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第583話 『流雲武伝』後準え

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 音楽に詳しく無くとも、響く音でどの様な雰囲気か解る。
 弦楽器と鈴の音が混ざる耳障りの良い演奏。始まった『厄祓いの儀』は、皆が中華を連想させた。

 いと――尊き――流雲――

 音楽に混ざった語り口が入り、舞台に袖の広い民族着を来た女性がゆっくりと現れる。
 彼女は頭に仮面を着け、腰には剣を携えていた。

 秋鳥の飛ぶ舞演の季節。

 女性が当時を再現する様にゆっくりと舞う。音楽と合わさり、場は少しずつ当時の雰囲気に呑み込まれていく。

 村を襲う疫病。
 神を偽る妖魔は贄を求め。
 人々は少女を差し出した。

 そして、太鼓の音が混ざると、低く重々しい雰囲気が緊張感を生み、場を支配し始めた。
 そして、女性の見上げる演技と音響効果から、見ている生徒達は“妖魔”の姿を視界に映す。
 声は出ない。出すことさえも禁じられた様に“妖魔”は女性を見下ろし、黒い靄となり呑み込もうと取り憑いて行く――
 しかし、女性が仮面を着けて剣を抜くと、輝く光に黒い靄は剥がされる様に離れた。

 贄の少女 内なる光に剣を抜く。

 靄が妖魔に戻る。剣を使った舞武が始まり、妖魔と決死の死闘を行っていた。

 妖魔と三陽三晩の死闘の末。
 魔を討ち祓わん。

 妖魔は消え、靄さえも消える。女性は己が光が弱くなる様に胸を抑えて膝を折った。

 少女の魂は消え逝くの灯火。

 すると、今度は女性の前に“人”が現れた。
 実際には存在しない。音楽と女性の演技から、本当に目の前に第三者が居るように見えているのだ。

 伏せる彼女を抱き寄せるは旅の武芸者。
 彼は全てを受け継ぎ 少女は雲へ還る。

 女性から光が離れ、“人”がソレを受け取るとライトが一旦落ちる。
 再び灯ると女性は立ち上がっていた。

 我は流雲。
 流るる雲。
 時に雨を。
 時に雪を。
 時に雷を。
 従えて、数多の厄災を祓う。

 仮面と剣を持つ女性が舞踊る。すると見ている者たちから“黒い靄”が流れ出て、次々に舞台の女性の前に現れた。
 女性はソレを剣で斬り、舞で払い、光で浄化して行く。
 それは本当に戦っている様だった。少なくとも見ている者全員が思わず魅入ってしまう程に華麗で、美しく、眩い光が場を包む。
 徐々に強くなる光に皆が呑み込まれ、気がつくと“黒い靄”は無くなり、見ている者たちの身体も淡い光に包まれていた。

「――――」

 己の身体を見ても光ってなどいない。しかし、今目の前で起こった事は誰もが感じている。
 女性は舞台の中央に立ち、剣を逆手に背へ隠すように持つと空いている手を胸に当てて一礼した。
 あまりに神聖な様に誰もが声が出なかった。すると、ビクトリアのナレーションが割り込む。

『今のが『流雲武伝』です。本来ならばここで終わりですが、本日は後準あとなぞらえを一筆加えて、皆様にお届けいたします』

 再び音楽が始まる。

 継がれる退魔の光は一人の少女へ宿る。
 その少女を魅入ったモノは悪夢。
 魂を縛り、悪夢は再来を告げ闇へ消えた。
 苦しむ少女の前に現れたのは1羽の鳳。
 大きな翼を広げて迎えに来た鳳は少女と共に悪夢を祓う。

「――――これって」

 その唄を聞いてリンカだけが声を出す。

『かつて少女は一人で悪夢と戦うと決めていました。その結末は孤独になる道以外に無いと思っていました。しかし、今は多くの仲間たちと悪夢を乗り越え、今は日々を笑って過ごしています』

 ビクトリアのナレーションが簡単な説明を挟む。
 最後に剣を一度振って女性は舞台から皆を見ると一礼し、『厄祓いの儀』は終了した。





「なん……だって……」

 舞台袖から『厄祓いの儀』を見ていた佐々木と『フォルテ』のメンバーは言葉が出なかった。
 何と表現して良いのか解らない感情にそんな言葉しか出ない。

「俺の中の……業が消え……た?」
「なんか心が軽い……」
「なんだろ……全然エロく無かった」

 『フォルテ』のリーダー、ベース、ドラムも各々言葉にならないナニかを感じ取っていた。
 無論、佐々木もそうである。まるで生まれ変わったかのように心身ともに清々しい。

「『流雲武伝』か。一度、本家を訪ねて見るのもアリかな」

 感極まって言葉の出ない無言に包まれる場。ショウコは佐々木たちとは反対側の袖へ向かって舞台から退場した。





「こ、言葉が出ない……これ程のモノだったとは……浄化された魂に従って……増毛した偽りの髪が抜け落ちて行く……」
「フォッフォッフォッ(教頭先生、大丈夫? それ)」

 教頭と校長は視聴覚室から『厄祓いの儀』を見ていた。





「リン……凄かったね……何て言うかさ……言葉も出ない感じ」
「そうだね……」

 リンカもヒカリと同様にショウコの舞に感嘆しているが、後準えで語られた物語の方が気になっていた。
 あれは……彼が話してくれた――

“いや、ホントだって! マジ死ぬかと思った!”

『ちょっと先生も感極まってしまった』

 と、マイクを持って舞台に現れた教頭先生は頭の髪が少し減っていた。

『それじゃ、次のゲストは――なんと! ハリウッドで活躍中の俳優! 佐々木光之助さんです!』

 その言葉に我を取り戻した生徒達は、ワァー! キャー! と騒ぎ立てる。

「げっ……」

 コンロの火を着けた様に熱が戻る場から離脱する機会を失ったリンカはサッと鬼の面を着けた。
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