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第577話 思春期どっかに落としてきた?
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ポッ○ーゲーム? なんだそれ……はっ!
俺は今年のお盆休みに一人暮らしでタクシー会社に勤める兄が実家に帰ってきた時の事を思い出す。
「うーむ。やっぱり子供扱いされてるよなぁ。でもちょっとでも意識してもらう為に少し踏み込んで見るか」
「兄貴ー、慰霊碑の前で何やってんの? なんか、今年はこの集合墓地にヤバい人が居たらしいぜ。アイマスク着けて寝てるおっさんとか、見かけたら受付が教えてくれってさ。このやべーよな」
「弟よ、俺はポッ○ーゲームで攻めて見ようと思う」
俺の会話など聞こえていないかの様に兄貴は前後の繋がらない返答をしてきた。
「兄貴。なんか帰ってきてからおかしくね? ずっとぶつぶつ考えてるし」
「俺は正常だ。一年前に俺転勤なって実家出ただろ? その勤務先でな。滅茶苦茶ストライクな女性がいたんだ」
「へー、歳上?」
「無論。俺は歳下には興味ねぇよ。ちなみに上司だ」
「それで? ○ッキーゲームってなに?」
「今度、飲み会があってな。その面子に珍しく彼女も来るんだ。娘さんが居るシングルマザーで、いつもなら娘さんを優先して帰る人なんだが、事務女子達の誘いもあって、参加する事になってな」
「兄貴がハードル高い人を狙ってるのはわかったけど、それよりもポッ○ーゲームの事話してよ」
すると、兄貴はスッ、と煙草の様にどこからかポッ○ーの箱を取り出し、そこから覗く○ッキー(ビターチョコ)の持ち手を俺に差し出した。
「百聞は一見に如かず。一回やってみるか? 吐くなよ?」
「別に良いけど……吐くような事をストライクしてる女性に勧めるのか?」
やってみた。そんで、家族(特に兄弟)では絶対にやるものでないと身をもって知り、近くの排水路に吐いた。
「これが……ポッ○ーゲームだ!」
「おぇ……昼の寿司全部出た……こんな恐ろしい事を……どこの誰が考えたんだ? 完全にサイコパスだぜ、そいつ」
「弟よ、それ程の嫌悪感を覚えるのは家族で男同士だからだ。置き換えてみるんだ。相手がお前の高校での良い友達女子と言うシチュエーションを」
兄貴に言われた通りのシチュエーションを思春期特有の想像力にて組み立てる。そして、
「…………あ、コレやば」
「もし、やることになったら気をつけろ。ファーストになってしまったら、取り返しのつかない事になるぞ。ギリギリを攻めろ!」
「……兄貴は経験あんの?」
「俺のファーストは、大学の頃に同じサークルに居た女にしか見えない女装男子だった……。友達を越える関係に至ろうとして✕✕がついてた衝撃は生涯忘れないだろう。その時からだよ、同年代から歳下の女が全部男に見えるようになったのは!」
兄貴の魂が呪われた話の方が面白くて、ポッ○ーゲームの事はすっかり上書きされていた。
思い……出した!
沖合は、慰霊碑の前で兄とポッ○ーゲームをやって吐いた事を思い出した。
「つ、土山先生……○ッキーゲームって……あの“ポッ○ーゲーム”? 食べる本数を競うとかみたいなヤツじゃなくて?」
「どうやら、気づいたようね。沖合君」
土山先生ってこういう先生だったっけ? 水泳部は外傷などをしないので、保健室には殆んど行かない。ちょっとくらいのサボりなんかを許容してくれる、おおらかで良い先生って事は知っている。
「沖合君! どうしたのかしら!? まさか……戦る前から戦意喪失!? なら、私の勝ちね! 土山先生! 勝負内容の説明をプリーズ!」
水間のヤツは絶対にわかってねぇな。これから何が起こるのかを。
ではでは、と土山先生はどこに持っていたのかスケッチブックを俺らに見えるように取り出すと横向きに寝かして紙芝居の様にページを捲る。
「まず用意する物はポッ○ー1箱と黒い布」
○ッキーと黒い布の絵が書かれたページ。それ居る? と思っているとペラっと捲られた。
「そして、対戦者は1本のポッ○ーの両端を咥えて、準備オッケー完了よ」
次のページには、人の頭に見立てた丸が二つ描いてあり、それが向かい合って一つの○ッキーを咥えている。
「そして、互いに交互に両端から食べて行きます。より多くを食べ進めた人が勝利です」
捲られた三ページ目では、ガッツポーズしてる勝者と項垂れる敗者の棒人間の絵によって閉められた。
やっぱり、兄貴とやった“ポッ○ーゲーム”じゃねぇか! これを……水間とやるだって!? こんなの公開処刑だ!
ギャラリーもメイドは仕事もそっちのけでキャーって言ってるし男子も、伝説を作れ、みたいな目で笑ってやがるしよ。それよりも一通りの説明を聞いた水間の反応は―――
「なるほど……つまり、これは高度なチキンレースと言うことね!!」
「流石は水間さんね。飲みこみが早いわ」
ふふん。と自分の解釈が説明と一致した事に満足げな水間。マジかコイツ……マジでやる気か?
「水間……お前これの意味はわかってるのか?」
「フッ、沖合君! この時点で私が勝ったわ! 勝負に必要なのは心臓! どんな状況にも左右されずに己の限界を引き出す心臓なのよ! これが無いと……人は身体に血液を送れないのだから!」
「いや……そんな生物的な事じゃなくて……」
「止めるとか言ってもダメよ! 沖合君は既に勝負の席に着いている……逃げることは許されないわ!」
水間のヤツ……さっきの敗けを取り返すために、何がなんでもこの勝負を成立させて勝つつもりなのだろう。ギャラリーも――
「水間さん、大~胆~」
「キャー」
「沖合、男を見せろー」
「永遠に語り継がれるぞー」
などと煽ってくる。ち、ちくしょう! 逃げられる空気じゃねぇ!
「さあ、戦るわよ!」
ただ一人、事の重要性がわかってない水間は俺の前の席にどかっと座った。
ホントにさ、お前……思春期どっかに落としてきた?
「大丈夫よ沖合君。先生はね、こういう状況も想定しているわ」
するも土山先生の言葉に俺は少し救いを見た。
「その為のこの黒い布なのよ。ポッ○ーを咥えた二人の頭から上から被せる事で視界を覆い、世界から完全に切り離されるわ。これ、先生の独自ルールなの」
救いは無かった。
「○ッキーを挟んで互いしか見えない空間で向かい合う二人……想像しただけで尊みに溢れるわ~」
土山先生も観戦モード。くっ……誰だよ! 土山先生が一番無害だって言ったのは! 滅茶苦茶、ヤバい先生じゃねーか!
「ほら、やるわよ」
と、水間はポッ○ーを取り出すと持ち手側を咥えて告げる。か、覚悟を決めるか……
俺は今年のお盆休みに一人暮らしでタクシー会社に勤める兄が実家に帰ってきた時の事を思い出す。
「うーむ。やっぱり子供扱いされてるよなぁ。でもちょっとでも意識してもらう為に少し踏み込んで見るか」
「兄貴ー、慰霊碑の前で何やってんの? なんか、今年はこの集合墓地にヤバい人が居たらしいぜ。アイマスク着けて寝てるおっさんとか、見かけたら受付が教えてくれってさ。このやべーよな」
「弟よ、俺はポッ○ーゲームで攻めて見ようと思う」
俺の会話など聞こえていないかの様に兄貴は前後の繋がらない返答をしてきた。
「兄貴。なんか帰ってきてからおかしくね? ずっとぶつぶつ考えてるし」
「俺は正常だ。一年前に俺転勤なって実家出ただろ? その勤務先でな。滅茶苦茶ストライクな女性がいたんだ」
「へー、歳上?」
「無論。俺は歳下には興味ねぇよ。ちなみに上司だ」
「それで? ○ッキーゲームってなに?」
「今度、飲み会があってな。その面子に珍しく彼女も来るんだ。娘さんが居るシングルマザーで、いつもなら娘さんを優先して帰る人なんだが、事務女子達の誘いもあって、参加する事になってな」
「兄貴がハードル高い人を狙ってるのはわかったけど、それよりもポッ○ーゲームの事話してよ」
すると、兄貴はスッ、と煙草の様にどこからかポッ○ーの箱を取り出し、そこから覗く○ッキー(ビターチョコ)の持ち手を俺に差し出した。
「百聞は一見に如かず。一回やってみるか? 吐くなよ?」
「別に良いけど……吐くような事をストライクしてる女性に勧めるのか?」
やってみた。そんで、家族(特に兄弟)では絶対にやるものでないと身をもって知り、近くの排水路に吐いた。
「これが……ポッ○ーゲームだ!」
「おぇ……昼の寿司全部出た……こんな恐ろしい事を……どこの誰が考えたんだ? 完全にサイコパスだぜ、そいつ」
「弟よ、それ程の嫌悪感を覚えるのは家族で男同士だからだ。置き換えてみるんだ。相手がお前の高校での良い友達女子と言うシチュエーションを」
兄貴に言われた通りのシチュエーションを思春期特有の想像力にて組み立てる。そして、
「…………あ、コレやば」
「もし、やることになったら気をつけろ。ファーストになってしまったら、取り返しのつかない事になるぞ。ギリギリを攻めろ!」
「……兄貴は経験あんの?」
「俺のファーストは、大学の頃に同じサークルに居た女にしか見えない女装男子だった……。友達を越える関係に至ろうとして✕✕がついてた衝撃は生涯忘れないだろう。その時からだよ、同年代から歳下の女が全部男に見えるようになったのは!」
兄貴の魂が呪われた話の方が面白くて、ポッ○ーゲームの事はすっかり上書きされていた。
思い……出した!
沖合は、慰霊碑の前で兄とポッ○ーゲームをやって吐いた事を思い出した。
「つ、土山先生……○ッキーゲームって……あの“ポッ○ーゲーム”? 食べる本数を競うとかみたいなヤツじゃなくて?」
「どうやら、気づいたようね。沖合君」
土山先生ってこういう先生だったっけ? 水泳部は外傷などをしないので、保健室には殆んど行かない。ちょっとくらいのサボりなんかを許容してくれる、おおらかで良い先生って事は知っている。
「沖合君! どうしたのかしら!? まさか……戦る前から戦意喪失!? なら、私の勝ちね! 土山先生! 勝負内容の説明をプリーズ!」
水間のヤツは絶対にわかってねぇな。これから何が起こるのかを。
ではでは、と土山先生はどこに持っていたのかスケッチブックを俺らに見えるように取り出すと横向きに寝かして紙芝居の様にページを捲る。
「まず用意する物はポッ○ー1箱と黒い布」
○ッキーと黒い布の絵が書かれたページ。それ居る? と思っているとペラっと捲られた。
「そして、対戦者は1本のポッ○ーの両端を咥えて、準備オッケー完了よ」
次のページには、人の頭に見立てた丸が二つ描いてあり、それが向かい合って一つの○ッキーを咥えている。
「そして、互いに交互に両端から食べて行きます。より多くを食べ進めた人が勝利です」
捲られた三ページ目では、ガッツポーズしてる勝者と項垂れる敗者の棒人間の絵によって閉められた。
やっぱり、兄貴とやった“ポッ○ーゲーム”じゃねぇか! これを……水間とやるだって!? こんなの公開処刑だ!
ギャラリーもメイドは仕事もそっちのけでキャーって言ってるし男子も、伝説を作れ、みたいな目で笑ってやがるしよ。それよりも一通りの説明を聞いた水間の反応は―――
「なるほど……つまり、これは高度なチキンレースと言うことね!!」
「流石は水間さんね。飲みこみが早いわ」
ふふん。と自分の解釈が説明と一致した事に満足げな水間。マジかコイツ……マジでやる気か?
「水間……お前これの意味はわかってるのか?」
「フッ、沖合君! この時点で私が勝ったわ! 勝負に必要なのは心臓! どんな状況にも左右されずに己の限界を引き出す心臓なのよ! これが無いと……人は身体に血液を送れないのだから!」
「いや……そんな生物的な事じゃなくて……」
「止めるとか言ってもダメよ! 沖合君は既に勝負の席に着いている……逃げることは許されないわ!」
水間のヤツ……さっきの敗けを取り返すために、何がなんでもこの勝負を成立させて勝つつもりなのだろう。ギャラリーも――
「水間さん、大~胆~」
「キャー」
「沖合、男を見せろー」
「永遠に語り継がれるぞー」
などと煽ってくる。ち、ちくしょう! 逃げられる空気じゃねぇ!
「さあ、戦るわよ!」
ただ一人、事の重要性がわかってない水間は俺の前の席にどかっと座った。
ホントにさ、お前……思春期どっかに落としてきた?
「大丈夫よ沖合君。先生はね、こういう状況も想定しているわ」
するも土山先生の言葉に俺は少し救いを見た。
「その為のこの黒い布なのよ。ポッ○ーを咥えた二人の頭から上から被せる事で視界を覆い、世界から完全に切り離されるわ。これ、先生の独自ルールなの」
救いは無かった。
「○ッキーを挟んで互いしか見えない空間で向かい合う二人……想像しただけで尊みに溢れるわ~」
土山先生も観戦モード。くっ……誰だよ! 土山先生が一番無害だって言ったのは! 滅茶苦茶、ヤバい先生じゃねーか!
「ほら、やるわよ」
と、水間はポッ○ーを取り出すと持ち手側を咥えて告げる。か、覚悟を決めるか……
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