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31 ナンセン団長の悲劇

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 ナンセン団長が王城を出てユーヤの家に向かった頃、ユーヤは簡素な室内を片付けて転移魔法陣を消去しさり、商業ギルドに向かっていた。
 
 商業ギルドの不動産部門へ行くと、前回お世話になった方にもう少し広い家を借りたいと告げる。
 留守の間訪問者の相手をし、家を管理する者を住まわせる広さが必要だと告げて紹介してもらった。
 希望より部屋数が多い庭付き一戸建て、ゲルアトさん宅の半分程のお屋敷で、他に自由に手を入れる事の可能な物件が無かった。
 
 仕方が無いので2年契約で金貨240枚を支払って借りる。
 管理人は不動産部門から派遣してもらい、家屋の維持管理と来客の相手で返事は不用だが、内容を正確に俺に伝える事が条件だ。
 諸費用は口座からの天引きだ。
 転移魔法陣設置の部屋と居室にする部屋だけを決め、入室厳禁を言い渡し後は商業ギルドに任せた。
 
 一晩新しい家に泊まり、翌日不動産部門から紹介された管理者に留守の間の対応の指示を済ませると、夜には山麓ゲートに跳んだ。

 * * * * * * * *

 ユーヤが新しい借家に現れたのは2ヶ月後だった。
 古い借家の賃貸契約を解除していない事を思い出し、賃貸契約解除の為に戻って来たのだ。
 その日の夜にはスタートゲートに跳び、森の散策と鉱山の有る各ゲートを転々として遊んでいた。
 
 ナンセン団長はユーヤの家の前でひたすら待ち続けたが、2ヶ月後借家の持ち主が現れて契約解除を知らされた。
 一縷の望みを掛けて商業ギルドに赴くと、新たな家を借りている事が判ったがユーヤは不在で、何時帰って来るのか管理人には伝えていない。
 2ヶ月間不在だったが、帰って来たその夜には再び出かけてしまい、管理人も所在無さげである。
 
 管理人曰く、訪問者の用件を全て書面にして渡したが、一読すると返事は不用と言って捨ててしまったと聞いた。
 ただ一件、ゲルアト商会の書簡だけを懐に入れたと教えてもらえた。

 ナンセン団長がユーヤに会えたのはそれから一月後である。
 居る筈の無い家からひょっこり現れたユーヤが、玄関から出てきてナンセン団長と顔を会わせた。
 
 「あれっ団長、何で此処に居るの」
 
 「やっと会えたか。待ちくたびれて死ぬかと思ったぞ」
 
 「この家の事は知らない筈だが、どうしたの?」
 
 「あの阿保な宰相のせいだ。奴は罷免されたからどうでも良いが、お前と連絡が取れなくなって大変だったんだ。3月も待ちぼうけさ」
 
 「何か用事なの」
 
 「以前阿保な貴族連中と豪商3人を叩き潰しただろう。あれの件で何やらで話し合う予定が、間抜けな宰相の御蔭で流れて困っているんだよ。お前に連絡を取ろうと家の前で待ち続けたが、二月して借家の契約解除を知った時には目眩がしたぞ。商業ギルドで話を聞き、此処で待つようになって一月経つ。頼むから陛下と会ってくれ」
 
 「今日は駄目だ。明日なら良いが、王城って面倒くさそうなのがウヨウヨ居そうで、嫌なんだよね」
 
 「いやいや俺が付き添うので、面倒事はいっさい無しだ。明日の夕方には迎えに来るので必ず居ろよ!」
 
 「あー判った、日暮れ前には居るよ」
 
 ナンセン団長は、すっ飛んで帰って行った。
 俺はゲルアト商会を訪問して、宝石を提供し四方山話で時間を潰して家に戻った。
 
 迎えに来た馬車は王家の紋章付きで、護衛の騎馬迄居る派手なやつ。
 満面の笑みで馬車から下りて来たナンセン団長。
 
 「嬉しそうですね」
 
 「ああ、今日からお前を待つ為に、この家に通わなくても良いと思うと嬉しくてな」
 
 「宮仕えの哀しさですか。腐れ貴族や商人の事なら、王家の支配下なので勝手にすれば良いのに」
 
 「お前が潰した貴族連中の財産処分や、被害者救済の為に押さえてくれた商人の財産など、王家と言えども勝手には出来んのだ」

 王家の馬車なので城門を素通りし、幾つかの門を潜り城の奥深くに入って行くき、止まったのは樹木に囲まれた瀟洒な一軒家だ。
 日本人の俺からしたら豪邸だが、この世界の金持ちや貴族からしたら小さな離れ程度の感覚なのだろう。
 慇懃な男に案内され「ユーヤ様とナンセン団長をお連れしました」との声でドアが開く。
 思わず口笛の一つも吹きたく為る様な、絢爛たる部屋であった。
 
 「漸く会えたなユーヤ。前回の招待は失礼した、彼には宰相としての能力不足なので下りてもらったよ」
 
 「まぁ余り進んで来たいと思わないのですが」
 
 「俺に対する礼儀は必要無いぞ。確かに貴族や豪商共の後始末の話は有るが、俺個人として其方を招待したつもりだ」
 
 「以前も城門近くでお茶を御馳走に為ったが、ざっくばらんですね」
 
 「まぁ座ってくれ。面倒な話の前に食事を済まそう。最もアースドラゴンやワイバーンを食している其方から見れば、質素な食事だがな」
 
 「いやいや素材は良いが料理の腕はからっきしですので、料理人が腕を奮った料理には及びませんよ」
 
 食事は和やかに進みテーブルが片付けられると「ソファーも良いが書類関係も有るのでこのまま遣らせてくれ」と陛下の言葉。
 先ずクルンガー公爵とエメニール侯爵が拉致し、凌辱した人達と亡くなった人達の家族への慰謝料として、クルンガー公爵とエメニール侯爵の財産を充てる事を了承する。
 その際、俺が手数料だと騙って懐に入れた財産に付いては不問にすると言われたので、その他細々とした事は全て王家に丸投げした。
 
 捕らえた貴族達だが終身犯罪奴隷、家族も同様だが14才未満は孤児院に送り市民として教育する14~16は未成年では有るが5年間犯罪奴隷とする。
 貴族本人達は犯罪奴隷だが、王城内で他の貴族達の世話係として晒し者になるらしい。
 他の貴族達に対する牽制と、本人達の自尊心を叩き潰す目的だろう。
 
 貴族位の剥奪と財産没収の上、家族共々犯罪奴隷として晒し者になる恐怖に、怯える貴族も多かろうと思う。
 豪商達は本人と積極的協力者は犯罪奴隷に、家族は財産没収の上僅かな生活費を与えられて追放処分。
 店舗は当分王家の管理下になり、そのうち分割して売却するとの事で全て了承する。
 
 ヘルミナ商会の地下のお宝部屋を沈めて、元のお宝部屋にダミーの床を張ったまま放置しているのを思い出した。
 今夜にでも行き、証拠隠滅をしておいた方が良いかな。
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