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一章 降って湧いた災難

俺の俺だけのお姫様… 参 *

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「うっ!あぁ…ぁぁああああああああ!!」
 (痛い!痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたい…………!!)

 心臓のあたりから激痛がして、思わず中にいるこいつのソレを締めてしまう。

 (凄く痛くて苦しい………)

 (でも、お前は特別だ)

 まだ暫くは飲んでいる朱点をギュッと抱きしめ、今度は僕が頭を撫でてその痛みに耐える。

 僕はもう、こいつのことを放っておけない。
 離れたくないとそう思った。

 (このぬくもりを離したくない)

 あんなにもやもやして、イライラしていた彼らへの嫉妬の気持ちもなぜか萎んでしまった。

 僕を貪りながらも更に注挿を繰り返すこいつに翻弄されるが、まだ暫くは耐える。

 どんどん飲まれ、体から力が…命が抜けていく。
 痛みが薄らいで妙な浮遊感も出てきた。

「しゅ…てん、そろそ…ろ代、われ…」 

 僕を貪る朱い鬼に声をかける。

「…すまぬ」

 短く僕に一言謝る朱点。

 僕の【華】から牙を抜き、その痕をペロペロと舐めて癒やす。
 金と銀の色違いの目はずっと僕を見ている。

 (始祖様たちから継がれたこいつのこの眼も好きだ)

「百合、これはいかんな美味過ぎる。
俺が死ぬことなどはまずないが、お前も気をつけろ」

 そう言って僕に注意した。

「お前と違って、僕は行為中に相手を殺したりはしません!」

 心外なので抗議するが、

「俺とてしたいわけではない」
「ゴメン…」

 傷ついているかのようなこいつの物言いに思わず謝る。

「でも、お前なら危なくなれば僕の意識を落として、自分で防げるだろ?」
「……………──だ」

 何か小さく話したが、珍しく気まずい顔をして目を反らした。

 (こいつがこんな表情するのは珍しいな?)

 かと思うと、いきなり僕の唇に口づけをしてきた。

「ん、んンーーーーッ!!」

 そして、息が苦しくなるまで吸い上げられる。
 中に舌まで入れてきて、口内を蹂躙しながら同時に僕の奥にある、子を宿し育てる部屋の戸も撫でている。

 (おかしい。いつもならそこにまで入れる勢いで来るのに)

 強引な行為よりも、何となく誤魔化されたことの方が気になる。

 こいつが 発情ラットするのは初めてだし、僕らは喋るよりも体で語り合う事ばかりだが、勢いのある今なら色々と聞きたいことも聞けるかもしれない。

 口づけに奪われた呼吸により息が苦しくなり、バシバシとこいつの胸を叩き止めさせる。

「ぶっ!…はぁ…はぁはぁ…、お、前…なぁっ!代われって言ったのに何してんだよッ!!」

「俺のお姫様が物凄く愛い故ついな、許せ」
「そう!それだよ、なんで初めて会った時から、僕のことを「俺のお姫様」って呼ぶワケ?」

 これもずっと気になっていたことだ。

 (「お姫様」呼びは本当になんでなんだろう?)

 確かに自分はそのように育てられているし、母の元従者の耳長の小間使いや乳母などからそう言われていた。

 だがこいつから言われる意味がわからない。

【青】に居た他の者からは「百合様」と呼ばれていた。

 (僕が他を知らないだけなんだろうか?)

「昔から母上に俺の『運命』の伴侶はΩで、俺の俺だけのお姫様だから、優しく大事に大事にして可愛がれと、俺を惜しみなく与え、仲良く暮らせと言われてきた」

そこまで話すと本当に愛しそうに僕を見つめてこんなこと言った。

「言われたとおりに百合はΩで俺の俺だけのお姫様だった」

 こいつにしては珍しく長く喋ったが、返ってきた良くわからない言葉に戸惑う。

 (后陛下は【予知】などの力がある方だから、そんな事をこいつに告げていたのか?)

 こんな話をしている間も、僕の中を蹂躙するソレは、いつもより熱く逞しい。

 思ってたが、こいつのマザコンは過ぎる気がする。
 こんな幼い自分よりも子供みたいなところをなんだか可愛く思えてしまう。

 (イヤイヤイヤイヤ!)

 全然優しく無い抱き方なのに、心は何故か暖かくなってきた。

 (何をヤバいこと考えているんだ僕は!!)

 このままずっと抱かれていたいと思う気持ちもあるが…
 
 (こんな関係なんてずっと続くわけなんかない…)

 僕の他にもこいつには愛人の茨木に、後宮には大量の女やΩメスαオスも囲っている。
スメラギ】の角を与えられたが、僕は【青】の跡取りだ。

 異母弟はいるが 、あの子は母親が最下層の鬼で、血が薄過ぎその資格はない。

 (それにあの子は父様に似て心が弱すぎ、その役目に耐えれないだろう)

 僕の背には【青】のみんなの未来がかかっている。
 無責任なことは出来ない。

 度重なる不祥事で、【青】の薄まった皇の血と力を戻す為だけに生まれてきた、僕の選べる未来さきはその一つしかない。

 例え、今のように【青】の中で疎まれていたとしても、異母弟の方が好まれていても、それに相応しいものが僕以外には存在しない。

 こいつに捨てられる事もあり得るし、注意されたように、ヘタしたら他のやつみたいに喰われるかもしれない。
 実際に今までに抱かれて喰い殺されたやつは沢山いる。

 でも今はこいつとこうしてるのが、悪くないどころかとても良い。

 考えれば考えるほど自覚する自分の気持ち。
 まだそれを認めるのは怖い………

 僕にとって『運命』の絆も番も恋に愛もみんな信じられないものだ。
 どれも必要ないと思い、諦めていた。

『運命はお前の手で選び、掴み取るものだよ』

 不意に姉の言葉を思い出して、与えられた額の秘印ルーンが熱くなった気がした。 

 (悩んでもきりがない)

 今も熱くギラギラとした欲に満ちた目で僕を慾るこいつに声をかける。

「…朱点、代われ。お前のを貰う」

 そう言うと僕に覆いかぶさっていた朱点を反対に押し倒した。

 最近はこいつの従者たちなどから、妙に耳長の姫君扱いをされ過ぎて、自分でも忘れていたが、僕も鬼だ。

 こいつの番にされ【華】を与えられた。
 以来、大幅な肉体の強化がされ、力も強くなった。
 体も頑丈で傷なんかもすぐに癒える様になり、こんなことも出来る様になった。

 朱点の心臓の【青薔薇】にそっと口づけをした。

 こいつから薫る僕だけにしかわからない香りに酔いしれる。
 自分を縛り付ける色々なものを、しがらみ全てを、何もかもを忘れてしまいたい。


 ただ、今はこいつに溺れたい。


「構わぬ。来い」


 その言葉を合図にして、美しく咲いているそれをペロリと舐めてから噛み、血を吸い上げていく。

「ぐっ!ぁ…あ!!」

 (こいつでも痛いとかあるんだ)

 こいつの痛覚や諸々の感覚はぶっ飛びすぎておかしい。
 それでも流石に鬼族僕らの急所はキツいみたいで、さっきので果てたようだった。

 そんな事を思っていると、朱点は僕の尻を掴み後孔に雄を宛てがい、一気に奥まで突き入れてきた。

 (………もう回復していつもみたいになってる。お前、元気だね…)

 こいつの血を何度も何度も飲んでいるが、今の行為で得られる味は加減を忘れそうになるほどの美味だ。
 それに言われていた、恐ろしいまでの快感の予兆も来ている。

 自分から誘っておいてあれだが危険を感じる。

 ある程度貰うと牙を抜き、丁寧に痕を舐めてから最後にまた口づけをして離れた。

「ほら、朱点……ここからは色々と忘れて睦み合おう」
「俺のお姫様、お前は本当に愛い。もっとお前を可愛がらせてくれ…」
「この『【青】の美姫』を与えてやるんだから満足させろよ」
「無論だ。お前の期待に応えよう」

 そこからはまた朱点の下になり、責めてくるソレを締めつつ自分も善いところを擦る様に動く。
 いつの間にかこいつの背に爪を立て、縋りつき、発情期並に恥ずかしい状態になっていった。

 この後も僕らはずっと睦み合っていたが、あの様な事が起こったのに騒ぎにもならず、誰も様子を見に来ることも無かった。

 昼前からはじまったそれは日が暮れ、灯りなどが必要になり、それを灯すくらいの時間になっても続いた。

 いつまで続けたのかは憶えていないが、疲れ果てた僕が寝入ってしまうまで、朱点は僕を慾り続けた。


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