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第634話 世界から与えられる平等な権利

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 誰かが誰かを好きなる。ソレは何者にも縛られる事はない。
 時間と同じ。人が生まれてから死ぬまでに世界から与えられた平等な権利なのだ。

 あたしがソレを自覚したのは彼が隣の部屋から去った時だ。
 初めて彼に見つけてもらったときから、心に宿ったこの“想い”は、初めてあたしが自分で手に入れたモノだ。
 彼を想うこの気持ちだけは――例え世界が滅んでも変わらないと思っている。





「好きだ。付き合ってくれ」

 大宮司からすれば、幾度と心の中で悩んだ末に決意しての告白。
 しかし、リンカからすれば、何気なく関わっている仲の良い先輩が唐突に告白して来た様なモノだった。

 な、なんで……大宮司先輩が……あたしの事を……好き? 何かの聞き間違いだよね……? だって……

 あたしは大宮司先輩に迷惑しか、かけてないのに。

 リンカは混乱していた。
 初夏にサッカー部のエースである先輩の佐々木から告白された時は、彼の事をそれ程知らなかった。故に狼狽える事無く断る事が出来たのだ。

 だが、今回は前とは事情が全く持って異なる。

 大宮司はリンカにとって、“よく知らない仲”と言う境界線はとっくに越えていた。

 大宮司亮は不器用なのは知っている。
 大宮司亮は家族思いだと知っている。
 大宮司亮は――

 一つの事に対して幾通りの答えを真剣に考え、その中で自分の信念に合わさった時に行動に移す。
 そこに偽りや、僅かな疑念さえもない。己で決めた事を成し遂げる強い意思を持つ大宮司亮は、一度口にした言葉は決して違える事はなかった。

 故に彼の告白はこの文化祭の雰囲気に当てられて出た言葉じゃなく、前から自分の事を好いていたとリンカは理解したのだ。
 だからこそ……

「先輩……あたしは……」
「鮫島が鳳さんを好きだと言うことは知っているよ」
「…………」
「けど、どうしても俺はこの気持ちを君に伝えたかったんだ」
「何で……あたしなんですか?」

 あたしのせいで、大宮司先輩は人生を大きく狂わされた。
 あの時……あたしを助けなければ。先輩がここまで苦労する事はなかっただろう。
 恨まれてもおかしくない。
 あたしは先輩に負い目があった。先輩が助けて欲しいって言ったならそれに応えたかった。
 けど……ダメなんだ。コレだけは……この気持ちだけは……応えられない。

「落ちるコップを受け止めようとする行為に理由なんていらない。俺にとって、鮫島に恋をした事はそれくらい、当然の事なんだ」

 君を助けた事に後悔はない。
 大宮司は真っ直ぐ、その意思をリンカへ伝える様に視線を向けた。

「俺にとって鮫島凛香は、心から消えない存在なんだ。だから一緒に歩いて、一緒に笑って、一緒に歳をとって行きたいと思ってる」

 彼からの気持ちはリンカも理解できた。
 何故ならソレは、彼女がケンゴに抱いたモノと同じだったからだ。
 同じだったからこそ……

「ごめんなさい……先輩……」

 この気持ちが受け入れられなかった結末がどれ程辛い事になるのか知っている。
 だから、きちんと自分の気持ちも伝えなければならない。

「あたしは……彼が好きです」

 感情が溢れて思わず涙が零れる。ずっと、他人である、あたしの事をここまで好いてくれた人の気持ちを拒絶するのだ。
 感情的にならないと言う方が無理だ。

「……すまん。鮫島を泣かせるつもりは無かったんだ」

 この告白は彼女は受け取らない。
 彼女の側に居て、彼女の鳳さんに対する気持ちは理解していた。
 同時に彼女の中で、鳳さんに以上の存在になれないと言うことも……

「えっぐ……えっぐ……」

 けど、この瞬間だけは――

 大宮司は感情に呑まれて涙が止まらないリンカの頭を優しく撫でる。そして、視線を向けてくる彼女を安心させる様に微笑むと、

「俺の為にそこまで泣いてくれてありがとうな」

 何一つ、後悔はない。





 一つずつ、階段を登ってる。
 落ち着いたあたしは大宮司先輩とは家庭科室を出て別れた。

 別に負い目とかは感じなくて良い。今まで通り俺には話しかけてくれ。

 大宮司先輩は何でもない様子でそう言ってくれた。そんな事は無いハズなのに。本当に……先輩はあたしなんかと比べ物にならないくらい強い人だ。

 電気ケトルをクラスに届ける。
 少し目が赤い事を受け取った水間さんに心配されたけど、玉ねぎを切ったらこうなった、と言う死ぬほどヘタな嘘で誤魔化したら、

“大変だったわね! 玉ねぎは目だけじゃなくて鼻からもクるわ! 切る時に保護するのは目と鼻よ!”

 などと、助言をもらいつつ休憩へ。
 まだ、平常心には程遠い。けど……改めて彼に会いたいと言う気持ちは強くなっていた。

 どこに居るのか、再度LIKEで確認しようと思ったけど待つ時間も惜しく感じ、探しに校舎を出る。多分、運動系の出店に居るだろう。体育館でカバディをやってるって言ってたし。
 すると、ヒカリと彼を見つけ――

「ケン兄の事が好き――――」

 親友が彼にそう言った声が聞こえて、咄嗟に隠れてしまった。
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