上 下
84 / 504

開戦?

しおりを挟む
「私のライフはもうゼロよ…」

「授業が終わっただけじゃん…」

「それでもつらいものはつらいのよ!」

 べたッと机にへばりつく。

「もう、五歳くらいから授業受けてるでしょ……それでなれると思うんだけど?」

「え?」

「え?」

「私がそんなまじめなわけないじゃん?」

 レイの顔が固まる。

「え、じゃあ何してたの?」

「遊んでた☆」

「なるほど理解したわ」

 あきれたようにため息をつく。

「ちょ、ため息つかないでよ」

「もういいです!早く帰ってお風呂行きますよ!」

 私の手を取り、強引にご帰宅させる。

「私、まじめに授業受けてたのに……」

 そのつぶやきが私に聞こえることはなかった。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「どうして、真面目に授業受けてないのにそんなに強いんですか!私は納得いきません!」

「いや、頑張って鍛えたから……」

「私も鍛えに鍛えまくっています!というか、霊体をずっと使ってるんでベアちゃんと同じくらい魔力を消費してるんです!」

「体も……」

「鍛えてます!」

「でも……」

「とにかく、私はなぜ勝てないんですか!?」

 私に聞かないでくれ!
 私は三歳から鍛えているからじゃね?としか言えない。

 なんでか、鍛えても個人差が生まれるみたい。
 結局世の中差があるのだ。

 私よりも、効率がいい人もいれば、悪い人もいる。
 レイは悪かっただけだろう。

「もうちょっと頑張ってみようよ」

「無理です!そうやって逃げないでください!」

「いや、ちょっと違う話しようよ」

「逃げるなー!」

 話を逸らしたいのに、それを許してくれないレイ。
 逸らしたいのにはちゃんと理由がある。

「声がでかいんだよー!」

 今私たちがどこにいるかというと、お風呂である。

 もちろん、同級生もいれば、下級生……上級生もいるのだ。
 そんな中、白い布巻いて一方的に愚痴ってるのは、かなり目立つ。

「落ち着いてお風呂も入れない……」

「誰のせいだと思ってるんです?」

 レイのせいだ!

 と言えば、場が悪化しそうなので、私は黙って耐えるのだった。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「地獄だった」

「私は清々しいですよ」

 主に愚痴ってたからな!
 レイはさぞ楽しかっただろうな!

「そろそろ帰ろうよ……」

「私もすっきりしたんでいいですよ」

 私への愚痴披露大会は第二ラウンドまで続いた。
 私が風呂場から逃げ、脱衣所で捕まりそこで二回目である。

 それを耐えて、ついに廊下までやってくることが出来た。

「湯冷めしそう……」

「早く帰りましょ」

 清々しいこの笑顔……めっちゃ殴りたい。

 そう考えていた時、

「ん?」

「どうしたんですか?」

「今なんか揺れなかった?」

 そういったとたん、再び地面が揺れる。

「やっぱり……」

「ちょっと、私見てきますね」

「できる?」

「霊体ですから」

 じゃあ、行ってきまーす、と言って、飛び上がるレイ。
 私はレイが確認に行っている間に、制服に着替えてくる。

 少なくとも何がやってきたかはわかる。

「魔物の大群……スタンピードか」

 でも、こんな学院を狙ってやってくるなんて。
 普通ではありえないだろ。

 ありえないことではないが、誰かの陰謀という可能性のほうが高い。
 なぜなら、この世界の魔物は魔力が濃いところに引き付けられる。

 だから、魔道具などが多く集まり、普段から魔力が多く使われている王都などの地域に集まるのだ。

 こんな千人くらいしか人がいない学院に集まるわけがない。

 なので、

「さっさと指導者ぶっ倒すか」

 それで、魔物は統率力をなくし、空中分離する。

 部屋の扉をバタンと開ける。

「どうしたの?」

「いいから。制服に着替えといて、ルーネ!」

「え、いいけど……」

 服を手に取り、部屋を出ていく。

「こういう時の魔法だよね!」

 アポート

 物質転送の魔法。
 これによって物と物の場所を入れ替えることが出来る。

 そそくさと着替えて、寝間着は異納庫にしまう。

 そしてすぐさま転移する。

「あ、なんかやばそうな奴がいたから、みんなに避難勧告出しといて。あとはよろしく、生徒会さん。っじゃ!」

 そうして、速攻で再び転移する。

 なんか知らない人がいたため、ついつい『生徒会さん』と言ってしまった……。
 レイの兄貴よ……すまぬ。 

 そればっかりは急だったので許してくれ……。

 そんなわけで、私はレイが確認しに飛び立った地点まで戻ってくる。

 そこにはすでに、レイが戻ってきていた。

 ただし、ぼろぼろの状態となって。

(霊体が怪我!?)

「大丈夫!?」

「うぐっ……!」

「『上級回復ハイヒール』」

 腕から出血していた様子だったので、迷いなくハイヒールをかける。

 腕の傷がどんどんなくなっていき、血の流れがとまる。少しレイが落ち着いてきたのを見計らい、私は何があったのかを聞いた。

「ありがとう……ベアちゃん」

「そんなことよりなにがあったの!?」

「ちょっと、敵に見つかっちゃって……」

「わかった、レイは部屋で休んでてね」

「わた……私も戦えるよ……!」

 無理をして立ち上がろうとするレイ。
 もちろんのことながら、私はそれを止める。

「病人は大人しく休んでてね。大丈夫、私一人で何とかして見せるから」

 そういった瞬間、

「私も行きます」

 後ろから誰かの声がする。
 ここ最近、注意して聞いていた声だった。

「オリビアさん?」

「やっぱりベアトリスさんは気づいたんですね」

「まあね」

「レイナさんは……負傷ですか」

 心配そうに眉を顰めるオリビアさん。

「うぅ……面目ないです」

「大丈夫ですよ、私たちがいますから」

 仮にも編入組成績トップ二名である。

 それは、上級生を含めた順位である。

 全員編入試験では同じ問題を解くのだ。
 だから、一年生は問題の難易度がすさまじく高いと感じるだろう。

 その中でのトップである。

「それで、オリビアさん。聖女候補だけど、戦えます?」

 聖女というのは、戦闘向きの職業ではない。
 回復に特化した職業であるため、戦場では戦いにおいて役に立つとは思えない。

「ご安心を……敵の倒し方はそれなりに。だからこその首席です」

 ニコッと笑った笑顔に私も安堵する。

 いじめられていたときのあの涙はもうなくなっているのに気づいて。

「じゃあ、行きますか!」

「お供します」

 そうして、二人は夜闇に消えていくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

処理中です...