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二章 あいつの存在が災厄

Ωは素晴らしく具合が良いぞ? 伍

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 ──あの後綱から同情され、結果なぜか仲良くなった。

 一つには茨木との繋がりも欲しいみたいだけれど、綱は僕が朱天に嫁いだことが幼過ぎることなどをとても心配していた。
 それから何度も僕と朱天が愛し合っているのかということの確認をしてきた。

 姉によると本来の【青】の者は、こういった性質のものであるはずなのに、いつの間にか歪んでいったらしい。
 善に傾き過ぎているのが危なく思えるほど、気持ちのいいやつ綱。
 そんな彼から人族のことを直接教えてもらうことになった。

「綱、お前が嫌でなければまた話したい。それで色んなことを教えてほしい」
「あー…お前の旦那サマが少しばかり怖い顔をされているんですがね?」
「…男であるのだけが気に入らぬだけだ」

 (こいつホントにお義父様にそっくりだ)

「だが、この小僧はメスだから構わぬ」
「イヤイヤ旦那サマ、おれは一応男の子なんですがね?」

 ツッコミを入れるくらいに、何度も朱天に『メス』と言われ続けている綱。
 そんな彼を本当・・にメスにしてはいけないので、

「おい、コラ朱天!するなよ!絶対にするなよ!!絶対にダメだからな!!!」

 と朱天には念押しを何度もして約束させた。

 (あの呟きがあるからかなり不安だが…)

 彼は男を抱くとかそういう対象には絶対にしないからと、しきりに朱天に訴えていた。

 (…『抱かれる』が入ってないあたり、鬼のオスに飼われてるのはホントみたいだ)

「おれは本当は女の子の柔らかいのが良いんだよ!男を抱くなんて無理無理無理無理!!」
「Ωはみな具合が良い。αも壊れぬから良いぞ?
残念ながら俺はまだ抱かれたことはないが、みな悦び気を失する」

 こんな感じで朱天はまた公衆の場で卑猥な事を言った。
 卑猥物こと朱天には姉と共にお仕置きをした。
 駄目にしてしまった着物の事も義母から大変叱られていたし、こいつは本当に常識がない。

「パートナーにも依りますよ旦那サマ。それぞれに好みの房事や体の相性があります」

 こんな返しをする綱は物凄い貞操の危機をあの時感じていたと後に語ってくれた。
 そしてそのことで『光』におしおきをされたと妙に嬉しそうに話してくれた。

 …うちの旦那が本当にすみません。

 (でもお前も大概だよね?)

 そんな遣り取りがあり、僕に生まれて初めての友人が出来た。
 ……朱天の被害者仲間のような気もしないでもないが。

「そうだ、百合。これやるわ」

 そう言って懐から出して手渡されたのは、油紙に包まれた青い薔薇の飴細工だった。

「お前…これどうしたの?」
「さっきそこで買った。
光の弟さんたちがお前と同じくらいの歳でこういうのが好きなんだ。
鬼は甘いものが好きだろ?」
「僕は好きだけど、みんながみんなそうじゃない。…でも、良いのか?」
「良いって。旦那サマは『青薔薇』なんだろ?
それはなんか綺麗だし、気になって余分に買ったもんだから気にすんな。
お近づきの印ってやつだ」

 そう言ってまたニカッと笑った。

 どうやらこの市で売っていたものらしい。
 朱天の起こした爆殺により、店もヒトも殆どがいなくなってしまったが…
 
「ありがとう。嬉しいよ大事にする!」
「いや…溶けるし、早く食えよ?」


 こんな事がほんの三月ほど前にあった。
 彼に会うのはまた暫くはお預けであるが、姉などを介して手紙の遣り取りなどをしている。


 ◇◇◇


 ───そして…

 僕らにはもうすぐ子どもが産まれるらしい。

「今朝おしるしも出たし、もうすぐ産まれるらしいんだけれど…」
「しるしが出るとすぐにか?」
「三、四日や七日先とかもあるらしい」
「かように暴れ大きいのにか?」
「出来れば【名付けの儀】に間に合って欲しい」
「あまり急かしてはならぬ。この時も慈しめば良い」
「そうだな…」

 産み月になり、睦み合うのは禁止にされた。
 このことは朱天も僕も…苦しかった。

 こいつのでっかいやつとここのところ仲良くしていない…
 こいつに可愛がってもらっていない。

『若も百合様もこれぐらい辛抱なさいませ!』と茨木にも怒られたがこいつも僕もとても辛かった。
 物凄く欲求不満になっている。
 僕がこんなになったのは絶対にこいつのせいだ。
『俺好みのエロいお姫様』になってきている。

「ここのところ付き合えなくて悪いな…何なら後宮に行っても良かったんだぞ」
「構わぬ。子が産まれ落ち着いたらで良い。
それにお前が好まぬことはしたくない」

 相変わらず整いすぎた顔を、にこにこさせて笑っている。
 だが、少しばかり婀娜っぽい笑みでもある。

 うん、これはヤバい。
 ヤリ殺されるかもしれない未来に冷や汗が出てきた。

「その時は存分に俺の愛を与え、お姫様を堪能しよう…」

 掴んでいた僕の髪に口づけをして僕を見ているが、どこか情慾の混じった視線がとても怖い。

 (でっかいやつは恋しいけれど、やっぱり…助けて姉様!)

 人族と違って産んだらそんなに期間を空けず、そういうことが出来るようになるにしても、
 こいつと付き合うのはもう少し回復してからにして欲しい。
 出逢ってすぐにしたみたいな、寝食を忘れて十日とかはだめだからな!

 姉や耳長たちが一番心配していた出産への不安は、いつの間にか解消されていた。
 朱天が溢れんばかりの愛を注いでくれているのもあるが、初めてのことに戸惑い毎日を慌ただしく過ごしていたら、いつの間にか今日だった。

 あ…

「あら?なんか、産まれるみたいな感じ?」

 股ぐらから温いものが流れ、急に鋭いのと鈍い痛みがお腹を襲う。

「然様か」

 お前は本当に動じないな。
 だけどそういうところは本当に心強い。
 姉や義母曰く、ここからが長いらしいから頑張らなきゃいけない。

「医師を呼んでくる」
「うん、頼む…」

【域】を解除して朱天は部屋から出て行く。

 一定の感覚で来る痛みの波が辛い。

 鬼は痛みなど肉体的に強いけれど、これはキツい…
 茨木に叱られたくらいデカい子が出てくるし、僕はまだ小さいからかなり辛いだろう。
 朱天と僕の子だからきっと凄い美人だろうし、滅茶苦茶力も強い子だろう。

 どんな色の魂を持った子だろう?
 僕に似た紫?それともあいつに似た朱かな?

 うん、こういったことを考えて、やり過ごそう
 それにしても…


 ほ ん と う に い た い … 姉 様 も お 義 母 様 も ほ ん と う に す ご い ……


 ◇◇◇


 私の初めての子はそれはそれは大きかった。
 産んだ子の中でも一番だった。
 夫が大柄だったのと、百合の両親も大きかったので仕方ないが、お腹で大きく育てすぎた。

《どれくらい?》

 10kgは余裕で超えていたよ。
 でも、鬼は筋肉や骨の密度が高く人間よりも体重は重いから、そこまでではないかと……

《は?》《え?》《へ?》《エッ?》

 でもこの時は物凄く叱られたんだ。
 妊娠糖尿病じゃないかと疑われたし…

《当たり前だろ!》
《これに関しては誰も擁護出来ないわよ!》

 (なんか綱と茨木を思い出すな二人ともめちゃくちゃ厳しかったから…)

 気をつけていたが、次の子らも大きかったうえに双子で死ぬ思いをしたが、出産後の多幸感は凄かったな。

《シュテンは、本当にモンスター………》

 絶句するよな?

 あいつはそのへんのこと関する価値観に関しては完全に壊れていたからな。
 その当時の異常な欲求に困り、メスでもオスでもどんなものでも、解消できたら良いと思っていたと話された。
 しょんぼりしてかわいらしく『すまぬ』とか言うから許したが、やっぱりないよな?

《そういう時に許してしまうのはわかる》
《あるある》

 私が番になってからそれが私だけに集中したからそれはそれで大変だったか、絶対に貞操は守ってくれていた。
 そこは本当に嬉しかったな。

 今回の話は酷かったが、この先の今日する話の最後になるが、あいつの愛の凄さに私は感動したんだからな。


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