上 下
578 / 701

第577話 思春期どっかに落としてきた?

しおりを挟む
 ポッ○ーゲーム? なんだそれ……はっ!

 俺は今年のお盆休みに一人暮らしでタクシー会社に勤める兄が実家に帰ってきた時の事を思い出す。

「うーむ。やっぱり子供扱いされてるよなぁ。でもちょっとでも意識してもらう為に少し踏み込んで見るか」
「兄貴ー、慰霊碑の前で何やってんの? なんか、今年はこの集合墓地にヤバい人が居たらしいぜ。アイマスク着けて寝てるおっさんとか、見かけたら受付が教えてくれってさ。このやべーよな」
「弟よ、俺はポッ○ーゲームで攻めて見ようと思う」

 俺の会話など聞こえていないかの様に兄貴は前後の繋がらない返答をしてきた。

「兄貴。なんか帰ってきてからおかしくね? ずっとぶつぶつ考えてるし」
「俺は正常だ。一年前に俺転勤なって実家出ただろ? その勤務先でな。滅茶苦茶ストライクな女性がいたんだ」
「へー、歳上?」
「無論。俺は歳下には興味ねぇよ。ちなみに上司だ」
「それで? ○ッキーゲームってなに?」
「今度、飲み会があってな。その面子に珍しく彼女も来るんだ。娘さんが居るシングルマザーで、いつもなら娘さんを優先して帰る人なんだが、事務女子達の誘いもあって、参加する事になってな」
「兄貴がハードル高い人を狙ってるのはわかったけど、それよりもポッ○ーゲームの事話してよ」

 すると、兄貴はスッ、と煙草の様にどこからかポッ○ーの箱を取り出し、そこから覗く○ッキー(ビターチョコ)の持ち手を俺に差し出した。

「百聞は一見に如かず。一回やってみるか? 吐くなよ?」
「別に良いけど……吐くような事をストライクしてる女性に勧めるのか?」

 やってみた。そんで、家族(特に兄弟)では絶対にやるものでないと身をもって知り、近くの排水路に吐いた。

「これが……ポッ○ーゲームだ!」
「おぇ……昼の寿司全部出た……こんな恐ろしい事を……どこの誰が考えたんだ? 完全にサイコパスだぜ、そいつ」
「弟よ、それ程の嫌悪感を覚えるのは家族で男同士だからだ。置き換えてみるんだ。相手がお前の高校での良い友達女子と言うシチュエーションを」

 兄貴に言われた通りのシチュエーションを思春期特有の想像力パズルにて組み立てる。そして、

「…………あ、コレやば」
「もし、やることになったら気をつけろ。ファーストになってしまったら、取り返しのつかない事になるぞ。ギリギリを攻めろ!」
「……兄貴は経験あんの?」
「俺のファーストは、大学の頃に同じサークルに居た女にしか見えない女装男子だった……。友達を越える関係に至ろうとして✕✕がついてた衝撃は生涯忘れないだろう。その時からだよ、同年代から歳下の女が全部男に見えるようになったのは!」

 兄貴の魂が呪われた話の方が面白くて、ポッ○ーゲームの事はすっかり上書きされていた。





 思い……出した!

 沖合は、慰霊碑の前で兄とポッ○ーゲームをやって吐いた事を思い出した。

「つ、土山先生……○ッキーゲームって……あの“ポッ○ーゲーム”? 食べる本数を競うとかみたいなヤツじゃなくて?」
「どうやら、気づいたようね。沖合君」

 土山先生ってこういう先生だったっけ? 水泳部は外傷などをしないので、保健室には殆んど行かない。ちょっとくらいのサボりなんかを許容してくれる、おおらかで良い先生って事は知っている。

「沖合君! どうしたのかしら!? まさか……戦る前から戦意喪失!? なら、私の勝ちね! 土山先生! 勝負内容の説明をプリーズ!」

 水間のヤツは絶対にわかってねぇな。これから何が起こるのかを。
 ではでは、と土山先生はどこに持っていたのかスケッチブックを俺らに見えるように取り出すと横向きに寝かして紙芝居の様にページを捲る。

「まず用意する物はポッ○ー1箱と黒い布」

 ○ッキーと黒い布の絵が書かれたページ。それ居る? と思っているとペラっと捲られた。

「そして、対戦者は1本のポッ○ーの両端を咥えて、準備オッケー完了よ」

 次のページには、人の頭に見立てた丸が二つ描いてあり、それが向かい合って一つの○ッキーを咥えている。

「そして、互いに交互に両端から食べて行きます。より多くを食べ進めた人が勝利です」

 捲られた三ページ目では、ガッツポーズしてる勝者と項垂れる敗者の棒人間の絵によって閉められた。

 やっぱり、兄貴とやった“ポッ○ーゲーム”じゃねぇか! これを……水間とやるだって!? こんなの公開処刑だ!
 ギャラリーもメイドは仕事もそっちのけでキャーって言ってるし男子も、伝説を作れ、みたいな目で笑ってやがるしよ。それよりも一通りの説明を聞いた水間の反応は―――

「なるほど……つまり、これは高度なチキンレースと言うことね!!」
「流石は水間さんね。飲みこみが早いわ」

 ふふん。と自分の解釈が説明と一致した事に満足げな水間。マジかコイツ……マジでやる気か?

「水間……お前これの意味はわかってるのか?」
「フッ、沖合君! この時点で私が勝ったわ! 勝負に必要なのは心臓! どんな状況にも左右されずに己の限界を引き出す心臓エンジンなのよ! これが無いと……人は身体に血液を送れないのだから!」
「いや……そんな生物的な事じゃなくて……」
「止めるとか言ってもダメよ! 沖合君は既に勝負の席に着いている……逃げることは許されないわ!」

 水間のヤツ……さっきの敗けを取り返すために、何がなんでもこの勝負を成立させて勝つつもりなのだろう。ギャラリーも――

「水間さん、大~胆~」
「キャー」
「沖合、男を見せろー」
「永遠に語り継がれるぞー」

 などと煽ってくる。ち、ちくしょう! 逃げられる空気じゃねぇ!

「さあ、戦るわよ!」

 ただ一人、事の重要性がわかってない水間は俺の前の席にどかっと座った。
 ホントにさ、お前……思春期どっかに落としてきた?

「大丈夫よ沖合君。先生はね、こういう状況も想定しているわ」

 するも土山先生の言葉に俺は少し救いを見た。

「その為のこの黒い布なのよ。ポッ○ーを咥えた二人の頭から上から被せる事で視界を覆い、世界から完全に切り離されるわ。これ、先生の独自ルールなの」

 救いは無かった。

「○ッキーを挟んで互いしか見えない空間で向かい合う二人……想像しただけで尊みに溢れるわ~」

 土山先生も観戦モード。くっ……誰だよ! 土山先生が一番無害だって言ったのは! 滅茶苦茶、ヤバい先生じゃねーか!

「ほら、やるわよ」

 と、水間はポッ○ーを取り出すと持ち手側を咥えて告げる。か、覚悟を決めるか……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

処理中です...