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二章 あいつの存在が災厄

お前たちは会話が少なすぎる。 弐

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 怒り狂った姉をなんとか宥め、僕は悩んでいたことの相談をした。

「なるほど…お前は言いたいことを口に出して、ちゃんとアイツと話をしなさい」

 考え込む時の癖の腕を組み顎に手をやりながら話す姉。

「お前はテレパシーや予知などで解してしまう耳長のコミュニケーションに慣れすぎている。
それは良くない。」

「…うん」

 姉の言葉が耳に痛い僕は思わず俯いてしまう。
 そして姉に僕を悩ませていることで弱音を吐いてしまう。

「…よく、わかってる。だからここのみんなと…うまく行ってない……」

  実家の【青】だけでなく、この皇宮でも僕があまりよく思われていない『耳長びいき』や『耳長かぶれ』と言われる所以。
 生まれた時より慣れているそれを今から改めるのはなかなか難しい。

「アイツと魂の繋がりもあるから、どうしても伝えたいことをテレパシーで話す。
なんてことも多いだろう?」
「うん…良くないけどしちゃうね」
「あれが、奴らには気持ち悪いらしいんだ。自分たちも使えるくせにな?」

 僕を優しく諭す姉。
 彼女は昔からこんな感じで、お説教の時も何が悪くいけないことかを説明して分からせた。

「まぁ…私もヒルメに叱ったんだが…」
「え?!」

 耳長族の長は二つ名を持つ【神子】の一人だ。
 義母の遠い昔別れた双子の姉であり、「血を飲むもの」の女のαたちの長だった者。
 その名を緋女ヒルメ様という。 

 ───因みに義母は赫夜ガグヤ様だ。
 義父については…また機会があればな。

 義姉は他にも沢山の【名】をお持ちの方だから、どの名で呼べば良いのか分からず、姉に聞いたらこの真名を教えられた。

 耳長の始祖様の真名を呼ぶなんて僕はそんな畏れ多いことは出来ないので、断ったが…

 (姉様、なんてこと勧めるんだよ!
 そんなの普通は無理でしょ!!)

 直接お会いしたことはないが、先日姉の水鏡の魔術でお話をした。
 結婚の言祝ぎを頂いたうえに腹帯を織って贈ってくださると言われ、感激して思わず『お義姉様』と呼んだら大変喜ばれた。

 そんな義姉は耳長の【神子】の一人だ。
 予知や過去視、神託、交信などの力を持ち、信仰されるような存在でもある。
 鬼の長である義父母みたいなものだけれど、耳長には多数の神子が存在する。

 実は僕もそうだったりする。
 (母と同じで至ってないから、厳密には巫子だけど)

「あれは私が話さなくても勝手に心を読み取り、解する。それも全ての事がそれだ。
流石に耳長でもそれはいけないだろ?」
「お義姉様が?!」

 心や記憶を読み取られそれで話をされ、さらには己の未来を知る存在を他種族は嫌っていて、交流したがらない。

 僕や姉などには慣れたものだが、鬼は嫌がる。
 (姉が言ったように耳長でもやりすぎは嫌がられる)

 大昔は耳長と鬼にしかαとΩがいなかったのに、今では『運命』の番も色んな種族から見つかる。
 僕の生まれた十二年ほど前から鬼は彼らと絶縁しているが、今のところは問題ないらしい。

 元々僕ら姉弟は生まれや育ちでほぼ耳長みたいなもんだし、今すぐあちらの国に行っても習慣も言葉も分かるしすぐに馴染めるだろう。
【青】には僕の半年違いの異母弟もいるし、母の最期の事もある。
 あの子は血筋や自身の力などで資格の問題はあるが、まだ僕より相応しい【青】の魂を持つ。
 姉や乳母たちはもしものことを考えて、僕を鬼ではなく耳長みたいに育てたのかもしれない。

 それがこんなところで軋轢を生むなんて思わなかった。

 姉はさらに僕に助言する。

「おまえ達は会話が少なすぎる。
お前も嫌なことや我慢してることが色々とあるだろう?それをアイツにちゃんと伝えるんだ。
アイツは色々と鈍感だけど、嘘をつかない。
それに優しいやつだ」

「…うん」

 姉の言うようにあいつは凄く優しい。
 だから色々と不満をぶつけにくかった。

「それから皇宮の鬼ども…皆に身重のうえに幼いお前の努力もわかってもらわないとね」
「姉様…うぅ…う、うっうぅぅぅうっ……」

 涙がぽろぽろと出てきて止まらない。
 これまで【青】でも似たような事ををされていた。
 今までなら耐えれたような事も、身籠った今は本当に辛くて…Ωの涙脆さが嫌になる。

 姉は幼い頃のように僕を抱きしめて、優しく背中をぽんぽんと叩いて落ち着かせてくれる。

「はいはい、泣きたいだけ泣きなさい。
それにしても…周りはお前のおかげでアイツが落ち着いたから、お前に対しての期待も要求も高すぎる!」
「仕方ないよ、あいつは皇子様だし…次の皇様だし……」
「鬼の奴らは母上のことがあったのに懲りずにアホをしてくれる。
…やはりここは一つ私から叱りつけないといけない!」

 姉はとんでもないことを言い出した。
 思わず涙も引っ込んだ。 

「ふぇ?!姉様!戦争はダメ!絶対ッ!!」

 再び危ない事を言い出した姉を必死に止めようとするが…

「何を生ぬるいことを言っているんだいリリィ?」
「いけません!だめです!それはアカン!!」

 必死に必死に止めようとするが………

「良いかい?これはお前の姉である耳長の女王フレイヤと、耳長の姫である神子の【慈悲ᛖᛁᚱ(エイル)】、お前のことを侮辱されているんだよ?
元耳長たちも黙っていられないと、彼らもかなりキテ・・る」

 …聞いてくれそうにない。

 とりあえず、あの怖い義父を引き合いに出して止めてみるが、

「みんなが怖くないの?お義父様は…皇様はめっちゃ怖かったよ!
それに姉様は今は【角なし】なんだよ!!」
「リリィ忘れてないかい?
今の私はもうアケではない。
耳長・・の長のひとりフレイヤだ」

 これも聞いてくれない。

 姉が義父の逆鱗に触れて始末されてはいけない。
 僕の為にそんなことになっては義姉などに申し訳ないと思うのだが、姉の目は煌々と輝いている。

 危険な事をしようとしているのに、なぜそんなにも生き生きとしているんだろうか?

 美しい顔をどこか危険な表情にして笑う姉。

 姉は以前から自分と僕の持つ耳長の力を鬼族の中では隠していた。
 僕にも『時期が来るまでダメ!』と言って止められていた。

 指差し呪いガンドも父くらいにしかしなかったし、幼い頃に厳しく躾けられてからはしていないが、僕がそれを使えることは知られている。
 秘印ルーンは耳長ならタリスマンにして、ピアスなどのアクセサリーで身につけていてもおかしくないので、これも特に隠していない。

 だから隠していたのはᛋᛖᛁᛞᚱセイズと呼ばれる魔術の力で、僕が神子のひとりエイルであること。

「耳長たちの本当・・の主である私には、鬼のα共はもちろん皇だって怖くなんかない。耳長の怖さを、本当の力を、奴らは知らないからね…ふふふふふ」
「姉様、怖い。」
「可愛いリリィ、お前は体調も悪いのだからゆっくり休んでいなさい。ふふふふふ……」

 姉は不穏なことを言い残して去っていった。

 僕は姉の言うように大変調子が悪く横になり寝ていたが、このあと姉が彼らに何をしたのかは良くわからない。


 
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