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第547話 それは結婚の挨拶!

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 アヤに導かれて、6年ぶりに足を踏み入れた故郷は相変わらずハチャメチャで、何も変わらない身内たちを見ると、本当に里で育って良かったと思わせた。

 あれからアヤから連絡があり、意識不明だった奏恵おばさんも目を覚ましたと、嬉しそうに話してくれた。
 まぁ、オレは圭介おじさんに連絡した時には知っていたのだが、里で黙っていたのはアヤがソレを乗り越えられると思っての事だ。
 本格的に年末へ向けて帰る事に大きな問題は無くなった。強いて言うなら、ジジィの腕の具合くらいか。
 熊吉の肉はリンカが美味しく調理して、赤羽さんやジャックに振る舞った。ジャックの奴はガツガツ食ってたな。

 そんでもって、リンカとの関係はあんまり変わらなかった。
 気を使う事もないし、使われる事もない。情けない心内を晒した手前、色々と威厳が薄れてしまったか。まぁ、その辺りも文化祭でビシッと決めるかね!
 その前に色々とやるべき事はあるが、まずは仕事だ、仕事。

 そんな濃い三日間を里で過ごしたオレは、会社へ来る事に抵抗はなかった。
 寧ろ、皆に会いたさまである。それだけ、里での事は今後の心構えにもなったし、改めて自分の居るべき場所を定める結果ともなった。

「おはよう、鳳君」
「おはようございます、鬼灯先輩」

 何より、鬼灯の後輩と言うポジションは何度転生しても得難い地位だ! もしも後輩が入ってきても、絶対に譲ってやんねぇからな!

「徳さんからは、身内の事で休みを貰ったと聞いたわ。もう、その事はいいの?」
「はい。祖父が怪我をしたんですけど思ったよりも大したこと無くて」

 まぁ、あの程度の怪我はジジィにとってすれば擦り傷程度の認識だろう。

「そう。何かあったら今後も遠慮無く頼ってね」
「それはもちろん」

 おぉ……鬼灯先輩の笑顔は本当にイイぜぇ……。これがあるから働けるってもんよ!

「七海課長は戻ってきたけれど、獅子堂課長は今週一杯お休みだから、最後まで皆で頑張りましょう」
「はい」

 七海課長は律儀な人だ。予定が済んだから休みを切り上げたのだろう。獅子堂課長は……多分、瑠璃ちゃんのトコだな。ギリギリまで孫娘と遊び倒す気だ。

「全員、朝礼を始めるよ」

 連絡事項を告げに徳さんが皆に声をかけ、全員立ち上がる。
 いつも通りの業務が始まるが、オレは仕事が終わったらサマーちゃんの所に顔を出す予定だった。
 向き合うと決めたのだからこその選択。昼休みに、前もって連絡を入れておこう。
 ……ビクトリアさんが居ませんよーに。





 リンカは文化祭の色に染まり始めた校舎を通り、雰囲気の違う自分のクラスに入った。

「おはよー、リン」
「おはよ、ヒカリ」

 自分の席に着くと他の女子と話していたヒカリが寄ってくる。そして、前の席に座ってリンカの顔をじっと見た。

「えっと……ヒカリ?」
「もう大丈夫そうね」

 中学の頃をぶり返した親友の事を誰よりも気にかけていたヒカリは、安堵の息を吐く。

「そんなに……心配かけた?」
「あのね。思っている以上にリンって悩みなんて抱え込んだら人を寄せ付けないオーラが凄いのよ? 下手に聞くと、なんか飛び出しそうな雰囲気があってさ」

 ヒカリは一番近い距離にいつも居てくれる家族のような存在だ。心配をかけた事はきちんと謝らねば。

「本当にごめん」
「まぁ、いつものリンに戻ってくれたから、良いわ。それでケン兄とはどうなったの?」
「え? えっと……ね……」

 思い出すのは、彼の故郷で見た景色と互いに得難い存在であると言う告白だった。

「何とか……連れて帰りました」
「連れて帰ったって……ケン兄はやっぱり社畜の宿命たる転勤族に……」
「違うよ。彼の実家で色々あって、呼び出されただけだったみたい」
「なっ……」

 リンカの言葉にヒカリはワザとらしく、ふらっと額を覆う。

「実家……それは結婚の挨拶! リン、相当に階段を飛ばしたわね!」
「ちょっと! そう言うのじゃないって! お、終わり! この話しは終わり!」
「ちぇ。リンから聞き出せるのはここまでか。いいよー、ケン兄に聞くから。実家で何があったのか……をね!」
「別に何も無いって!」

 親友にからかわれていると、HR始めるぞー、と箕輪先生が入ってくる。
 クラスメイトは、雑談を止めて各々の席へ着いた。

「今日は衣装が届く。鮫島と谷高は、数とサイズを確認してくれ。文化祭は明日からだ。今日は残れないから皆で率先して飾りつけを終わらせる様に」





「寺井先生」
「なんだ? 鬼灯」

 三年○組にて、文化祭の準備に参加していた鬼灯は担任の寺井に声をかけた。
 寺井は、寺生まれとして有名な先生である。生活指導の教員で、彼が与える罰――写経は不良でも一発で更正する程の効果がある事で有名だ。

「身内を呼びたいのですが、チケットは余っていますか?」

 音程も強弱もない、機械音声の発言は相変わらずだが、その言葉にクラス全員が作業の手を止める。
 それ程に彼女が身内を呼ぶと言う事は衝撃的だったのだ。

「ああ。1枚余ってるから問題はない。ちなみに誰を呼ぶ予定だ?」

 寺井はチケットを手渡しながら誰が来るのかを確認した。

「姉です」





「まずは文化祭前日の全体召集に参加してくれて感謝する」

 放課後。
 『美少女を見守る会』は、ボスの召喚に応じ、スカイプ接続にて全員が参加していた。
 もはや、どこかに集まって話し合う時代は過ぎ、今はオンラインにて会議は行われる。来るべき文化祭において、明かされる美少女達の身内に関する話題は各学年で情報を共有する必要があるのだ。

「それでは、一学年から頼む」

 ボスの言葉に谷高光と同じクラスの者が、ハイ! と返事をしてから発言する――
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