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084 アラドからの依頼

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 国王派の貴族を呼び出し、奴隷の首輪を嵌め始めるとあっという間に首輪の在庫が無くなってしまった。
 エイメン宰相に命じて、王都内の奴隷商から首輪を集めさせたがいきなりの事で十個も集まらなかった。

 そんな時、トルソンの領主ラリエラ伯爵宛の書状を持たせ送り出した教会関係者から、派遣大使一行のトルソン到着を知らせてきた。
 直ぐに〔派遣大使一行は、王都ボルドのウルブァ神教教会本部に行き、教皇と面会せよ〕と記した書状を、サランに持たせて送り出す。

 サランが帰って来るまでに王城だけは完全制圧しておきたいので、国王に命じてメリザンをエイメン宰相の補佐官に任命させた。
 王都防衛軍司令官の座にいたメリザンの後釜には、メリザンの腹心の者を据え幹部達も国王派は全て排除させた。
 その後、王国軍総監以下幹部と各師団長も国王に心酔する者や利益を得ている者を、次々と左遷したり解任していった。

 事此処に至って、王城内で異変が起きていると貴族達の間に激震が走ったが、王都に居る主要人物はほぼ奴隷の首輪を嵌められた者になっていたので、表だって騒ぎ出す者は殆どいなかった。
 唯、少数の者が騒ぎ出したが大した権力も行動力も無い者達なので、奴隷の首輪を嵌められた有力貴族から恫喝されて静まりかえった。

 ・・・・・・

 国王の執務室では、国王が地方に在住する国王派の貴族達に王城への呼出状をせっせと書き、秘書席に座るメリザンがチェックして問題なくば即座に発送されていく。
 その中に一通、変わった内容の書状が有ったが誰も疑問に思う事も無く届けられる事になった。

 その合間を縫って、王家に連なる3公爵家当主を隠居や病気を理由に温厚な者と入れ替えていった。
 入れ替えられた当主や後継者達は、国王派で油断がならないと目された者は、屋敷の一角に幽閉し近衛騎士団員と王都防衛軍兵士に見張られ、家族とは一切の接触を断たれていた。
 そうやって力を削いだ後、奴隷の首輪は回収され次の犠牲者の首に鎮座する事になる。

 彼等と代わって当主になった者や代理として仕事を引き継いだ者達は、国王陛下に目通りした際、幽閉した者は何れ身分と家族関係を断ち切り領地より追放せよと命じられた。
 然も冒険者登録をさせ、冒険者としての衣服を与えて貴族としての繋がりを示す物は何一つ持たせるなと、キツく言い渡された。
 然もなくば、貴族の地位を剥奪するとの念の入れように、如何なる抜け道も許さないとの強い意志が伺え、反論する者は一人もいなかった。

 ・・・・・・

 サランが帰ってきたが、持ち帰った奴隷の首輪は10個少々だが主要人物の排除はほぼ終わっているので何とかなるだろう。
 報告では、派遣大使とその随員としてやって来た者達を、王都ボルドに在るウルブァ神教本部へ行くように伝えたこと。
 教会本部で教皇達と会う手筈を記した書状を手渡したので、其方に向かっていると報告した。

 彼等には、教皇達から統括教主や教主の身分が与えられ、パンタナル王国各地に散って行き改革が滞りなく行われているのか監視して貰う事になる。
 なれない教主の服装は大変だろうが、教会と貴族の監視任務を上手くやるだろう。

 監視体制が整う前にメリザンを呼び、王国で抱え込んでいる魔法使いの解放を命じる。
 概要は教皇達に命じた事と同じ、王国も貴族も以後魔法使い達を勝手気儘に使役する事が出来なくなるが、相応の給金を払えば雇えると教えてやる。
 現にホーランド王国では、教会も王国もそうやって魔法使いを雇っていると教えておく。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 フランガの街に王都からの早馬が到着し、クアバ・サントス男爵の元に書状が届けられた。
 差出人はエイメン宰相、緊張して書状を読む男爵の顔が段々と引き攣っていく。

 曰く、フランガの冒険者ギルドに所属する〔夜明けの風〕なる冒険者パーティーに別送の包みと書状を渡せとある。
 然も、彼等は依頼を承諾すれば行政監察官となる身故、くれぐれも無礼のないようにとの指示までついている。
 指示書の内容は、夜明けの風パーティーを男爵邸に招きリーダーのザンドに書状を渡し、依頼を了承すれば包みを渡すようにとの細かい手筈まで決められている。

 依頼を承諾すれば行政監察官になるの文言に、急ぎ冒険者ギルドに赴きギルドマスターに面会を求める。

 「男爵殿、夜明けの風の連中なら今夜にでも戻って来ると思いますが、お急ぎですか」

 「戻り次第、我が屋敷にお越し願いたい。その際、アラド殿よりの書状と依頼要請がきていると伝えてもらいたい」

 そう伝えて帰って行くサントス男爵を見送りながら、何か奇妙な事が起きているとギルマスは思った。
 冒険者のパーティーを呼び付けるのに『お越し願いたい』とは有り得ない台詞だからだ。
 男爵と言えども、貴族が冒険者パーティーに対して使う言葉ではない。

 興味津々で夜明けの風の帰りを待ち、受付の男に連れられてギルマスの執務室にやって来たザンド達一行に、男爵の言葉を伝える。

 「えーっと・・・アラド殿からの書状と依頼って言ったのですか?」

 「ああ、然も男爵殿はお前達に『お越し願いたい』とよ。アラドって誰だ?」

 其れを聞かれても困る。
 皆と顔を見合わせて首を捻るが決められず、話は判ったと言って礼を言い食堂で相談するべく執務室を出る。
 エールを片手に、食堂の片隅で顔をつきあわせての相談だ。

 〈アラドって、彼の事よね〉
 〈森を突き抜けて帰ったと思っていたんだけどなぁ・・・〉
 〈男爵様が『お越し下さいって』其れこそ有り得ないんだけど〉
 〈書状と依頼って言ってるのなら、読むだけ読んでから決めれば良いんじゃねえか〉
 〈でもなぁ、森の一件がバレたのかも〉
 〈それならアラド殿なんて、殿を付けて呼ばないぜ〉
 〈私は行ってみても良いと思うな。私達を助けてくれたし、無事に街に戻るまで面倒をみて貰った恩もあるからね〉
 〈それに、敵対している筈の貴族様を通して、書状と依頼ってのが興味あるな〉

 話が決まり、翌日全員でサントス男爵邸に出向いた。

 ・・・・・・

 サントス男爵の執務室に案内され、跪こうとして止められた。

 「ああ、良いよい。其れよりリーダーは誰だ」

 「夜明けの風リーダーのザンドと申します。アラドからの書状と伺っておりますが?」

 「此だが、別室にて全員で読み、依頼を受けるかどうかの返事をしてくれ」

 そう言って一通の書状を差し出した。

 何時もなら横柄な態度の筈が素っ気ないながらも親切な申し出に、寒気を覚えながら別室に案内され書状を開く。
 表書きも裏書きも無い書状の封を切ると、アラドとサランの名が記されている。

 内容は極めて簡素で、王都ボルドに来て欲しい事と、来てくれるのなら旅の全ての保証と一人50万ダーラを前払いする事が書かれていた。
 追伸として、仕事内容はパンタナル王国全土の旅だと書かれていて、冒険者ギルドの身分証とは別に王国の身分証も与えるとなっている。

 〈どうする?〉
 〈受けても良いと思うよ〉
 〈だな、男爵様の態度をみれば、アラドの依頼は面白いと思うよ〉
 〈王国内を旅する仕事か〉
 〈私も受けても良いと思うわ。あの二人は信頼出来るから〉
 〈大きな声じゃ言えないが、手玉に取った男爵様を通じて連絡を取ってくる所なんて、並みじゃないよな〉

 ・・・・・・

 「男爵様、アラドからの依頼を受けようと思います」

 ザンドがそう返事をすると、小さな包みを渡され開封する様に促される。
 出てきたのは七つのお財布ポーチとカードの束に二通の書状で、それぞれにザンドとサントス男爵の名が記されている。
 一通をサントス男爵に渡し、ザンドがもう一通を開くとお財布ポーチの使用者登録の方法とそれぞれに銀貨50枚が入っている事が書かれている。
 7枚のカードに登録すれば、王国の行政監察官としての身分が与えられるとなっていて仰天したが、男爵に促されて血を一滴垂らして登録した。

 「身分証登録により、貴方方七人には王国の行政監察官としての身分が与えられました。明日早朝王都に向けて旅立って頂きますので、今日は屋敷にお泊まり下さい」

 そう言って執事を呼び、ザンド達の部屋を用意する様に命じている。

 「あの~ぉ・・・男爵様、王都に旅立つって用意も・・・」

 「我が家の馬車と護衛を用意致しますので、何の心配もありません」

 「ですが・・・費用なども・・・」

 「宰相閣下より預かっておりますので、ご心配には及びません」

 何か全て段取りが出来ている様で口を挟む隙がない。
 諦めて言われるままに部屋に案内されて事が動き出した。

 ・・・・・・

 〈何か不思議よねぇ、貴族様の馬車に乗って全ての街は素通り同然だし、立派な宿の手配も出来ているし〉
 〈アラドとサランって何者なんだろうね〉
 〈ホーランド王国から来たって言ってたのに、どうなってやがる〉
 〈だけど、この身分証は本物だな〉
 〈ああ、何度か責任者が出てきて呪文を唱えていたが〉
 〈あれって不思議だよなぁ~〉
 〈それより飽きたぜ。毎日毎日馬車の中で座っているだけってのが、こんなに大変だとは思わなかったな〉
 〈王国中を旅するのも馬車かしら〉
 〈楽して良い稼ぎは出来ないって事らしいな〉

 フランガから王都ボルドまで早馬でも13日は要する距離だ、ほぼ一月半を掛けて漸く馬車は王都ボルドに到着した。
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