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第682話 き、キェェェェ!!

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「ぬぅぅぅ!!」

 ドンッ! と番長が力強くコンクリートの地面を踏みしめると溜めた正拳をジィさんに突き出す。
 番長の体躯を遺憾なく発揮する様な重々しい一撃は全てを破壊する様な威力を――ポス。

「……え?」
「ん?」
「ユニ?」

 番長、俺、ユニコ君は明らかに人が吹き飛ぶ正拳が、ジィさんに当たった瞬間の音に違和感を感じていた。
 ポス、とまるで壁にビニール袋が当たった様な音に威力もへったくれもない。

「なんだ。坊主……随分と可愛い拳だな」
「き、キェェェェ!!」

 次に番長は金切り声を上げるとジィさんにハイキック! 中腰の安定した姿勢からの奇襲じみた一足! 意外とバネと柔らかさがありやがるな、番長のヤロウ。それもドゥ! と勢い良く羽上がり、首を刈るには十分な威力が――パス……

「……」
「な、なんだとぉ!?」

 二度の番長の攻撃を無防備に受けたジィさんは特に問題の無い様子で立っていた。少しだけ首をコキッと鳴らす。

 番長は、くっ! とジィさんを得体の知れない怪物のように見る。多分、番長からすれば全力の二撃だったハズだ。ソレを完全に――あ。

“これはね、ほんの少しだけ打撃のインパクトをズラして相手の攻撃力を減らす技――と言うよりも体運びなのだ。相手からすればスポンジを殴ってる様なモノだよ”

 俺は最近、姉貴と師範の組手で、師範が見せた高次元の防衛を思い出す。
 あれは、姉貴の打の呼吸を知ってるからこそ機能したと師範は言っていたけど……目の前のジィさんは――

「おのれっ! 貴様……手を出さぬとはこの俺を嘗めて――」

 と、番長が会話に意識を向けた瞬間、ジィさんが間合いに入っていた。
 無拍子。相手の意識の隙間を突いて接近したのである。番長は成す術もなく、腰と襟首を掴まれると綺麗に足を払われてコンクリートの地面に押し付けられる様に投げられた。

「頭から落とさないだけありがたいと思え、坊主」

 ガハァ……と、番長は息を吐き出す。無拍子からの投げは受け身が取れない。
 打撃が無効。隙を見せれば無拍子で接近して投げ。このジィさんに勝てるヴィジョンが浮かばねぇ。て言うか……姉貴とリョウでも勝てないんじゃないか?

「……君のジィさん強いね……」
「じぃはつよいよ!」

 クレープをモグモグしながら、じぃー、と手を振る幼女。ジィさんもピッ、と親指を立てて――

「ぬぉぉぉぉ!! まだだ! まだ、私は負けて無いィ!」

 うぉ!? 番長が唐突に復活した。しかも一人称が“私”に変わってる。『ヘルシング卿』をインストールしたな。相変わらずぶっ飛んでやがる。

「うぉぉぉぉ!!」

 と、何故か俺と幼女に向かってきた。コイツ……ホントによぉ――

「かっふぅ!?」

 俺はヒュッと風を切るようなハイキックで迫ってきた番長の顎を刈る。前のめりにやってきた頭は実に狙いやすい。
 番長は意識を揺らされてカクンっと膝を折りそうになるが、何とか耐えやがった。チッ、耐久力だけは一丁前だな。じゃあもう一撃――あ。

「お前は――」

 ジィさんが番長を後ろから丸太の様な腕を回してガッチリ掴む。

「いい加減に寝てろ」

 そのまま後ろへ倒れ込む様に両手投げ。コンクリートにヒビが入る程の威力に、グワハァ!? と番長は叫ぶと白目を向いて、ようやく死んだ(気を失った)。





「ったく……こんなヤツが日本に蔓延るたぁ……ジョーのヤツは何やってんだ?」
「じぃ!」

 クレープを食べ終わったロリっ子が俺の側を離れてジィさんに駆け寄る。ジィさんはニッと笑って、

「じぃは余裕だぜ!」
「よゆーだぜ!」

 ロリっ子を自身の肩に持ち上げた。そして二人して、ガハハ、と笑う。
 番長との対峙でジィさんの意味わからん強さにギャラリーも何だか拍手してる。すると、ジィさんの視線は俺へ。

「おう、助かったぜ」
「あ、いえ……」

 一応は味方認定をしてくれたか……こんな怪物ジィさんとは関わらないのが一番なんだが――

「たすかったぜぃ!」

 ジィさんの肩に乗るロリっ子の歯を見せる笑顔を見ると、助けられて良かったと思えた。

「ぬぬぬ……」

 もう状況はエピローグに入っていると言うのに、番長のヤツはまだ起き上がる。マジで耐久力だけはSな野郎だ。
 しかし、明らかに瀕死だ。寝起きのように重々しい様子で起き上がり先程の機敏性はまるで感じない。

「まただ……まだ終わらんよ……」

 某ロボットアニメのグラサンかけた大尉みたいな事言い出しやがって。ジィさんはロリっ子を装備してるし俺がトドメを――

「ユニコッ!」

 ゴッ! ビタンッ! ビシッ!
 その時、後ろからユニコ君が、ゴッ! とド突いて番長の顔面を、ビタンッ! とコンクリートに叩きつける。ビシッ! と地面にヒビが入る程の威力に、番長は今度こそ完全に沈黙。
 最後は苦悶の言葉すらなかった。

「ユニコーン」

 ユニコ君はそのまま番長の両足を持つとズルズルと引きずり、商店街から捨てに行った。
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