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第549話 パンッ!

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 定時を向かえ、会社はいつも通りに終わる。
 今日は1課のヘルプに入っていたのだが、七海課長が戻った事でエンジンのかかりが良くなり、残業が多めになっていた流れがかなりスムーズに処理する事が出来た。
 特に七海課長は里での遭遇が無かった様子で接してくれてかなり助かった。

「お前らさっさと帰れよ。全員、残業は無ぇだろうからな」

 はーい。と帰宅の準備を始める面々。オレは七海課長から業務完了の印鑑を貰い、これを3課へ持って行ってから帰宅である。

「七海課長。押印をお願いします」
「おう。お前もご苦労さん」

 ぽん、と印鑑を貰い、荷物を持って3課へ帰還。オフィスに戻るとまだ残ってる人がちらほら居た。
 課長代わりの徳さんと鬼灯先輩もまだ残っていた。しかし、先輩に関しては何やら考え事をしている。

「お疲れ様です、鬼灯先輩」
「お疲れ様、鳳君」

 オレが声をかけると、微笑みで返してくれた。何度向けられてもストレスが洗い流される笑顔……この為に働いていると行っても過言ではない。

 オレは帰り支度をさっさと整える。鬼灯先輩と話し込みたい所だが、仕事が終わったのに変に留まるのは、徳さんや鬼灯先輩が帰り難くなる。
 それに、今日はサマーちゃんの所に行く予定だ。

「ふむ……」

 しかし、スマホをデスクに置いて、少し悩んだ様子の鬼灯先輩を放置する事はちょっと出来ないなぁ。

「鬼灯先輩、何か悩み事ですか?」

 オレごときが解決出来る様な問題であれば良いが。

「あぁ、ごめんなさい。気を使わせてしまったわね」

 本人でも回りの目に気づけない程に集中する悩みだった様だ。

「そんな事は無いですよ。オレなんかいつも気を使わせちゃってるんで、生意気に何か出来ることは無いかなーって」

 鬼灯先輩がため息を吐いていたら、全人類が声をかけるだろう。

「ふふ。大丈夫よ。うん……ありがとう、鳳君。決心がついたわ」
「お役に立てて何よりです。……まさか……異動とかにならないですよね?」
「違うわよ。家族の事で少しね」

 家族。鬼灯先輩からその言葉が出るのは初めてかも知れない。それ程に先輩の家族関係は謎に包まれ、踏み込んではならない暗黙の了解なのだ。
 鞄を持って改めて挨拶をする。

「それじゃ、お疲れ様です」
「鳳君、一つだけ聞いて良い?」
「え? はい……」

 オレは振り返ると、鬼灯先輩が確認する様な眼で見ていた。

「海外転勤から帰ってきて、リンカさんに再会できるってわかった時、不安は無かった?」
「……正直、不安はありました。でも、昔のリンカちゃんのイメージがそのまま残ってたので全く声をかけられないってレベルでは無かったですよ」
「……そう。昔のイメージね……」

 と、鬼灯先輩は改めて決意した瞳でオレに微笑む。

「鳳君は良いお兄さんね」
「回りに年下が多かったので」

 最近、妹が一人増えましたが。

「それでは、お先に失礼します」
「また明日」

 と、手を振る鬼灯先輩に挨拶を済ませて徳さんや他の方々にも挨拶をしてオレはオフィスを出た。





 悩みは人それぞれ。先輩には先輩の悩みがあるし、それをオレが深入りするのはナンセンスだ。
 無論、オレにも悩みがある。今日はそれを越える為にサマーちゃんとショウコさんへ会いに行くのだ。

「今日、例の件をショウコさんに話しに行きますよ、と」

 オレは商店街のある駅に下りてから、リンカへLINEを送った。
 すると、すぐに着信が鳴った。当然リンカからだ。

『あたしも一緒に行く。待ってろ』

 取ると同時にそんな風に言ってくれる。

「いや、オレ一人で行くよ」
『……大丈夫……なのか?』
「大丈夫。少なくとも理解のある人達だからね」
『違う。お前の方だ』

 リンカは例の件で責められた時のオレを心配してくれていた。

「そっちも大丈夫。こう見えても、メンタルは強い方だからさ」
『…………夜』
「ん?」
『肉じゃが作るから、食べに来いよ』
「ほんと? 楽しみにしておくね」

 全てを知っても尚、オレを気使ってくれるリンカに感謝しつつ、駅を抜けて商店街へ向かう。

 これは必要な事だ。
 『フェニックス』をこのまま野放しには出来ないし、どうにかしなければならないとずっと考えていた。

「……父さん。オレが無駄にはしないよ」

 里から持ってきた父のUSBはポケットに入っている。
 皆、見ていた・・・・。オレの背に向けられる視線は船の夢が消えても確かに感じている。
 眼を背ける事は出来た。いや……背け続けて来た。でも、それはもう止める。これはその証明をする第一歩だ。

「ヘイッ! そこのアナタ! フリーズ!」

 意気揚々と商店街へ足を踏み出した瞬間、どことなくカタコトな日本語に声をかけられて足を止める。
 なんだ? 誰の事だ? とキョロキョロと回りを見回す。

「そこのアナタデスヨ! ボーイ!」
「え? オレ――」

 と、振り向くと長身の外国人がオレを見下ろしていた。
 身長は二メートルを越え、喪服のような司祭服に手には聖書。スーツを着ていれば海外の都市伝説、スレンダーマンを彷彿とさせる。
 オレを見下ろし影を作る程。いきなりのイロモノ登場に駅から降りるサラリーマン達も注目しまくっている。

「アナタが『フェニックス』ボーイデスネ」

 『フェニックス』。その名でオレを呼ぶのは……『ハロウィズ』しかいない。つまり、彼もメンバーと言うことか。

「ナツから聞いてマース。ワタシのコードは“ミツ”デース」
「あ、どうも……鳳健吾です。その……ここは目立つので、少し場所変えません?」

 ビクトリアさんに言われた訓戒を生かす。他の目があるところで『ハロウィンズ』の名前を出すのは御法度だ。それに、ミツさんも相当目立つし。

「ノープロブレム。『フェニックス』、アナタをここで、DIEシマース」
「……は?」

 DIE? ダイって……なんだ? えっと確か……死……死ね? ん? 何でオレが死ぬの?

「マイゴット――ショウコの為に死んでクダサーイ」

 と、聖書の裏側に隠していた銃をオレだけに見える様に向けてくる。ガチの仕事人の仕草に違和感が全くない。
 え? 嘘……ここは日本……法治国家だよね?

「Kill you」

 パンッ!
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