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065 それぞれの道

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 王城より魔法師団の部隊長が来ると、王家に仕官を望む者達の魔法の能力を確認している。
 結果希望した56名全員合格で、給金や待遇を聞いて喜んでいた。
 執事に命じて地下室から革袋を持ってこさせて王家に預けさせる。
 此れは給金が支払われる口座に王家より振り込まれると伝え、当座の生活費として各自に金貨20枚ずつを支給する。

 仕官を望まない者達には、冒険者御用達の店からマジックポーチを買ってきて渡し、当家を去る時に金貨一袋と別途当面の生活費として金貨20枚を約束する。

 「大盤振る舞いだな」

 「なぁ~に、公爵様最後の善行さ。俺の懐は金貨一枚も減っていないぞ。彼等と地下牢に居た者達の一時避難所を確保するので、もう暫く辛抱してくれ。其れとあんたと後任者の持ち物は出て来なかったので、その分金貨200枚ずつ上乗せするよ。あんた達に手を出した奴等は、多分死ぬまで犯罪奴隷だから諦めてくれ」

 「残念だが仕方がない」と肩を竦めて苦い顔で了承した。

 一時的に身を寄せる場所として、コッコラ会長に会いに行き受け入れをお願いし、快く了承して貰った。
 コッコラ会長が用意してくれた部屋に落ち着くと、商業ギルドから係員を派遣して貰う。
 俺は各自に支給する金貨は商業ギルドの口座に振り込むと告げて、口座を作らせる。

 彼等には一人金貨140枚を振り込み、残りは当座の生活費だと告げて銀貨100枚を渡してマジックポーチに収めさせた。
 王家への仕官を断った者12名分、一人金貨110枚で12名分1320枚を振り込み各自に銀貨100枚ずつ渡す。

 コッコラ会長にお願いしてホリエントと後任騎士団長の家族を呼んで貰い、亡くなった騎士団長の家族に金貨700枚、ホリエントに500枚と告げてそれぞれの口座に振り込む。
 最後は俺の稼いだ治療代、14人分金貨1400枚を預けると護衛を増やすので待ってくれと言われてしまった。
 金貨7500枚を超える額が振り込まれるとは思っていなかった様で、慌てている。
 俺だってマジックポーチから出すのが大変なんだから、当然か。

 ホリエントは家族と共に帰って行ったが、俺はこれからが本番だ。
 授けの儀の翌日とか成人後直ぐに公爵家に強制連行されているので、世間に疎い人間ばかりだ。
 王家に任せておけば、適当に金を握らせて放り出すのは目に見えていた。
 今もマジックポーチを嬉しそうに、これ見よがしに腰に付けているので隠す事から教えなければならない。

 家に帰りたい者が12名だがエレバリン公爵領の者が四人で、それ以外は皆バラバラの領地から来ている。
 話を聞く限り公爵一派の領地から送られて来た様なので、各人の出身地と名前を記入して貰いコッコラ会長に相談する。
 早い話、コッコラ商会の支店が在れば利用させて貰うつもりだ。

 此処で一悶着、と言うか不満を口にして差額を寄越せとごねだした者が三人。

 「何故一人前の魔法使いの俺達が金貨110枚で、役立たずの糞共が金貨140枚貰えるのだ。可笑しいじゃねぇか。俺達は140枚以上貰う権利が有るはずだ!」

 「何か勘違いしている様だから言っておくが、本来お前達には一枚の金貨も受け取る権利や資格は無い。不満ならお前達を王家に預けるので、その金は王家に返してくれ。その上で改めて宰相閣下か魔法師団の者に金を要求してくれ」

 「おいおい、お前が俺達をここへ連れて来たのだろうが。お前が俺達の差額分を払えよ」
 「現にお前のマジックポーチから金を出し、商業ギルドに預けたじゃないか」
 「俺達はお前の口車に乗ったせいで損をする嵌めになったのだからな」

 「良いだろう。差額分は王家から出す様に言ってやるが、これ以後はお前達の面倒はみないので勝手にしろ」

 ヘルシンド宰相宛てに不満の内容を書面を認め、コッコラ商会の番頭に預けて王城へ届けて貰った。
 書簡を届けに行った者が帰って来た時には王都警備隊の兵士が15人も居て、宰相閣下がお前達をお呼びだと言って馬車に押し込んでしまった。
 馬車の中で半泣きの三人に「以後俺やコッコラ商会に何か言ってきたら、相応の処罰が降りると思え」と別れの言葉を贈る。

 後日ヘルシンド宰相から、三人には王家に仕えると決めた者達と同様金貨20枚の支給を告げて、商業ギルドに振り込んだ金貨110枚1,100万ダーラから1,000万ダーラを没収したと教えられた。
 欲を出したばかりに金貨100枚が消えてしまったとは、お可哀想に。

 そして金貨100枚を没収する口実が、お前達を救助し自由を与えようとしたフェルナンド男爵に対する暴言許し難いと言って、貴族に対する侮辱罪で犯罪奴隷に落とす代わりに、罰金として金貨100枚を没収したとウインクされた。
 ウインクの理由は、没収した三人分の金貨300枚は俺の口座に振り込まれたそうだ。
 あらららっと思ったが、黙って肩を竦めておく事にした。

 帰りたい者の内、エレバリン公爵領の者が四名とそれ以外の領地の者が五名となったので、彼等には親元に手紙を書かせた。
 その際公爵様からお役御免を言い渡されたと書かせ、金貨の事は一言半句も書かせなかった。
 ただ帰りたい帰っても良いかと尋ねる手紙にさせた。

 今更帰れるとか帰りたいと言っても親元にも都合があるし、自分達が巣立ちの日を迎えた時どうなっていたのかを考えろと言っておく。
 兄弟のいる者は跡取りが変わっている事も有ると言うと、悲しそうな顔をする者もいたが、帰ったら金だけ使われて放り出される恐れもある事は理解した。

 問題は家に帰っても居場所のない者達だ、魔法使い達は潰しが効くが問題は牢に入れられていた者達だ。
 残った魔法使い達は火魔法二人,土魔法使い三人,氷結魔法使い二人,雷撃魔法使い一人で土魔法使いと火魔法使いはブルレナウ商会の会長に押しつけようと思っている。

 伐採責任者のザラムスが便利な土魔法のドームを羨んでいたし、野獣を追い払う火魔法使いは必要だろうからな。
 俺を後ろから射った糞野郎の魔法を削除したのが、こんな所で役に立つとはね。

 早速ブレメナウ商会に出向き会長に取り次いで貰う。

 「何かと大変そうですが、其れに関する事ですか」

 「やっぱり噂になっているのですか」

 「エレバリン公爵邸より、多数の魔法使いを貴男様が引き抜いたとね」

 「実はその魔法使いの事ですが、伐採の時にザラムスさんが羨ましがっていた土魔法使いと、獣を追い払う役目の火魔法使いは要りませんか。公爵家に仕えていたので冒険者としては素人同然ですが、雇って頂けるのなら、足手まといにならない程度には私が手ほどきをします」

 「その二人の腕は?」

 「エレバリン公爵の魔法部隊に所属していましたので、それなりの腕は有ると思います」

 「一度その人達の腕を確認させて貰えますか」

 了解したが土魔法はともかく、火魔法を王都の中でぶっ放すのは不味い。
 二日後に王都の外で彼等の腕前を確認してからと決め一度コッコラ邸に帰る。

 王家への仕官拒否組から土魔法使い三人と火魔法使い二人を集めて、ブレメナウ商会の話をする。

 「土魔法で野営用のドームといってもなぁ。俺達は防壁とストーンアローやストーンランスの練習しかした事が無いのだが」
 「散々遣らされたからなぁ」
 「街に帰っても建築関係か、冒険者の尻について防壁作り程度の仕事だから俺は行ってみるよ」

 「遣る気が有るのなら、ドームの作り方なんかは俺が教えるよ。別に冒険者になれなんて言ってない、木材の伐採に同行して獣からの防御や野営用のドームを作る仕事だ。護衛の冒険者が獣を防いでいる間に、火魔法で獣を追い払うのが仕事だ」

 「あんたは公爵様の所に乗り込んだ魔法使いだろう。土魔法の事が判るのか?」
 「雷撃魔法と火魔法だけじゃ無いのか?」
 「土魔法が使えるなんて聞いて無いけど」
 「火魔法も教えてくれるの? 私はあんな強力な火魔法を使って見たいわ」
 「ああ、壊れた建物を見たが、あれを一発でやったなんて信じられ無かったぜ」

 「言っておくが討伐任務じゃ無いので殺す必要は無い。冒険者が足止めをしている間に、獣の鼻面に一発かまして追い払うだけで良い。威力云々じゃないし、森の中で大規模火魔法なんか使ったら火事になってしまうからな」

 「それは雷撃魔法でも良いのですか?」

 「獣を追い払えるのならな」

 * * * * * * * *

 迎えに来た馬車に雷撃魔法使いも含め六人を乗せ、俺はブレメナウ会長の馬車に同乗する。
 何故かミシェルまで居るではないか。

 「ユーゴ様、私も魔法を見てみたいです!」

 「こらこら、ユーゴ様じゃない。フェルナンド男爵様だ」

 「いえいえ公式の場じゃありませんし、私は冒険者なのでユーゴとお呼び下さい」

 ピクニック気分のミシェルを乗せて馬車は王都を出て30分程走る。
 街道脇に良さそうな草原を見つけたので馬車を街道から草原に乗り入れて貰い、連れてきた魔法使い達を降ろす。

 索敵に危険な野獣の気配は無し。
 ブレメナウ会長に続きミシェルも興味津々で降りてくると、珍しそうに周囲を見回している。
 豪商の娘で病弱の為に生活の殆どを家の中で過ごし、病気が治り王都に出て来たが、供を連れての街の散策しか知らないので無理もないか。
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