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65 ミズホへの旅

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 セルーシャを呼び、現在の仕事の合間に転移魔法陣を使ってセナルカ各地を巡り、彼女の目から見た世相の感想を聞きたいと告げた。
 セナルカが安定すればドワール伯爵を王に据え、ヤマトやテレンザが手を引く時、問題が起きない様に情報面でサポートして欲しいのだと頼んだ。
 
 「テレンザでの仕事は他の方々も慣れてきて、私は時々助言するだけで回っていますので、お手伝い出来ます」
 
 兄のボイスとシャイニーを呼び、セルーシャにセナルカを回って貰う事を告げた。
 
 「シャイニー、セルーシャとボイスの魔法の腕はどうだ」
 
 「もう余り教える事も無いね、後は日々の鍛練を怠らなければまだまだ上達するだろう。私もそろそろ魔法訓練所長が恋しいし、手を引くよ」
 
 お礼にエビや蟹に蜥蜴のお肉をたっぷり渡し、シャイニーと別れた。
 セルーシャとボイスを連れてスタートゲートに跳び、魔法の腕を見せて貰う。
 ボイスの火魔法、風魔法、雷撃魔法は中々のもので、魔法師団に入れば上位者と遜色無いと思われる。
 セルーシャの雷撃はボイスより一段と威力があり、ボイスとはイメージ力の差と思われた。
 防御結界はボイスに軽く攻撃させてみたが瞬時に対応していたのでだんだんと攻撃力を上げさせた。
 合格! ボイスの火魔法、風魔法、雷撃魔法の全てを完璧に防いで、疲れも見せない。
 
 「上達したな、二人とも」
 
 「有り難う御座います。此もユーヤ様と魔法神ハラムニ様の加護の御蔭です」
 「私はハラムニ様グラン様の加護を賜り、魔法でも剣や体術でも一流と言われる程になれました。一重にユーヤ様が神殿にお連れ下さった御蔭です」
 
 「神殿は俺の都合で造ったものだからなぁ、ヨークス様や他の神々の祈りの場が近くに有れば良いかなと思ってね。このフルミナの地に降ろされてからの付き合いだし、ボイスもそう畏まらなくても良いよ」
 
 「兄さんは、シャイニー様にもクルフ様にもこうだったんですよ。私も日本を知らなければ、兄と同じ様に接すると思います。この世界の常識から外れていますものね」
 
 「でもシャイニーやクルフは、俺を呼び捨てにしてくれるよ」
 
 「それはユーヤ様が、共に冒険者をしていたからですよ」
 
 「まっ、跪かれるよりはマシかな。それより行って貰うセナルカ王国は、俺が冒険者ギルド本部と揉めて、クルフとドルーザを本部役員に捩込んだのが切っ掛けだ。それに難癖を付けてギルド本部乗っ取りを謀った、セナルカ国王を排除してしまってな」
 
 「セナルカ王国の、国王様を排除・・・ですか」
 
 「詳しい話は省くが、元々箍の緩んだ国だったので、その一件で空中分解すると他国の侵略を受けるからな。そうすると難民がテレンザやヤマトに流れ込んで来る。それを阻止する為にも、セナルカを立て直さなければならないんだ。現にマザルカ王国の進攻を受ける寸前で、テレンザ・ヤマト・セナルカの三カ国軍で防いだところだ」
 
 「それって大事ですよね。初めて聞きました」
 
 「そう言えば軍の大規模演習だとか言って、各地の騎士団や王都防衛軍等が移動したと聞きました。つい先日の事ですが・・・まさか」
 
 「それだよ5万の軍の内、2万5千が緊急展開して防いだよ。だからセナルカを少しでも早く安定させ、全権代理のヘリサン・ドワールを国主にして放り出したいのだ」
 
 「ユーヤ様が国王になられたら宜しいのでは」
 
 「あー、俺はこのヤマト一国ですらブラウンに丸投げしているんだ、面倒事は御免だね。アルカートも要らないって言っているしな」

 * * * * * * * *

 セルーシャとボイスを連れて、セナルカ城のドワール全権の所に跳ぶ。
 
 「ユーヤ様、御用でしょうか」
 
 「いや大した用事ではないのだ。ドワールは、テレンザやヤマトの摺り板版の事を知っているかな」
 
 「噂は聞いておりますし、何枚かは手に入れております。最近のものですと、ナガキダンジョンものが中々面白う御座います」
 
 「それを書いているのが、此処にいるセルーシャだ。隣は兄のボイスで、セルーシャの護衛をして貰っている。セナルカ各地に設置した転移魔法陣の建物内外と、通信筒転移魔法装置を置いた建物の内外に摺り板版を張りだしたくてな。基本はセナルカで行われている政の通達だが、そこに人を引き付ける要素に娯楽として共に展示したいのだ」
 
 「成るほど、一々領主や代官が口頭で知らせて回るよりも、簡単で素早く知らせる事が出来ますね」
 
 「ドワールは、テレンザやヤマトに行った事は在るのかな」
 
 「いえ、一度は行きたいと思っていますが」
 
 「2~3日部下仕事を任せて、ヤマトに来ないか。今重要な案件はあるのかな」
 
 「大丈夫です。明日から3日間ヤマトをお伺い致します」
 
 「案内にセルーシャとボイスを付けるので、見たいもの行きたい所に自由に行けば良い。この通行証はヤマトの高官、侯爵クラスが持つものだ。それを示せば何処にでも入れる。それとセルーシャとボイスが、セナルカで自由に動ける身分証を用意して貰えないか」

 明日セルーシャとボイスが迎えに来るが、護衛が必要なら連れて来るが良いと言い置き、セルーシャとボイスと共にミズホに戻った。

 * * * * * * * *

 何とまぁ転移魔法陣を使い、ひょいひょいと現れては消えて行くユーヤの気楽さが羨ましかった。
 噂に聞くテレンザとヤマトの発展振りを、この目で確かめられるのは楽しみだ。
 
 翌朝セルーシャとボイスがセナルカの王城に現れると、貴族の服装ながら目立たぬ様に気遣かったドワールと護衛2名に従者が待っていた。
 
 「ドワール様遅くなり、申し訳ありません」
 
 「いやいや私が早く来過ぎただけだ、気になされるな」
 
 「どちらへ参りましょうか」
 
 「噂の大神殿を先ず見たいが、頼めるかな」
 
 「承知致しました」
 
 転移魔法陣の係の者に、行き先は自分達で指定するからと告げてセルーシャ自ら転移陣に魔力を流した。
 魔法陣を出ると何処かの屋敷の中の様であったが、セルーシャとボイスは気にする様子もなく歩く。
 出会ったメイドは軽く頭を下げて通り過ぎ、ホールに出るとそのまま玄関から外に出る。
 
 外に出てドワールは驚いた、森の中である。
 遠くに塀の様なものが見えるが大神殿が近くにあるとは思えない。
 
 「セルーシャ殿、此処は?」
 
 「ユーヤ様のお屋敷です。大神殿に一番近い転移魔法陣は、訪れる人々で混雑しています。此処が安全で2番目に近い転移魔法陣です」
 
 事もなげに言うが一国の国主であり、セナルカ王国もマザルカ王国も到底敵わぬ男の屋敷が、何と無防備な事か。
 衝撃を受け、出てきた建物を振り返り再び衝撃をうけた。
 何と貴族の館には見えない、商人の屋敷程度の小さな建物ではないか。
 他に建物は見えない。
 
 「セルーシャ殿、これは本当にユーヤ様のお屋敷か? 別邸か離れではないのか」
 
 「いえこれが本宅です。別邸でも離れでもありません」
 
 護衛の騎士も従者も呆れ顔であり、権力者の住む館ではないと顔が物語っている。
 セルーシャとボイスに付いて行くと、高い壁に突き当たり正面に洞門が見えてくる。
 衛兵二人の敬礼に見送られて洞門の中の門を通り、明るい日差しの中に出て又驚いた。
 正面は道を挟んで木々の生い茂る広場で子供たちが遊んでいる、左右は建物が建ち並び人々がのんびり散策している。
 
 振り返れば出てきた洞門の門が見える。
 
 「セルーシャ殿これはなんと」
 
 「はいユーヤ様のお屋敷は周囲を高い壁に囲まれていますが、壁の外側は壁を利用した住宅になっています」
 
 一階は店舗になっていて2~4階は住宅の様だが、セナルカの住民の住まいより広く天井も高いのが一目で判る。
 行き交う人々の身なりも良く、ヤマトの裕福さは国力の一端がを示すものだった。
 セルーシャとボイスの案内で広い通りを暫く歩くと、一際賑やかな場所に出た。
 
 「この先に大神殿が有りますので、巡礼の方々も多いのです」
 
 成るほど先に進むにつれ訛の違い、衣服が異国風の者達がそこ此処に居る。
 神殿は噂どおり塀も建物も無く、柱に支えられた屋根の下に漆黒の巨大な魔力石が綺麗に円形を形造っているだけだ。
 
 「創造神ヨークス様に拝礼する前に、喜捨をしたいのだが」
 
 案内されて又驚いた、それぞれの魔力石の前で人々が祈っているが喜捨を受ける物が無い、喜捨の受付は所々に箱が置いてあるだけだった。
 近くに碑が建てられている、碑文には〔神を敬いて頼らず。願いて努力を怠らず。創造神ヨークス様の下に集う神々に祈りを〕と刻まれている。
 後は不思議な紋様が掘り込まれていて神秘的である。
 
 文言に頷き、ヨークス様の像が浮かび上がる漆黒の魔力石の前に跪き、国の安寧を祈る。
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