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32 領地改革

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 貴族と豪商に対する後始末の経緯を聞き、話は終わったと思っていた。
 
 「ユーヤ、知恵を貸して貰えないか。其方は相当な知識と知恵を持っていると思っている。その知識と知恵を借りたい」
 
 「俺のお気楽な生活を邪魔しない、詮索しないのなら良いぞ」
 
 「没収した領地で、一際貧しい領地が有るのだ。臣下やその子弟達に、任せられそうな者がいない。現在の統治を続けるのは可能だが、新たな視点で領民を豊かにしてやりたい。貴族達は定められた税を国に納めれば、後は自由に領地経営が出来るのだが、領民の事など考えもしない。王である俺も臣下の貴族達も、世襲のせいで過去の定めを無碍に出来ないので困っている」
 
 「税収を増やす事で無く、領民を豊かにしたいのか」
 
 「そうだ、今回爵位を剥奪し者達を見て、余りにも権力を乱用しすぎている。己の享楽の為に、民が存在していると思い上がっている」
 
 「その考えには同意するが、具体的な方法を考えているのか?」
 
 「一つの領地を、全面的に其方に任せたい。その間無税とし補佐は付けるが、思いのままに使って貰いたい。無能と見做せば解雇も自由だ」
 
 「つまり、預かった領地は」
 
 「絶対君主として振る舞って貰って結構、条件は民を豊かにする。ただ一つだ」
 
 「面白そうだが、期限は」
 
 「少なくとも5年以上は懸かると見ている」
 
 「15から20年は必要だな。為政者の意識と領民の意識の双方を変えるには一世代は最低限必要な時間だ」
 
 「頼めないか。このままでは、又クルンガー公爵やエメニール侯爵の様な輩が出て来る。成功すれば他の領地の領民も、自分達の領主と比較し貧しければ領主を批判する様になる。他領と比べて著しく貧しい領地は、領主の解任や降格させる。己の地位が安泰で無いことを理解すれば、領地の経営に励む様になるだろう」

 俺の気楽で安寧な生活を犠牲にして、この国の意識改革に手を貸せと行っているのか。
 長い人生になるのなら、少しくらいは寄り道をしても良いかな。
 
 「領地を見てからだな」
 
 「クルンガーとエメニールの治めた領地の、どちらでも良いので頼む」
 
 「条件は、お前に昼夜を問わず何時でも自由に会えること。城内の一室を俺専用にし、隣の部屋は誰も入れない事だな。嫌に為ったら何時でも投げ出すが、良いな」
 
 「全て受け入れる。以後俺の事はアルカートと呼んでくれ、部屋は明日用意させるが今日は泊まっていってくれ」
 
 「いやサランガに行ってくる。今から明日の朝までこの部屋に誰も入れるな」
 
 「サランガって・・・」
 
 「二人とも口外無用だぞ。明日の朝には戻って来るので心配するな。これから魔法陣を見せるが、俺が戻るまで魔法陣の上に立つなよ」
 
 部屋の一角に目に見える形で転移魔法陣を設置し「明日の朝には帰るから此処に居ろよ」と念押しをしてサランガに跳んだ。

 * * * * * * * *

 ユーヤが魔法陣の上から姿を消しても、国王とナンセン団長は身動き一つ出来なかった。
 漸く思考が回復した時に、二人して顔を見合わせて深々と溜息を吐いた。
 
 「なる程王都から姿が消えたとき、城下の門を通った形跡が無いはずだ。これが噂に聞く転移魔法陣ですか」
 
 「俺も初めて見たぞ。まさか転移魔法迄使えるとは思わなかったが、どれ程の魔法が使えるのか興味が湧いたぞ」
 
 「陛下、問い詰めては駄目ですよ。彼から打ち明けられる迄は、素知らぬ顔でいてください」

 翌日の朝、国王とナンセン団長が転移魔法陣を注視する中、悠然と現れたユーヤ。
 
 「城内で、自由に使える部屋に案内して下さい」
 
 貴族達が登城の際に与えられる控えの間で、高位貴族達と同等のサロンや居間に寝室から、使用人の控室迄付いた部屋を用意された。
 細々とした物を置く小部屋を転移魔法陣専用室として封鎖し、他の部屋で生活と雑務を執り行う事にした。
 
 「ユーヤ、彼をこの城での補佐として使ってくれ」
 
 「ブラウンと申します。宜しくお願い致します」
 
 「ああ、ユーヤだ宜しく頼む」
 
 「アルカート、この国で自由に通行する為の通行証を三枚用意出来るか、貴族達の妨害を受けないやつだ」
 
 「判った、ブラウンに用意させよう。以後必要な物は彼に命じてくれ。俺に用が有る時は何時でも構わんからな、頼んだぞ」
 
 「ああ、出来るだけやってみるよ」
 
 テレンザ国王はブラウンに、貴族達には一切干渉させるな。対応出来ねば即座に俺に連絡しろと命じて、職務に戻って行った。
 
 「ブラウン、転移魔法陣の事は聞いているな」
 
 「はい、伺っております」
 
 「俺意外に二人が頻繁に出入りすると思うが、転移魔法陣を設置した部屋には他の者を近づけるな。
 使用人達にも、必要な時以外は近付かない様に厳命しておいてくれ」
 
 其れだけ言いおき、転移魔法陣を設置してサランガに跳ぶ。
 朝一に冒険者ギルドに行き、クルフとシャイニーに会いたいと連絡をして貰っていたので、食堂に行くと二人が手を振っていた。
 
 王都と領主不在の地で仕事が有るのだが、内容は護衛と魔法の指導に領地の調査等だと説明。
 依頼料は一人月に金貨9枚で期間は当分の間だが、宿舎や食事等の費用は全て持つので手伝って欲しいと頼み、了承してもらった。
 当分の間王都に居る事に為るので、クルフは宿を引き払いに行きシャイニーも家族に仕事で王都に行くからと説明に行った。

 サランガゲートから城内のゲートに跳び、ブラウンに二人を俺の片腕と紹介して頻繁に出入りする事に為るが、誰にも干渉させるなと言っておく。
 
 クルンガー領とエメニール領の地図と、それぞれの領地の概要を記した文献を用意させ、お勉強開始だ。
 クルフとシャイニーには、これから訪れる領地の冒険者ギルドでの情報収集と、領民の生活全般と代官の噂等を聞き込んで貰うと説明。
 目立たぬ馬車を用意させ、通行証を受けとると王都を後にした。

 * * * * * * * *

 2ヶ月余りを懸けて調べた結果クルンガー公爵領を受け持つ事にした。
 エメニール領は思った程荒れてはいなかった。
 日本人の目で見ると五十歩百歩だが、手を入れるならクルンガー領だろうと決めた。
 その際に各地の冒険者の中から、ブロンズとシルバーランクで頭の良い知恵の回る者や、きちんと文字の読み書きが出来る者を集めた。
 特に手足の欠損によって冒険者を引退した者は、優先的に採用する様に指示する。

 アルカートには、クルンガー領を預かると告げて了解を得る。
 
 クルンガー領に赴くと、領主代行の肩書と王家の後ろ盾を使い、各地の代官に7才以上の子供達に読み書き計算を教える様に義務化した。
 16才以下で家業を手伝ったりしている者達には、一日銅貨3枚を支給して強制的に勉強をさせ違反すれば親を罰せよと命じる。
 国家の根幹は、教育からが基本だよな。
 
 同時に領内や各地へ通じるの道の整備を始めたのは、公共事業と失業者対策である。
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