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第618話 その背中を彼女は見てきた
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親からは色んなモノを受け取った。
優れた容姿を、天才的な頭脳を、人を魅了する声を、歩みを止めない魂を。
けど、ソレは全部。直接貰ったモノじゃない。かき集めた情報から組上がったモノだ。
だから――
“サマー、よく頑張ったな”
初めて心が震えたとき、
“アナタの親は――”
出自の資料を見たとき、
“そりゃ、死ぬほど気にかけるよ”
彼にそう言われたとき、
「……」
「何? サマー。また、『Mk-VI』視点の『ショウコ救出作戦』の映像を見てるの?」
「む、カツよ! 覗き見るでない!」
「いや、居間でノートPC見てたら誰だって気づくって。別にアタシはエロ動画見てても気にしないけどさ、先に風呂に入んなよ」
「サマー、一緒に入るか?」
「ショウコ! 毎日のように誘うな! わしは一人で入れる!」
誤魔化す様に叫ぶとノートPCを閉じる。
両親は居ない。そもそも出自事態がまともじゃない。でも繋がっていた“縁”は『サモン』じゃなかった。
だから――
「わしにもアレが出来るかのう?」
彼らの持つモノを得る事は、この“縁”をこちらから繋げる事だと思っている。
草苅を抑えきれないサマーはあらゆる情報から最適解を探していた。
「くそ……」
今のでもダメか。相手はあらゆる経験を積んで来ている。
速攻の可能性は無かったワケではない。故に、咄嗟に対応し運任せの“鎖”も成ったと言うのに容易く越えられた。
わしらに足りないモノが多すぎる。これを埋めるにはもっと……もっと深く思考を――
「サマーちゃん。攻撃、やるでしょ?」
そう言いつつ、フェニックスが微笑みながら手を掲げて正面の道を開けていた。
その笑顔は見守る様に背を押してくれている様に感じ、
「――そうじゃな」
開けた道の先には守備が既に配置に着いている。
わしは、たんっ、と軽く駆けながらフェニックスの手をタッチして最後のレイドを開始する。
「カバディ!」
草苅君を止められなかった。
その事実をサマーちゃんが深く受け止めて考えに浸るよりも先にオレは手を横に差し出す。
察しの良いサマーちゃんはその意図を理解して、
「そうじゃな」
その手をタッチして駆ける様にミッドラインを越える。
「カバディ!」
とても楽しそうに笑っていた。
「カバディ!」
ミニゲーム。三戦目。攻撃手、サマー・ラインホルト。
ここまで、草苅VSケンゴ&サマーの戦いに置いて守備は両者とも成功していない。
これは、カバディにおいてアンティにはレイダーよりも深い思考と連携力が必要である事を意味している。しかし――
流石に素人を一度も止められないのは駄目だよね。
テンションの上がった草苅は、サマーを捉える未来を全てシミュレートし終えていた。
サマーは少しでも草苅から遠ざかる様に右側に寄りつつ、ボークラインを踏む。
「カバディ」
「うん」
そして、ボーナスラインを踏む前に向かってくるタッチを草苅は読んでいた。
サマーさん、君が負けず嫌いだと言う事は解っているよ。でも……君の腕の長さは年相応に短い。自分からタッチするには必然と――
「俺の間合いに入ってくる」
草苅は横へ潜る様にサマーのタッチをかわすと、抱える様に腕を彼女の胴体に通す。
「――――」
「――カバディ」
越えた。
サマーは、進行を遮断して捕まえようとした草苅の腕に、タッチをするために伸ばした手を添えると、そのまま障害物を乗り越える様に足を横にして飛び越えた。
意趣返し。サマーは自分の体格を誰よりも知っている。故に草苅がどの様な動きをしてくるのか行く通りもシミュレートしていた。
重心を……足に残したまま跳んだ。アイソレーションと合わせる事で完全に俺の考えの裏をついたのか。
「カバディ」
サマーは更にボーナスラインを踏みに奥へ入る。
そのまま帰陣されていたら、草苅は追えなかっただろう。だが、サマーは負けず嫌いだと言うことを解っていたからこそ――
「このレイドは通らない」
その間に草苅は切り返す。サマーがボーナスラインを踏んで帰陣の為に停止する瞬間を今度こそ完全に捕らえた。
「――――」
“君は夏に産まれた”
縁が始まった。
エスペランサを通じて――
“貴女を助けたいのです”
マザーを通じて――
“無視は出来ないよ”
レッドフェザーを通じて――
“サマー、よく頑張ったな”
神島譲治を通じて――
“よろしくね。アタシがあんたの護衛”
“ロリを追いかけて来るカス共から護りマース”
“小生にも協力させてくれ!”
“拙僧に出来る事があるのですか?”
皆と出会い――
“サマーは可愛いな”
“サマーちゃん”
ショウコとフェニックスに出会えた。
「カバディ――」
草苅のキャッチがサマーに組み付く。レイドの失敗。その感触は完璧だった。
“女郎花の体勢を崩したの技? ああ、あれね……『地崩し』って言うんだ。練習すればサマーちゃんにも出来るよ。元々はそう言う為の技だからね。教える? でも似たような技は現代には沢山あるから、そっちの方が覚えやすいし現実的だよ? それに……オレはジジィのロックが掛けられてるからさ……教えたくても無理なんだ”
「――カバディ」
確かに組み付いた。
サマーさんの胴体に触れた感触もあった。なのに――
「なんで、俺は倒れてる?」
『地崩し』。
向かってくる力をそのまま通過するように流された草苅は俯せで床へ倒れて滑っていた。
追うことは出来ない。
そう確信したサマーは後ろ目でも草苅を見ずにミッドラインを越えて帰陣する。
彼のサマーへのキャッチは完璧だった。それは変えられない未来だった。
しかし、サマー・ラインホルトは見て来たのだ。
「カバディ」
変えられない未来を変えてきた者達の背中を――
「ア、アンティ失敗! レイダー2点!」
狼狽えつつも放たれる紫月の言葉は攻撃手の勝利を宣言していた。
優れた容姿を、天才的な頭脳を、人を魅了する声を、歩みを止めない魂を。
けど、ソレは全部。直接貰ったモノじゃない。かき集めた情報から組上がったモノだ。
だから――
“サマー、よく頑張ったな”
初めて心が震えたとき、
“アナタの親は――”
出自の資料を見たとき、
“そりゃ、死ぬほど気にかけるよ”
彼にそう言われたとき、
「……」
「何? サマー。また、『Mk-VI』視点の『ショウコ救出作戦』の映像を見てるの?」
「む、カツよ! 覗き見るでない!」
「いや、居間でノートPC見てたら誰だって気づくって。別にアタシはエロ動画見てても気にしないけどさ、先に風呂に入んなよ」
「サマー、一緒に入るか?」
「ショウコ! 毎日のように誘うな! わしは一人で入れる!」
誤魔化す様に叫ぶとノートPCを閉じる。
両親は居ない。そもそも出自事態がまともじゃない。でも繋がっていた“縁”は『サモン』じゃなかった。
だから――
「わしにもアレが出来るかのう?」
彼らの持つモノを得る事は、この“縁”をこちらから繋げる事だと思っている。
草苅を抑えきれないサマーはあらゆる情報から最適解を探していた。
「くそ……」
今のでもダメか。相手はあらゆる経験を積んで来ている。
速攻の可能性は無かったワケではない。故に、咄嗟に対応し運任せの“鎖”も成ったと言うのに容易く越えられた。
わしらに足りないモノが多すぎる。これを埋めるにはもっと……もっと深く思考を――
「サマーちゃん。攻撃、やるでしょ?」
そう言いつつ、フェニックスが微笑みながら手を掲げて正面の道を開けていた。
その笑顔は見守る様に背を押してくれている様に感じ、
「――そうじゃな」
開けた道の先には守備が既に配置に着いている。
わしは、たんっ、と軽く駆けながらフェニックスの手をタッチして最後のレイドを開始する。
「カバディ!」
草苅君を止められなかった。
その事実をサマーちゃんが深く受け止めて考えに浸るよりも先にオレは手を横に差し出す。
察しの良いサマーちゃんはその意図を理解して、
「そうじゃな」
その手をタッチして駆ける様にミッドラインを越える。
「カバディ!」
とても楽しそうに笑っていた。
「カバディ!」
ミニゲーム。三戦目。攻撃手、サマー・ラインホルト。
ここまで、草苅VSケンゴ&サマーの戦いに置いて守備は両者とも成功していない。
これは、カバディにおいてアンティにはレイダーよりも深い思考と連携力が必要である事を意味している。しかし――
流石に素人を一度も止められないのは駄目だよね。
テンションの上がった草苅は、サマーを捉える未来を全てシミュレートし終えていた。
サマーは少しでも草苅から遠ざかる様に右側に寄りつつ、ボークラインを踏む。
「カバディ」
「うん」
そして、ボーナスラインを踏む前に向かってくるタッチを草苅は読んでいた。
サマーさん、君が負けず嫌いだと言う事は解っているよ。でも……君の腕の長さは年相応に短い。自分からタッチするには必然と――
「俺の間合いに入ってくる」
草苅は横へ潜る様にサマーのタッチをかわすと、抱える様に腕を彼女の胴体に通す。
「――――」
「――カバディ」
越えた。
サマーは、進行を遮断して捕まえようとした草苅の腕に、タッチをするために伸ばした手を添えると、そのまま障害物を乗り越える様に足を横にして飛び越えた。
意趣返し。サマーは自分の体格を誰よりも知っている。故に草苅がどの様な動きをしてくるのか行く通りもシミュレートしていた。
重心を……足に残したまま跳んだ。アイソレーションと合わせる事で完全に俺の考えの裏をついたのか。
「カバディ」
サマーは更にボーナスラインを踏みに奥へ入る。
そのまま帰陣されていたら、草苅は追えなかっただろう。だが、サマーは負けず嫌いだと言うことを解っていたからこそ――
「このレイドは通らない」
その間に草苅は切り返す。サマーがボーナスラインを踏んで帰陣の為に停止する瞬間を今度こそ完全に捕らえた。
「――――」
“君は夏に産まれた”
縁が始まった。
エスペランサを通じて――
“貴女を助けたいのです”
マザーを通じて――
“無視は出来ないよ”
レッドフェザーを通じて――
“サマー、よく頑張ったな”
神島譲治を通じて――
“よろしくね。アタシがあんたの護衛”
“ロリを追いかけて来るカス共から護りマース”
“小生にも協力させてくれ!”
“拙僧に出来る事があるのですか?”
皆と出会い――
“サマーは可愛いな”
“サマーちゃん”
ショウコとフェニックスに出会えた。
「カバディ――」
草苅のキャッチがサマーに組み付く。レイドの失敗。その感触は完璧だった。
“女郎花の体勢を崩したの技? ああ、あれね……『地崩し』って言うんだ。練習すればサマーちゃんにも出来るよ。元々はそう言う為の技だからね。教える? でも似たような技は現代には沢山あるから、そっちの方が覚えやすいし現実的だよ? それに……オレはジジィのロックが掛けられてるからさ……教えたくても無理なんだ”
「――カバディ」
確かに組み付いた。
サマーさんの胴体に触れた感触もあった。なのに――
「なんで、俺は倒れてる?」
『地崩し』。
向かってくる力をそのまま通過するように流された草苅は俯せで床へ倒れて滑っていた。
追うことは出来ない。
そう確信したサマーは後ろ目でも草苅を見ずにミッドラインを越えて帰陣する。
彼のサマーへのキャッチは完璧だった。それは変えられない未来だった。
しかし、サマー・ラインホルトは見て来たのだ。
「カバディ」
変えられない未来を変えてきた者達の背中を――
「ア、アンティ失敗! レイダー2点!」
狼狽えつつも放たれる紫月の言葉は攻撃手の勝利を宣言していた。
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