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第601話 お前はキリストに声をかけられるか?

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 外からの招待客は続々とやってくる。
 基本的にチケットを持っている者の身内なら余程変な者でない限りは入場は許可された。その為、チケット=来場者数、ではなくそれ以上の来場者が訪れる事になる。

「すま、ぬ。受付はここ、か?」
「あ、はいはーい。チケットを確認――」

 と、来場者の対応に馴れてきた受付の実行委員は改めてぎょっとした。

 チケットを持って現れたのは眼鏡に小太りの中年男。口調は変だが、チケットを持っているので招待客なのだろう。問題はツレの二人だ。

「なんじゃ? 言葉に詰まっとるのぅ」

 一人は小柄な幼女だ。しかし、その顔にはカボチャ――ジャック・オー・ランタンを被り、爺さん口調である。

「ohー、サマー。貴女の被りモノが警戒させてるデース」

 もう一人は長身の神父だ。なんと言うか……それ以外の言葉が出てこない程に“神父”である。聖書を持ってるし。

「ソレを言うならお主の格好もじゃ、ミツ。何で私服で来んかった?」
「コレガ、ワタシの私服デース。我が神マイゴッドを常に崇める信仰心……この服装こそがその証明なのデスヨ」
「よくわかんねぇのぅ」

 とにかく、本日一番の混沌カオスがやってきた。この街にこんなヤベー奴らが居たのかよ、と対応に困っていると。

「どうした?」

 見回りをしていた風紀委員長の佐久真が偶然にも門前の警邏にやってきた。
 対応していた実行委員は安堵する目で佐久間を見る。

「佐久真、よかったぁ」
「ん? お客さんか? すみません、チケットを拝見しても?」

 チケットを持ってきた中年男は百歩譲って入ることに異論は無いが、後ろのイロモノ、二人は完全にアウトだ。文化祭が魔界と化す。
 実行委員は佐久真の対応に期待した。

「……このチケットを渡された相手のお名前を確認しても?」
「う、む! 暮石、愛殿、だ!」
「え?」

 思わず実行委員が声を出す。
 二学年のトップ美少女の暮石が、このおっさんを招待した? 明らかにヲタクな四十代くらいのおっさんを? どういう事だ?
 一体、どんな関係なのか。実行委員がモヤモヤしていると、

「後ろの御二方は、お知り合いで?」
「志を同じくす、る! 上司と同僚、だ!」

 幼女が同僚で、長身神父が上司かな? いやいや、待て待て。佐久真、まさか――

「入場をどうぞ。無論、お二方も」
「ちょ! 佐久真!」

 と、実行委員は佐久真を引っ張って三人に背を向けると聞こえない様に会話する。

「お前、正気か!? 百歩譲って、チケット持ってたおっさんは良い! けど、あの二人はアウトだろ!?」(小声)
「何も規定違反は犯してない。それに、距離を置いて見張りを回すから大丈夫だ」

 どうやらマトモな感覚はマヒしていない様だ。取りあえずは受け入れるスタンスを貫くらしい。

「そう言う事なら任せるけどよ。あの被り物は無いぜ?」

 ちらっと後ろ目で幼女のジャック・オー・ランタンを見る。
 佐久真は、そうだな、と踵を返した。

「申し訳ありません。当祭りでは不審な事態を事前に防ぐために被り物による来場は制限させて頂いています。とても個性的ではありますが、ここに預けて行って貰えないでしょうか?」
「ふむ。確かにそうじゃな! 礼節を知る学徒の意に従うのも祭りの一興と言うものか!」

 幼女がジャック・オー・ランタンを取る。どんなイロモノが出てくるのかと思ったら、オッドアイの美少女だった。ハーフっぽい。ギザっ歯がかなり異質である。

「ん? ギザっ歯コレか? 護身用じゃ!」

 実行委員の視線に気づいた幼女は、いー、と歯を見せて、がちんがちん、と動かす。
 やべ、見られてた。関わらない様にしよう……と、実行委員は視線を外す。
 その後、各々の名前を聞き、名簿に記録すると入場手続きを済ませた。

「ルールを守り、余り不審にならない様にお願いします」
「心得たわい!」
「マイゴッドが好評した『キャット・イン・メイドカフェ』行きマース」

 佐久真の軽い注意点を聞き入れて幼女と神父はスタスタと歩いて行った。マジで知らねーぞ……

「む、う! 二人り、とも! 常識を忘れる、な!」

 三人の中で一番のまともなのが、目の前のおっさんと言う始末。もう終わりだよ、この街。





「少々宜しいですか?」
「む? 君、は! さっき、の!」

 門前の受付を抜けた中年男――テツへ佐久真は追い付いて声をかける。

「私的な事になりますが、良ければ二年○組の『偉人喫茶』へ足を運んで頂けませんか?」
「ぬ……実、は! 暮石殿と会う約束をしていて、な!」
「『偉人喫茶』で暮石は働いております。是非、顔を見せてあげてください」
「そう、か! わかっ、た!」

 文化祭の栞を見ながらテツは校舎の中へ入って行った。

「……選ぶのはアイツか」

 そんなテツの背中へ佐久真はそう呟くと、暮石にLINEで知らせる。

“待ってる人が来た。そっちへ行く”と――





 3階『制服喫茶』では、鬼灯姉妹の対面が成されていた。
 遂にやってきた『図書室の姫』の姉。彼女の容姿には多くの推測が立っていた。

 実はヤンキー系とか、低身長の可愛い系とか……とにかく鬼灯未来の容姿を見るに、地味な容姿ではないハズ。
 生徒間では文化祭の隠された楽しみとして、期待する者も多い。
 実行委員と幹部だけに飛ばされる来場名簿のLINEに“鬼灯詩織”の名前が上がった時、リアルタイムでその同行は報告され続けていた。
 そして、その姿を一目見ようと『制服喫茶』には生徒が続々と来店してきていた。

「コーヒーです」
「ありがとう。随分と盛況ね」

 少し待ちまーす! と今のシフトに入っているクラスメイトと、列を整理する為に廊下に出ている大宮司は大忙しである。

「昨日はこんなに来なかったよ」
「そうなの?」
「ただ『制服』でお茶出すだけだから」
「そっか。私は物珍しいと思うけど、生徒の子たちは見慣れてるものね」

 詩織は教室内を見回すと、思わず注目していた客たちは視線をさっとメニュー表に戻す。

 『図書室の姫』の姉君の動向を語るLINEグループでは、

“今、『制服喫茶』に居る!”
“マジで美女! それ以上でもそれ以下でもない!”
“いや、それ以上だろ! 表現する方法が他に無いってだけで”
“美人姉妹とかヤバ過ぎる。見てるだけで目の保養になるわ”
“声をかける勇者はおらんのかね?”
“無理に決まってんだろ!”
“お前はキリストに声をかけられるか? そう言う事だ”

 裏側では滅茶苦茶お祭り騒ぎになっていた。
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