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第645話 学舎で服を脱ぐのは止めなさい
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「本郷先輩じゃないっすか! しゃっす!」
「やぁ、井浦君。相変わらず君はいろんなモノをジャラジャラさせてるね。活動は順調そうかい?」
「トラブルがありましたけど、何とかなりそうっす! 谷高さんのおかげで!」
「フッ……」
「いや……エイさん。フッ、じゃ無いんですよ……」
オレは腰に鎖をジャラジャラさせている井浦君と、出てきたエイさんを見る。
今のエイさんはバスローブ姿だ。流線型のプロポーションは出る所はきっちり出ている理想的な美女であり、ヒカリちゃんに遺伝子を分ける程にエイさんは美形で顔のパーツも綺麗に整っている。少し切れ長の眼も強い意思を持つ事も相まって、グラビアモデルと言っても誰も疑わないだろう。
「……何でこんな所で脱いでるんですか?」
問題があるとすれば、家の中じゃなくて外で服を脱いでる事だ。本当に何があったのやら。
「私の“愛”がそうさせたのだ!」
「え?」
「ほう……」
オレは、? と言う記号を頭に浮かべたジャック(猫)が頭の中から出てくる。
本郷ちゃんは、興味深そうにエイさんの言葉を待った。
「先ほど、私が放った愛のホームランがあっただろう?」
「ええ。場外に吹っ飛ばしましたよね?」
野村君の愛を消し飛ばすフルスイングでボールを旧校舎へ運んだんだっけ?
「アレが美術部に直撃したのだ! そして、中に居たモデルさんの近くに落ちてな! 彼女は――」
「まさか……怪我を――」
「ビビって窓際に立たなくなったのだ!」
「へ?」
「ふむ。要約するとこんな感じかい?」
一通り事を聞いた本郷ちゃんがエイさんの変わりに状況を口にする。
「貴女がボールを取りに行くと、美術部の硝子を割っていた。そして、モデルさんはそれに驚いて去ってしまったと。そこで、井浦君は困った。一人100円取ってヌードのデッサン体験をこじつけたまでは良い。けど、肝心なモデルさんが帰ってしまった。ジャラジャラとどうしようかと思っていたら彼女が現れ、モデルの変わりを引き受けてくれることになった」
「相変わらす流石ッす! 本郷先輩! まるで全部見てた感じに的中っす」
「ふむ。細部は異なるが概ね正解だ。ケンゴ! 彼女は何者だ!?」
「いや……オレも知り合って30分経って無いので……」
すげぇ。この状況でここまでわかるのか。オレなんて、エイさんがいつもの勢いで脱いだ様にしか思えなかった。
「僕は本郷元親。よろしく」
「私は谷高影だ! 本郷! 中々やるな!」
最初から呼び捨てとは。エイさんは本郷ちゃんを意外と気に入った様だ。
「経緯はわかりました。けど、ヌードは駄目ですよ」
「ええ!? って言うか、あんたは誰っすか!?」
「そこの、全裸になろうとしてる美女の身内だ。普通に犯罪だからね。コレ」
「本人の承諾があれば良いんだ! ケンゴ! 私のやっている事に口を挟むと――」
「哲章さんも駄目って言いますよ……」
流石にコレは駄目だろう。ヒカリちゃんが見たら毛を逆立てる猫のように怒るだろうし。
「ん? どうしたんだい? ケンゴ君」
警察署の休憩室で少し遅れて妻の作った弁当を食べていた谷高哲章は、ケンゴからの連絡に箸を止めた。
『哲章さん。今、お話を宜しいですか?』
「ああ。構わないよ。何かトラブルかい?」
『まぁ……オレのトラブルじゃないんですけど……谷高家の危機だと思いまして……』
「?」
『今、エイさんと一緒なんですが……学校で脱いでまして』
「妻は側にいるかい?」
『います。隣に……』
「電話口を代わってくれるかい?」
“ケンゴ! 本当に連絡したのか!?”
“そりゃ……オレで止められないならしますよ”
等と会話が聞こえて電話口がエイに代わる。
『すまんな哲章! 今、時間を良いか!?』
「構わないよ」
『今日、ヒカリの文化祭に行ってる事は知っているだろう?』
「そうだったね」
娘に招待された妻は朝弁当を作る時はそれはもう嬉しそうだった。
『そこで、私はヒカリへの愛を再確認した! その余波によって……他人に迷惑を及ぼしてしまった』
「そうなのかい? それはお詫びをしなければならないね」
エイの行動力は出会った時から落ちつく様子がない。それが原因でトラブルを起こすことも多々ある。
自分の目が届かない所でソレを起こしても何とかなるように“ママさんチーム”やその他身内にはその行動に気をかけて貰っている。
『だろう? お詫びが必要だ! だから、私は脱ぐ事にした!』
「ちょっと待ちなさい」
『待たん! 私は超芸術家だ! 芸術に関して手抜きなど言語道断!!』
「イエローっと」
哲章はLINEでイエローカードを掲げたユニコ君のスタンプを送った。
これは、エイ自身の進言だ。己が抑えきれない芸術欲に振り回された時、ソレを哲章に判断して貰うことにしている。(ちなみにイエローを三枚貰うと、その日は強制帰宅である。海外に居ても。レッドなら一発帰宅)
『ぬが!? 待て! 聞け! パンツは履いている!』
「上は?」
『ノーブラだ!』
ポン、とイエローカードユニコ君のスタンプが再度送られる。
『哲章ー!』
「エイ。君が責任感が強く、筋を通す事は知っている。ソレを私は美徳としているし、ヒカリもそんな君だから反抗期は殆んどなかった」
『そうだ! 私もあっちこっちで脱ぐような真似はしない! しかし今回は芸術が関わっている! 故に脱――』
「けど、どんな理由があろうとも学舎で服を脱ぐのは止めなさい。しかも、ヒカリの通う学校だよ? 何かしら噂になって、ヒカリが通いづらくなったらどうするんだい?」
『…………』
静かになった時は、己の非を全面的に認めた時である。妻は娘が不幸になる事を絶対にしない。
「イエロー二枚は抑止力だ。後一枚はケンゴ君に判断してもらう」
『くっ……しかし……これでは私の気が収まらないっ!』
「エイ。私はお詫びを止めろと言っているワケじゃない。脱がない方向で話をまとめなさい」
『……仕方ない。井浦! 私は服を着るぞ!』
“別にそっちでも良いっすよ。て言うかマジでパンイチで描かれるつもりだったんスか?”
『当然だ! 私は超芸術家だぞ!』
“マジぱねぇ! リスペクトするっす!”
「エイ、ケンゴ君に代わって」
『ケンゴ、哲章だ』
“あ、ども”
と、電話口がケンゴに戻る。
「いや……ホントに助かりました。マジで……」
『こちらこそ連絡をありがとう。妻の暴走癖に迷惑をかけたね』
「ヒカリちゃんが絶対に怒ると思ったんで」
『ハハハ』
哲章さんは楽しそうに笑う。
やっぱり、エイさんを娶るだけあって、笑い話で済ませられる哲章さんの器がすげぇ。
『ヒカリが産まれれば少しは落ち着くと思ったが、行動に拍車がかかるばかりだ』
「そうなんですか?」
『それでも、家族を優先してくれているのだがね。おっと、惚気は互いに時間を損するね』
いや、哲章さんとエイさんの馴れ初めとか絶対に面白い出会いだったと思う。酒の席とかで聞いて見てぇ。
『ケンゴ君。妻は己の暴走を抑制するために私にイエローカードを三枚託している』
「何ですかその……山姥を撃退する三枚の御札みたいなニュアンスは……」
『イエローカードが三枚切られると、その日は強制帰宅となる。既に二枚切ったから、後一枚は君に託すよ』
「えっと……それって更に譲渡出来ます?」
『誰にだい?』
「ヒカリちゃんにです……」
『ヒカリも突発的に見る所があるからね。君が適任だ』
冷静に評価してくれる事は本当に嬉しい。
『妻を頼むよ。くれぐれも……次の日のニュースになるような事はさせないでくれたまえ』
「わかりました……」
やっぱり、相関図は――
哲章さん
↓強い
エイさん
で間違い無さそうだ。
「やぁ、井浦君。相変わらず君はいろんなモノをジャラジャラさせてるね。活動は順調そうかい?」
「トラブルがありましたけど、何とかなりそうっす! 谷高さんのおかげで!」
「フッ……」
「いや……エイさん。フッ、じゃ無いんですよ……」
オレは腰に鎖をジャラジャラさせている井浦君と、出てきたエイさんを見る。
今のエイさんはバスローブ姿だ。流線型のプロポーションは出る所はきっちり出ている理想的な美女であり、ヒカリちゃんに遺伝子を分ける程にエイさんは美形で顔のパーツも綺麗に整っている。少し切れ長の眼も強い意思を持つ事も相まって、グラビアモデルと言っても誰も疑わないだろう。
「……何でこんな所で脱いでるんですか?」
問題があるとすれば、家の中じゃなくて外で服を脱いでる事だ。本当に何があったのやら。
「私の“愛”がそうさせたのだ!」
「え?」
「ほう……」
オレは、? と言う記号を頭に浮かべたジャック(猫)が頭の中から出てくる。
本郷ちゃんは、興味深そうにエイさんの言葉を待った。
「先ほど、私が放った愛のホームランがあっただろう?」
「ええ。場外に吹っ飛ばしましたよね?」
野村君の愛を消し飛ばすフルスイングでボールを旧校舎へ運んだんだっけ?
「アレが美術部に直撃したのだ! そして、中に居たモデルさんの近くに落ちてな! 彼女は――」
「まさか……怪我を――」
「ビビって窓際に立たなくなったのだ!」
「へ?」
「ふむ。要約するとこんな感じかい?」
一通り事を聞いた本郷ちゃんがエイさんの変わりに状況を口にする。
「貴女がボールを取りに行くと、美術部の硝子を割っていた。そして、モデルさんはそれに驚いて去ってしまったと。そこで、井浦君は困った。一人100円取ってヌードのデッサン体験をこじつけたまでは良い。けど、肝心なモデルさんが帰ってしまった。ジャラジャラとどうしようかと思っていたら彼女が現れ、モデルの変わりを引き受けてくれることになった」
「相変わらす流石ッす! 本郷先輩! まるで全部見てた感じに的中っす」
「ふむ。細部は異なるが概ね正解だ。ケンゴ! 彼女は何者だ!?」
「いや……オレも知り合って30分経って無いので……」
すげぇ。この状況でここまでわかるのか。オレなんて、エイさんがいつもの勢いで脱いだ様にしか思えなかった。
「僕は本郷元親。よろしく」
「私は谷高影だ! 本郷! 中々やるな!」
最初から呼び捨てとは。エイさんは本郷ちゃんを意外と気に入った様だ。
「経緯はわかりました。けど、ヌードは駄目ですよ」
「ええ!? って言うか、あんたは誰っすか!?」
「そこの、全裸になろうとしてる美女の身内だ。普通に犯罪だからね。コレ」
「本人の承諾があれば良いんだ! ケンゴ! 私のやっている事に口を挟むと――」
「哲章さんも駄目って言いますよ……」
流石にコレは駄目だろう。ヒカリちゃんが見たら毛を逆立てる猫のように怒るだろうし。
「ん? どうしたんだい? ケンゴ君」
警察署の休憩室で少し遅れて妻の作った弁当を食べていた谷高哲章は、ケンゴからの連絡に箸を止めた。
『哲章さん。今、お話を宜しいですか?』
「ああ。構わないよ。何かトラブルかい?」
『まぁ……オレのトラブルじゃないんですけど……谷高家の危機だと思いまして……』
「?」
『今、エイさんと一緒なんですが……学校で脱いでまして』
「妻は側にいるかい?」
『います。隣に……』
「電話口を代わってくれるかい?」
“ケンゴ! 本当に連絡したのか!?”
“そりゃ……オレで止められないならしますよ”
等と会話が聞こえて電話口がエイに代わる。
『すまんな哲章! 今、時間を良いか!?』
「構わないよ」
『今日、ヒカリの文化祭に行ってる事は知っているだろう?』
「そうだったね」
娘に招待された妻は朝弁当を作る時はそれはもう嬉しそうだった。
『そこで、私はヒカリへの愛を再確認した! その余波によって……他人に迷惑を及ぼしてしまった』
「そうなのかい? それはお詫びをしなければならないね」
エイの行動力は出会った時から落ちつく様子がない。それが原因でトラブルを起こすことも多々ある。
自分の目が届かない所でソレを起こしても何とかなるように“ママさんチーム”やその他身内にはその行動に気をかけて貰っている。
『だろう? お詫びが必要だ! だから、私は脱ぐ事にした!』
「ちょっと待ちなさい」
『待たん! 私は超芸術家だ! 芸術に関して手抜きなど言語道断!!』
「イエローっと」
哲章はLINEでイエローカードを掲げたユニコ君のスタンプを送った。
これは、エイ自身の進言だ。己が抑えきれない芸術欲に振り回された時、ソレを哲章に判断して貰うことにしている。(ちなみにイエローを三枚貰うと、その日は強制帰宅である。海外に居ても。レッドなら一発帰宅)
『ぬが!? 待て! 聞け! パンツは履いている!』
「上は?」
『ノーブラだ!』
ポン、とイエローカードユニコ君のスタンプが再度送られる。
『哲章ー!』
「エイ。君が責任感が強く、筋を通す事は知っている。ソレを私は美徳としているし、ヒカリもそんな君だから反抗期は殆んどなかった」
『そうだ! 私もあっちこっちで脱ぐような真似はしない! しかし今回は芸術が関わっている! 故に脱――』
「けど、どんな理由があろうとも学舎で服を脱ぐのは止めなさい。しかも、ヒカリの通う学校だよ? 何かしら噂になって、ヒカリが通いづらくなったらどうするんだい?」
『…………』
静かになった時は、己の非を全面的に認めた時である。妻は娘が不幸になる事を絶対にしない。
「イエロー二枚は抑止力だ。後一枚はケンゴ君に判断してもらう」
『くっ……しかし……これでは私の気が収まらないっ!』
「エイ。私はお詫びを止めろと言っているワケじゃない。脱がない方向で話をまとめなさい」
『……仕方ない。井浦! 私は服を着るぞ!』
“別にそっちでも良いっすよ。て言うかマジでパンイチで描かれるつもりだったんスか?”
『当然だ! 私は超芸術家だぞ!』
“マジぱねぇ! リスペクトするっす!”
「エイ、ケンゴ君に代わって」
『ケンゴ、哲章だ』
“あ、ども”
と、電話口がケンゴに戻る。
「いや……ホントに助かりました。マジで……」
『こちらこそ連絡をありがとう。妻の暴走癖に迷惑をかけたね』
「ヒカリちゃんが絶対に怒ると思ったんで」
『ハハハ』
哲章さんは楽しそうに笑う。
やっぱり、エイさんを娶るだけあって、笑い話で済ませられる哲章さんの器がすげぇ。
『ヒカリが産まれれば少しは落ち着くと思ったが、行動に拍車がかかるばかりだ』
「そうなんですか?」
『それでも、家族を優先してくれているのだがね。おっと、惚気は互いに時間を損するね』
いや、哲章さんとエイさんの馴れ初めとか絶対に面白い出会いだったと思う。酒の席とかで聞いて見てぇ。
『ケンゴ君。妻は己の暴走を抑制するために私にイエローカードを三枚託している』
「何ですかその……山姥を撃退する三枚の御札みたいなニュアンスは……」
『イエローカードが三枚切られると、その日は強制帰宅となる。既に二枚切ったから、後一枚は君に託すよ』
「えっと……それって更に譲渡出来ます?」
『誰にだい?』
「ヒカリちゃんにです……」
『ヒカリも突発的に見る所があるからね。君が適任だ』
冷静に評価してくれる事は本当に嬉しい。
『妻を頼むよ。くれぐれも……次の日のニュースになるような事はさせないでくれたまえ』
「わかりました……」
やっぱり、相関図は――
哲章さん
↓強い
エイさん
で間違い無さそうだ。
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