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決行(とある魔人視点)

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 ベアトリスが、入学してから数週間が経った頃、その近辺の森でとある集団が歩いていた。

 森の中を闊歩する。

 現在、いる森はある人物がいる学院のすぐそばである。
 グラウンドを挟んで奥にある学院に強襲をかける予定のそうだ。

 そのための進軍である。
 周りには自分と一緒に生活をする者たちがいる。

 なんのために学院に強襲を仕掛けるのかはわからない。

 何しろそれしか聞いていないので、我々知恵ある魔物としては、恐怖するしかない。

「嫌だなぁ」

「しょうがないでしょ。私たちは組織に飼われている身なんだから」

 そう。

 自分たち魔物は、ある組織に飼われている。
 その組織での命令には逆らえることはできない。

 だが、その代わりに日々の生活は楽しいものだった。
 楽に生活できる反面、戦うのは地獄である。

 この組織、どうやら一部、かなりの実力者がいるようで……。
 自分たちは、その者たちによって捕まった。

 だからここで飼われている。

 ちなみに、自分の種族は、

「魔人はいいよね。かなり優遇されててさ」

「そんなことない……。嫌われてる方だよ」

 魔人とは、魔族と人族の混血である。

 魔人は嫌われている。

 人族も魔族もお互いのことを嫌っているため、その間の混血はどっちつかずの状態になるのだ。

 魔族からも人族からも嫌われている魔人はどこにいっても居場所がない。

 亜人から仲間扱いされることもなく、文字通りの嫌われ者だ。

 そんな私を拾ってくれたのが、ここの組織の幹部、“狂信嬢“様である。

 行き場がなくなっていた私を救ってくれた。
 居場所を与えてくれた。

 意外なことにも、自分は人間界では魔物扱いされているらしい。
 だから、嫌われていたのだ。

 そして私は仲間を手に入れた。
 今、一緒に喋っていたのは、同じ部署に所属している仲間の“アラクネ“である。

 アラクネはクモの魔物である。
 上半分が人間の姿だが、下半分がクモなため、人間共に馴染めるわけもなく、拾われて、組織で暮らしているのだ。

「次も生きて帰れるかな?」

「そうするしかないでしょ。戦って逃げるのはダメなんだから」

 敵前逃亡は死刑。

 それはここでも同じく適用されている。

 そのため、勝って生き残るしか道はない。

 森はかなり広い。
 その中に隠れ潜んでいるのは、約千頭もの知恵なき魔物。

 そして、部隊長兼特攻部隊として、我々知恵ある魔物がいる。

「もうすぐ森から出るよ」

「了解」

 全員気を引き締める。
 襲撃するは夕方から夜にかけて。

 学院で暮らす人々が最も無防備になる瞬間である。
 そのすきを狙ってこの軍団が突撃する。

 中にはSランクの魔物の姿もある。
 それがどれだけ恐ろしいことか。

 人間のS級と、魔物のSランクはかなり差がある。

 もちろん、S級の人間もすごいのだが、魔物はもっとすごい。

 まず、Sランクパーティと呼ばれる何名かの人間のチームでSランクモンスター一体を倒せるかどうかというレベルである。

 狂信嬢様はもちろんのことながら、余裕で倒せるが、普通の人間ではまず不可能なのだ。

 結局、学院生にはもはや死ぬ以外の選択の権利がないことになる。
 出会ったら最後というわけだ。

 もちろん自分もかなり強いのは間違いない。
 人間におそれられるほどだったから。

 だから今回も生きて帰れる。
 そう信じて遠征に臨む。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎↓×××視点↓


「今日は何匹生きて帰るかな」

「毎回お前はそれを楽しみにしてるよな」

 目の前で不気味に笑う狂信嬢。

「のぞき見が趣味の傀儡には言われたくない」

「趣味じゃねえよ!それになんだよ!あいつもおまえも趣味悪すぎだろ!いたぶるのが大好きだったり、何人生きて帰るか賭けるってさ!」

「あいつ、ですって?」

「あ、いらっしゃってました?」

「ばっちりいたわよ」

 協力者たる少女は横のソファに腰掛ける。

「それで、被害予想は?」

「私は今回全滅だと思うわ」

「それはどうしてだい?」

「ベアトリスがいるもの。全員死ぬでしょ」

「それは困る。私のお気に入りの子もいるのに」

 狂信嬢の顔か笑みが消える。

「お気に入りって、魔人の子かい?」

「ん」

「ベアトリスがいるんだからどうせ死ぬでしょ」

「協力者、今の発言は許せない」

「あ?」

 二人の間で火花が散る。
 文字通りの意味でだ。

「おいおい、喧嘩すんなよ」

 闇と光が交差する。お互いの体から噴き出す覇気のようなものがぶつかり合い、部屋の中を明るく、暗く照らす。

「っち。まあ、いいわ。ベアトリスはどうせ死なないんだし」

 湧き上がっていた闇が止まる。

「いいでしょう。死にそうになったら私が助けるだけ」

 その光も動きを止める。

「それにしても、近距離がお互い苦手なくせして、どうしてそんな素早く動けるのかねぇ?」

 話を変えるために、俺はおどけて見せる。

「苦手と言っても、S級上位には負ける気がしないわ」

「私、死角ないから」

「お前ら理由になってないぞ?」

 今回の戦いで組織の運営に支障が出るかもしれないというのに、こいつらはのんきでうらやましい。

「お前は戦場にでるのか?」

 白装束がこちらを見る。
 一歩後ろに下がって、壁に背中をつけてから俺の質問に答えた。

「出る」

「でもお前、僧侶だろうが。なんで出るんだよ?」

 僧侶は光を操る回復特化の職業である。
 そんな奴が戦場に出ても死ぬことしか想像できない。

 指揮する知恵ある魔物たちもいることだし、出ないほうがいいのは明らかである。

「お気に入りが死ぬのは嫌だ」

「お前が死んだらこっちにも迷惑かかることを考えとけよな?」

 やっぱこいつらは自分のお気に入りのことしか頭にないな。
 だから脳筋なのだ。

「んじゃまあ、私も戦場に出るとしますかね」

「お前がか?」

 ソファに座る少女はつまらなさそうにつぶやく。

「どうせ、ここで見てるだけはつまんないし。だったら私も戦闘に参加したいじゃん」

「じゃあ、依り代の準備しとく?」

「よろしくー」

「くれぐれも依り代を死なせるなよ。俺が苦労を掛けて捕獲した人形だからな」

 こいつが直接動いて戦いに参加すれば、学院も魔物の軍勢もすべてが塵と化してしまう。

 だからこその依り代。
 力を制限するための。

「ちょうど、時々入って体を慣らしていたのよね」

「は!?お前なんか変なことしてないよな!?」

「うーん、ちょっといたずらしただけだよ。だけど、本人の意思は完全に奪いきれてないわね。この間なんて私に向かって魔法を打ってきたのよ?」

 体の中に同時に意識が存在する。
 それは、かなり危険な状態であるのは言うまでもない。

 そしてその人形は、体に侵入した意識、つまりは少女を追い払うため、自らの体に向かって魔法を放ったということ。

 その依り代の精神力の強さがうかがえる。

「そんな精神が強い依り代は珍しいんだから、あんま壊さないでくれよ?」

「わかってるわよ」

 この少女のことだ。
 何をしでかすわからない。

「作戦決行は?」

「明日の夜」

「じゃ、私も準備してくるわ」

 そう言って二人が転移していく。

「まって?もしかして、魔物の配置は俺に丸投げ?」

 めんどくさいことから二人して逃げやがった!

「っち。めんどくせーな」

 そう愚痴を吐きながら、俺は魔物たちが暮らす施設にまで足を運んでいくのだった。
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