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一章 降って湧いた災難
朱と四色の従者 弐
しおりを挟むその様な事を思案していれば、他の従者たちも次々と俺に報告をする。
「百合様はお菓子がお好きみたいですから、色々と京の市で手に入れてまいりました」
【緑】の熊が話しだす。
こいつは緑の名を持ち、温厚そうに見えて実は切れやすい。
星熊の次に厄介なやつだ。
「言われていた【黄】から来たものよりも、母君のご出身のアルフヘイムの物の方がお好きみたいですよ?
多分、彼の国と【青】の家は絶縁状態ですから、欲しくても手に入らないんでしょう。
一先ずは厨の者に材料となるものを渡し、用意するように命じておきました」
確かに百合は菓子が好きで良く食べる。
それは美味そうに幸せそうに食べるので、見ているこちらが楽しくなる。
「あれが大層喜んでいた。
厨の元耳長からは『視た』と聞いている故、やつらの望むものを仕入れてやれ」
「畏まりました」
熊は俺の返事に満足できないのか、まだこちらを見ているので「如何した?」と尋ねてやる。
疲れた顔をした熊は
「若、愚痴って宜しいですか?」
などと言う。
俺もやつに一番の無理をさせたのは承知しており、仕方がないから「許す」と言ってそれを促す。
「はぁ…あの方はなかなかに偏食が激しく大変耳長寄りというかそのものですね!そんな味覚をされてます!食材の調達がそれはもう大変でした!彼の国に何度も跳んで行き来してお願いしたことか!嫁に言わせると大人になって菜食主義になる前の耳長のお子様舌だそうです!うちの子もΩでしたけどそんなことはありませんでしたしなんで鬼の子がそんなんなんでしょうね?ありえませんよ!!牛酪や酥を使った高級なお菓子に乳腐や醍醐まで好まれます!氷菓も毎日召し上がられていたそうで元耳長の腕利きの魔術師が見つからなければ氷室まで作る羽目になりましたよ!楂古聿については諦めてくださいとお伝えください!これに関してはお手上げです!百合様にどうやって手に入れていたのか聞きたいくらいですよ!それから若様!これで最後になりますが聞いてびっくりしましたけど百合様はあのお年で飲酒癖があるそうですよ!!耳長では許容されているみたいで姉君もご存知でお止めしないみたいですがこれは止めさせないといけませんよ!流石に!!特に今はお体とか色々とよろしくありませんから!!!」
色々と苦労したのか一気にまくし立てられるが、まだ収まらないらしい。
飲酒癖は初耳だが、その様に徹底した耳長育ちならありえる。
耳長は生きる為に命の蜜酒を摂らなくてはならず、それの依存症や中毒の奴らが腐るほどいる。
(あれの姉のフレイヤも酒好きだ)
「偏食のことは承知している。俺は別に構わぬ故、気にするな。
だが、酒だけは止めさせるよう周りにも徹底させよう」
「うちの嫁も亜神耳長ではありませんが元耳長でしたので今のアルフヘイムと絶縁されている鬼族特に【青】では手に入らないものが入手できましたが!少々我儘が過ぎますよ!藍青殿は甘やかしすぎでしょう!!【青】の厨房を預かっている者は大変ですね!!!」
そこまで言うと今度は急に口調が柔らかくなった。
「甘やかし過ぎはいけませんよ?若」
咎めるような目をして俺に苦言を呈する熊。
だが、俺はその様に好きなもの味わえるのなら、それを奪いたくない。
それを食べたお姫様が喜ぶ様を見ていたい。
「俺にはわからぬそれをあれを見て楽しみたい。許せ」
「………若様」
「それにお前にも覚えがあるだろう?」
「まぁ…待雪も大概でしたね」
こいつの番は元耳長だ。
神子でも巫子でもない一般の耳長だが、それでも価値観や色々なものが違いすぎて苦労したと聞いている。
お姫様の偏食に関しては、前に一番肥えて美味そうな鯉を食べさせた際に
『僕は魚を好まない。臭い!』
と一蹴したり、
好みだろうと耳長料理を用意させたが『僕は野菜も嫌いだ!!』とまた拒否したことで理解した。
(あいつは少し…いや、かなり酷いの偏食のきらいがある)
肉や魂を与えたら口直しに菓子ばかり喰う。
(俺と共に【魂喰い】をせねばならんのに難儀なやつだ)
「まぁ…【青】のおかげで里帰りもままならないと、元耳長達はかなり立腹しておりましたから、耳長の長の弟君である百合様が、若に輿入れされるのは良いことです!」
「だと良いが。元耳長の里帰りに関しては、頃合い見てあれの姉のフレイヤと伯母上に掛け合ってみよう」
「是非とも宜しくお願い申し上げます」
そう言うとこいつは一礼してから微笑んだ。
百合のこともあるが、こいつは自分の番の為にも尽力したんだろう。
あれは知らぬが、次期【青】の当主となるはずの鬼での地位よりも、耳長のでの位のほうが高い。
それも鬼族での俺並みに高い位の二つ名をフレイヤはあれに授けたらしい。
それはもうえらく自慢げに『うちのリリィは凄いんだよ!』などと言っておったな。
耳長の二つ名は禁呪となる魔術を識る者に与える故、あいつはあの歳で既に何かを極めているはずだ。
(あの浮世離れしたお姫様が、一体どんな力を持っているか見当がつかぬ)
それ故、元耳長たちはあいつを敬い傾倒し、「おひい様」と呼んで世話を焼きたがる。
従者として付けるならば元耳長が良いかと思い元耳長たちに声をかけた。
するとこちらが驚くほどの数の志願者が来た故、厳選したが、最終的に決まった者はどれも元【四家】の当主の番だ。
寧ろそいつらを選ぶことで、それを諦めさせなければならぬほど集まった。
(本当にフレイヤは何を考えてあれをそのように育てた?)
従者候補として集めたのは良いが、狭量と言われようがお姫様と魂の繋がりを持つ者が、俺以外に出来るのを今はまだ許せぬ。
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