ることだってできる。

 まあ獣人君はそんなわけにはいかないと、別で入っているのだが……。
 ミサリーは獣人君に激甘で、いつも甘やかしている。

 そんなに好きなのか?
 私の扱いはただのお友達みたいな感じなのに、そんなに獣人が好きなのか?

 命の恩人らしいし、そんぐらい当然と自分を納得させて過ごす日々だった。

 相変わらず、ユーリとフォーマは喧嘩ばっかだし、ミサリーは毎度のように突撃してくるようになり、かなり賑やかだ。

(ここにメアリ母様がいたらな……)

 ううん、違う違う。
 いつかそれを叶えるんだ!

 私は諦めの悪い女だからね。

 というわけで日々模索を続ける日々。
 それと相まって、学院の移動……増設の件と帝国の遠征の件の調査……さらには国王陛下へ報告書を書いたりと、いろいろ忙しかった。

 なので、ターニャに会う時間が作れなかったのだ。

「久々に行くかなー」

 怒ってないといいんだけど……。
 あの『おいら』っ娘はそんな短気な性格をしていないけど、流石に一年以上顔を出さないのはまずいよね。

「ってことで、一緒にきなさい、獣人君」

「どうして僕が!?」

 嘘っぱちなんじゃないかって思うほど驚いた様子を見せる獣人君。

「いいじゃない、減るもんじゃないし」

「いや、確かにそうかもですけど……」

 行くかいかないか迷っている様子。

 だってさ、別に一人で行っても良いんだよ?
 でも、なんていうか久しぶりに来たくせに手土産というか、そういうものがないと相手がなんで思うか、ねー?

 ターニャってば友達少ないらしいし、紹介してあげようと思った次第である。
 ただ、ユーリは連れて行かない。

 フォーマと一緒にいる方が安全だしね。
 獣王国の治安と、フォーマ……どちらを信じるかと言えば、フォーマに決まってるでしょ?

 そういうことである。
 
 というわけで……。 

「いいじゃん!一緒にいこ?ね?」

 しょうがないので、ちょっとぶりっこして、どうにか……!

「うぐ……」

 上目遣いを存分に使い、納得させるのだ!
 私は目つきだけ直せばそれなりに整った顔をしているはずだ。

 自信はないが、目を丸く開いて維持する。

「……わかりましたよ」

「本当?やった!」

 お供、ゲットだぜ!

「いやー!もしこれでもいかないとか言ったら獣人君に嫌がらせしているところだったわー!」

「嫌がらせって……どんな?」

「お風呂入っているところに、私が突撃したり、背中洗いっことか——」

「早く行きましょうか!ね!」

 照れ隠しなのか、早口になる獣人君。
 もちろんそんなことする気はなかったので、これはこれで面白い。

(獣人君はからかいがいがあっていいな)

 今度からは存分にからかうとしよう。
 そう思い、私は転移していくのだった。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「よし、てんいかんりょ——」

 その瞬間、体に衝撃が走る。

「待ってたぞー!」

 そう言って体が、空中に浮き上がる。
 何が起きた!?

 と思った次の瞬間には地面へ落下した衝撃が伝わる。
 地面と言っても屋・根・だけどね。

「ちょ!?止まって止まってー!」

「お?ごめんごめん!」

 キィィという音がたち、屋根の上から転げ落ちる私の体が減速する。

「あ……止まったぁ……」

「待ってたぞ、ベアトリス!」

 そう言って天を仰いている私の顔を覗き込むのは、私が会いに来た人物だった。

「ターニャ……」

「そうだぞ!遅いから待ちくたびれた!」

「ちょっと、一旦離れてもらっていい?」

 屋根の上、しかもかなり端っこの方で押し倒されている状況。
 側から見たら、ターニャが私を突き落とそうとしているような絵面に見える。

「わかった!」

 そう言って離れるターニャ。
 その後ろから覗くぶっ壊れてしまった屋根のレンガ……。

(誰の家か知らないけど、ごめんなさい!弁償はしないけど……!)

 私は立ち上がり土埃を払い除ける。

「改めて……久しぶりね、ターニャ」

「やっと来た!もうおいらのこと忘れているのかと思ってたんだ」

「そんなわけないじゃない」

 心外である。
 私はそんなひどい女じゃ……。


 ~前世の記憶回想中~


 ……………。
 なんとも言えない……。

「とにかく今日会えてよかった!一年も待ち続けるのは流石に飽きてきたところだったんだ」

「え?」

「え?」

 もしや……。

「毎日ここにきてたの?私に会うために?」

「当然なのだ!初めてできた人間の“友達“だからな!」

 あ、本当にすみませんでした……。

 こんな良い子を一年も待たせる私は外道ですはい……。

「ごめん……」

「全然平気だよ!それより、早く遊びにいこ!」

 そう言って、私の手をとり、屋根の上に登ろうとする。
 そこで、

「あのー……」

 話しかけづらそうに、獣人君が呟いた。

「む?誰だ!」

 シャー!と警戒し、尻尾を逆立てる。

「あ!ちょっと待って!」

「なんだ?ベアトリス」

「その子、私の知り合いなのよ!」

「知り合い?」

 知り合い知り合い……。
 そう何度も呟きながらバツが悪そうな獣人君と、私の顔を何度も見比べる。

 そして、一度この街の風景を見渡した後、再度私の方に振り返り……。
 何か納得したような声をあげた。

「なるほど、ベアトリスの番つがいってわけね!」

「「断じて違う!」」

 思わずそろって声をあげてしまった。
 ターニャと獣人君の初対面。

 出だしは上々……なのか?
 兎にも角にも、一安心する私でした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

処理中です...