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 目を覚ます。

(ん?私は今までなにを……)

 体の感覚が戻ってくる。
 その感覚を頼りに私は、寝てしまっていたことを察する。

(そっか、お風呂に入ったんだった……)

 でも、それにしても寒い。
 そして、痛い。

 待って?
 腕の辺りめっちゃ痛いんだけど……。

 なにが起きたのか、私は目を開けて確認する。

「あれ?引きずってる?」

 正確にいえば、私が引きずられている?

 なにがどうなってるんだ?

 若干の痛みを感じる右腕を見ると、そこには、

「キュン!」

「あぁ、ユーリか……」

 私が起きたのを確認すると、ユーリは鳴き声を上げて、顔を擦り付けてくる。

「そうか!私、お風呂で寝ちゃったんだ……」

「キュン!」

「あれ?もしかして私って溺れてた?」

 確かお風呂で寝るのは失神することと同義だとかなんとか……。
 いや、それはいいとして、お風呂で寝ちゃったら……。

 その先を想像すると、怖くて寝れなくなりそうなのでやめておく。
 もう寝ちゃったわけだけどね!

「ユーリが助けてくれたってわけか……」

「キュン!」

「ありがとね!ユーリ!」

 マジでうちの子有能だ!

 抱き寄せて、そのままベットに連れて行く。

「!?!?」

「ん?どうしたの?」

 バタバタと暴れるユーリ。
 ペチペチ叩かれてちょっと痛い。

「いった……」

 右腕のあたりを叩かれた。

「キュン!?」

「あ、大丈夫だからね?つい声に出ちゃっただけだから、安心して」

 ユーリは心配性なのでね。

 ユーリの性格といえば、恥ずかしがり屋な心配性。

 あと、基本的に私以外には懐かない。
 その分だけ、私に懐いてくれる。

 だから、今もペロペロと私の腕の傷を舐めてくれている。

 なんで怪我をしているかと聞かれれば、きっとユーリが引っ張るときに腕を噛んだのだろう。

 っていうか、こんなちっさな体でよく私のことを噛んで運べたな!?
 さすがうちの子……。

 だとしても、普通じゃないでしょ。

「あ……ユーリ?もう平気だから」

「キュン?」

「そ、もう平気よ」

「キュン!」

 ユーリってば、大丈夫だとわかったらすぐどっか行ってしまった。
 部屋の中を駆け回って行く。

「……服……着るか……」

 私は服を取ってきて、着る。

「でもなぁ、さっきまで寝ちゃったみたいだし……」

 寝られるか心配である。

「ん?……げ!今真夜中!?」

 私がお風呂に入ったのは部屋に入ってすぐ。
 そして、お風呂に入ったのは、まだ空がオレンジ色だった時のことだったと記憶している。

「もしかして、数時間寝てた?」

 ユーリが引っ張ってこれたのは、数時間の時間をかけたからか……。

 納得がいきつつも、軽く絶望する。

「え?夜の間私はなにをしてればいいのよ?」

 お風呂が気持ち良すぎて寝てしまいましたと。
 そしたら、眠気が取れて目が冴えてしまったと……。

「………ユーリも起きてるみたいだし、私はどっかでかけてみるか……」

 ユーリは一旦置いていこう。
 きっと疲れただろうし、一応ここって敵国になるかもしれない国の帝城……王国でいう王城だからなぁ。

 ユーリが出歩くのと、私が出歩くのでは危険度に差があるってわけだ。

 ただのキツネにはここの探索は荷が重い。


「私がついてきた理由……帝国の偵察、スパイ……」

 しょうがないか。
 ここまできてスパイ活動してきませんでしたとか言ったら、国王に怒られそうだし。

(お風呂に入ったから、あんま男装はしたくない……)

 あれ、髪の毛がべっチャベチャになるから嫌なのだ……。

「というわけで、ベアトリス(女)の復活よ!」

 私は意気揚々と外に出るのだった。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎↓フォーマ視点↓


 どうも、フォーマです。

 することがありません。

 ベアトリスという話し相手と、ユーリという喧嘩相手がいなくなったので。
 二人がいなくなって一ヶ月。

 辛い日々の繰り返し。

 つまらないので、ずっと部屋の隅で体育座りをしています。
 狂信嬢と謳われていた頃は、傀儡を馬鹿にすることが生きがいでした。

 他の幹部たちは狂ってるので、からかうとなにしてくるかわからないので、それが唯一の楽しみでした。

 ここでの生活に不満はそんなにありません。

 話し相手がいないことは置いといて、食料は勝手に盗んでいます。
 人間はお腹が空くのです。

 そのくらいはしょうがないのです。
 たまに掃除にくるメイドにも注意が必要です。

 ミサリーという名前のメイドなんですが、狂ったように『お嬢様お嬢様』と呟いていて怖いです。

 曰く、学院に行っている間、会えない日々が続いたのに、今度は遠征へ出向かれるなんて……、お嬢様が成分が不足する、らしいです。

 なんでベアトリスの周りにも狂っている人がいるのでしょうか……。
 狂信嬢として、私も狂っているとよく言われますが、私は比較的一般人です。

 ぶつぶつと独り言を言いながら、掃除機をかけているメイドよりも……。
 ベアトリスもなかなかに狂ってはいますが……。

 ベアトリスは普通に強いです。
 だから、発想の仕方が頭悪い時もあります。

 力任せな作戦を企てているようで……。

 その作戦を知ったのは、本人から教えてもらったわけではありません。

 見てしまったのです。

 絶対に開けないで、と言われたわけではないですが、メイドが一段だけ開けようとしなかった三段目の引き出し。

 そこを私が開けてみれば、約百枚近くの紙が出てきました。

 家出するらしいです。

 百枚に書かれた内容をまとめるとそういうことです。
 それだけ、内容が薄いのです。

 本人には申し訳ないですが、こんなに書く必要ないと思います。

 それよりも、むしろその後のことを考えたほうがいいと思います。

 一人旅をするって、資金はどうするのか?

 どこへ旅するのか?

 追手がきたらどうするのか?

 旅の目的は何か?

 何歳まで旅をするのか?

 そもそもどのタイミングで家出をするのか?

 家出したとして、それはどんな意味があるのか?

 考えればたくさん浮かんできます。
 資金は家から借りパクするとして、どこに向けて旅をするのかとかよくわかりません。

 家出して、結局なにがしたいのでしょうか?

 私には到底理解できません。

 おっと、メイドがまた掃除に来たようです。
 今日のところは大人しく隠れることにしましょうか。

 では、また。
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