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001 神様のエラー
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創造神ウルブァ様に祈りを捧げる少女は、淡い光に包まれる。
魔法を授かったことが判った少女は頬を上気させ、神父様の示す聖刻盤に手を乗せる。
「ミリュンダ、風魔法と雷撃魔法を授かり魔力は70じゃな、ウルブァ様に感謝して精進せよ」
「創造神ウルブァ様に、心よりの感謝を捧げます。神父様、有り難う御座います」
満面の笑みでウルブァ神像の前から下がる少女を、両親が暖かく迎える。
次は俺の番だ。
「アラド、ウルブァ様に祈りを」
神父様の声に深く頷き、ウルブァ神像の前に跪くと、指を組み合わせて祈る。
(ウルブァ様、健康で安心安全な生活が送れる魔法をお授け下さい)と真摯に祈る。
頭の中を閃光が溢れ、魔法を授かった者が経験すると言われる、暖かな光に包まれた感覚を受け嬉しかった。
〈こいつも魔法を授かったのか〉
〈俺も授かるかなぁ〉
顔がにやけるのを抑え、神父様に促されて聖刻盤に手を乗せる。
・・・神父様が目を細めて聖刻盤を見つめる。
「アラド、もう一度聖刻盤に手を置き直せ」
さっきまでの柔らかな声がウソのような真剣な声で言われる。
意味が良く判らないが、言われたとおり一度手を離し再び聖刻盤に手を置く。
神父様は目をこすり、聖刻盤を睨んでいるが暫し考えてからミリュンダ呼び戻し、聖刻盤に手を置かせる。
教会内が騒がしくなってきたが、神父様は意にも介さず真剣な顔で聖刻盤を睨んでいた。
その表情が柔らかくなり、ミリュンダを親の元に帰すと俺に再度聖刻盤に手を置くように促し、聖刻盤を見ながら苦笑する。
「アラド、可哀想だがエラーだな」
この言葉に教会内が爆笑に包まれる。
エラー ・・・何だよそれ!
神父様の説明が続く、極たまに起きる現象で魔法を授かった証の祝福の光に包まれるが、聖刻盤に何も現れない現象の事だそうだ。
「アラド、此れは神様の悪戯と呼ばれる現象で、日頃の信心の結果現れるものだから、此れからは日々ウルブァ様に心からの祈りを捧げなさい」
馬鹿か! 俺はお前より遥かに神様の存在を信じてるぞ!
腹立ち紛れに神父様を睨み、軽く頭を下げて親の元に戻る。
両親は苦い顔で俺を睨んでいて、親愛の情の欠片すら見え無い。
六人兄弟で末っ子四男の穀潰し、魔法さえ授かればそれなりに稼げるが、それすら望めないとなれば無理もないか。
俺の家は、ホルムの街サラザン通りに建つホテル兼食堂〔サラザンホテル〕曾祖父が冒険者家業で小銭を貯め、引退時に全財産をはたいて買った築100年以上の古強者。
修理はしているのだがそれなりで、二段ベッドの部屋が一泊銅貨三枚、二人で泊まれば銅貨五枚の少しましなホテル。
二段ベッドの部屋が10室、二段ベッド二つの四人部屋が4室に銅貨二枚で泊まれる屋根裏部屋が6室在る、ギリギリ中堅ホテルの仲間入り。
一階の食堂兼酒場が稼ぎの主役だ。
銅貨一枚が日本円の1,000円程度と思ってよいので、一泊3,000円は貧しい冒険者にはお高い宿になる。
鉄貨二枚で、あんパンより少し大きく堅いぼそぼそのパンが一つ買える事から、鉄貨一枚が100円換算だろうと考えて間違いないはず。
鉄貨100円、銅貨1,000円、銀貨10,000円、金貨100,000円とミスリル金貨と呼ばれる1,000,000円の通貨も有ると聞くが、庶民には縁の無い話だ。
因みに単位はダーラ、通常は銅貨鉄貨の枚数で表示される。
俺はアラド・・・7才前後からアラドの意識に見知らぬ記憶がポツポツと浮かび上がり、最終的にアラドの意識と混ざり合い、日本人香坂実の意識を持つに至る。
始めの頃は夢で見知らぬ世界を見たのだが、夢を鮮明に覚えていて兄弟に質問しまくった。
お陰で俺は、頭が少々可笑しい子のレッテルを貼られてしまった。
馬と馬車が交通手段、中世ヨーロッパ風で剣と魔法の世界の住人に、四角い箱が途轍もない早さで走るとか、板きれに人の姿や景色が映り声が聞こえると言えばそりゃね。
9才も過ぎる頃には自分が転生者だろうと思った。
アニメやラノベの知識を得て、現在自分の置かれている状況を理解したからである。
香坂実の知識を持つ事は不幸であったが、同時に前世の知識を活かせば人並み以上の生活は保障されると思われた。
しかし7~9才の頃の質問攻めと、突拍子もない話の為に俺が成人したら家を放り出される事が確定していた。
家に残る唯一の手段は有益な魔法を授かること、鑑定や空間収納治癒魔法といった金を稼げる魔法を授かればだ。
攻撃魔法など授かっても、冒険者か領主様の警備隊か領主軍に入るしか利用価値は無い。
土魔法使いなら土木建築関係、氷結魔法なら精々氷を作って商売出来る程度だ。
それなのに俺は神様のエラーだと言われてしまった。
確かに頭の中で光が溢れた、魔法を授かった証拠は有るのに聖刻盤には何も示されなかった。
神父様だって俺の身体が光に包まれたのを見たから、聖刻盤に手を乗せるように指示したはずだ。
俺の前に魔法を授かった少女は、魔法名と魔力70と示されたのに俺には反応しなかった。
絶対に何かある、反応しないからくりがある筈だ。
因果応報じゃないけれど、原因と結果、神様のエラーと呼ばれる結果が出ているのに原因が判らない。
魔法を授かった現象があって、神様のエラーはおかしい、何か原因があるはずだ。
それを見つけられなければ、長年の苦労が水の泡だ。
アラドと香坂実の意識が混ざり合う混乱期が終わる9才の終わりに、生活魔法が発現した。
アニメやラノベの知識を持つ俺が、真っ先にやった事は魔力溜りを探ること。
毎日ベッドの中で、精神統一の後ヘソの奥、所謂丹田を求めて意識を集中する。
しかし、昼間は家の仕事で扱き使われヘトヘトなので、ベッドで横になったら長く意識を保てるはずもなく寝落ちの日々を送った。
それでも三月も経った頃、ヘソの奥に何かもやもやしたものを見つけた。
見つけた魔力溜りを、捏ねたりつねったり伸ばしたり・・・霞のような魔力で、そんな事が出来るか! と放棄するのに時間を要さなかった。
魔力操作が不可能なら、生活魔法を使い倒してやろうじゃないかとウォーターにフレイム、ライトを徹底利用。
の筈が、これ又薪割りに薪運び、室内の掃除にと追い回されていては使う頻度が殆どない。
唯一使用頻度を上げられたのがクリーンだ、ちょっと汗を流してはクリーン、トイレに入ってはクリーンと一日数十回使ったが捗々しくない。
そうこうして6年、授けの日を迎えたのに此の体たらく。
日々悶々としていたが、ふと思いつきベッドの中で魔力溜りを探ってみた。
生活魔法を発現した時に散々探り、魔力操作の練習までしようとした場所だから簡単に見つけた。
霞の如く淡い存在だった魔力溜りに、濃厚な魔力の存在を感じるではないか、魔力が有る!
魔力が有るって事は、あの時魔法を授かっていたのだ。
しかしあの時神父様が話した、神様のエラーは魔法も魔力も授かってなく、過去誰も魔法が使えた者はいないから諦めろと言った。
湧き上がった喜びは、一瞬で失望の海に沈む。
待てまてマテ!・・・前世の法事で糞坊主の説教に輪廻転生の話があった、現に俺は前世香坂実の意識を蘇らせ、創造神様の存在を信じている。
ならば信じろ! 何か訳が有る筈だ、俺は魔法を授かった感覚があり、神父様も確認しようとした。
16才の成人になれば家を放り出されるのは確定、兄弟で姉二人と長兄に次男はホテルの仕事があるので家に置いて貰えたが、三男は商店の見習いに行けと言われて家から出された。
俺は頭の可笑しい奴と思われていて、他家に出す訳にはいかず冒険者になれと言われている。
8才の頃から、家の手伝いも裏仕事で客前には出させて貰えなかったので、お情けは期待できない。
家を出るまで残り10ヶ月、知りたければ情報収集から始めねばならないのは、此の世界も同じだろう。
創造神ウルブァ様が授ける魔法は、風・水・火・土の四大魔法に氷結魔法・雷劇魔法・防御結界魔法・金になる治癒魔法と空間収納に鑑定魔法が広く知られている。
他に世間一般に知られていない魔法も有る筈だが、先ず風・水・火・土を試してみたが、魔法の発現方法が判らない。
ラノベの知識から詠唱も考え唱えて見たが、顔から火がでただけで変化無し、なら魔法はイメージだ! の名言に従ったがこれもアウト。
昼間の試行錯誤と、就寝前の魔力操作に明け暮れるが進展はなし。
一度、魔法は腕から魔力を送り出して発現させるものじゃなかったかと思い、試して大失敗、危うく魔力切れで倒れるところだった。
成人まで残り半年となり、ベッドの上で日課の魔力操作の練習前に、浮かべたライトの明かりを弄びながら授かった魔法は何かと考えていた。
掌を見つめていると、頭の中に〔アラド・男・15才〕と意識に流れ込んできた。
「誰?」
見回しても誰もいない、隣のベッドは三男エドガの物で2年前から空だ。
今のは何? 誰の声・・・掌をみていただけで声が聞こえたのは間違いない、頭がいかれてなければだが。
もう一度手を見つめるが声は聞こえない、(俺って何なんだろうな?)そう思った時〔アラド・男・15才〕
間違いない、頭に響く声は俺の疑問に答えている。
隣のベッドを見つめ、此れは何? 〔ベッド〕
テーブルの上を見て此れはなに? 〔水差し〕〔カップ〕〔ブーツ〕
間違いない、鑑定魔法だ!
室内を見回しても何も無い。
当然だ、穀潰しに無駄な金を使わないのは此の家の方針だ。
エドガも、何れ家を出て行く奴に買い与える余裕がないと言われ、最低限の物しか与えられなかった。
頭が可笑しいと思われている俺はそれ以下の存在で、身の回りの全てが廃棄寸前のお下がりで、食事はちぎったり歯形の付いたパンにスープには雑多なものが放り込まれている、明らかに客の食い残しの残飯だった。
家族と食事を共にしたのは、8才くらいまでだったし。
扱いは仕事をするワンコといったところかな、雨露をしのげて食い物がある事が救いだった。
此れは家族にも誰にも教えられない。これ以上家族や他人に利用されるのは真っ平だ。
翌日から目にする全てを此れは何? と疑問符を付けて見ることにした。
〔草〕〔草・食用〕〔木・薪〕〔マレーネ・女・水魔法・魔力30〕ん、年は幾つだ。
俺の時は年が判ったがどうして、考えるまでも無かった、姉さんとしか認識してなかったから年を知らない。
しかし姉さんを鑑定して、魔法や魔力まで判るって事は俺自身を鑑定すれば、もっと判る事があるはずだと気づいた。
その夜、ベッドの中で深呼吸をして気を静め、手を見つめ(此れは何?)
〔アラド・男・15才・鑑定魔法・・・〕
魔法を授かったことが判った少女は頬を上気させ、神父様の示す聖刻盤に手を乗せる。
「ミリュンダ、風魔法と雷撃魔法を授かり魔力は70じゃな、ウルブァ様に感謝して精進せよ」
「創造神ウルブァ様に、心よりの感謝を捧げます。神父様、有り難う御座います」
満面の笑みでウルブァ神像の前から下がる少女を、両親が暖かく迎える。
次は俺の番だ。
「アラド、ウルブァ様に祈りを」
神父様の声に深く頷き、ウルブァ神像の前に跪くと、指を組み合わせて祈る。
(ウルブァ様、健康で安心安全な生活が送れる魔法をお授け下さい)と真摯に祈る。
頭の中を閃光が溢れ、魔法を授かった者が経験すると言われる、暖かな光に包まれた感覚を受け嬉しかった。
〈こいつも魔法を授かったのか〉
〈俺も授かるかなぁ〉
顔がにやけるのを抑え、神父様に促されて聖刻盤に手を乗せる。
・・・神父様が目を細めて聖刻盤を見つめる。
「アラド、もう一度聖刻盤に手を置き直せ」
さっきまでの柔らかな声がウソのような真剣な声で言われる。
意味が良く判らないが、言われたとおり一度手を離し再び聖刻盤に手を置く。
神父様は目をこすり、聖刻盤を睨んでいるが暫し考えてからミリュンダ呼び戻し、聖刻盤に手を置かせる。
教会内が騒がしくなってきたが、神父様は意にも介さず真剣な顔で聖刻盤を睨んでいた。
その表情が柔らかくなり、ミリュンダを親の元に帰すと俺に再度聖刻盤に手を置くように促し、聖刻盤を見ながら苦笑する。
「アラド、可哀想だがエラーだな」
この言葉に教会内が爆笑に包まれる。
エラー ・・・何だよそれ!
神父様の説明が続く、極たまに起きる現象で魔法を授かった証の祝福の光に包まれるが、聖刻盤に何も現れない現象の事だそうだ。
「アラド、此れは神様の悪戯と呼ばれる現象で、日頃の信心の結果現れるものだから、此れからは日々ウルブァ様に心からの祈りを捧げなさい」
馬鹿か! 俺はお前より遥かに神様の存在を信じてるぞ!
腹立ち紛れに神父様を睨み、軽く頭を下げて親の元に戻る。
両親は苦い顔で俺を睨んでいて、親愛の情の欠片すら見え無い。
六人兄弟で末っ子四男の穀潰し、魔法さえ授かればそれなりに稼げるが、それすら望めないとなれば無理もないか。
俺の家は、ホルムの街サラザン通りに建つホテル兼食堂〔サラザンホテル〕曾祖父が冒険者家業で小銭を貯め、引退時に全財産をはたいて買った築100年以上の古強者。
修理はしているのだがそれなりで、二段ベッドの部屋が一泊銅貨三枚、二人で泊まれば銅貨五枚の少しましなホテル。
二段ベッドの部屋が10室、二段ベッド二つの四人部屋が4室に銅貨二枚で泊まれる屋根裏部屋が6室在る、ギリギリ中堅ホテルの仲間入り。
一階の食堂兼酒場が稼ぎの主役だ。
銅貨一枚が日本円の1,000円程度と思ってよいので、一泊3,000円は貧しい冒険者にはお高い宿になる。
鉄貨二枚で、あんパンより少し大きく堅いぼそぼそのパンが一つ買える事から、鉄貨一枚が100円換算だろうと考えて間違いないはず。
鉄貨100円、銅貨1,000円、銀貨10,000円、金貨100,000円とミスリル金貨と呼ばれる1,000,000円の通貨も有ると聞くが、庶民には縁の無い話だ。
因みに単位はダーラ、通常は銅貨鉄貨の枚数で表示される。
俺はアラド・・・7才前後からアラドの意識に見知らぬ記憶がポツポツと浮かび上がり、最終的にアラドの意識と混ざり合い、日本人香坂実の意識を持つに至る。
始めの頃は夢で見知らぬ世界を見たのだが、夢を鮮明に覚えていて兄弟に質問しまくった。
お陰で俺は、頭が少々可笑しい子のレッテルを貼られてしまった。
馬と馬車が交通手段、中世ヨーロッパ風で剣と魔法の世界の住人に、四角い箱が途轍もない早さで走るとか、板きれに人の姿や景色が映り声が聞こえると言えばそりゃね。
9才も過ぎる頃には自分が転生者だろうと思った。
アニメやラノベの知識を得て、現在自分の置かれている状況を理解したからである。
香坂実の知識を持つ事は不幸であったが、同時に前世の知識を活かせば人並み以上の生活は保障されると思われた。
しかし7~9才の頃の質問攻めと、突拍子もない話の為に俺が成人したら家を放り出される事が確定していた。
家に残る唯一の手段は有益な魔法を授かること、鑑定や空間収納治癒魔法といった金を稼げる魔法を授かればだ。
攻撃魔法など授かっても、冒険者か領主様の警備隊か領主軍に入るしか利用価値は無い。
土魔法使いなら土木建築関係、氷結魔法なら精々氷を作って商売出来る程度だ。
それなのに俺は神様のエラーだと言われてしまった。
確かに頭の中で光が溢れた、魔法を授かった証拠は有るのに聖刻盤には何も示されなかった。
神父様だって俺の身体が光に包まれたのを見たから、聖刻盤に手を乗せるように指示したはずだ。
俺の前に魔法を授かった少女は、魔法名と魔力70と示されたのに俺には反応しなかった。
絶対に何かある、反応しないからくりがある筈だ。
因果応報じゃないけれど、原因と結果、神様のエラーと呼ばれる結果が出ているのに原因が判らない。
魔法を授かった現象があって、神様のエラーはおかしい、何か原因があるはずだ。
それを見つけられなければ、長年の苦労が水の泡だ。
アラドと香坂実の意識が混ざり合う混乱期が終わる9才の終わりに、生活魔法が発現した。
アニメやラノベの知識を持つ俺が、真っ先にやった事は魔力溜りを探ること。
毎日ベッドの中で、精神統一の後ヘソの奥、所謂丹田を求めて意識を集中する。
しかし、昼間は家の仕事で扱き使われヘトヘトなので、ベッドで横になったら長く意識を保てるはずもなく寝落ちの日々を送った。
それでも三月も経った頃、ヘソの奥に何かもやもやしたものを見つけた。
見つけた魔力溜りを、捏ねたりつねったり伸ばしたり・・・霞のような魔力で、そんな事が出来るか! と放棄するのに時間を要さなかった。
魔力操作が不可能なら、生活魔法を使い倒してやろうじゃないかとウォーターにフレイム、ライトを徹底利用。
の筈が、これ又薪割りに薪運び、室内の掃除にと追い回されていては使う頻度が殆どない。
唯一使用頻度を上げられたのがクリーンだ、ちょっと汗を流してはクリーン、トイレに入ってはクリーンと一日数十回使ったが捗々しくない。
そうこうして6年、授けの日を迎えたのに此の体たらく。
日々悶々としていたが、ふと思いつきベッドの中で魔力溜りを探ってみた。
生活魔法を発現した時に散々探り、魔力操作の練習までしようとした場所だから簡単に見つけた。
霞の如く淡い存在だった魔力溜りに、濃厚な魔力の存在を感じるではないか、魔力が有る!
魔力が有るって事は、あの時魔法を授かっていたのだ。
しかしあの時神父様が話した、神様のエラーは魔法も魔力も授かってなく、過去誰も魔法が使えた者はいないから諦めろと言った。
湧き上がった喜びは、一瞬で失望の海に沈む。
待てまてマテ!・・・前世の法事で糞坊主の説教に輪廻転生の話があった、現に俺は前世香坂実の意識を蘇らせ、創造神様の存在を信じている。
ならば信じろ! 何か訳が有る筈だ、俺は魔法を授かった感覚があり、神父様も確認しようとした。
16才の成人になれば家を放り出されるのは確定、兄弟で姉二人と長兄に次男はホテルの仕事があるので家に置いて貰えたが、三男は商店の見習いに行けと言われて家から出された。
俺は頭の可笑しい奴と思われていて、他家に出す訳にはいかず冒険者になれと言われている。
8才の頃から、家の手伝いも裏仕事で客前には出させて貰えなかったので、お情けは期待できない。
家を出るまで残り10ヶ月、知りたければ情報収集から始めねばならないのは、此の世界も同じだろう。
創造神ウルブァ様が授ける魔法は、風・水・火・土の四大魔法に氷結魔法・雷劇魔法・防御結界魔法・金になる治癒魔法と空間収納に鑑定魔法が広く知られている。
他に世間一般に知られていない魔法も有る筈だが、先ず風・水・火・土を試してみたが、魔法の発現方法が判らない。
ラノベの知識から詠唱も考え唱えて見たが、顔から火がでただけで変化無し、なら魔法はイメージだ! の名言に従ったがこれもアウト。
昼間の試行錯誤と、就寝前の魔力操作に明け暮れるが進展はなし。
一度、魔法は腕から魔力を送り出して発現させるものじゃなかったかと思い、試して大失敗、危うく魔力切れで倒れるところだった。
成人まで残り半年となり、ベッドの上で日課の魔力操作の練習前に、浮かべたライトの明かりを弄びながら授かった魔法は何かと考えていた。
掌を見つめていると、頭の中に〔アラド・男・15才〕と意識に流れ込んできた。
「誰?」
見回しても誰もいない、隣のベッドは三男エドガの物で2年前から空だ。
今のは何? 誰の声・・・掌をみていただけで声が聞こえたのは間違いない、頭がいかれてなければだが。
もう一度手を見つめるが声は聞こえない、(俺って何なんだろうな?)そう思った時〔アラド・男・15才〕
間違いない、頭に響く声は俺の疑問に答えている。
隣のベッドを見つめ、此れは何? 〔ベッド〕
テーブルの上を見て此れはなに? 〔水差し〕〔カップ〕〔ブーツ〕
間違いない、鑑定魔法だ!
室内を見回しても何も無い。
当然だ、穀潰しに無駄な金を使わないのは此の家の方針だ。
エドガも、何れ家を出て行く奴に買い与える余裕がないと言われ、最低限の物しか与えられなかった。
頭が可笑しいと思われている俺はそれ以下の存在で、身の回りの全てが廃棄寸前のお下がりで、食事はちぎったり歯形の付いたパンにスープには雑多なものが放り込まれている、明らかに客の食い残しの残飯だった。
家族と食事を共にしたのは、8才くらいまでだったし。
扱いは仕事をするワンコといったところかな、雨露をしのげて食い物がある事が救いだった。
此れは家族にも誰にも教えられない。これ以上家族や他人に利用されるのは真っ平だ。
翌日から目にする全てを此れは何? と疑問符を付けて見ることにした。
〔草〕〔草・食用〕〔木・薪〕〔マレーネ・女・水魔法・魔力30〕ん、年は幾つだ。
俺の時は年が判ったがどうして、考えるまでも無かった、姉さんとしか認識してなかったから年を知らない。
しかし姉さんを鑑定して、魔法や魔力まで判るって事は俺自身を鑑定すれば、もっと判る事があるはずだと気づいた。
その夜、ベッドの中で深呼吸をして気を静め、手を見つめ(此れは何?)
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異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
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