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本編
10. "ghost knight" / Ayagi
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〈綾祇視点〉
「そろそろ綾祇くんを紹介しようと思うんだけど、どうかな?」
悠祈さんが突然よくわからない問いかけをしてきたのは、ある日の夕食時。
どうかな?って聞かれても、何がどうなのかがわからないんだけど…。
きょとんとしてウィンさんを見ても、こっちも「ちょうどいいかもしれませんね」なんて頷いてて、おれはさらに混乱してる。
「…あの、紹介って…?」
とりあえず、何を聞かれてるのかわからないうちはどうもこうもない。
やっと絞り出した質問に、悠祈さんとウィンさんが二人揃っていたずらっぽく笑う。
この二人がこういう顔するのって珍しいけど、あんまりいい予感がしない。
ヒヤリとしたものが背中を伝った。
「それはこの後のお楽しみ、かな。食後はみんなで ”夜のお散歩” だね」
心なしか楽しそうな声なのは、気のせいだと思いたい。
夜のお散歩、なんて可愛く言い換えても、いい意味に捉えられない。
だって、”夜のお散歩”って、悠祈さんがやってるあの見回りのことでしょ?
ウィンさんとの夜のお茶会で聞いた、死神とかオバケとかいっぱいウヨウヨ出てくるやつ。
死神なんて命狙ってくるから恐怖だし、オバケだって…なんか怖いじゃん!
おれ、オバケ苦手なのに!!!
悠祈さんもウィンさんもそれ知ってるのに!!!
前に一回、学校終わるの遅くなって暗くなってから帰ってきた時、この屋敷の前にいっぱい白い影がいて、なんかこっち見て一斉に話しかけてきて、まじで怖くて玄関に駆け込んだの知ってるくせに!!!
急にお腹痛くなって一緒に行けない、とかそういうミラクル起きないかな?!
結局、夜のお散歩で何が起こるのか分からなくて、恐ろしくて、その後の食事は全く味がしなかった。
せっかくウィンさんが作ってくれた最高に美味しいご飯のはずなのにな…。
食事が済んで、おれとウィンさんが片付けている間に、悠祈さんがいつもの制服に着替えてた。
ホント、この人、なんでこんなに真っ白な制服が似合うんだろう。
かっこいい、というよりも、綺麗とか、清廉とか、高貴とかなんかそういう言葉がしっくりくる。
だからこそ、私服もなんとかしたくて、おれが勝手にコーディネートしてるんだけど。
毎日見慣れた姿なのに、相変わらずぼけっと見つめてたら、悠祈さんに小さく笑われた。
あー、くそ!これもいつも通りだ!いつもばれないように見ようって思うのに、絶対バレる。なんで?
そっぽむいて、火照った顔を落ち着かせてるうちに、ウィンさんとイヴもやってきた。
もうこれで逃げられないんだな…夜のお散歩。
とりあえず、オバケに出会っても見なかったことにしよう。
3人と1匹で歩きながら、悠祈さんとウィンさんがいろいろなことを教えてくれた。
悠祈さんの管理してるクルスという街は、シアンの中でも死神に狙われやすい街らしい。
学校に通いはじめて、聖職者の仕事については色々教わったし知ってるつもりだったけど、改めて「大変そうだな」って思った。
悠祈さんはなんて事ないように言ってるけどさあ。
「ここですよ」
楽しくおしゃべりしてるうちに、目的地についたらしい。案外近い。
目の前には遠くまで広がる墓標の数々。
これ、もしかして、クルスの共同墓地?
悠祈さんを見上げると、おれの思ったことが伝わったのか、一つ頷いてくれた。
「ここがこの街の共同墓地です。屋敷の裏手なんですけどね」
悠祈さんの言葉に、ウィンさんも頷いている。
まさか、こんな大きな墓地があの屋敷の裏手にあったなんて。
あ。でも前にウィンさんが、「墓守は死者の魂が不用意に刈り取られないよう、墓地を見守るのが仕事なんですよ」って言ってた。
そう考えると、確かに…屋敷の近くにある方が安全なのか。
ぐるりと辺りを見回すと、月明かりに照らされた墓標が、不思議な輝きを放っている。
すごく神秘的で…
「…きれいだ…」
思わず出てしまった言葉にハッとして口を押さえる。
けど、もう出ちゃったし、どうしよう…ヤバイ、怒られる…
オロオロして悠祈さんを見上げたら、なんか、柔らかく笑ってる。あれ?怒ってない?
ウィンさんを見ても、やっぱり温かい目で見てくれてる。…怒ってないの?
よく分からなくて呆然としていると、悠祈さんは左手を出して、何か小さく呟いた。
そしたら、いきなりブワッと風が吹いて、おれは思わず目をつぶってしまった。
「ユウキ!ウィンも!あ、イヴもいる!こんばんは!」
「おお、ユウキ!待ちくたびれたぞ!」
「今日も目の保養になるのぅ。眼福、眼福」
「あらあ、王子様。相変わらず麗しいお顔だわねぇ。アタシが生きてたらお相手して欲しいくらいだわぁ」
「何を言ってるか。あんたじゃ物足りないだろうに」
「なんだい、今夜はお客さんがいるのかい?」
「おや、めずらしい。ずいぶん可愛い子を連れてるねぇ」
「だが強い霊力を感じるぞ」
「ユウキの言っていたすごい子かね」
何やら賑やかな声が聞こえて、恐る恐る目を開けると、おれの前に立ってた悠祈さんの周りに白いものが群がっている。
よくよく見ると、口髭が生えていたり、魔女みたいな帽子をかぶっていたり、ちょっと全体的に小さかったりするけれど、みんな半分透けていて、足がない。
ギョッとしてウィンさんをみれば、口パクで「幽霊ですよ」と教えてくれた。
え。
幽霊?!?!?!
ヤバイ、どうしよう、おれ、食われる?!
っていうか悠祈さんが危ない?!?!
ざっと血の気が引くのが自分でもわかる。
なのに、悠祈さんはのほほんとしてるし、なんならオバケと会話?してるっぽい。
何、これ、どういうこと????
ひとりで慌ててたけど、悠祈さんに手招きされて、渋々足を進めた。
もう心の中は半泣きだ!
苦手なオバケが群がってるところに呼ぶなんて、悠祈さんの鬼!
とりあえず近くに行けば満足してくれるだろうと思ったら、まさか背中を押されてオバケの目の前に差し出されるなんて!!!
普段のおれと全然違うと笑われてもいいや、と半泣きで悠祈さんを振り返った時、
「この子が綾祇くんです。今は僕の屋敷で生活してるんです。お察しの通り、すごく霊力が高くて、死神に何度も狙われていて…。今は少しずつ霊力制御を学んでいるところなのですが」
悠祈さんがおれの肩を宥めるように優しく叩いて、オバケたちに紹介している。
あ、紹介って、このことだったのか。
なんかひとりで慌てて半泣きになって、すごい恥ずかしくなってきた。
急いで悠祈さんから視線をそらしてオバケの方を見ると、みんなおれの方を見てうんうんと頷いている。
「なるほど。では、わしらはこの子があやつらに狙われることのないよう、注意しておれば良いかな」
「確かに、これだけ霊力が高ければ、死神のやつらが狙ってくるものね」
「そうしてもらえるととても助かるよ」
おれは、年配のおじいちゃんっぽいオバケの言葉にびっくりして目を剥いた。
まさかオバケたちが守ってくれるってこと?
悠祈さんの言葉に、周りにいる他のオバケたちも、「任せとけ」とかっこいい笑顔で親指を立てている。
ウィンさんも「よろしくお願いしますね」といつものお母さんっぽい笑顔で話しかけていて…。
おれの知らないところで、おれのことを考えてくれる人がいることに、すごくムズムズした気持ちになった。
この人たちは、よく知らないおれのために、何かをしようとしてくれてる。
今までおれの周りにいた、家族とか知り合いとか、そういう人たちとは全然違う。
「…綾祇って言います。あの…よろしくお願いします」
なんて言っていいか分からなくて、でも自分の言葉で何か言わなくちゃと思って。
やっと言えたのはごくありふれた一言。
それでも、いつの間にかおれたちの周りに集まってたオバケたちが、おれの言葉を聞いて、ニカっと笑って頷いてくれた。
近くにいた年上のあんちゃんみたいなオバケは、触れないのにおれの肩の辺りをバンバン叩く仕草をして「おうよ!」と言ってくれた。
14年生きてて、こんなこと、今までなかったな…。
それからしばらく、おれたちは墓地の芝生に座り込んでオバケたちと賑やかにおしゃべりした。
悠祈さんとウィンさんとイヴはおじいちゃんオバケたちと何やら深刻そうに話してたから、お邪魔するわけにもいかず。
おれはさっき肩を叩いてくれたあんちゃんオバケと他の何人かのオバケたちから色々な話を聞いた。
「ユウキはめちゃくちゃ強いんだぞ!なんせ俺たち幽霊の”騎士様”だからな!」
「幽霊の騎士って?」
「お、知らねーのか!ユウキは墓守だろ?墓守ってのは”幽霊の騎士”って言われててな」
「共同墓地の幽霊を死神から守っているでしょ?だから、”幽霊の騎士”って言われてるんだよ~」
「ボクらも弱いわけじゃないんだけど、死神ってえげつない作戦でくるからねぇ」
「ユウキさんたち”幽霊の騎士”のみなさんの守護を得ているおかげで今は少し安心ですけどね」
オバケたちが嬉々として語る悠祈さんの話は、どれも初めて知ったことで面白かった。
ここのオバケたちの一部は悠祈さんと契約してて、街の守護の手伝いをしてるみたい。
特に今日集まってるオバケたちは、悠祈さんと契約したオバケなんだとか。
でも精霊ではないって言ってた。ウィンさんとは違うみたいだ。
ウィンさんは悠祈さんと契約したおかげで、幽霊にならずに精霊になったっていってたけど…ウィンさんは特別なのかな?
そんな楽しい話をひとしきりしたところで、だいぶ夜が更けてしまっていることに気づいた。
楽しいおしゃべりの時間はおしまい、残念。
悠祈さんたちと屋敷に戻る道すがら、オバケたちから聞いた”幽霊の騎士”って呼び名のことを質問したら、悠祈さんは視線をそらして、ウィンさんはなぜかクスクス笑っていた。
先にどんどん歩いて行ってしまう悠祈さんに聞こえないように、「悠祈サン、その呼び名だけはバレたくなかったんです」とこっそりウィンさんが教えてくれた。
なんでも、「騎士」と言われるのが照れ臭いらしい。意外だ。
あと、「目の保養」とか「眼福」とか「王子」とか言われてるのも、本当は内緒にしたかったみたい。
いいじゃん、王子様。悠祈さんなら王子様でも騎士様でも似合ってるけど…。
屋敷に戻って、お風呂に入ってからベッドに潜り込んで…今夜の出来事を思い出した。
オバケって怖いって思ってたけど、あの墓地で出会ったあのオバケたちは怖くなかった。
不思議とあったかい感じがした。
今まで出会ったどんな人たちよりも、今おれの周りにいる人たちはあったかい。
悠祈さんも、ウィンさんも、イヴも、あのオバケたちも。
今のおれはすごく恵まれてるんだな、って実感した。
おれの力じゃまだまだ役に立てないけど、いつか、何かを手伝えるようになれたらいいな…
今日改めて実感した温かさに、なんとも言えないむず痒い気持ちになりながら眠りについた。
明日からまた頑張ろう、そう決意して。
「そろそろ綾祇くんを紹介しようと思うんだけど、どうかな?」
悠祈さんが突然よくわからない問いかけをしてきたのは、ある日の夕食時。
どうかな?って聞かれても、何がどうなのかがわからないんだけど…。
きょとんとしてウィンさんを見ても、こっちも「ちょうどいいかもしれませんね」なんて頷いてて、おれはさらに混乱してる。
「…あの、紹介って…?」
とりあえず、何を聞かれてるのかわからないうちはどうもこうもない。
やっと絞り出した質問に、悠祈さんとウィンさんが二人揃っていたずらっぽく笑う。
この二人がこういう顔するのって珍しいけど、あんまりいい予感がしない。
ヒヤリとしたものが背中を伝った。
「それはこの後のお楽しみ、かな。食後はみんなで ”夜のお散歩” だね」
心なしか楽しそうな声なのは、気のせいだと思いたい。
夜のお散歩、なんて可愛く言い換えても、いい意味に捉えられない。
だって、”夜のお散歩”って、悠祈さんがやってるあの見回りのことでしょ?
ウィンさんとの夜のお茶会で聞いた、死神とかオバケとかいっぱいウヨウヨ出てくるやつ。
死神なんて命狙ってくるから恐怖だし、オバケだって…なんか怖いじゃん!
おれ、オバケ苦手なのに!!!
悠祈さんもウィンさんもそれ知ってるのに!!!
前に一回、学校終わるの遅くなって暗くなってから帰ってきた時、この屋敷の前にいっぱい白い影がいて、なんかこっち見て一斉に話しかけてきて、まじで怖くて玄関に駆け込んだの知ってるくせに!!!
急にお腹痛くなって一緒に行けない、とかそういうミラクル起きないかな?!
結局、夜のお散歩で何が起こるのか分からなくて、恐ろしくて、その後の食事は全く味がしなかった。
せっかくウィンさんが作ってくれた最高に美味しいご飯のはずなのにな…。
食事が済んで、おれとウィンさんが片付けている間に、悠祈さんがいつもの制服に着替えてた。
ホント、この人、なんでこんなに真っ白な制服が似合うんだろう。
かっこいい、というよりも、綺麗とか、清廉とか、高貴とかなんかそういう言葉がしっくりくる。
だからこそ、私服もなんとかしたくて、おれが勝手にコーディネートしてるんだけど。
毎日見慣れた姿なのに、相変わらずぼけっと見つめてたら、悠祈さんに小さく笑われた。
あー、くそ!これもいつも通りだ!いつもばれないように見ようって思うのに、絶対バレる。なんで?
そっぽむいて、火照った顔を落ち着かせてるうちに、ウィンさんとイヴもやってきた。
もうこれで逃げられないんだな…夜のお散歩。
とりあえず、オバケに出会っても見なかったことにしよう。
3人と1匹で歩きながら、悠祈さんとウィンさんがいろいろなことを教えてくれた。
悠祈さんの管理してるクルスという街は、シアンの中でも死神に狙われやすい街らしい。
学校に通いはじめて、聖職者の仕事については色々教わったし知ってるつもりだったけど、改めて「大変そうだな」って思った。
悠祈さんはなんて事ないように言ってるけどさあ。
「ここですよ」
楽しくおしゃべりしてるうちに、目的地についたらしい。案外近い。
目の前には遠くまで広がる墓標の数々。
これ、もしかして、クルスの共同墓地?
悠祈さんを見上げると、おれの思ったことが伝わったのか、一つ頷いてくれた。
「ここがこの街の共同墓地です。屋敷の裏手なんですけどね」
悠祈さんの言葉に、ウィンさんも頷いている。
まさか、こんな大きな墓地があの屋敷の裏手にあったなんて。
あ。でも前にウィンさんが、「墓守は死者の魂が不用意に刈り取られないよう、墓地を見守るのが仕事なんですよ」って言ってた。
そう考えると、確かに…屋敷の近くにある方が安全なのか。
ぐるりと辺りを見回すと、月明かりに照らされた墓標が、不思議な輝きを放っている。
すごく神秘的で…
「…きれいだ…」
思わず出てしまった言葉にハッとして口を押さえる。
けど、もう出ちゃったし、どうしよう…ヤバイ、怒られる…
オロオロして悠祈さんを見上げたら、なんか、柔らかく笑ってる。あれ?怒ってない?
ウィンさんを見ても、やっぱり温かい目で見てくれてる。…怒ってないの?
よく分からなくて呆然としていると、悠祈さんは左手を出して、何か小さく呟いた。
そしたら、いきなりブワッと風が吹いて、おれは思わず目をつぶってしまった。
「ユウキ!ウィンも!あ、イヴもいる!こんばんは!」
「おお、ユウキ!待ちくたびれたぞ!」
「今日も目の保養になるのぅ。眼福、眼福」
「あらあ、王子様。相変わらず麗しいお顔だわねぇ。アタシが生きてたらお相手して欲しいくらいだわぁ」
「何を言ってるか。あんたじゃ物足りないだろうに」
「なんだい、今夜はお客さんがいるのかい?」
「おや、めずらしい。ずいぶん可愛い子を連れてるねぇ」
「だが強い霊力を感じるぞ」
「ユウキの言っていたすごい子かね」
何やら賑やかな声が聞こえて、恐る恐る目を開けると、おれの前に立ってた悠祈さんの周りに白いものが群がっている。
よくよく見ると、口髭が生えていたり、魔女みたいな帽子をかぶっていたり、ちょっと全体的に小さかったりするけれど、みんな半分透けていて、足がない。
ギョッとしてウィンさんをみれば、口パクで「幽霊ですよ」と教えてくれた。
え。
幽霊?!?!?!
ヤバイ、どうしよう、おれ、食われる?!
っていうか悠祈さんが危ない?!?!
ざっと血の気が引くのが自分でもわかる。
なのに、悠祈さんはのほほんとしてるし、なんならオバケと会話?してるっぽい。
何、これ、どういうこと????
ひとりで慌ててたけど、悠祈さんに手招きされて、渋々足を進めた。
もう心の中は半泣きだ!
苦手なオバケが群がってるところに呼ぶなんて、悠祈さんの鬼!
とりあえず近くに行けば満足してくれるだろうと思ったら、まさか背中を押されてオバケの目の前に差し出されるなんて!!!
普段のおれと全然違うと笑われてもいいや、と半泣きで悠祈さんを振り返った時、
「この子が綾祇くんです。今は僕の屋敷で生活してるんです。お察しの通り、すごく霊力が高くて、死神に何度も狙われていて…。今は少しずつ霊力制御を学んでいるところなのですが」
悠祈さんがおれの肩を宥めるように優しく叩いて、オバケたちに紹介している。
あ、紹介って、このことだったのか。
なんかひとりで慌てて半泣きになって、すごい恥ずかしくなってきた。
急いで悠祈さんから視線をそらしてオバケの方を見ると、みんなおれの方を見てうんうんと頷いている。
「なるほど。では、わしらはこの子があやつらに狙われることのないよう、注意しておれば良いかな」
「確かに、これだけ霊力が高ければ、死神のやつらが狙ってくるものね」
「そうしてもらえるととても助かるよ」
おれは、年配のおじいちゃんっぽいオバケの言葉にびっくりして目を剥いた。
まさかオバケたちが守ってくれるってこと?
悠祈さんの言葉に、周りにいる他のオバケたちも、「任せとけ」とかっこいい笑顔で親指を立てている。
ウィンさんも「よろしくお願いしますね」といつものお母さんっぽい笑顔で話しかけていて…。
おれの知らないところで、おれのことを考えてくれる人がいることに、すごくムズムズした気持ちになった。
この人たちは、よく知らないおれのために、何かをしようとしてくれてる。
今までおれの周りにいた、家族とか知り合いとか、そういう人たちとは全然違う。
「…綾祇って言います。あの…よろしくお願いします」
なんて言っていいか分からなくて、でも自分の言葉で何か言わなくちゃと思って。
やっと言えたのはごくありふれた一言。
それでも、いつの間にかおれたちの周りに集まってたオバケたちが、おれの言葉を聞いて、ニカっと笑って頷いてくれた。
近くにいた年上のあんちゃんみたいなオバケは、触れないのにおれの肩の辺りをバンバン叩く仕草をして「おうよ!」と言ってくれた。
14年生きてて、こんなこと、今までなかったな…。
それからしばらく、おれたちは墓地の芝生に座り込んでオバケたちと賑やかにおしゃべりした。
悠祈さんとウィンさんとイヴはおじいちゃんオバケたちと何やら深刻そうに話してたから、お邪魔するわけにもいかず。
おれはさっき肩を叩いてくれたあんちゃんオバケと他の何人かのオバケたちから色々な話を聞いた。
「ユウキはめちゃくちゃ強いんだぞ!なんせ俺たち幽霊の”騎士様”だからな!」
「幽霊の騎士って?」
「お、知らねーのか!ユウキは墓守だろ?墓守ってのは”幽霊の騎士”って言われててな」
「共同墓地の幽霊を死神から守っているでしょ?だから、”幽霊の騎士”って言われてるんだよ~」
「ボクらも弱いわけじゃないんだけど、死神ってえげつない作戦でくるからねぇ」
「ユウキさんたち”幽霊の騎士”のみなさんの守護を得ているおかげで今は少し安心ですけどね」
オバケたちが嬉々として語る悠祈さんの話は、どれも初めて知ったことで面白かった。
ここのオバケたちの一部は悠祈さんと契約してて、街の守護の手伝いをしてるみたい。
特に今日集まってるオバケたちは、悠祈さんと契約したオバケなんだとか。
でも精霊ではないって言ってた。ウィンさんとは違うみたいだ。
ウィンさんは悠祈さんと契約したおかげで、幽霊にならずに精霊になったっていってたけど…ウィンさんは特別なのかな?
そんな楽しい話をひとしきりしたところで、だいぶ夜が更けてしまっていることに気づいた。
楽しいおしゃべりの時間はおしまい、残念。
悠祈さんたちと屋敷に戻る道すがら、オバケたちから聞いた”幽霊の騎士”って呼び名のことを質問したら、悠祈さんは視線をそらして、ウィンさんはなぜかクスクス笑っていた。
先にどんどん歩いて行ってしまう悠祈さんに聞こえないように、「悠祈サン、その呼び名だけはバレたくなかったんです」とこっそりウィンさんが教えてくれた。
なんでも、「騎士」と言われるのが照れ臭いらしい。意外だ。
あと、「目の保養」とか「眼福」とか「王子」とか言われてるのも、本当は内緒にしたかったみたい。
いいじゃん、王子様。悠祈さんなら王子様でも騎士様でも似合ってるけど…。
屋敷に戻って、お風呂に入ってからベッドに潜り込んで…今夜の出来事を思い出した。
オバケって怖いって思ってたけど、あの墓地で出会ったあのオバケたちは怖くなかった。
不思議とあったかい感じがした。
今まで出会ったどんな人たちよりも、今おれの周りにいる人たちはあったかい。
悠祈さんも、ウィンさんも、イヴも、あのオバケたちも。
今のおれはすごく恵まれてるんだな、って実感した。
おれの力じゃまだまだ役に立てないけど、いつか、何かを手伝えるようになれたらいいな…
今日改めて実感した温かさに、なんとも言えないむず痒い気持ちになりながら眠りについた。
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