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第626話 ケン兄の事が好き――――
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「どうぞ」
「うむ。確かにブツは受け取った!」
野村君(兄)から『舞鶴琴音のCD』を手渡しで受け取るエイさん。あ、ヘルメットとバットはオレが片付けておきますね。
「な、何故だ……俺は……俺はァ!」
そんで持って野村君は拳を地面に打ち付けて、悔しがっている。おいおい、エースが利き腕で地面を殴るなよ。
「バッターボックスに立った故に気づいたが……野村君! 君は浅い!」
「あ、浅い……? 俺の……愛が?」
「それに気づいて居ない様ではスタートラインにさえ立っていない! 浅い愛では……甲子園に現れる多くの愛戦士に遅れを取るだろう!」
「お、俺は……どうすればっ!」
「他人に導かれる愛など、たかが知れている! 自分で己の中に見い出せ!」
そんなエイさんの言葉に殴られると、ぐはぁ……とマウンドに仰向けに倒れる野村君。あーあ、衣装汚れちゃうよ。
「ヒカリ!」
エイさんはヒカリちゃんの名前を呼び、ポイっ、と『舞鶴琴音のCD』を投げる。
!? と慌ててヒカリちゃんはソレをキャッチした。
「ママっ! 危ないって! これ、どれだけの価値があると思ってるの!?」
「お前以上に価値のあるモノなど、この世に存在するものか! 私は自分の打ったボールを取りに旧校舎へ向かう! そのCDはお前に託す! ではな!」
そう言ってエイさんは校庭を横切る様に歩いて行った。最初から最後まで全てを呑み込んだ彼女の背をこの場で止める者は誰も居ない。
「ホントに……もー、自分勝手過ぎるんだから」
そう言いつつも、エイさんから向けられる愛を僅かにも疑わないヒカリちゃんは終始嬉しそうだ。
昔に比べて、自分の意思で意見する様になったヒカリちゃんにとって、エイさんの性格は鬱陶しく感じているのではないかと思ったがなんやかんやで良い感じにまとまっているようだ。
「ケン兄……なにニヤニヤしてるの?」
「おっと」
ヒカリちゃんにリンカと同じ種類のジト目を向けられたので、オレは思わず口元を隠した。
「ヒカリちゃん、ちょっと相談があるんだけど聞いてくれる?」
エイさん襲来により、オレはストラックアウトへの挑戦が流れたので、そろそろ腹に何か入れねばと、ヒカリちゃんと一緒に校舎の出店へ会場へ戻っていた。
「ん? なに?」
エイさんの言動に振り回されたものの『舞鶴琴音のCD』を手に入れてヒカリちゃんは嬉しそうだ。
「そのCDさ、オレに一旦預けてくれない?」
「なんで?」
「ちょっとコピーしようと思ってね」
それが、野村君(兄)に提案した内容だ。
「でもコレ古すぎる上に、特別な設定がされてるからコピーは出来ないよ?」
「一応、専門家のツテがあるからさ。頼めばやってくれると思うし」
「それって……結構、危ない感じの人たち?」
警察官の娘としての勘がオレの言葉に反応したようだ。もう、君は既にそのリーダー(サマーちゃん)と会ってるけどね。
「いや、プログラムやPC関係に強い人達だよ。そのCDって希少価値が相当に高いけど数が少ないって話しらしいし、コピー出来る方法があるなら試してみない?」
交渉はこれからだが、サマーちゃん達は前から『舞鶴琴音のCD』に関しては欲しがってたし、頼めば本気で取り掛かってくれるだろう。
「大元が壊れたりしない?」
「しないよ。彼らもプロだからね」
「ふーん。じゃあ、ケン兄に任せるわ」
はい、とCDを手渡してくれる。
「それと、コピー品が出来たら、この大元のCDは野村君に返してもいいかな?」
「ケン兄……それってさっき野村先輩となんか約束したの?」
「まぁ……ほら、父親の大事なCDだって話だし。出来るなら返してあげたいとおもってね。無論、ヒカリちゃん次第だけどさ」
さて、この結果はどっちに転んでもなんとかなる。
「……別にいいよ、それで。大切なモノが無くなったらヤだもんね」
何か思い当たる事があるのかヒカリちゃんはオレの提案を全部受け入れてくれた。
「ありがと」
「それ、ケン兄が言うことじゃないでしょ?」
「それもそうだね」
まったく、と呆れつつも笑うヒカリちゃんにオレも笑い返していると、出店の声が聞こえて来た。同時に程よい売り物の匂いに腹も、ぐ~、と鳴る。
ふむ。LINEを見るがリンカからのメッセージは無い。さてさて。
「ヒカリちゃん、どうする? リンカちゃんを待つ? 一緒に昼飯食べよ――」
「ケン兄」
すると、ヒカリちゃんはオレの服の裾を掴む。止まって、と言いたげな雰囲気にオレは彼女に振り返った。
「どうしたの?」
「いやさ、ちょっと言っておきたい事があって」
神妙な面持ち。しかし、若干の恥ずかしさも感じ取れる。まさか! 好きな人が居るのか!? よく考えればこの場所……人の視線が程よく途切れている空間!
ヒカリちゃんは目立つからなぁ。普段も目立ってそうだし、そんな彼女がメイド服を着てたらそりゃ人目を避けるのは一苦労ですよ。
「別に後でLINEでも良いよ? 聞かれたくない内容でしょ?」
「直接言いたいの」
「それなら今じゃなくても……」
「ケン兄ってさ。いつもリンと一緒だから。今しかないと思って」
むむむ。リンカにも聞かれたくない事だと……これは責任重大だ。心して受け止めねばなるまい!
「私ね。ケン兄の事が好き――――」
「…………」
その瞬間に二人を見つけたリンカは咄嗟に姿を隠した。
「うむ。確かにブツは受け取った!」
野村君(兄)から『舞鶴琴音のCD』を手渡しで受け取るエイさん。あ、ヘルメットとバットはオレが片付けておきますね。
「な、何故だ……俺は……俺はァ!」
そんで持って野村君は拳を地面に打ち付けて、悔しがっている。おいおい、エースが利き腕で地面を殴るなよ。
「バッターボックスに立った故に気づいたが……野村君! 君は浅い!」
「あ、浅い……? 俺の……愛が?」
「それに気づいて居ない様ではスタートラインにさえ立っていない! 浅い愛では……甲子園に現れる多くの愛戦士に遅れを取るだろう!」
「お、俺は……どうすればっ!」
「他人に導かれる愛など、たかが知れている! 自分で己の中に見い出せ!」
そんなエイさんの言葉に殴られると、ぐはぁ……とマウンドに仰向けに倒れる野村君。あーあ、衣装汚れちゃうよ。
「ヒカリ!」
エイさんはヒカリちゃんの名前を呼び、ポイっ、と『舞鶴琴音のCD』を投げる。
!? と慌ててヒカリちゃんはソレをキャッチした。
「ママっ! 危ないって! これ、どれだけの価値があると思ってるの!?」
「お前以上に価値のあるモノなど、この世に存在するものか! 私は自分の打ったボールを取りに旧校舎へ向かう! そのCDはお前に託す! ではな!」
そう言ってエイさんは校庭を横切る様に歩いて行った。最初から最後まで全てを呑み込んだ彼女の背をこの場で止める者は誰も居ない。
「ホントに……もー、自分勝手過ぎるんだから」
そう言いつつも、エイさんから向けられる愛を僅かにも疑わないヒカリちゃんは終始嬉しそうだ。
昔に比べて、自分の意思で意見する様になったヒカリちゃんにとって、エイさんの性格は鬱陶しく感じているのではないかと思ったがなんやかんやで良い感じにまとまっているようだ。
「ケン兄……なにニヤニヤしてるの?」
「おっと」
ヒカリちゃんにリンカと同じ種類のジト目を向けられたので、オレは思わず口元を隠した。
「ヒカリちゃん、ちょっと相談があるんだけど聞いてくれる?」
エイさん襲来により、オレはストラックアウトへの挑戦が流れたので、そろそろ腹に何か入れねばと、ヒカリちゃんと一緒に校舎の出店へ会場へ戻っていた。
「ん? なに?」
エイさんの言動に振り回されたものの『舞鶴琴音のCD』を手に入れてヒカリちゃんは嬉しそうだ。
「そのCDさ、オレに一旦預けてくれない?」
「なんで?」
「ちょっとコピーしようと思ってね」
それが、野村君(兄)に提案した内容だ。
「でもコレ古すぎる上に、特別な設定がされてるからコピーは出来ないよ?」
「一応、専門家のツテがあるからさ。頼めばやってくれると思うし」
「それって……結構、危ない感じの人たち?」
警察官の娘としての勘がオレの言葉に反応したようだ。もう、君は既にそのリーダー(サマーちゃん)と会ってるけどね。
「いや、プログラムやPC関係に強い人達だよ。そのCDって希少価値が相当に高いけど数が少ないって話しらしいし、コピー出来る方法があるなら試してみない?」
交渉はこれからだが、サマーちゃん達は前から『舞鶴琴音のCD』に関しては欲しがってたし、頼めば本気で取り掛かってくれるだろう。
「大元が壊れたりしない?」
「しないよ。彼らもプロだからね」
「ふーん。じゃあ、ケン兄に任せるわ」
はい、とCDを手渡してくれる。
「それと、コピー品が出来たら、この大元のCDは野村君に返してもいいかな?」
「ケン兄……それってさっき野村先輩となんか約束したの?」
「まぁ……ほら、父親の大事なCDだって話だし。出来るなら返してあげたいとおもってね。無論、ヒカリちゃん次第だけどさ」
さて、この結果はどっちに転んでもなんとかなる。
「……別にいいよ、それで。大切なモノが無くなったらヤだもんね」
何か思い当たる事があるのかヒカリちゃんはオレの提案を全部受け入れてくれた。
「ありがと」
「それ、ケン兄が言うことじゃないでしょ?」
「それもそうだね」
まったく、と呆れつつも笑うヒカリちゃんにオレも笑い返していると、出店の声が聞こえて来た。同時に程よい売り物の匂いに腹も、ぐ~、と鳴る。
ふむ。LINEを見るがリンカからのメッセージは無い。さてさて。
「ヒカリちゃん、どうする? リンカちゃんを待つ? 一緒に昼飯食べよ――」
「ケン兄」
すると、ヒカリちゃんはオレの服の裾を掴む。止まって、と言いたげな雰囲気にオレは彼女に振り返った。
「どうしたの?」
「いやさ、ちょっと言っておきたい事があって」
神妙な面持ち。しかし、若干の恥ずかしさも感じ取れる。まさか! 好きな人が居るのか!? よく考えればこの場所……人の視線が程よく途切れている空間!
ヒカリちゃんは目立つからなぁ。普段も目立ってそうだし、そんな彼女がメイド服を着てたらそりゃ人目を避けるのは一苦労ですよ。
「別に後でLINEでも良いよ? 聞かれたくない内容でしょ?」
「直接言いたいの」
「それなら今じゃなくても……」
「ケン兄ってさ。いつもリンと一緒だから。今しかないと思って」
むむむ。リンカにも聞かれたくない事だと……これは責任重大だ。心して受け止めねばなるまい!
「私ね。ケン兄の事が好き――――」
「…………」
その瞬間に二人を見つけたリンカは咄嗟に姿を隠した。
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