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家に帰る

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「旦那様!お嬢様が帰られました!」

 その声と同時に私は父様の部屋のドアを開ける。
 あの後、案外近かったのですぐに帰ってくることができた。

「ただいま!」

「お、おかえ……り?」

 なぜ疑問系なんだ?
 そして、その瞬間父様が立ち上がり、私に抱きついてくる。

「え?とうさま?」

「………なんでもないぞベア。それよりも怪我はないか?」

「うん!へいき!」

 手を離した父様が机に戻る。

「ならいいさ。誘拐されたと護衛の者から聞いたんだが、違ったのか?」

「うん?ゆうかいされたよ?」

「……………まじ?」

「うん!」

 頭を抱えて、何かを呟く父様。

「それで、ベアはどうやって帰ってきたのかな?」

「えっとね!ゆうかいはんたちをね!けんでたおしてきた!」

「け、剣でございますか?」

 話を聞いていたミサリーがものすごく驚いた表情でこちらを凝視してくる。

「う、うん。そうだけど?」

 すると、ミサリーが父様のほうに駆け寄って何かを話している。

(おい!ベアが得意なのは魔法じゃなかったのか!)

(いえ!魔法のはずです!この目で見た!絶対見た!それに、なんですか!?剣で倒したって、いったい何があったんですか!?)

(私が知るわけなかろう!一番仲が良いお前が聞け!)

(いやですよ!お嬢様と踏み込んだ話をしたら嫌われるかもしれないじゃないですか!)

(とりあえず、この話は一旦置いておこう。どうにか話を逸らすんだ!)

(了解です!)

 もちろんこの会話はベアトリスの耳に入ることはなかった。

「そ、それで!お嬢様。街はどうでしたか?」

「たのしかったよ!」

「そうですか!今度は私・と一緒に行きましょうね!」

「うん!」

 そこで話を一旦途切れる。

(え?何この空気?)

「おっほん!」とわざとらしく咳をした父様が話をつなげる。

「そういえば、ベアももうすぐ四歳だったな」

「うん」

「お前のためを思ってなんだが………五歳から習う授業を前倒しにしておいたのだ。どうだ?嫌だったら、別に良いのだが………」

「いいよ!」

「そうか、そうか!」

 安堵したように父様が椅子にもたれかかる。

(これはチャンスじゃん!授業を受けるのはわかっていたことだから、復習はバッチリしてあるんだヨ!それに、授業をさっさと終わらせちゃえば、鍛錬の時間が伸びるぞ!)

 これから起こりうる未来を知っている身からしては、鍛えておかなければ、生き残れないのだ。

 私・と・は・関・係・な・く・て・も・、それは起こるのだから。
 まあ、気長にやろうかな。

 まだまだ、時間はある。
 と言っても、殿下との初の顔合わせは私の五歳の誕生日だから、もうすぐなわけだけど……。

(それまでに、殿下との婚約破棄の練習でもしておこうかな!)

 殿下だってそっちの方が幸せだろうから、早めにしてあげないとね!
 私の心の声は誰にも届くことなく、会話は続く。


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「お嬢様~?何をなされているんですか~?」

「べんきょう!」

「あの、お嬢様にはまだ早いのでは?」

 ミサリーが困って様子で、私を見てくる。

「へいきだもん!」

「あ、お嬢様は勉強熱心なんですね~。あはは~」

 苦笑いとも、作り笑いとも思えるその笑い方をするミサリー。

「あ!私用事を思い出してしまいました~!では、ごゆっくり~!」

 スライドしていくがごとく、扉が開き、部屋から出ていく。

(とりあえず、私の誘拐した奴らの大元を調べあげないとね)

 私は勉強しているとは言っても、それは四歳から授業が始める前の予習ではない。

(周辺地理と、我が領内の犯罪組織のピックアップ………それに、新たな特産品も作れそうね)

 私を誘拐して犯人たちにはきっちりと罪を償ってもらわんとね……ふふふ。
 街の様子を思い出し、私はそれを書き出していく。

(領民に様子からして、平和なのはわかるけど、確かスラム街があったような?)

 そうすると、領民内でも格差があるということ。

(そんなことあってはならないわ!)

 クッソめんどくさい貴族社会のようなものが領民内でもあるというのは非常に嘆かわしい。

 単純に差別化が進むのは良くないのと、あんなただ面倒なだけの格差を作って何が楽しいのかという思いから、私はそう感じた。

(とりあえずは、スラム街の人たちの人数を確認してっと……。あとは、街の内部の警備兵も増やした方がよさそうね……。警備兵の配置も変えましょう)

 思い出すのは誘拐された時のこと。

(警備がざるすぎる!こんなんじゃまた誘拐されてまうわ!)

 ということで、人数の割り振りをし直す。

(よし、これでバランスはいいかな?領内に弓兵はいらないから、外壁の警護に回してっと……)

 あとはこれを父様に見せて、承認してもらうだけだな!

「つかれた~」

 足をバタバタさせながら、天井を仰ぐ。

「これで、りょうないのちあんもよくなるはず!」

 公爵家が治める領内において、犯罪などこの私が許さない!

(っと、終わったからには、訓練の続きをしなくては)

 私は魔力の放出を始めて、本を読む。

(対接近戦相手への対処法ー魔術師編)

 その本を手に取る。
 スキンヘッドとの戦いで、反省すべき点はたくさんあった。

 魔法を使う事になったのは単純に私が弱かっただろう。
 故に勉強するのだ。

(えっと?後退しながらの強化魔法をかけ、防御を固める。それと同時に、弱体化魔法を敵にかけた後に、前に出る。並の剣士だった場合はそれに驚き、一瞬動きが止まるだろうから、そこから反撃をーー)


 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 このように書いてあるが、そもそもこんな風には魔術師は動けない。
 あり得ないのである。

 彼女はまだ知らない、自分の読んでいる本が他人の体験談であることを……。

 《著者:大賢者マレスティーナ》


 ♦︎♢♦︎♢♦︎


「とうさま!どうでしょうか!」

 元気よく、私の娘が……ベアが資料を渡してくる。
 それは、街を統治に関しての改善案のようなものだった。

(ベア…………なんて、すごい子なんだ………)

 この子天才じゃん!
 なんで、こんなことを三歳児が熟知しているわけ!?

 それになんなの?
 スラム街に住む人数をどうして把握しているの!?

 どうやって調べたの!?
 私だって、そりゃあ調べようとしたさ!

 だけど、人の通りは少ないにしても、危険な場所に兵を送り込むことはできないし、自分自身は忙しいし………。

(それに、犯罪組織のピックアップは………)

 ベアはきっと私に迷惑をかけたくないのだろう。
 そうとしか考えられない!

 自分が誘拐されたことで、私に迷惑がかかったと考えているのだろう。
 だからこんなものを作ってきたのか…。

 決してそんなことはないのだが………。
 だからこそ、自分の身のためにも街の住人のためにも、して欲しいということだと私は感じた。

(これは………私に潰して欲しいと言っているのかな?)

 街の治安のためにもやった方がいいのは確かなのだ。

「ありがとうベア。ありがたく使わせてもらうよ」

「ありがとうございます!」

 敬語を使っているのは形上だろうか?
 それはいいとして、私は部屋を出ていくベアを見ながら思った。

(この犯罪組織……我が領内にもいたとは)

 犯罪組織の名前が書かれている場所には、私が把握していない組織の名前があった。

 これをいったいどうやって調べたかはわからないが、うちの娘になら簡単にできてしまうのだろう。

(反則だな……はは)

 乾いた笑い声をあげて、私はすぐに準備に取り掛かる。

(犯罪組織の構成員の情報まで書き出されているとは………人材の流入先までか……末恐ろしいな)

 傭兵から雇われていることが確かな証拠と一緒に見て取れた。

(犯罪組織も面白いことを考えるな)

 傭兵や冒険者などの表向きの組織を逆に使うとは……。
 見落としていたよ。

「さあ、これから仕事が増えるだろうな……おい!衛兵!」

 外で待機している兵を呼び、命令を下していくのだった。
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