648 / 701
第647話 黙れよブタ
しおりを挟む
結局の所、本郷ちゃんと鬼灯ちゃんの王子、姫様構図は当人の二人が乗り気じゃ無かったので、最終的にはエイさんの『考える人』のポーズで落ち着いた。
「本郷先輩~。写真撮っても良いですか~?」
「いいよ。一緒に写る?」
「はい! あ……肩なんか寄せたり……」
「こうかな?(グイッ)」
「きゃー!」
『考える人(エイさん)』を全員が10分ほど、クロッキーを行ったが、流石に誰も完成していない。皆、下書きの途中だ。
「これ、谷高さんの写真っす! 一枚10円でーす。完成させたい人はお求めを~」
ジャラ浦君はここぞとばかりに動いていた。彼なら社会に出てもやっていけるねぇ。ちなみに、ジャラ浦君のクロッキーをちょっと覗いたら、なんかゲルニカみたいな解読不明のエイさんが描かれていた。うーむ。これは高度な芸術……なのか?
「良い仕事をした……これは完成させねば」
そんな事を言う会長君のクロッキーをチラッと見る。すると、彼の絵は『考える人』のポーズをしたエイさんではなく、さっき前屈みに胸を持ち上げて谷間を見せてる構図を描いていた。
マジか……彼、瞬間記憶能力でも持ってるのか? 普通に絵は上手いし、普段から色々と描いてそうだ。
加えて『聞いているのか? 遠山!』って台詞が吹き出し付きで追加さられてるし。結構脚色入ってるな。
「かーいちょ、こんな所に居たんですねー」
「……」
そして、後ろからツインテールの女の子に声をかけられ、会長君は時間が停止したように凍りつく。
「文化祭のMVPを選定する為に今の時間は生徒室に来いって言いましたよねー? 残りたく無いから早めに始めるって言ったの会長ですよー?」
影のある笑みを浮かべてツインテール女子は会長君の肩を掴むとミシミシ握力を入れる。
「……辻丘よ」
「はーい♪ 何て言い訳……するんですか?」
するんですか? で、どこからかハリセンを取り出して、手の平でパンパンする。
そんな彼女にオレは何となく、リンカを思い出して少し背筋が冷えた。
「これを見ろ!」
あ、会長君が谷間を強調するエイさんの絵を見せた。
それはイカン! 絶対にイカン! 殺されるパターンだぞ! 案の定、ツインテール女子はゴミを見るどころか、ヘドロを見るような眼で、
「あ? 仕事から逃げて、こんな絵を描いてたんですか?」
と声を低く罵る。しかし、
「“こんな絵”……ではないぞ!」
クワッ! と会長君が吼えた。その圧にツインテールハリセン女子はちょっとだけ圧されて、すぐに剣幕を戻す。
「何を言って――」
「俺はここに芸術を求めて来たに過ぎん! 確かに形的にはサボったと言われてもしょうがないだろう。しかし……しかしだ! 無意味にサボったワケではない! 見ろ! 目の前のモデルに囚われずに想像を形にすると言う神の技術を! つまり、俺は絵師として更にランクを上げたワケだな! 今なら可能だぞ? あらやる映像を脳内で合成させ、巨乳な辻丘を描く事も――」
「黙れよブタ」
会話を中断するように、縦に振り下ろしたハリセンがスパンッ! と良い音を教室内響かせる。ソレを食らった会長君は、ブブゥ……と前のめりに倒れた。
しゅぅぅぅ……と頭から湯気を出して沈黙する。
「タケ、ガク。生徒会室へ運べ」
「イエッサー! 辻の姉さん!」
と、後ろからガタイの良い生徒二人がマッスルポーズで二人現れて、会長君の脇を固めて持ち上げる。そのまま、ずるずると連行して行った。
「生徒諸君! 皆の完成品を私は是非とも見てみたい! 良ければSNSを相互フォローしないか!?」
会長君、連行事案は生徒達の間ではデフォルトの用なモノらしく、皆全く意に返さない中、『考える人』ポーズを解除したエイさんがそんな声を上げた。
“いいですよー”と始まった、エイさんと生徒達によるふれ合い交換会が微笑ましい。
「鬼灯先輩! 写真いらないっすか!?」
「いらないわ。構図は覚えたから」
「パネェ……」
おっとオレは――
「あ、ちょっと良い?」
鬼灯先輩の妹と思われる美少女に声をかける。
「鬼灯未来です」
「あ、鳳健吾です」
ペコリと先に挨拶する鬼灯ちゃんにオレは返すように挨拶する。
「何かご用ですか?」
「用って程じゃないんだけど、あ、ナンパでも無いからね。鬼灯ちゃんってお姉さんとかいる?」
「います」
「名前は、鬼灯詩織さん。だったりする?」
「そうですが?」
凄いなぁ。この子、表情筋が全く動かない。口だけが動いて淡々と言葉を放つNPCみたいだ
「えっとね。オレは君のお姉さんと同じ会社で世話になってるんだ。家族の君にも挨拶をって思ってね」
謎に包まれた鬼灯先輩の家族。先輩から語らない以上、踏み込むべきではないのだが、目の前に身内の方が居るなら誰でも挨拶するっしょ。
「そうですか。姉がお世話になっています」
……鬼灯先輩の妹さんなだけあって、ビジュアルはシズカ(イトコ)に匹敵する域なんだけど、感情を感じられない口調は、面倒事をさっさと片付けたい雰囲気がチクチクくるなぁ。
「い、いや……お世話になってるのはオレの方だよ。ははは……」
AI音声の様に声のトーンまで変わらない。何なんだろう、この子……本当に人間なのか? 無表情も相まって、感情が全く読み取れねぇ。ポーカーフェイスってレベルを超えて、他の表情がバグで用意されてないまである。
「おや? 鬼灯君。ナンパかい?」
「ナンパなのかしら?」
「いやいや! ナンパじゃないよ!」
ミーハー女子生徒との会話を終えた本郷ちゃんがこちらへ声をかけてくる。
話題が続きそうになかったので助かったが……校内で未成年へのナンパは事案になりそうなので全力否定せねば。
「そうかい? なら、そろそろお暇しようか、鳳さん。次のお客さんが来ているし。そろそろ僕の店に行こうよ」
エイさんも大丈夫そうだし、オレも本来の目的へ向かうとするかね。
「姉は会社ではどんな感じなんですか?」
それじゃあね、と一言告げようとしたら、機械アナウンスの用な一定のトーンで鬼灯ちゃんが聞いてくる。
オレは会社で鬼灯先輩がどんな立場なのか教えてあげた。
「凄く皆から頼りにされてるよ。上と下の人、皆からね。なんて言うかな……そう、頼れるお姉さんみたいな感じ」
「――そうですか」
お、少し嬉しそうな雰囲気を感じ取れた。すると、鬼灯ちゃんは頭を下げてくる。
「鳳さん。姉の事、今後もよろしくお願いします」
「それはもちろん。でも、オレの方が世話になりっぱなしなんだけどね」
なんだ。マシーンじゃないのか。普通に家族の事も考えてる良い娘じゃない。
「本郷先輩~。写真撮っても良いですか~?」
「いいよ。一緒に写る?」
「はい! あ……肩なんか寄せたり……」
「こうかな?(グイッ)」
「きゃー!」
『考える人(エイさん)』を全員が10分ほど、クロッキーを行ったが、流石に誰も完成していない。皆、下書きの途中だ。
「これ、谷高さんの写真っす! 一枚10円でーす。完成させたい人はお求めを~」
ジャラ浦君はここぞとばかりに動いていた。彼なら社会に出てもやっていけるねぇ。ちなみに、ジャラ浦君のクロッキーをちょっと覗いたら、なんかゲルニカみたいな解読不明のエイさんが描かれていた。うーむ。これは高度な芸術……なのか?
「良い仕事をした……これは完成させねば」
そんな事を言う会長君のクロッキーをチラッと見る。すると、彼の絵は『考える人』のポーズをしたエイさんではなく、さっき前屈みに胸を持ち上げて谷間を見せてる構図を描いていた。
マジか……彼、瞬間記憶能力でも持ってるのか? 普通に絵は上手いし、普段から色々と描いてそうだ。
加えて『聞いているのか? 遠山!』って台詞が吹き出し付きで追加さられてるし。結構脚色入ってるな。
「かーいちょ、こんな所に居たんですねー」
「……」
そして、後ろからツインテールの女の子に声をかけられ、会長君は時間が停止したように凍りつく。
「文化祭のMVPを選定する為に今の時間は生徒室に来いって言いましたよねー? 残りたく無いから早めに始めるって言ったの会長ですよー?」
影のある笑みを浮かべてツインテール女子は会長君の肩を掴むとミシミシ握力を入れる。
「……辻丘よ」
「はーい♪ 何て言い訳……するんですか?」
するんですか? で、どこからかハリセンを取り出して、手の平でパンパンする。
そんな彼女にオレは何となく、リンカを思い出して少し背筋が冷えた。
「これを見ろ!」
あ、会長君が谷間を強調するエイさんの絵を見せた。
それはイカン! 絶対にイカン! 殺されるパターンだぞ! 案の定、ツインテール女子はゴミを見るどころか、ヘドロを見るような眼で、
「あ? 仕事から逃げて、こんな絵を描いてたんですか?」
と声を低く罵る。しかし、
「“こんな絵”……ではないぞ!」
クワッ! と会長君が吼えた。その圧にツインテールハリセン女子はちょっとだけ圧されて、すぐに剣幕を戻す。
「何を言って――」
「俺はここに芸術を求めて来たに過ぎん! 確かに形的にはサボったと言われてもしょうがないだろう。しかし……しかしだ! 無意味にサボったワケではない! 見ろ! 目の前のモデルに囚われずに想像を形にすると言う神の技術を! つまり、俺は絵師として更にランクを上げたワケだな! 今なら可能だぞ? あらやる映像を脳内で合成させ、巨乳な辻丘を描く事も――」
「黙れよブタ」
会話を中断するように、縦に振り下ろしたハリセンがスパンッ! と良い音を教室内響かせる。ソレを食らった会長君は、ブブゥ……と前のめりに倒れた。
しゅぅぅぅ……と頭から湯気を出して沈黙する。
「タケ、ガク。生徒会室へ運べ」
「イエッサー! 辻の姉さん!」
と、後ろからガタイの良い生徒二人がマッスルポーズで二人現れて、会長君の脇を固めて持ち上げる。そのまま、ずるずると連行して行った。
「生徒諸君! 皆の完成品を私は是非とも見てみたい! 良ければSNSを相互フォローしないか!?」
会長君、連行事案は生徒達の間ではデフォルトの用なモノらしく、皆全く意に返さない中、『考える人』ポーズを解除したエイさんがそんな声を上げた。
“いいですよー”と始まった、エイさんと生徒達によるふれ合い交換会が微笑ましい。
「鬼灯先輩! 写真いらないっすか!?」
「いらないわ。構図は覚えたから」
「パネェ……」
おっとオレは――
「あ、ちょっと良い?」
鬼灯先輩の妹と思われる美少女に声をかける。
「鬼灯未来です」
「あ、鳳健吾です」
ペコリと先に挨拶する鬼灯ちゃんにオレは返すように挨拶する。
「何かご用ですか?」
「用って程じゃないんだけど、あ、ナンパでも無いからね。鬼灯ちゃんってお姉さんとかいる?」
「います」
「名前は、鬼灯詩織さん。だったりする?」
「そうですが?」
凄いなぁ。この子、表情筋が全く動かない。口だけが動いて淡々と言葉を放つNPCみたいだ
「えっとね。オレは君のお姉さんと同じ会社で世話になってるんだ。家族の君にも挨拶をって思ってね」
謎に包まれた鬼灯先輩の家族。先輩から語らない以上、踏み込むべきではないのだが、目の前に身内の方が居るなら誰でも挨拶するっしょ。
「そうですか。姉がお世話になっています」
……鬼灯先輩の妹さんなだけあって、ビジュアルはシズカ(イトコ)に匹敵する域なんだけど、感情を感じられない口調は、面倒事をさっさと片付けたい雰囲気がチクチクくるなぁ。
「い、いや……お世話になってるのはオレの方だよ。ははは……」
AI音声の様に声のトーンまで変わらない。何なんだろう、この子……本当に人間なのか? 無表情も相まって、感情が全く読み取れねぇ。ポーカーフェイスってレベルを超えて、他の表情がバグで用意されてないまである。
「おや? 鬼灯君。ナンパかい?」
「ナンパなのかしら?」
「いやいや! ナンパじゃないよ!」
ミーハー女子生徒との会話を終えた本郷ちゃんがこちらへ声をかけてくる。
話題が続きそうになかったので助かったが……校内で未成年へのナンパは事案になりそうなので全力否定せねば。
「そうかい? なら、そろそろお暇しようか、鳳さん。次のお客さんが来ているし。そろそろ僕の店に行こうよ」
エイさんも大丈夫そうだし、オレも本来の目的へ向かうとするかね。
「姉は会社ではどんな感じなんですか?」
それじゃあね、と一言告げようとしたら、機械アナウンスの用な一定のトーンで鬼灯ちゃんが聞いてくる。
オレは会社で鬼灯先輩がどんな立場なのか教えてあげた。
「凄く皆から頼りにされてるよ。上と下の人、皆からね。なんて言うかな……そう、頼れるお姉さんみたいな感じ」
「――そうですか」
お、少し嬉しそうな雰囲気を感じ取れた。すると、鬼灯ちゃんは頭を下げてくる。
「鳳さん。姉の事、今後もよろしくお願いします」
「それはもちろん。でも、オレの方が世話になりっぱなしなんだけどね」
なんだ。マシーンじゃないのか。普通に家族の事も考えてる良い娘じゃない。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話
赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。
前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる