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68 閲見の間の恐怖

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 ブラウンの報告によれば、違法ギリギリというかどの様にでも言い逃れ出る気方法を使っているそうだ。

 ヤマトやテレンザの商人相手に、自分達はマザルカの国王陛下や高位貴族の依頼を受けてオークションに参加している。
 故にオークションで取りこぼす様な失態をおかせない。
 その様な事になれば、御当地の王家との間も徒ならぬ事になる恐れが在るとの口上で、四分六から五分五分で落札を分け合い、その上落札した商品の五、六割を10%の上乗せ価格で買い上げている。

 随分舐められたものだが、何故転移魔法陣が設置され自由に往来出来る様になったのか知らないからだろう。
 かと言って、闘わずして勝敗が決した等と今更報じても、混乱を招くだけだ。
 ただマザルカの商人達や、図に乗った貴族達を三カ国内で好きにさせる訳にはいかない。

 * * * * * * * *

 セナルカのドワールにお願いして、マザルカ王国国王に面会を求める事にした。
 ドワールの連絡を受けて、マザルカ王城のヤマト公国派遣大使の控えの間に跳んだ。

 今ではマザルカ王城内にテレンザ王国、ヤマト公国、セナルカ王国の派遣大使用控えの間には転移魔法が設置されている。
 其れは各国とも同じなので、往来は簡単であるがここから先が面倒だ。

 テレンザやヤマト程融通が利かず、取り次ぎが面会を求めて右往左往して時間が掛かって仕方がない。
 漸く迎えの者が現れたと思ったら、従者に護衛の騎士が八名も居る。
 従者のちろりと俺を値踏みする視線がいやらしい。

 「ヤマト公国の、ユーヤ・タカツカ公爵閣下にあらせられますか?」

 「誰を迎えに来たのだ。今日、マザルカ国王との面談を要請したはずだし、先程先触れが出向いた筈だが」

 「失礼致しました。何しろお召し物が・・・そのぅ」

 「俺はキンキラキンの服は嫌いなんだ。其れとも何か、マザルカ国王と会うのに服の指定でもあるのか?」

 「いえ・・・その様な事は・・・」

 「では案内しろ」

 《ルーシュ、前を頼む。おかしな事をすれば遠慮しなくていいぞ》

 《任せて》

 俺の影から進み出たルーシュを見て驚く騎士達だが、ルーシュに一睨みされて顔色を変えている。
 迎えに来た時から、俺を見る目付きと気配は最悪だったので、ルーシュも其れに反応して殺気を振りまいている。
 そのルーシュの殺気に、恐れをなした従者が震えている。

 「行け!」

 俺の命令にビクンとした従者が、何とか姿勢を正して歩き出した。

 * * * * * * * *

 幾つか騎士達が警備する扉を潜り、その度に装飾が豪華になり煌びやかになっていく。
 最後は近衛騎士なのだろう、キンキラキンの鎧と兜を被った兵がズラリと並ぶ通路を通り、辿り着いたのはどれ程金を掛けたのかと問いかけたいほど豪華な扉の前。

 「ヤマト公国、ユーヤ・タカツカ公爵閣下」

 扉の左右に立つ騎士に怒鳴る様に伝えると、ゆっくりと扉が引き開けられる。
 開けられた扉の正面には、迎えの従者より数段上等なお仕着せを着た男が、優雅に一礼して迎えてくれる。

 「ユーヤ・タカツカ公爵様、マザルカ王国コルサク・マザルカ国王陛下がお待ちです」

 そういって先導してくれる部屋は中程度の広間だが、壁際に近衛騎士と魔法使いらしき男女がびっしりと並んでいる。
 その前には高位貴族と思わしき一団がズラリと並び控えている。
 なんとまぁ、格式張ったというか虚仮威しのお出迎えだが、居並ぶ貴族達や近衛騎士から殺気に似た威圧が凄い。
 っていえばいいのかな。

 俺には蚊ほどの意味も無いが、そっちがその気なら遠慮の必要は無いか。

 《ルーシュ、一歩歩く毎に身体を大きくし殺気と魔力を振りまいてやれ》

 《ユーヤに何かすれば、皆殺しにするよ》

 《其れは話次第だから、勝手に殺しちゃ駄目だよ》

 〈ヒィーッ〉
 〈馬鹿な!〉
 〈まさか・・・〉

 あ~あ、案内の従者が腰砕けになって震えているよ。
 居並ぶ貴族や騎士達の半数近くが失神したり腰砕けになり、魔法使いと思しき者達は呆けて震えている。
 俺の肩口程の高さで、ルーシュの大きさを止める。
 正面の玉座に座る男が、コルサク・マザルカ国王かな。

 玉座から10m程の所でルーシュを止め、共に並びご挨拶。

 「ユーヤ・タカツカだが、マザルカ王国のコルサク・マザルカ国王に間違い在るまいな」

 玉座の肘置きを握りしめ、必死に威厳を保とうとしている男が頷くが声にならないらしい。

 「此は何事かな。俺はお前に跪く為に来たのではない。お前の願いにより転移魔法陣を設置したが、何を勘違いしたのか此の国の商人達が俺達の領地で好き勝手をしている。その言い草が、高位貴族達の依頼によりとぬかして商人達を脅していては見過ごせない」

 ルーシュに殺気と魔力の放出を控えて貰い、俺も殺気を消して話しやすくする。

 * * * * * * * *

 「ヤマト公国、ユーヤ・タカツカ公爵閣下」の声が聞こえ、侍従長が開かれた扉の前で問題の男を迎える。

 大広間に入ってきたのは黒猫・・・以前玉座の前に転移魔法陣を設定した猫ではないか。
 その後を若い男がついてきているが、まるで男を先導する様に黒猫が・・・
 その黒猫の姿が、一足毎に膨らんでいき殺気が広間に溢れて震えが止まらない。
 侍従長は腰砕けになり、居並ぶ貴族や騎士達も半数は腰砕けになったり頭を抱えて震えている。

 魔法使い達に至っては、一目で使い物にならないのが見て取れる。
 ユーヤ・タカツカ、噂によれば稀代の雷撃魔法使いにして神獣と噂される黒猫の主。
 その知謀と魔法攻撃は天下無敵で、ゴールド、プラチナランカーが束になっても一瞬で倒すとの報告を受けている。
 あの報告書を読んだ者達が笑っていたが、此程恐ろしい男だったとは。
 多くの者が、転移魔法陣を使ってのし上がってきたと軽く見ていたが、とんでもない間違いだ。

 転移魔法陣を使った、テレンザ、ヤマト、セナルカ連合軍との戦争になれば敗北すると思っていたが、此の男と猫・・・ブラックタイガーより大きな猫に勝てる気がしない。
 
 『ユーヤ・タカツカだが、マザルカ王国の国王に間違い在るまいな』との問いかけに返事をと思ったが、身体が強ばって声が出ない。

 心臓を鷲掴みにされた様な殺気が軽くなり、何とか大きく息をする事ができた。

 「いっ・・・如何にも。私がコルサク・マザルカだ」

 「此は何事かな。俺はお前に跪く為に来たのではない。テレンザやヤマトで好き勝手に振る舞っている、お前の国の商人達の事で来たのだが?」

 「好き勝手にとは?」

 「我が国特産の果実の買い取りを自分達の都合の良い様に操作している。その際、我が国の商人達には此の国の高位貴族の依頼だと告げ、取引に失敗すれば後ろ盾がと匂わせている」

 「まさか・・・その様な事が?」

 「どうも此の国の商人や貴族達は、自分達の立場が判っていない様だな。もっとも俺と会うのに、閲見の間を使う様ではお前も同じか。今度は降伏ではなく、三カ国連合軍の支配下に置いて此の国を解体されたいか」

 「お待ち下さい、タカツカ公爵殿! その様な考えは持っていません!」

 「では、この閲見の間に俺を迎えたのは何故だ?」

 「それは・・・そのぅ・・・他国の使者や大使を迎えた時の慣例で・・・」

 「忘れるな! テレンザもヤマトも、お前達を支配下に置くのが面倒だから領地の割譲と賠償金だけで済ませた。割譲されたアンザス領も、セナルカに押しつけたのだ。お前達がこれ以上俺達を軽んじるのなら、今度は俺達が此の国に侵攻することになるぞ。その時には、王家も貴族達も此の世を去ることになる事を忘れるな」

 「承知した。肝に銘じておこう」

 「近々ヤマトの全権代理ブラウンより、俺達の国で好き勝手をしている商人達の名と、背後にいる貴族共の名が届くだろう。処罰はお前に任せるが、結果はブラウンに知らせろ」

 「承知した」

 冷や汗ダラダラの国王に背を向け、殺気全開で壁際に居並ぶ高位貴族達を睨め付ける。
 泡を吹いて卒倒したり膝から崩れ落ちて動けない者や、頭を抱えて震えている者が多数。

 マザルカ国王に命じて、王国内の転移魔法陣を全て即時停止させた。
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