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第562話 ツンツンするの止めて……

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 リンカのクラスの出し物『猫耳メイド喫茶』は思った以上に盛況だった。
 教室内にて対応出来る客は5組が最大。それ以上の客は外で待っていてもらわねばならない。
 基本的に料金を取るのは入場料金のみで、提供されるのは飲み物と簡単なお菓子だけ。
 飲み物の種類とお菓子は和と洋の二択。生物なまものは取り扱わない為、煎餅やチョコレートが主だ。
 大体、客一人で5分から10分の滞在。客が行列を嫌えばそれなりに緩やかに回せると思っていたが……

「いらっしゃいませ~。奥の席へどうぞー」

 1学年トップの美少女――谷高光やたかひかりの猫耳メイド服を見ようと訪れる客は思ったよりも多かった。
 とある組織では『太陽』と称されている彼女は地元の雑誌でも有名な美少女。大半の生徒が雑誌越しにしか彼女の笑顔を見ることが叶わず、クラスや学年が違えばなおのこと遠い存在だ。
 そんな雑誌の向こう側にいるヒカリが、猫耳メイド服を着て、店に行けば笑顔で対応してくれる。

 彼女のファンは勿論、接点の薄い生徒にとっては近い距離でヒカリと接する事が出来る至福の数分間となるだろう。

「メニューをどうぞ~」

 PCで作られたメニュー表は本当に味気が無い文字列だけだが、一つだけ変な項目があった。

“席に案内したメイドさんのスマイル”

 流石にお茶とお菓子を出してサヨナラ~は、サービスが悪いと言う事で担任の箕輪の提案によるものだ。
 一種のネタとしての話題になると言う側面もあるが……

「えっと……緑茶と煎餅をください」
「緑茶と煎餅ですね。ご注文は以上で宜しいでしょうか?」

 この彼は、席に案内する三人の女子生徒の中でヒカリが担当となった運の持ち主。故に“席に案内したメイドさんのスマイル”は千載一遇のチャンスであった。

 他の席に座る客生徒は、誰でも良いから彼女の笑顔を見せてくれ、とソレを選択する勇者を待って時間ギリギリまで滞在していた。(主に男子生徒)

「い、以上で」
「かしこまりました~」

 実のところ“席に案内したメイドさんのスマイル”を頼む事は男子生徒にとっては間接的な好意の証明に他ならない。
 それに加えてヒカリの美少女ぶりが際立ち、未だにそのメニューを頼む生徒はゼロだ。
 だが、彼らにとってはそれで良い。何故なら――

「緑茶と煎餅です」

 メニューを運ぶ者は男女の混ざる三人の生徒であるが中でも一番の当たりが、鮫島凛香さめじまりんかである。
 ヒカリと同じクラス故に影に隠れがちだが、リンカも標準以上の美少女だ。そして、異性なら一度は目に行くであろう、発育の良い胸部はメイド服によって更に強調されている。
 本来なら合わせる事が許されない目線を合法的に可能とするのが、この喫茶店が盛況となっている密かな理由だ。

「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」

 接客にヒカリ、給仕にリンカと言う中々の運を持つ彼は、質素なメニューであっても十分に満足したのであった。





「ほーんと……人来すぎじゃない?」
「思ってたよりも多いよね」

 ヒカリとリンカはメニューを用意する為の裏方のローテーションに回った。
 教室の半分にカーテンで遮り、簡易な給仕室にしている為、中で作業するのは一人か二人までだ。
 表の対応は男子と女子の混ざった混合編成で対応する時間帯である。

「やっぱり、皆ヒカリ目当てだと思うなぁ」
「違うわ、リン。男子高校生は思春期真っ盛り。男子生徒の多さから、あんたの胸が目的と考えられるわ!!」
「ちょっ! 変な事を意識させるの止めてって! 恥ずかしくなってくるじゃん!」

 リンカも胸に視線が集まっている事は薄々と感じている。しかし『スイレンの雑貨店』において、経験したバニースーツの羞恥心に比べればその程度は許容出来る範囲だった。

 まさか……あの店での経験がこんな所で生かされるとは……。彼も人生の中で経験する事全て無駄にはならないと言っていたが、正にその通りだった。

「それにしてもさ、リンのメイド服だけ特にフィットしてるよね。なんか、胸をちゃんと収めるデザインにしてあるみたいだし」
「ははは……メイド服を頼む時に胸が大きいので、って一言言ってたのが良かったのかな」

 と、適当な言い訳にて場を濁したものの、お婆さんに何枚も写真に撮られるから体型を推測されたのかもしれない。
 もう、切っても切れない繋がりが出来てしまったか……心なしか、イッヒッヒッヒって聞こえる気がする……

「でも、リンは得意分野でしょ~? 普段からケン兄に振る舞ってるワケだしさ」
「お隣さんに振る舞うのは料理だけ。接待とかはしないよ」
「つまり、それだけ親密な関係ってことね。ケン兄がコレ独り占めかぁ」
「胸を見ながらツンツンするの止めて……」

 その時、急に外が静かになった。
 先程まで騒がしかった雰囲気が一変し、静寂と言うよりも妙な緊張感を感じさせる空気だ。

「なんだろ?」

 リンカとヒカリはカーテンから顔だけを出して確認すると、大宮司がやって来ていた。
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