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073 危険な理由

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 現在谷底の森にはコルツ,エイフ,カロカ,ブルムの四人しか下りることが出来ないし、彼等も危険度が格段に跳ね上がっていると言っている事。
 故にゴールド,プラチナランカー達は地の底の入り口で待機している。
 俺が到着次第、岩山への通路を通って交代要員と護衛のゴールド,プラチナランカーを、連れて行って欲しいとの事だ。

 それと負傷して動けないでいる彼等を、治療してくれるなら一人金貨100枚の報酬を出すと王家からの伝言だそうだ。
 王家も、稼ぎを守る高ランク冒険者が減るのは痛いから、太っ腹だね。

 その夜は、フェリザイ邸に一泊し歓待を受ける事になった。
 翌日乗ってきた馬車を預けフェリザイ伯爵の馬車で、ゾルクの森入り口のベースキャンプに向かった。

 このベースキャンプにもシルバーランクの冒険者が多数いたが、暇そうにしていて新たにやって来た俺達に興味津々で見ている。
 然し、ベースキャンプの責任者が上官に対する態度で応対をしているのを見て、手出しはしてこない。
 ヤハンとハインツは興味深げに其れを見ているが、素知らぬ顔をしてくれている。

 ・・・・・・

 地の底のベースキャンプには、多数の高ランク冒険者が屯していたが雰囲気が暗い。
 責任者を呼び出し、負傷している冒険者達の元に案内してもらう。

 「何だ、治癒魔法使いが来ると聞いていたんだが、小僧っ子で大丈夫かよ」

 「嫌なら寝ていろ。嫌がる奴を治しても仕方がないからな」

 兵舎の様にベッドが二列に並び、重傷者8名と少しマシな者5名が居る。

 一番近い所の奴の手を握り魔力を流し込み広げていく、ものの一分も掛からず怪我が完治する。
 文句を言った奴を避けて次の男の手を取る。
 目の前で次々に負傷者が治っていくのを目を丸くして見ていたが、俺を馬鹿にした奴が文句を言ってくる。

 「おい、俺も治せよ!」

 「どうしてだ、疑う様な奴を治す気は無いから黙ってろ」

 その男は完全無視して、皆を治し暫くは体力の回復に励む様に告げて部屋を出る。

 後ろで〈俺も治せ〉と言った男が喚いているが、知るか!

 無事な高ランク冒険者と採掘作業の交代要員を集め、明日の予定を告げる。

 「ちょっと待ってくれ、いきなりやって来てリーダー面して彼此言われてもなぁ。お前が仕切るだけの、実力が在るかどうか教えてくれ。役人や兵に顔が利くからって、腕が良いとは限らないからな。俺達も死にたくはないんだよ」

 衛兵に、コルツやカロカ,エイフ達が居るなら呼んできてくれと頼む。

 「ハルト、あんたが来てくれたんだ」

 「どんな塩梅だ?」

 〈どんなも何も、高ランク冒険者だからと言って俺達の指示に従わないから、犠牲が出まくりだぜ。然も、其れを俺達のせいにする〉
 〈ゴールド,プラチナランカーと謂えども、谷底の森では素人同然だと何度言っても駄目さ〉
 〈あんたの、足下にも及ばないぜ〉
 〈まぁ、あんたはドラゴンを手玉に取る別格だけどな〉

 〈ドラゴンを手玉に取るだと、嘘を言うな!〉
 〈法螺を吹くにも程があるぞ〉
 〈一丁、模擬戦でもしてみるか〉

 立ち上がった奴に、ドラゴン相手のように殺気をぶつける。
 一瞬で足が止まり顔色が変わる。
 男の周囲の者も、余波でビクッとしたり腰の剣に手を掛ける。

 〈言っても信用しないだろうし、口止めされてたからな〉
 〈ハルトって、公爵様になったんだってな。谷底の森の事以外、何を喋っても構わないと言われたが、言っても信用されない事ばかりだから言わなかったけど〉
 〈あんたが掃除をしてくれたら、俺達も動きやすくなるよ〉

 「あんた達は王家に雇われているんだろう。明日から交代要員の護衛で岩山に向かって貰うが、交代要員の周囲にいてくれれば良い、出会う野獣や魔獣は俺が討伐する」

 〈出来なかったら俺達は逃げるぞ〉
 〈此処で幾ら大口を叩いても、下では役に立たない奴が多いからな〉

 「恐かったら来なくても良いさ、交代要員を送ったら向こうの奴を連れて帰るから、其れ迄此処で見ていろ」

 ヤハンとハインツにランク7と8のマジックポーチ預け、討伐した獲物の回収と種類を記入し数を数えておいてくれと頼む。
 何で数なんてと不思議がるので、獲物の代金とは別に、一頭に付き金貨20枚貰える約束だと告げると呆れている。

 〈相変わらず、ハルトって無茶苦茶だよな〉
 〈何時ものことだから驚かないけど、王家も張り込んだね〉

 ・・・・・・

 交代要員は12名、彼等の護衛にゴールド,プラチナランクの冒険者8名と俺達5人で地の底入り口の崖に作られた階段を下り、最後のロープで下りる準備をしている時、餌が来たとグレイウルフの群れが現れた。

 「ハルトお願いね」

 そう一言告げて、エイフがロープを使って滑り降りていく。

 〈オイオイ死ぬ気かよ〉
 〈馬鹿! 止めろ!〉

 近づいて来るグレイウルフを、アイスランスの連続攻撃で仕留めていく。
 9連射、串刺しで動かなくなるグレイウルフを見て、護衛の冒険者達が静かになる。

 「おらっ、護衛から下りろ! 降りたら一塊になれ! エイフ、先頭で道案内を頼むよ」

 〈はいよ〉と軽い返事で、下りてくる者達のサポートをしている。
 最後に下りると、討ち取ったグレイウルフを回収して出発だ。

 歩き始めて30分もせずにビッグエルクと遭遇、草食獣とはいえ谷底の森に生きる奴は気が荒い。
 出会ったら追い払うが基本だが今回は別、突進してくる奴の正面から、胸に一撃入れて倒す。
 追い払うのは小さい奴、と言っても上の森なら立派な個体だ。

 ビッグフォックス,アーマーボア,ビッグボア,ブラックベアと次々に現れる。
 確かに、此れじゃ高ランク冒険者と謂えども討伐は大変だわ。
 ブラウンベアが茂みで喧嘩をしているところに出会したが、護衛の冒険者達が顔を引き攣らせて俺を見ている。
 体長4メートル近い雄熊が、獰猛な唸り声を上げて喧嘩していては近寄る気にもならないだろう。

 喧嘩の仲裁に来た訳じゃないので、ブラウンベアの頭をアイスランスで射ち抜き、回収して先を急ぐ。
 この頃になると、高ランク冒険者としてのプライドより、討伐は俺に任せて見物する気満々だ。

 最初のベースキャンプで休憩するときには、高ランク冒険者達もエイフの指示に素直に従っている。
 出会う獣の討伐と回収に時間が掛かり、その日は三つ目のベースキャンプ泊まりとなってしまった。

 エイフに話を聞くと、一人なら野獣や魔獣を何とかやり過ごせるが、それでも以前より格段に危険になったとぼやいている。
 王国の土魔法使い達が、避難所を沢山作ってくれているのが救いだと言っているが、それも限度がある。

 翌日、エイフが最後の難関だと言う岩山の近くに着いたが、確かに難関である。
 以前、お昼寝中のドラゴンとこんにちはした場所の近くで、寛ぐ個体を発見。
 エイフに周辺の安全確認をして貰い、皆を待たせて一人ドラゴンの寛ぐ場所に出て行く。

 以前討伐した、大きい方のドラゴンと遜色ない大きさに見える奴が、のそりといった感じで立ち上がる。
 しゅるりといった感じで、長い舌を出しながら近づいてくる。
 完全に俺を餌認定しているが、残念ながら死ぬのはお前だ。

 正面からは仕留め辛いので舌が伸びたタイミングで口内にアイスバレットを叩き込むと、驚いて首を振る。
 その横顔に向けアイスジャベリンを一発射ち込むと、衝撃で頭を仰け反らせながら転倒する。
 死の痙攣を見ながらヤハン達を呼び寄せ、先に交代要員を岩山に登らせる。

 「何時もながら見事な手並みだが、ドラゴンが可哀想になるから不思議だよ」

 ミューザがのんびりと感想を述べる隣で、ヤハンとハインツが恐々とドラゴンの頭を見ている。
 その後ろで、護衛の冒険者達がドラゴンを子細に見聞している。

 「なぁ、あんた・・・以前のドラゴンも、あんた一人で討伐したんじゃないのか」

 真剣な顔で尋ねてくるが、詳細に話す気は無いので肩を竦めるだけにしておく。

 〈見ろよ、頭を撃ち抜いているが、反対側に大穴が開いているぞ〉
 〈絶対、以前のドラゴン討伐も奴だろう〉
 〈案内人の奴が、ドラゴンを手玉に取るって言ってたが、法螺話だと思ったが奴の事だよな〉
 〈並みの魔法使いじゃ通用しないのがよく判るよ〉
 〈噂に聞くドラゴンスレイヤーは、全て一流の魔法使い達ばかりだからな〉 〈然も、無詠唱で連続攻撃ときた〉
 〈氷の防壁も一瞬だったし、一人でこの森を自由に歩くってのも頷けるよ〉 〈ドラゴンを相手にしようとは思わないが、せめて魔獣や野獣を相手に出来る腕にならないと話しにならんな〉
 〈プラチナランカーの名が泣くわ〉

 エイフに手伝って貰い11.5メートルのところで切り離す為に凍らせアイスバレットを撃ち込んで尻尾を斬り落とす。

 「15メートルってとこだね。以前の奴より少し小さいな」

 ミューザの感想に、ヤハンとハインツが喰いつく。

 〈ドラゴン討伐に、同行したの?〉
 〈若しかしてホラン達と来たことあるの?〉
 〈まあな、一応秘密だったからな。今はこうして大っぴらに討伐してるから、喋っても良いだろう。ハルトのアイスジャベリンも、前より威力が上がってるよな〉

 ランク12のマジックポーチを取り出し、ドラゴンを仕舞って岩山に登る。
 その夜、以前は谷底の森で獣の討伐をしていた奴等はどうしたのか、エイフに尋ねると馬鹿な答えが返ってきた。
 谷底の森が王家の直轄地になり、地の底からの出入り口を使って下に下りる以外の方法が禁止された。

 その時、許可された薬草採取以外の者には谷底の森に下りることが禁止されてしまったそうだ。
 エイフやカロカ達は、谷底の森で獣の討伐をする者が居なくなるのは不味いと訴えたが、ゾルクの森の管理者は取り合ってくれなかったって。
 彼等から、代官に危惧を伝える術がなく、どうしようもなかったと言われた。
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