妖精族を統べる者

暇野無学

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34 招かざる客

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 ハイド子爵が領地受け取りの為に、アラモナに向けて旅だち静かな午後のひと時の筈が、木陰で微睡む俺の周囲は低空で飛び交う妖精族の子供達で危険地帯と化していた。
 
 《フィーィ、子供達に、もう少し高く飛ぶ様に言ってくれ》
 
 《初めて来た子達が多いのではしゃいでいるんだよ。何せあの塔は評判でねあんなに住み心地が良くて、香りの良い住まいは無いと皆見物に来るのできりがないんだよ》
 
 《それは判るけどさー、逸れよりこんなに沢山来ると泊まれるのかい》
 
 《無理な時は、林に泊まって貰っているので大丈夫だよ》
 
 フィーィ達一族が住まう塔は大評判(妖精族比)になり、入れ代わり立ち代わりって言葉通りの大盛況だ。
 俺はお土産物屋でも遣ろうかなと、本気で思うほどだ。

 一応屋敷は完成しているのだが、今も片隅のドームで寝泊まりしながら働いている者達がぶつかりそうでヒヤヒヤだ。
 今も50人以上が屋敷内の草毟りから馬車道や車回し周辺の手入れと、屋敷外周の掃除にと働いている。
 一人一日の賃金が銅貨5枚5.000ダーラとして、50人居るので一日250.000ダーラだが、彼等が一人前になれば、良い働き手になるだろう。
 俺の腹の上で、でんぐり返りをする子達を見ながらそう思う。
 
 キューロがとんで来て来客を告げた。
 
 「アル、お客様だ! 宰相閣下がお越しだ!」

 「えー・・・呼んでも無いのに面倒な、留守だと言っといて」
 
 「呼んで来るって言っちゃったよ。ホールで待ってるよ」
 
 屋敷のお披露目をする気は無いし、招待したい貴族でもないのに態々来るかねぇ。
 欠伸をしながらホールに行くと、ウーニャ達がアワアワしているし壁際には近衛騎士が10名程立っている。
 ジロリとオーセン宰相を睨むと、後ろに人影が。思わず顔を片手で覆い項垂れてしまった。
 大きな溜息が出たのは俺のせいじゃない!
 
 「何をしているんですか、てか招待していませんよ陛下。王宮を抜け出して来る所でもないはずですがね~」
 
 傍らに控えていた執事のエドルマンやメイドと、ウーニャ達が慌てて跪く。
 
 「あーいいよいいよ立って立って、余計な客だから必要ない」
 
 陛下は爆笑していやがるし、宰相も口を押さえて俯いている。
 近衛騎士の頬が引き攣ってるが、知るか!
 
 「来たものは仕方がない。お茶でも出しましょう。俺の居間で宜しいですね。サロンの方は未だ完成していませんので」
 
 「いやー、すまんなぁアルバート。どんな屋敷か興味が合ってな、彼等が乱舞していると噂になっているぞ」
 
 「エドルマンお茶を頼む。オーセン宰相は、彼から報告は受けて無いんですか」
 
 「そんな面倒な事はしないよ。君が危機的状況になったか、その恐れがあるときのみ報告せよと命じているからね」
 
 肩を竦めて返事の代わりにしておく。
 
 「それにしても良い香りだな、妖精木の香りに似ているが」
 
 黙って天井の一角をを指差す。
 「妖精木ですよ。香炉で燻さ無くてもこの程度の香りは出ます」

 部屋の天井四隅に長さ1メトル程の妖精木が四本ぶら下がっている。
 最も止まり木が二本十字に組まれていて、妖精の子供がぶら下がったり腰掛けたりしている。
 
 「妖精木の真骨頂はこの香りと燻した香りの混合に有るんです。小さな木片しか手に入らないので判らないのでしょう」
 
 「飽きれるね。あんな物をぶら下げている宮殿は存在しないぞ、一欠片に目の色を変えるのに・・・」
 
 「それ、この間エドルマンに言われて初めて知りましたよ。森の奥の裂け目を二つ三つ越えた奥に、倒木として転がっていたのをフィーィ達の好きな香りの木だと聞いたので、少々持って帰っただけですから」
 
 今度は陛下が片手で顔を覆い溜息をついているが、ざまあってところだね。
 
 「ハイド子爵に手土産として渡したのは、俺への嫌がらせか」
 
 「当然です。成りたくもない貴族にされちまったのだから。俺は売りませんよ、欲しければハイド子爵に頼むんですね。この国で妖精木を持っているのは俺とハイド子爵だけですから」
 
 窓を閉め香炉に火を入れて妖精木の削り屑をひと欠片落とす。
 香炉から立ちのぼる馥郁たる香りに、吊されている妖精木の香りが混じり合いより鮮烈な香りに変わる。
 
 「これは、女性陣には教えられないな」
 
 「あ~、これって、結構香りが服に染み込むんですよねぇ~」
 
 陛下の顔を見て、ニヤリと笑ってみせた。
 
 「ところで、空を飛んでいるとの噂は、本当なのか?」
 
 「ええ飛べますよ、教わりましたからね。条件さえ満たせば誰でも飛べます。妖精達を見れば判るでしょう、彼等は誰でも飛べますからね」
 
 「条件とは」
 
 「身体に似合わぬ膨大な魔力ですよ。膨大な魔力を纏って空を跳ぶんです。魔法省の総監辺りなら、ひょっとして飛べるかもですね。でも飛べば多分落ちて死にます。空に落ち地に落ちるって言葉を、理解出来ないでしょうから」

 「アルバートの魔力はどれ位有るのだ」
 
 「以前エスコンティ侯爵様に、高さ18m幅2m長さ600mの塀をほぼ一分で造って見せました。それを4、5個余裕で造れる魔力ですね。妖精族をご覧なさい、身体に見合わない魔力を有していますので魔法も強力ですよ」

 その後は四方山話しとマグレード・バイカル子爵の愚痴を聞かされる羽目になった。
 日頃の行い良からずと、降格処分と転封になったらしい。
 アルバートの所に吸い寄せられる様に馬鹿が集まるな、との厭味と共に子爵位がまた一つ空席になったと歎いている。
 
 厭味は聞きたく無いので、さっさとお帰りを願う。
 エドルマンやメイド達が最敬礼で見送るなか、軽く手を振って終わり。
 やれやれで在る。
 
 それをやれやれで終わらすアルって何者なのと、ウーニャ達に突っ込まれた。

 * * * * * * * *

 三階の内装を手掛けた業者に直径6mの円盤で、中央に1.5mの穴を開けた板を40枚作って貰ったが、外周の直径を少しずつ小さくした物と注文を付ける。
 
 出来上がった40枚を空間収納に納めると、エドルマンに暫く森の里に行って来るからと告げ、後は任せる。
 何かあれば留守番の妖精達に頼んで、森の里迄伝言なり手紙なりで連絡をと頼んでおく。
 
 フィーィ達の一族と共に王都を飛び立つと、遊びに来ていた他の妖精族がそれに続き、三々五々飛び立つ様は、まるで渡り鳥の大群の様である。
 王都を飛び立ち、約6時間程で森の里エルクに到着する。
 村長のヨシュケンさんに挨拶し、妖精族の住居を新たに建てたいと断り、都合の良い場所を教えて貰う。
 
 使っていない土地を示されたので直径約6m少々で、高さ約35mになるが良いのかと確認し、一気に円筒を建てる。
 円筒内で最下層は天井高約2m後は天井高70cmで積み上げて行きランダムに天井高1mとか2mの部屋を作る。
 王都で作ったのと同じだが一回り高くしてある。
 最下層に香炉を置き通路には妖精木を一本縦に取り付けて完成。

 エルクの里と呼ばれているのでエルクの塔と名付け、この地に住まう妖精族に贈る。
 塔事態も喜ばれたが、エルクの塔の呼び名は事のほか喜ばれた。
 聞けば王都の塔は、フィーィ達がアールの塔と名付けて呼んでいるので、自分達の住み家にも名前が欲しかったらしい。
 
 ヨシュケンさんに約束の俺の家を建てたいのたが場所は、妖精族の住居の側でも良いかと許可を貰ってカマボコ型ドームハウスを作って終わり。
 此処はベースキャンプの様なものなので、簡素窮まりない。簡易ベッドとテーブルに椅子を出して食事にする。
 
 《フィーィ、近くに良い香りの木が有る所を知っている? この黒い木だけど》
 
 《アールが魔法の練習をしていた所に、沢山有るよ》
 
 《明日取りに行きたいので案内してね》
 
 《いいよー》
 
 カマボコドームの天井に張られたロープに、ハンモックを吊して寝ているフィーィが手を振って答えてくれる。 
 これから作る妖精族の住居には、必ず妖精木を一本内部に組み込んでいくつもりだ。
 逸れには沢山の妖精木が必要だ。
 
 フィーィ達と以前魔法の練習をした場所に飛び、漆黒の妖精木を探す。
 腕程の太さの木よりも5,6cmの太さの木の方が良く香るとは知らなかったし、生木よりも良く乾燥した木の香りが素晴らしかった。
 エルクの塔の妖精木を細いのに取り替えよう。
 王都の塔のも交換して、太いのは奴に売り付けてやろうと悪巧み。

 妖精木は不思議な木で余り枝を出さない、根本から真っすぐに伸びていてときたま二股の枝分かれが見られる。
 鑑定してみて驚いたのは妖精木の若葉が、ハイポーションの原料の一つだ。
 最近鑑定を使っていなかったのでビックリ、以後事有る毎に鑑定を使って能力アップに努めよう。
 5、6cmの太さの木ばかり集めたが、この太さだと長さは精々6、7mしかなかった。
 
 嬉しい余禄は宝珠果,連結果と呼ばれる果実を見つけた事だ、実が三個ずつずれて縦に実り一粒が約4cm、16~19粒の房になる。宝石の様な色取りどりの透き通った美しい実だ。
 爽やかな何とも言えぬ甘さと、それぞれの粒が微妙に味が違うのだ。
 この実は妖精族の為に備蓄する事にして、夕方まで果実の収穫に充てた。
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