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第683話 今の内にお前を最強にする!

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「ししどールリです!」
獅子堂玄ししどうげんだ。ウチの宇宙一最高な孫娘が世話になった」

 イカれた番長の乱が終わった商店街にて、俺は改めてジィさんとロリっ子に挨拶を交わす。

七海智人ななみのりとです。なんかすみません。あの番長は俺の因縁でして……」
「気にするな。ああ言う輩は何度でも繰り返す。その為に警察と刑務所があるんだぜ? 通報は市民の義務だ!」
「ぎむだ!」

 市民……と言うよりは搭載する戦闘力があまりにも強大過ぎるジィさんだよなぁ。ユニコ君と言い、こんなのが平然と徘徊してる日本は何で戦争に負けたんだ?

「ノリトありがと!」

 ロリっ子は良い笑顔で俺を呼び捨て……ふむ。

「えっと、ルリちゃん? 俺の事はノリト兄ちゃんって呼んでくれる?」
「ノリトにいちゃん!」

 ふぃ。家族以外の女性からの呼び捨ては俺の中では特別な意味があるのできちんと訂正しておかねば。

「“七海”……か。ノリト。お前は姉がいるか?」
「え?」
「髪は染めてるが、どことなく晋作の面影がある。親しみやすさは紬だな」

 親父と母さんの名前が出てきた。姉の事も言及しているみたいだし、このジィさんはウチとどんな関係だ?

「あの……ウチの家族とどんな関係で?」
「仕事仲間って所だ。ケイに関しては同僚だぜ」
「だぜ!」

 可愛いロリっ子のマネマネは置いといて、姉貴の同僚?

「って事は……姉の会社ですか?」
「おうよ。同じ会社の幹部な。昔はアイツの通う大宮司道場に良く顔を出してたんだぜ? お前も弟なら知ってると思うが、ケイのヤツは死ぬほど負けず嫌いだろ? 何度も向かって来てよ、その都度投げてやったぜ! 高校生時代の頃からな! 絶対に俺を投げるとか言いつつ、未だに俺に負け続けだ! ガハハ!」
「がはは!」
 
 と、笑う二人。姉貴はこんな人外じみたジィさんに高校生時代から戦り合ってたのか。そりゃ……人外に片足突っ込むハズだぜ。

「まぁ、七海家との関係は晋作が最初だけどな」
「親父とですか?」
「晋作がまだ自衛官の頃にダチのツテで特別柔術講師として出向いた事があってな。その時にアイツの網膜剥離の兆候に気づいたんだよ」
「……え? 網膜剥離? 父がですか?」
「晋作から聞いてないのか?」
「初耳です」

 初めて聞いた。
 高校時代に姉貴が網膜剥離の手術を受けた事は知っていたが、まさか親父も同じ症状を患っていたなんて。

「危なかったぜ。アイツは空軍所属で生粋の戦闘機乗りだったからな。任務中に症状が酷くなったら最悪死んでた可能性もある」

 親父……リアルエースコン○ットやってたのか。

「確かに父が自衛官ってのは聞いてましたけど……俺は怪我で退官したとしか聞いてませんよ?」

 何故、網膜剥離が原因だと言う事を伏せたのだろうか。

「ケイにも同じ症状が出たからな」

 ジィさんが、本人達からは語られない心境を語る。

「遺伝性だと思ったんだろう」
「……網膜剥離って遺伝するんですか?」
「科学的根拠は皆無だ。晋作とケイの手術はウチの家内が担当したんだが、発症はただの偶然だってよ。俺もそうだと思ってる。けど、晋作は違ったみたいでな。特にケイの場合は発症したタイミングが悪かった」
「タイミングが?」
「高校三年生の冬だった。お前は幼かったから解らなかったと思うが、当時は防大に合格して行くことが決まってたんだ。けど、手術で辞退するしかなかった。視力も数年間は落ちたらしいしな。晋作のヤツはそれで思い詰めちまった。そんな事もあってお前に網膜剥離だった事を言い出せなかったんだろう」

 結局、姉貴は自衛官を諦めて普通に就職したらしい。

「……なんかムカつく」

 ジィさんからその事を聞いて、俺の中でもやっとした怒りが湧いた。

「あんまり、晋作を責めてやるな。アイツはお前達の事を――」
「違うっすよ。何で教えてくれなかったんだって事です」

 次に俺の口からは、ハァ、と深いため息が出た。
 俺以外の家族全員が知っている事実。向こうは“俺も網膜剥離が発症する”と言う心労を与えない為に黙っていたのだろう。けど、逆にそれはそれでムカつくのだ。

「ガハハ! ケイの弟なだけはある。お前の方から晋作にその気持ちをぶつけてやれ。そうすれば、アイツの心労は全部無くなるだろうからな」
「そうっすね」

 家族でも秘密はあるだろう。しかし、壁を作るような秘密は抱えるべきではない。

「俺の方はルリとの生活で忙しい。そっちはお前に任せるぜ」
「ノリトにいちゃん! がんばれ!」
「ありがとね、ルリちゃん」

 幼い子に慕われると何だか力を貰える気がするな。あ、そうだ。

「獅子堂さん――」
「ゲンで良いぜ。ケイなんかジジィって言ってるしな!」

 アイツも孫娘みたいなモンで生意気だせ! とゲンさんは豪胆に笑う。

「ゲンさん。時間があれば道場に来て、稽古をつけてくれませんか? 勝ちたいヤツがいるんですよ」

 未だにリョウからは白星が取れない。アイツが現役の強さを持ってる内に決着をつけたいのだ。

「ガハハ! 良いぜ! お前はかなりの素質がある。シモンの指導は良くも悪くも万人向けだからな。俺が良い感じにお前の潜在能力を引き出してやるよ」
「じぃ、どーじょーって?」
「ルリも一緒に行くか! 小学に上がれば、悪い虫も寄ってくるかもしれん……今の内にお前を最強にする!」
「さいきょー!」

 こうやって、獅子堂の系譜は継がれて行くわけか……
 俺はルリちゃんが男でなかった事が不幸中の幸いだと感じた。
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