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二章 あいつの存在が災厄

俺の望み。俺の理想だ。 壱

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 鬼の子を身籠ると、物凄く腹が減るんだ。
 特に強い力を持つ子を妊娠するとそれはもう酷いものなんだ。

《あー、リリィがバカみたいに食べて、シュテンが飢餓状態だったとかいうやつか》
《兄弟殺して食ったとかいう凄い話の時のあれか》
《やっぱりそのへんはモンスターとしか言いようがないな》

 うん、そうなんだよ。

 元々、あいつはとんでもない大食いで、あいつの子がお腹にいることや、あいつの番にされ、力が日に日に強くなっていっている百合は本当に辛かった……

 しかもお腹の子はアルファの…義父由来の『肉を喰らうもの』の血が濃くて、百合が食さない筈のそれを摂らないといけなかった。
 マリー今の私になってからランディ息子を身籠った時はそんなことが無く、逆の意味で涙を流したくらいだが、あの頃の百合は常にお腹が空き、肉を食べていないと気持ちが悪くて仕方がなかった。

《人によって違うものね。私はそれまで嫌いだったものが食べたくなったわ》
《私はなにも食べれなかった方ね》

 もうバカスカあいつを食べて、持ってきたクソ不味かった肉とかも食べて、それでもお腹が空いて空いて…食べ悪阻の酷いやつだな。
 もう、気分とかは最悪なのに色々と学ぶことも多くて、本当にストレスが溜まっていた。

《うんうん》
《旦那を殴りたくなるわね》
《アンタが産めって言いたいときがあったわ》

 それに子供には父親の精が必要だから…まぁ、そういう事もそれまで以上にしていた。

 どう考えてもあの年齢であれはなかったし、百合はそれはもう清らかな姫君として、姉などからそんなふうに育てられていたから、余計にね。

《そういう禁欲的なとこがいいんだよなぁ…》
《エルフって言えばそうだよな!》
《リリィのお姫様育ちってそういうこと?》

 そうだね。鬼のお姫様育ちではなかったね。

 まぁ…そこまでならまだなんとか我慢できたんだが…

《雲行きが怪しくなってきたな…》
《まだあるのか?!》

 百合はなんというか…嫁ぎ先の皇宮の者たちにあんまり良く思われてなくてね。
 元々、母親がエルフの国から乞われて【青】の家を立て直すためにわざわざ来たのに、とある事件を起こされそれが原因で亡くなってしまった。
 そのせいでエルフの国とも国交断絶したから、一族にはよく思わない者がいた。

 そのおかげで後ろ盾も何もない孤立無援状態だ。

《おかしいわね、リリィの実家は四大貴族の一つなんでしょ?》

 没落寸前というのと、百合には異母弟がいてその子を推す勢力もあったんだ。
 他の四家の次代の者とあの子は仲が良かったから、それを望む者がいてもおかしくない。

 それにエルフ嫌いが多かったんだよねぇ…あの頃は。
 性的に淡白だから『潔癖』。歳を経た者が多くて『高慢』。予知や読心能力なんかで色々知ってるから『尊大』なんて言われてたし。

《…………………………》

 そのうえ百合が表にあまり出なかったことや、育ちの特異さで「気取った耳長かぶれの姫君」って……イビられたね。
 体調が悪いのにそんなんされてマジになかったねぇ………

 あー、思い出したら腹が立ってきた!!

《は?何よそれ!レイプして妊娠させて、強引に結婚に持ち込んだのはそっちでしょうが!!》
《リリィはとっととそんなところから逃げるべきでしょ!シェルターみたいなのは無いのかしら?》
《家族も全然役に立たないどころか敵みたいなのよね…?》

 夫の用意してくれた、元エルフの使用人が気をかけてくれたから、まだマシだったけど…それも原因でまた「お妃様は耳長びいき」………ふざけんなッ!

 ん?

《ボソボソ…女性陣の顔が怖い…なんか話を変えよう》
《あー…ワインにうるさいのに生国フランスでなく、アメリカこの国のやつの方が好きなんだ?》

 私は美味しければどちらでも構わない。
 まぁ…酒に関してだけは味覚もまともなのかもしれないね。

 何しろあいつは【酒呑童子シュテンドウジ】とも言われていたからね。
 その妻の私ならさもありなん。


 
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