上 下
120 / 504

燃え尽きるまで

しおりを挟む
「オリビア!」

 オリビアのもとへと向かった私。
 だが、声をかけても返答がない。

「ちょっと!返事してよ!」

「その権利は私にありません」

 いつもと同じ声。
 だけど、単調で抑揚のない声はまるで人間ではない何かのように思えた。

 操られている……。
 人形にした……。

 だったら、あの男を倒すしかないのか?
 そうすれば、オリビアは怪我することなく助け出すことができるのではないか?

 だったら、私はオリビアの相手をするより、あの男を……。
 横にいる男に向かって足を進めようとする。

 その瞬間、

「!?」

「任務の妨害はさせません」

 何かが私の頬をかすめる。

「オリビア……」

 掌をこちらにかざしている。
 そこからうっすらと煙が漏れ、何かが射出された跡が見えた。

(魔法?)

 どんな術式だったのか、そして、どんな魔法だったのか……。
 それは、残念ながら視認できない。

 もはや私は直感で避けているようなものだった。
 それだけ、オリビアの魔法が速いのである。

「オリビアをどうにかしないと、ダメってわけね」

「その通りです」

 オリビアが本気を出して攻撃するとな。
 聖女候補。

 ただの候補に過ぎない。
 だけど、こんな捉え方もできるのではないだろうか?

 英雄予備軍とか、災害予備軍とか。

 生ける伝説の勇者パーティのメンバーになるかもしれないってんなら、英雄候補の一人と考えた方が良さそうだ。

 何が言いたいのかといえば、オリビアも強者の一人というね……。
 何がどうしたらこうなるんだ!

 前世の方が穏便に過ごせていたのでは?
 だって、こんな過激な戦闘なんて参加したことないもの!

 私、こう見えて淑女ですのよ?
 おしとやかに生きることがモットーでありんす。

 なのに、どうしてだ!?

 馬鹿げた規模の戦いをしなくちゃいけないんだ!
 幸い、トラウマとか、拷問のおかげで精神は異常に強靭化しているものの、だからと言って、戦いたいわけなかろうが!

 仮にも友達、友人であるオリビアを傷つけるような真似ができるはずない。
 それをやったとして、意識が戻った後のオリビアとまた同じ関係になれるかと聞かれると、疑問が残る。

 だから、私は、オリビアを傷つけることなく、一瞬だけ気絶してもらうのが最適。

 気絶は怪我に入らん!

 極論だが、そうしないと勝機はない。

 現状は三対三と言いつつ、一人一人でタイマンしている状況。

 なんかとてつもなく強そうな女性は黒服の男を相手にしている。
 余裕そうに見えるが、やや動きがぎこちない。

 緊張しているのか、体が強張っている。
 なんでだろう?

 わからないが、私には焦っているように見える。

 そして、獣人君の方はといえば、勇者の相手を担ってもらっている。
 だが、こっちは明らかに押されている。

 勇者こと、トーヤ。
 あれでも世界を救う勇者様なわけだ。

 そんな化け物相手に翻弄されながらも、どうにか均衡を保ててる獣人君はすごい。

 確かに今のトーヤは全然本気でないっぽいけど、それでもだ。

 んで、私はオリビアと……。

 攻防は激しい。

 被害を気にせず、大魔法を連発してくるオリビア。

『神聖の雷』『天罰の矢』『神聖結界』とか、もう名前を聞いた時点でやばいのだろうなという攻撃がどんどんと飛んでくる中、私はただただ逃げ回る。

『神聖結界』などは、魔法で防御結界を張ってどうにか耐える。

 神聖結界

 魔力を持つ存在を全て消滅させる魔法だ。

 いや、本気で殺しにかかってくるやん……。
 防御に徹しているから防げているわけで、私が反撃に出ようものなら速攻死ぬだろう。

 というわけで、チョコチョコと弱めの攻撃を合間に入れることしかできてない。

(くっそ……どうにかしないと……)

 私は考えを巡らせるのだった。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「さっきまで死んでたとは思えないな……」

 そう呟くのは私を一度殺した男。

「次は容赦しないわ」

 そんなことを言っている私だったが、実際には体がうまく動かせていなかった。
 わかってはいた。

 恐怖を感じながら、それに立ち向かうことなんて不可能なのだと。
 遅れているものから逃げずに戦う……これがどれだけ難しいことか。

 理解できるだろう?

 私は戦いたくないどころか今すぐにでも隠れたい欲求に駆られる。
 だが、私にはそれができない。

 なぜなら、守るべきものがあるから。
 大切な心の支えである子供のためならば、いくら恐かろうと、身を投げ出す覚悟はある。

 今がその時だと思っただけ。
 これで、私は親としての役目をまっとうできるというものだ。

 子供を守ってなんぼ。
 それが親のあり方だ。

 タイムリミットは後少し。

 魔力によって、死んでいる状態から一時的に復活しただけに過ぎない。
 私が技を出すたんびに寿命は縮み、やがて再び朽ち果てる。

 それまでにどうにか、この男を倒す必要がある。
 強敵だ。

 恐怖をなしにしてもとんでもなく強いのは伝わってくる。
 私が戦いにここまで時間を費やすのは初めてだからだ。

(だけど、負ける気がしない!)

 近くには子供たちがいる。
 子供の目があるところで、かっこ悪い姿は見せられないでしょ?

 この身、燃え尽きようとも、絶対に戦い抜くわ。

 私は魔力の出力を一段階上げる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

処理中です...