40 / 131
一章 降って湧いた災難
朱と四色の従者 四
しおりを挟む最後に黄の名を持つ、金が話しだした。
「耳長の姫君のようにお育ちになられたらしい百合様は、気性の荒い鬼のαは苦手かと思うと、この皇宮での暮らしにも慣れぬだろうと、そう若も気を揉まれていらっしゃいましたよね?」
「そのとおりだ」
こいつはこいつらの中で仲裁役をしている、一番温厚な性格のやつだ。
俺のことも一番に世話を焼いたのはこいつだった。
「【魂喰い】以外の食事については熊に任せたが、お前にはあれの従者候補の選定と身の回りの物などを頼んでおいたな。
百合の部屋はまだ出来ぬのか?」
「まず、従者候補は孫の番の蒲公英に頼み、彼の国から【四家】に来た元耳長の者に集まってもらいました。
百合様は一通り彼らと顔を合わされた筈ですが、お気に召されましたか?」
「他の鬼よりは懐いておるようだ」
百合のことも細かく気にかけ、百合の生まれ育ちが俺たち鬼とは異質な耳長寄りであることなどを俺に指摘し、事細かく皆に指示していた。
それを見て『昔、俺の拾ってきたあの扱いの難しい珍獣のようなやつだ』と思わず言ってしまい、こいつから『若!百合様には絶対にそれを言ってはなりません!!』と厳しく叱られた。
俺のお姫様は自分で着替えすら出来ぬ相当な姫育ちだ。
そんなΩは俺の母と母の世代くらい旧き者なら分かるが『肉を喰らうもの』と『血を飲むもの』の血が相当に混じり、漸く鬼として成り立った今の世代ではほぼ見ない。
あれの父は番が俺の母並みに旧き者であるから分かるが、フレイヤのやつは本当に何を考えているんだろうか?
(深窓のΩにしてもあまりにも何も知らぬし出来きぬ故、驚いたぞ?)
「お部屋につきましては、家具などを彼の国に依頼しております。
【青】でのお部屋を少しばかり覗いてまいりましたが、耳長の国から抜け出してきたのか?というようなお部屋でしたよ。
それがお好みかはわかりませんが、若のお望みは『慣れ親しんだ環境のものをより素晴らしく』
……おかげで私も何度も彼の国に跳んで往復しております……」
やはり金も遠い目をしている。
「まぁ…熊のやつよりかは体は楽ですが、従者候補の元耳長の者たちとなかなか話が合わずそれがツラいですね!
他種族に『異星人並みに話が合わない』と呼ばれるだけはあります。若様………」
「……なんだ?」
こいつからも百合に関する苦言を言われるらしい。
「百合様で本当によろしいんですか?
よくない噂もあの方の弟君などの周りで聞いておりますし……爺も心配です」
「何度も言うがあれはそのようなものではない。明日にでも場を設け、お前たちと会わせよう」
「ですがね若様、我らも陛下方より貴方様を任されておりますし、それに命を捧げ眷属となった身。
若様を心配するからこその我ら爺たちの言葉をお聞き入れくださいませ」
結局こいつからもこのあと愚痴を延々と聞かされる羽目になり、その間俺は別のことを考えやり過ごすことにした。
(誰ぞ悪意のあるものが噂でも撒いておるのか?)
今はそれを考えてもわからぬ。
とりあえずその事を調べるのは後にする。
(これもフレイヤに聞くしかないか…)
従者たちからの報告を聞いた俺は、やつら俺の爺たちのようにお姫様ともこのように話せるようになりたい。
百合は流石は旧き者の流れを汲む純血の鬼だけはあり、あの歳ではかなり強い。
フレイヤに高度な教育を施され鍛えられているが、それでもこいつらには遠く及ばない。
歳を経ているうえに【四色の御子】として生まれ強い魂を持つ、こいつら四色の従者は、このように俺ともある程度の【禁】に関する会話が出来る。
それに今のように【域】に居るのも苦ではない。
ふと周りを見回す。
日にちや時間の感覚などが失われる、空っぽの世界。
俺の世界は空虚で、そこに長く居れば気が狂う。
亜神の領域である【域】は俺の精神だ。
何もなく空っぽ。
未だ成熟しない俺を反映している。
(百合を噛んで番に出来たが、俺はまだどちらかわからぬ。
あれと体を重ね続ければ、そのうちにαに傾いて行くかとは思うが…)
その力に反して俺の従者は力の強い者、この四童子と茨木しかおらぬ。
心の弱いΩなどは気を病んでしまうかもしれぬ。
百合には発情期の時に過ごさせたが、常ならば耐えられるかなど、まだ分からぬ。
(俺のお姫様が狂うなど、そんなもの見たくはない…)
1
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
悪魔の子と呼ばれ家を追い出されたけど、平民になった先で公爵に溺愛される
ゆう
BL
実の母レイシーの死からレヴナントの暮らしは一変した。継母からは悪魔の子と呼ばれ、周りからは優秀な異母弟と比べられる日々。多少やさぐれながらも自分にできることを頑張るレヴナント。しかし弟が嫡男に決まり自分は家を追い出されることになり...
【R18】番解消された傷物Ωの愛し方【完結】
海林檎
BL
強姦により無理やりうなじを噛まれ番にされたにもかかわらず勝手に解消されたΩは地獄の苦しみを一生味わうようになる。
誰かと番になる事はできず、フェロモンを出す事も叶わず、発情期も一人で過ごさなければならない。
唯一、番になれるのは運命の番となるαのみだが、見つけられる確率なんてゼロに近い。
それでもその夢物語を信じる者は多いだろう。
そうでなければ
「死んだ方がマシだ····」
そんな事を考えながら歩いていたら突然ある男に話しかけられ····
「これを運命って思ってもいいんじゃない?」
そんな都合のいい事があっていいのだろうかと、少年は男の言葉を素直に受け入れられないでいた。
※すみません長さ的に短編ではなく中編です
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
僕は貴方の為に消えたいと願いながらも…
夢見 歩
BL
僕は運命の番に気付いて貰えない。
僕は運命の番と夫婦なのに…
手を伸ばせば届く距離にいるのに…
僕の運命の番は
僕ではないオメガと不倫を続けている。
僕はこれ以上君に嫌われたくなくて
不倫に対して理解のある妻を演じる。
僕の心は随分と前から血を流し続けて
そろそろ限界を迎えそうだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
傾向|嫌われからの愛され(溺愛予定)
━━━━━━━━━━━━━━━
夢見 歩の初のBL執筆作品です。
不憫受けをどうしても書きたくなって
衝動的に書き始めました。
途中で修正などが入る可能性が高いので
完璧な物語を読まれたい方には
あまりオススメできません。
「俺の子を孕め。」とアルファ令息に強制的に妊娠させられ、番にならされました。
天災
BL
「俺の子を孕め」
そう言われて、ご主人様のダニエル・ラーン(α)は執事の僕、アンドレ・ブール(Ω)を強制的に妊娠させ、二人は番となる。
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる