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第593話 資金洗浄に使われる!

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「私は谷高影やたかえいだ!」
鬼灯詩織ほおずきしおりです。トラブルに見舞われていた所に助けていただき、ありがとうございます」
「ホントに久しぶりーエイさん」

 丁寧に頭をお礼を言う鬼灯先輩とオレはエイさんへ簡単な自己紹介を済ませる。
 ちなみにオレがエイさんと今日までエンカウントしなかったのは、接点があまり無いからだ。
 昔は遊び倒したヒカリちゃんをママチャリ時速30キロで迎えに来たりして週に一回は顔を合わせたものである。

「鳳君は谷高さんと知り合いなの?」
「ケンゴ! お前は鬼灯さんと知り合いなのか!?」

 二人と接点があるのはオレだけ。この場の相関図をキチンとアンロックしておかねば。

「鬼灯さんは会社の先輩。先輩、エイさんはリンカちゃんの友人のお母さんで、母親同士の交流があるママ友なんだ」
「ケンゴ、それは間違いだぞ」
「え?」

 唐突な否定。オレの説明は一言一句、おかしい所は無かったハズ……

「私とセナとカレンは友達ではなく……チームだ! つまり、一心同体、運命共同体! 家族であり! 姉妹である! 友達と言う安い関係ではない! 訂正しておけ!」
「こう言う人です、鬼灯先輩」
「ふふ。とても力強い方ね」

 流石は鬼灯先輩。このレベルのイロモノは会社にもゴロゴロ徘徊してるのでスルッと受け入れてくれた。

「ところで鬼灯さん。私はこう言う者でね」

 すっとエイさんは名刺を鬼灯先輩に渡す。

「谷高……スタジオ? 社長さんなんですか?」
「モデル雑誌を間週で発行している! 本職は超芸術家なのだが! まぁ、世間での肩書きはその名刺通りだ!」
「その肩書きの方が絶対に社会貢献してますよ」
「私の魂が“芸術家”としての人生を決めた! ならば超越するしかあるまい! それと、ケンゴ! 会話の横から口を挟むな!」

 おっと、エイさんは会話中に横槍を入れられるのを嫌う。また音響攻撃される前に大人しくしておこう。

「鬼灯さん。貴女は100年に一人の逸材だ! 存在そのものが正に芸術! 是非とも、我が社にその姿を永遠に記録させて貰えないだろうか?!」

 ああ、なるほど。スカウトか。
 鬼灯先輩は存在するだけで美術的価値のある人間だ。仮面を着けない雰囲気と立ち振舞いは非の打ち所を見つける方が難しい。
 エイさんは超芸術家を名乗るだけあって、人の本質みたいなモノを的確に捉えるのだ。

「外見も必要な要素ではあるが。人の作り出す雰囲気と言うモノは、当人の内面が大きく影響する。鬼灯さん、貴女はとても素晴らしい雰囲気をお持ちだ。何故、今まで我々の界隈ステージに貴女のような人間が上がらなかったのか、わからないくらいだ!」

 と、エイさんは小切手を取り出す。ウワー、値段が1000万って書いてあるぞ。普通に欲しい!

「まずは手付金として1000万! 三年契約で衣食住を全て保証する待遇で我が社に迎えたい!」

 この界隈だと、この条件ってどうなんだろうなぁ。やっぱり、かなりの厚待遇なのだろうか? それにしてもエイさん……ポンと1000万を出すなんて。谷高家の家計は大丈夫なのだろうか?

「気にするなケンゴ! これは私が独身時代に海外で築いた富の一部だ! 海外の口座で毎年勝手に増えるから、使っておかないとマフィアの資金洗浄マネーロンダリングに使われる! あのクソども!」

 オレの僅かな挙動から心を読まれた。恐るべし“超芸術家”。
 しかも、今の一言でエイさんの独身時代が滅茶苦茶気になるぞ。海外で相当派手にやらかしてるみたいだ。

「ちなみにショウコさんの場合はいくらだったんです?」
「条件は同じだ! 二枚看板にすれば雑誌は更に映えるし、金なんて使ってこそだ!」

 金に厭目いとめをつけないってこう言う事か。まぁ、鬼灯先輩が雑誌に載れば売り上げは10倍は固いだろう。エイさんは金に固執している様な感じじゃないが、勝手にそうなる未来が想像できる。
 とにもかくにも、鬼灯先輩の返答は――

「折角の申し出はとても嬉しいのですが、私は今の生活が充実しているので、谷高さんの話はお受け出来ません。ごめんなさい」

 当然、お断り。
 まぁ、こう言う場面は何度も遭遇してるだろうし、その様に返答するのも慣れた様子だ。

「そうか。それなら仕方ない。去る者は追わないのが私の心情! しかし、折角の一期一会だ。知人として私の顔を覚えていて貰えないだろうか?」
「ええ。それは勿論。こちらからも宜しくお願いします」

 共に挨拶を済ませて握手を交わす両名。こうやって人の輪は平和的ピースフルに広がっていくのですね!

「鬼灯先輩は、どこかへお出掛けですか?」
「なんだケンゴ! 後輩なのを良いことに、お前がナンパをするのか!」
「違いますって。さっきのナンパの件もありますし、安全圏までお送りしようかと」

 マジで歩いてるだけで3分毎に異性に声をかけられるのが鬼灯先輩だ。外の会社に一緒に派遣された時なんて凄いのなんの。
 普段は人避けに弁護士バッチを胸につけてるのだが、ソレを忘れた日にはとんでもない。スーツ姿で仕事中なのに、ちょっと駅で目を離した隙に五、六人に囲まれてるなんて普通にある。

 今回は私服で、弁護士バッチは雰囲気に合わないからか着けて無い。故に今の先輩は茂みに潜む野獣の森をスタスタ無防備に歩くようなモノ。
 鬼灯先輩自身も、自分の事は解っているハズなのに、付き添いも無しに出掛けるのは相当な理由があると察したね。

「鳳君も予定があるんじゃない? 私に付き合ってていいの?」
「少しは時間の融通は効くので。いつも助けてもらってますし、関わった手前、見てみぬフリは出来ませんって」

 まぁ、鬼灯先輩だからなんだけどね!

「そう? じゃあお願いしようかしら」
「人力車を探してきます」
「ふふ。一緒に歩きましょう」

 鬼灯先輩をお客として乗せたら、ここから北海道まで、と言われても必ず送り届ける気概がオレにはある。

「○○高校って所なのだけど。今、文化祭をやっているの」
「え? 鬼灯先輩も文化祭に?」
「鳳君も?」

 オレはリンカから渡されたチケットを出す。すると、鬼灯先輩も同じチケットを取り出した。すると、エイさんも横からスッとチケットを見せて来る。
 え? エイさんも……?

「どうやら、私たちの目的地は同じらしいな!」

 ダメだって……この二人を招待したらさぁ。外と内から学校が崩壊するよぉ~。
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